「完璧令嬢」と言われた私が婚約者から「ハリボテ」と罵られてからの一週間

真岡鮫

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15.未来への第一歩…5日目②

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「今の私にとって、カトリーヌこそが完璧な令嬢……ならば、彼女を連れて行くのは当然だろう?」
「……ガブリエル様は、それでよろしいのですね」
「あぁ。リリアだって、その意味が分からないほど馬鹿ではないだろ?」
「……承知いたしました」

 頭を下げたリリアージュに唇を歪め、ガブリエルはアランに冷ややかな視線を投げた。

「兄上も……熱心なのはいいが、立場を弁えることもお忘れなく」

 無言のままのアランを鼻で笑い、背を向けたガブリエル。

「ガブリエル様、それでは晩餐会で……」

 振り返ることも、返事すらもしない婚約者の背中に向けて、リリアージュは深々と頭を下げた。

「リリア嬢!」

 アランがリリアージュの元に駆け寄るも、彼女は俯いたまま顔を上げようとはしなかった。

「大丈夫、かい?」
「アラン様……」
「今日は、もう帰ろうか。アンナ、馬車を……」
「はい!」

 足早にアンナは部屋を出て行くと、リリアージュはふらついた足取りでソファーに座り込んだ。

「リリア嬢、無理しないで。すぐにアンナが迎えにくるから」
「……アラン様」
「ん?」
「私……私……」
「リリア……」
「私……ついに言ってやりましたわ!」

 パッと顔を上げ、子供のように笑ったリリアージュに、アランは思わず目を見開いた。

「リリア嬢……?」
「このくらい言ったって、いいですよね。だって我慢できなかったんですもの」

 リリアージュは小さく拳を上げ、得意げに彼を見つめた。
 その瞬間、アランの口から弾けるような笑い声が上がった。

「そうだ、その通りだよリリア嬢。我慢なんかするもんじゃない。どう? 今の気持ちは」
「控えめに言っても……最高です」
「うん……最高だ、リリア嬢」

 微笑みながら頷くアランに、リリアージュは何度も頷いた。
 
「アラン様、あの……馬車が」

 先ほどとはまるで違う部屋の空気に、アンナは恐る恐る声をかけた。

「アンナ……心配かけてごめんなさい。今、行くわ」
「お嬢様! 大丈夫ですか、ご無理は……」

 慌てて駆け寄るアンナに、リリアージュはいつもの笑顔を向けた。

「大丈夫よ……むしろ今はとてもいい気分だわ」
「えっ」
「だって、初めてなのよ……ガブリエル様に言い返すなんて」
「お嬢様……それは、最高ではありませんか」
「でしょう!」

 笑い合う二人を見つめ、アランも穏やかに目を細める。

「……さぁ、そろそろ帰ろうか。家のみんなが待っている」
「はい……」

 アランがそっと手を差し出すと、リリアージュはほんの少しだけ躊躇いながらも静かにその手を取った。

「……馬車まで送るよ」
「ありがとうございます」

 肩が触れ合う距離にいながら、喉の奥が詰まったように黙り込む二人。
 気付けば、ハインツベル家の家紋のついた馬車はもう目の前。

「それじゃ……リリア嬢、また明日」
「はい……明日もよろしくお願いします」

 軽くお辞儀をした後、リリアージュはアンナと共に馬車に乗り込んだ。
 それを確認した御者が、ゆっくりと馬車のドアを閉めようとしたその時だった。

「リリア嬢!」
「アラン様……どうされました?」

 リリアージュは馬車の中から、そっと顔を出しアランを見つめた。
 いつもは微笑みを絶やさないアランのひどく真剣なその眼差しに、彼女の胸が一気に騒めいた。

「あのさ……一つだけ、いいかな」
「はい、構いませんが……」

 アランはリリアージュを見つめ、深く息をつくと唇にだけ微笑みを添えた。

「リリア嬢。君には、愛嬌なんて必要ないんだ。いや……むしろ、もう……」
「アラン様……」
「だって、そうだろう? これ以上、身の程知らずな虫が寄ってきたら——」

 思わず視線を逸らしたアランは、静かにドアを閉めると御者に小さく合図を送った。
 馬車の中からリリアージュが何かを伝えるも、アランの耳には届かない。
 彼はゆったりと手を振りながら、蹄の音が城から遠ざかるのをただ黙って見送っていた。

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