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二章
それは、静かな絶望 ※R18
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「……?」
彼の指先が、既にぬかるんだ秘部に触れる。
あまりのはしたなさに恥ずかしくて、どうにかなりそうなのに、抵抗しようとは思わない。
頭が熱に浮かされて、どうにかっている。
彼がふ、と笑った。
その声が好きだ。
その優しさが好きだ。
彼の、その瞳が好きだ。
「ロディアス、さま……」
小さく、彼を呼んだ。
大好きなひと。
初めて愛したひと。
最初に抱いたのは確かに、憧れにも似た淡い想いだった。
だけどそれはいつしか形を変えて、より確かなものになった。
憧れは恋情に。
仄かな想いは、苛烈な想いに。
狂おしいくらい、彼に焦がれている。
それが怖いのに、私はそこから抜け出せない。
「いつもより乱れるね。久しぶりだからかな」
独り言のような言葉に、心臓が冷える。
──そうだ。彼は、私を彼女と間違えている。
ひとりで熱に浮かされ、感情に翻弄されている自分があまりにも愚かに思えた。
硬直する私を見て、彼が私の頬に口付けを落とした。
「誰よりもきみが愛おしい」
「…………」
唖然として、何を言えばいいかわからなかった。
だって、本来ならその言葉を贈られるのは私ではなく──。
「ぁっ……!?」
あさましい体液を触れられて、快楽の源を撫でられる。久しぶりの行為に、体は敏感に刺激を感じ取る。快楽を示す声がひっきりなしに上がり、私は声を抑えるように口を押さえる。
「んっ、んぅ……!ん、んっ………!っ」
「聞かせて」
短く言って、彼の手が私の手首を掴み、口元から離させる。至近距離で彼と視線が交わる。
薄暗い中でも、彼の瞳は変わらず水晶のような透明さがあった。
宵闇を、月明かりを反射する湖面のごとく、静かな瞳が私を見ている。
彼の瞳は、黄昏の茜がかった空にも、夜の開ける朝焼けにも見えた。
時折、彼の瞳によく似た空を見る。
紫と淡い紅が入り交じったような、幻想的な空を。
ぬめりを帯びた彼の指先が、急かすようにその尖りを苛んだ。
悲鳴のような声が切れ切れと零れる。
性急に責め立てられ、あっという間に私は快楽を極めた。
「っ……!っ、あっ……や、ッ~~~!!」
「は、……暑いね」
彼がぽつりと言う。
そのまま指先がなかにおさめられる。
久しぶりに感じる彼の指の感触に、体内がざわめいた。いやらしく食む感覚を覚え、泣きたくなる。
「や、いやっ……やぁっ……!」
もう、何が何だか分からなくて泣きが零れた。
婚姻してすぐの頃、彼に責め立てられた時と少し似ている。
涙が次々と零れ、シーツに吸い取られていく。
濡れてべちゃべちゃな顔を、彼がちゅ、ちゅ、と短く口付けて、涙を舐めとった。
次々零れる熱の雫を舐めとる彼を見て、まるで犬のようだ、とぼんやり思う。
甲斐甲斐しくも、労わるように舐め取る姿がそう見えたのだ。
(私は……なんて不敬なことを)
国の王である彼を、犬に例えるなど。
あまりにも非礼が過ぎる。
ぼんやりと、熱に浮かされたまま思考を戒める。
彼の指が緩やかになかを泳ぎ、みだらな音を立てた。
「ぁっ……あ、あ、や、っ……だ、め」
「なにがだめなの」
尋ねるような、それでいてそうでないような声だ。耳元で囁かれるように言われ、私は首を横に振る。
「また、ロディアスさっ……あ、ぁ、──!!」
足の先に力が入る。
そのまま頭が真っ白になり、思考が霧散する。
喘ぎ声は、彼のくちびるに呑まれ、声にならなかった。
快楽の余韻に呼吸が荒くなる。
目を閉じて、息を整えていたから、彼が何を言っているのか聞き取り損ねた。
「…………たら、きみは幻滅する?」
「……?」
今日の交わりは、今まで以上に激しくて、彼の言葉を聞き逃してばかりだ。
まつ毛を持ち上げて彼を見ると、彼が薄い笑みを見せていた。
だけどそれは、あまりにも危うく見えた。
硝子細工のように繊細で、だけど攻撃的な棘を孕んでいて。暴力性を帯びた、瞳をしていた。
「……いっそ、ここで死ねたら」
彼が私を抱きしめる。
服を着たままの彼の胸元が、私の肌に触れる。
ひんやりと冷たくて、それに少し心が冷えた。
「……死んで欲しくありません」
彼の肩を押して、視線を合わせる。
彼の瞳はゆらゆらと揺れていた。
まるで、朝が来たことを知らない星々が、変わらず煌めいているかのよう。
「私は、あなたに生きていて欲しいです」
それは、紛れもない本音。
伝えると、彼が泣きそうな顔で笑った。
あまりにも情けなくて、苦しそうで──悲しそうだった。
なぜ、彼は苦しんでいるのだろう。
なぜ、彼はこんな顔をするのだろうか。
私が、それを取り除いてあげることはできないのだろうか。
彼はまつ毛を伏せて、言った。
「……そうだね。ごめん。責任感のないことを言った。──僕は、この国の王、なのにね」
