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婚約者は、私ではなくお母様を愛している ⑵

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ミリューアはとても似ている。それは、マエラローニャに、ではない。マエラローニャの母に、である。マエラローニャの婚約者ユーゴは、マエラローニャの母親を愛していた。
彼ははっきりとそれを口にしたことはなかったが、何かにつけてマエラローニャと母親を比較しては、その差異を指摘してきた。

例えば瞳の色。
マエラローニャの母、ヴィヴィアは朝焼けと宵闇の静寂が覗かせる紺色の瞳をしているが、マエラローニャの瞳は薄い水色だった。

そして、髪。
髪の色こそマエラローニャと母は同じ黒髪だが、髪質が違った。マエラローニャの髪は毛先があちこちに跳ねたウェーブがかったものだったし、ヴィヴィアは真っ直ぐなストレートだった。どんなに熱を当てても添え木をつけて一晩置いても、いっそ接着剤で真っ直ぐに固めようとしたってマエラローニャの髪は言うことを聞かず、くるくるとその毛先を歪ませた。

『お前は瞳が水色なんだな』
『髪はもう少し………』

最初はなんの事か分からなかった。
幼いマエラローニャは彼の言うことを額面通りに受け取り、もう少しなんなのだろう、瞳の色が水色ではおかしいのかと不思議に思うだけだった。だけもある日、気がついた。
彼がぽつりと零したのだ。

『お前はあまりにも似ていない』

吐き捨てるようなその声に、心臓を鷲掴みにされたような衝撃を覚えた。当時、マエラローニャは七歳。あまりにも幼かった。
似ていない、それは誰にか。
幼いながらも、マエラローニャが答えを出すのはたやすかった。なぜなら、ユーゴが毎度毎度彼女の容姿を指摘してくるからである。

『全く違う。あの人の髪はこんなにクネクネしていない』

『ガラス玉のような目だな。もしや、ガラス玉でも嵌め込んだのか?カラスが好みそうだ』

いつだって、ユーゴの視線の先には母がいた。
マエラローニャはそれを理解していながらも、ユーゴの望みに近づかせるよう努力した。
その結果が、彼女の分厚いレンズの眼鏡である。極力瞳の色を見せないようにと努めた彼女の視力は、全く悪くない。寧ろ眼鏡などいらないほどに彼女は目がいい。
だけど、ユーゴがマエラローニャの瞳を見る度に蔑むような、あからさまな嫌悪する顔を見せるから。彼女は瞳を隠さざるを得なかった。
メデューサのような髪に、分厚い瓶底メガネ。うねった黒髪が彼女の不気味な容姿に拍車をかけ、地味で済むならまだしも、彼女は気味が悪いと言われるようになってしまっていた。

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