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2.捨てたのか、捨てられたのか
真実はどこにある
しおりを挟むルイスの協力を得た私は、辺境の地、ウーティスへと向かった。
【王妃シャリゼ】が実は生きていた──なんて、さすがに誰も思わないらしい。
私の金髪はヴィクトワールではよく見られる色だし、緑の瞳も同様だ。王妃という肩書きがなくなってしまえば、私はどこにでもいる、ただの二十歳の娘に過ぎなかった。
船と馬を使い、半月ほどかけてようやくウーティスに到着すると──。
「シャリゼ様……!生きていらっしゃったのですね、ほんとうに良かった……」
ヴィクトワールの駐屯基地。
砦に向かった私たちを出迎えたのは、ルイスが手紙を送った相手、マクレガー将軍だった。
長年続いていたアルカーナ帝国との小競り合いがヴィクトワール有利で一時休戦に持ち込めたことは私も聞き及んでいる。
その功績の裏には、もちろん彼の助力が大きくあることだろう。
彼は、ノアを助けてくれていたのだ。
彼は涙を滲ませて、私を強く抱きしめる。
彼が喜んでいるのが全身から伝わってきて、私も彼をそっと抱き締め返した。
「報告が遅くなってしまってごめんなさい。……それで、ノアはどちらに?」
尋ねると、マクレガー将軍がぐっと言葉に詰まった様子を見せる。
不自然な彼の反応を怪訝に思っていると、彼は眉を寄せ、ぽつり、ぽつりと答えた。
「ノア殿下は……王妃陛下が亡くなられたものだと、思っております」
「……どうして」
ルイスの手紙は、読んだのではなかったのか。
だから、マクレガー将軍は私が訪ねても驚くことはしなかった。
ルイスの手紙は、【王妃シャリゼが死んだと決まったわけではない】──というある種のなぞかけのような文章だった。
だけど、それを見れば何かしら事情があるのだろうと察するだろう。今のマクレガー将軍のように……。
(まさか)
私がひとつの可能性に思い至ったのと、彼が事実を口にしたのは、ほぼ同時だった。
「ノア殿下には、お伝えしておりません」
「なぜ!手紙には、ノアに伝えるようにと書いたはずです。どうして伝えなかったのですか!?」
「ノア殿下は、今、必要な方です!あの方は、今のヴィクトワールには必要な方だ……!シャリゼ妃、それはあなたがいちばん理解されているでしょう」
「…………意図を測り損ねるわ。ハッキリ言ってちょうだい」
淡々と尋ねると、マクレガー将軍はよろよろと後ずさり、背中の机にぶつかった。
そして、ため息を吐くと、モノクルを取り外した。疲労を覚えたように、彼は目元を揉みほぐし──静かに答える。
「ノア殿下は、立役者となり、新たな王となる。……今のノア殿下は、あなたが処刑されたと知り、王への悪感情を強めている」
「──」
息を呑んだ。
私の死を知ったノアが、陛下を恨むようになるのは、予想出来たことだった。
だからこそ、ルイスに手紙を出させたと言うのに。
私は、震えた声で、さらに彼に尋ねた。
「だから……真実を教えられないと?私が生きていることを知ったら、ノアはその決意を緩めてしまうかもしれない。気の緩みは、革命の失敗につながりかねない。だから、ノアには私のことを伏せていた。……そういうことね?」
私の言葉を、マクレガー将軍は否定しなかった。
「っ……!」
思わず、ツカツカと彼の前まで歩き進める。
突然激しい動きをしたから、未だ完全に回復していない体はぐらりと揺れる。
「シャリゼ様!」
ルイスの声を背後に聞きながら、私はマクレガー将軍の胸元を強く掴んだ。
「あなたは……ノアの復讐心を利用すると……そう、言っているのね。マクレガー将軍。私は……私は、そうならないように手紙を送ったと言うのに!」
「では、ノア殿下に国を捨てさせますか、シャリゼ妃。政争に敗れ、逃げるあなたと同じように」
「──」
目を見開いた。
絶句し、言葉が紡げない。
「ッ貴様……!!」
ルイスが、思わずと言った様子で抜剣しようとするのが気配でわかる。
私はそれを手を出して制止し、ゆっくりとため息を吐いた。
そして、掴んでいたマクレガー将軍の胸元から手を離す。
「……そうね。ノアは、誇り高きヴィクトワールの王族。生まれながらの王族である彼が、国を捨てる。それはどんな決意と覚悟が必要なのでしょうね」
「…………」
マクレガー将軍は、険しい表情で私を見ている。
それは、咎めている──というよりも深く苦悩している顔だ。
彼も、考えて考えて、考え抜いた上での決定だったのだろう。
マクレガー将軍の言葉は、正論だ。
だけど私は、正論でひとの気持ちを無視したくはなかった。
「だけど、国を捨てるか──それとも、反逆者となるか。それを決めるのは、ノアよ。彼の未来は、彼本人が決めるべきであって、私やあなた……ほかの人間が決めていいものでは無いはず」
「……ノア殿下がいなくなれば、ヴィクトワールは多くの血を流すことになります。たくさんの民が死ぬ」
「……だと、しても。それを理由に、ノアを思い通りに動かすなんて、それこそノアの気持ちはどうなるの?あの子は、あなたのお人形じゃないのよ」
ノアにも、知る権利がある。
その上で、どう判断するか。
それは、ノアが決めるべきことであって、私やマクレガー将軍が決めていいことでは無いはずだ。
彼も、その自覚はあったのだろう。
お人形──その言葉に、顔を歪めた。
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