「陛下……」
「何でもない。馬鹿なことを言ったね。気にしないで」
彼の指先が、既にぬかるんだ秘部に触れる。
あまりのはしたなさに恥ずかしくて、どうにかなりそうなのに、抵抗しようとは思わない。
頭が熱に浮かされて、どうにかっている。
彼がふ、と笑った。
その声が好きだ。
その優しさが好きだ。
彼の、その瞳が好きだ。
「ロディアス、さま……」
小さく、彼を呼んだ。
大好きなひと。
初めて愛したひと。
最初に抱いたのは確かに、憧れにも似た淡い想いだった。
だけどそれはいつしか形を変えて、より確かなものになった。
憧れは恋情に。
仄かな想いは、苛烈な想いに。
狂おしいくらい、彼に焦がれている。
それが怖いのに、私はそこから抜け出せない。
「いつもより乱れるね。久しぶりだからかな」
独り言のような言葉に、心臓が冷える。
──そうだ。彼は、私を彼女と間違えている。
ひとりで熱に浮かされ、感情に翻弄されている自分があまりにも愚かに思えた。
硬直する私を見て、彼が私の頬に口付けを落とした。
「誰よりもきみが愛おしい」
「…………」
唖然として、何を言えばいいかわからなかった。
だって、本来ならその言葉を贈られるのは私ではなく──。
「ぁっ……!?」
あさましい体液を触れられて、快楽の源を撫でられる。久しぶりの行為に、体は敏感に刺激を感じ取る。快楽を示す声がひっきりなしに上がり、私は声を抑えるように口を押さえる。
「んっ、んぅ……!ん、んっ………!っ」
「聞かせて」
短く言って、彼の手が私の手首を掴み、口元から離させる。至近距離で彼と視線が交わる。
薄暗い中でも、彼の瞳は変わらず水晶のような透明さがあった。
宵闇を、月明かりを反射する湖面のごとく、静かな瞳が私を見ている。
彼の瞳は、黄昏の茜がかった空にも、夜の開ける朝焼けにも見えた。
時折、彼の瞳によく似た空を見る。
紫と淡い紅が入り交じったような、幻想的な空を。
ぬめりを帯びた彼の指先が、急かすようにその尖りを苛んだ。
悲鳴のような声が切れ切れと零れる。
性急に責め立てられ、あっという間に私は快楽を極めた。
「っ……!っ、あっ……や、ッ~~~!!」
「は、……暑いね」
彼がぽつりと言う。
そのまま指先がなかにおさめられる。
久しぶりに感じる彼の指の感触に、体内がざわめいた。いやらしく食む感覚を覚え、泣きたくなる。
「や、いやっ……やぁっ……!」
もう、何が何だか分からなくて泣きが零れた。
婚姻してすぐの頃、彼に責め立てられた時と少し似ている。
涙が次々と零れ、シーツに吸い取られていく。
濡れてべちゃべちゃな顔を、彼がちゅ、ちゅ、と短く口付けて、涙を舐めとった。
次々零れる熱の雫を舐めとる彼を見て、まるで犬のようだ、とぼんやり思う。
甲斐甲斐しくも、労わるように舐め取る姿がそう見えたのだ。
(私は……なんて不敬なことを)
国の王である彼を、犬に例えるなど。
あまりにも非礼が過ぎる。
ぼんやりと、熱に浮かされたまま思考を戒める。
彼の指が緩やかになかを泳ぎ、みだらな音を立てた。
「ぁっ……あ、あ、や、っ……だ、め」
「なにがだめなの」
尋ねるような、それでいてそうでないような声だ。耳元で囁かれるように言われ、私は首を横に振る。
「また、ロディアスさっ……あ、ぁ、──!!」
足の先に力が入る。
そのまま頭が真っ白になり、思考が霧散する。
喘ぎ声は、彼のくちびるに呑まれ、声にならなかった。
快楽の余韻に呼吸が荒くなる。
目を閉じて、息を整えていたから、彼が何を言っているのか聞き取り損ねた。
「…………たら、きみは幻滅する?」
「……?」
今日の交わりは、今まで以上に激しくて、彼の言葉を聞き逃してばかりだ。
まつ毛を持ち上げて彼を見ると、彼が薄い笑みを見せていた。
だけどそれは、あまりにも危うく見えた。
硝子細工のように繊細で、だけど攻撃的な棘を孕んでいて。暴力性を帯びた、瞳をしていた。
「……いっそ、ここで死ねたら」
彼が私を抱きしめる。
服を着たままの彼の胸元が、私の肌に触れる。
ひんやりと冷たくて、それに少し心が冷えた。
「……死んで欲しくありません」
彼の肩を押して、視線を合わせる。
彼の瞳はゆらゆらと揺れていた。
まるで、朝が来たことを知らない星々が、変わらず煌めいているかのよう。
「私は、あなたに生きていて欲しいです」
それは、紛れもない本音。
伝えると、彼が泣きそうな顔で笑った。
あまりにも情けなくて、苦しそうで──悲しそうだった。
なぜ、彼は苦しんでいるのだろう。
なぜ、彼はこんな顔をするのだろうか。
私が、それを取り除いてあげることはできないのだろうか。
彼はまつ毛を伏せて、言った。
「……そうだね。ごめん。責任感のないことを言った。──僕は、この国の王、なのにね」
「陛下……」
「何でもない。馬鹿なことを言ったね。気にしないで」
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