〈完結〉【書籍化&コミカライズ】伯爵令嬢の責務

ごろごろみかん。

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アデライン・アシュトンの矜恃 〈中編〉

23.黙るから、気まずく感じるのよ。

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「どうして、お父様……!!」

悲痛な声を上げる王女殿下を連れて、国王陛下は回廊を後にした。
王女殿下は場を辞することを相当嫌がっていたが、国王陛下に引きずるようにして離れていった。

そして、残るのが──

「アンドリュー!あなたは私を選ぶんでしょうね!?あんな、王家の威光を陰らせるような女なんて選ばないでしょう!?」

「メアリー……!もういい加減にしてくれ!!」

メアリーは、王女殿下がいなくなってこれ幸いと言わんばかりにアンドリューに詰め寄っていた。
アンドリューは混乱と苛立ちからか、声を荒らげている。
いつもの優男の仮面が外れている。

巻き込まれてはたまらないので、私とグレイはアイコンタクトを交わし、互いに軽く頷いた。

(詳細は、後日)

ひとまず今回は──ミッション達成、ということで帰りましょう。

その時、ふと、私は先程のことを思い出していた。

(……そういえば有耶無耶になってしまったけれど。グレイのあの言葉の意味が気になるわ……)

気になるが、しかしそれは今度会った時でもいいだろう。

お母様は事の顛末に満足したのか、何度か頷いている。
伯父様も、これが妥協点だったのだろう。
納得しているようだ。

そして、伯父様がお母様に声をかけた。

「ユーリカ。せっかく久しぶりに会えたんだ、マリアンヌも誘って少し話そうか」

「……いいわ、お兄様。わたくし、なにか飲みたい気分よ」

お母様の声が聞こえてくる。

その時。

「ユーリカ……!!」

あまりにも遅すぎるくらい遅く、お父様がこの場に現れた。

(今……!?)

もう全部終わっちゃったわよ……!!

どうしてこう、お父様はタイミングが悪いのか。

伯父様は、お父様の存在を完全に無視した。
お母様は、ちらりと視線を向けただけで何も答えなかった。

完全な、無視である。
その反応にお父様は、ピシッ……と石のように固まってしまった。
凍りついたお父様を無視して、お母様と伯父様は早々に場を離れてしまう。

「…………」

ひとり残されたお父様の後ろ姿は、哀愁が漂っている。

(可哀想だけれど……でもこれは、お父様とお母様の問題)

娘といえど、私が口を挟んでいいことではない。
それに私に出来ることは既にやっているので、後はお父様次第だ。


だんだん、ひとが帰り始めたところで周囲の観客の興味も薄れたのだろう。

回廊は、徐々に人通りが少なくなっていった。

元々、ここは休憩室の手前だ。
本来、こんなにひとが詰め寄せることはまず有り得ない。
こんなことはもう二度とないだろう。

観客も含め、ひとがいなくなってきた。

(私も、そろそろ帰るとしましょうか)


時刻は、まだ日付が変わる前。
今急いで帰れば、寝る前のアンジーに会えるかもしれない。
騒ぎがあったから、今日は本当に疲弊した。

(早く私の天使アンジーに会いたいわ……)

アンジーを貶めた王女殿下に借りは返した。

正直、まだ王女殿下に思うところはあるものの──ひとまず、これで満足しなければならないのでしょうね。
これ以上は、私刑になってしまうもの。

(とにかく、今日は疲れたわ……)

ずっと気を張っていたし、何がどう転ぶかも分からなかったもの。
何とか、予定通りに事を運べた。

安堵の息を零した──まさにその時。
とん、と誰かに肩を叩かれた。

「──っ……!?」

気が緩んでいたので、飛び上がるほど驚いた。
驚いて振り向くと、そこには王太子殿下がいた。
彼は酒を煽る仕草を見せ、私に片目を瞑って見せた。

「お疲れ様。せっかくなんだ、今から祝勝会をしようじゃないか」







王太子殿下の誘いを受けた私とグレイは、城内の奥まった場所にある王族専用区域の客室に案内された。
室内に入ると、私とグレイはそれぞれソファの対面に座る。
王太子殿下は、従僕に指示を出してくると言って、部屋を出ていった。

私はグレイと顔を見合せて──ゆっくり、ため息を吐いた。

「っはぁあ~~~……!とっても疲れたわ……!」

許されるなら、このままこのふわふわのソファに寝転んでしまいたいくらい。
今になって、どっと疲れが来ている。
私の様子に、グレイが肩を竦めて答えた。

「お疲れ様。プラン成功おめでとう」

「他人事のようだけど、あなたもバッチリ当事者なのよ?」

その時、私は彼に聞こうと思っていたことを思い出す。

次、会った時にでも尋ねようと思ったのだけど──。

「ねえ、グレイ」

「何だ?」

「あなた……。──あの」

しかし、そこまで言ってあとの言葉が続かない。

(だって……!!なんて、聞けばいいのかしら……!?)

聞こうと思っていたけれど、いざ言葉にすると何だかとても面映ゆい。

胸がくすぐったい、というか。
そわそわする、というか。

『あなたは私を好きだと言ったけれど、それってどういう意味?』

そう、聞く?
でもそれってちょっと……直球過ぎないかしら!?

それに、もしかしたら彼にはなんてことない一言だったのかもしれない。

今も、いつもと同じ様子だもの。
もしあれが愛の告白めいた言葉だったのなら、きっとグレイだっていつも通りではいられない……はずよね?そうよね??

(……私の勘違い?)

あるいは、聞き間違い……?

一瞬その可能背が頭をかけたが、すぐに私は否定した。

いや、そんなはずはないわ。
だってあんなに近くにいたのよ。
聞き間違えるはずがないもの。

ひとり、唸っていると正面に座るグレイが、訝しげに私を見た。

「アデライン・アシュトン?」

「そう!!それよ!!」

思わず、私は叫ぶように言った。

「あなた、いつもはアデライン、とか、アデライン・アシュトンと呼ぶのに、どうしてあの時──さっきは、私をアデルと呼んだの?それに、好きってどういう意味……!?」

ええい、ままよ!!

黙るから、気まずく感じるのよ。
だったら勢いで言ってしまった方がいいに決まってるわ!!

そういう思考回路の元、私は疑問を全て放り込むことにした。
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