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婚約者は、私ではなくお母様を愛している ⑶

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いつからだっただろう。
笑わなくなったのは。
いつからだっただろう。
笑おうと思わなくなったのは。

マエラローニャは笑わない。
笑みを浮かべることは全くないし、くすりと笑うこともすらない。
幼い頃はそうでもなかった。ただ、彼女はだんだんと諦めを覚えてしまったのだ。笑っても、取り繕っても、全くてんでだめだということを。彼女は知ってしまった。だから、笑うのをやめた。

笑うのをやめた彼女は、元々品のある、整った顔立ちをしているのも相まってきつい印象を周りのものに与えた。口元の下にあるホクロもまた、彼女の気を強く見せる原因の一つでもあるだろう。
彼女は決して不美人ではない。ただ、似合わない野暮ったい眼鏡と、うねるような黒髪、ぴくりとも動かない顔が、彼女を不気味と、恐ろしいものだと印象づけてしまっていた。

「かしこまりました。わたくしとの婚約は破棄にしていただいて構いません。両陛下にはもう?」

「はっ。今から言うところだ。おい、マエラローニャ。お前の何がだめだったのかわかるか?」

わかるも何も、わからなかったら馬鹿である。
母に似ていなかったからだろう。
ヴィヴィアに似ていないマエラローニャに、価値はない。ユーゴはそう言いたいのだろう。

「その前に殿下、わたくしからもお話がありますの」

だけどこれ以上中身のない話を延々とされるのも苦痛だとマエラローニャは思い、口にした。あからさまにユーゴが顔をしかめる。ミリューアは何が怖いのかまた悲鳴をあげた。周りは、マエラローニャとユーゴの話に聞き耳を立て、固唾を飲んで話の着地点を見守っている。

「何だ、今さら懇願しようともう遅い」

「いたしませんわ。この件とは別件と考えていただいて問題ございません。………ナターシャ、こちらに」

ユーゴの馬鹿にするような言葉をサラリと流したマエラローニャが呼んだのは、この場にはいないはずのものの名前だった。
ぎょっとしたユーゴを見て、ミリューアが首を傾げる。彼女の首元を、さらさらの黒髪が絹糸のように流れる。確かにこれは、かなりヴィヴィアに近い。血の繋がりがないのにここまで似ているのも逆にすごい。どうやってこの男はそんなにそっくりな娘を探し出したのだろう。
おおかた、若い頃のヴィヴィアの絵姿でも近衛に握らせて、下町を探らせたのだろうとマエラローニャは考えた。
ミリューアが平民出身の娘だということは、既に知っていたことだ。ユーゴに紹介されるまでもない。王宮を歩いていれば、婚約者の火遊びをご丁寧に教えてくれるご婦人はたくさんいる。
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