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三章

全て、奪って。私の願う様に ※R18

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「あ……私、ミュチュスカ……の?」

思わず手を伸ばすと、その手を取られた。
優しく、口付けられた。
その感触があまりにも温かくて、心地よくて、涙が出そうになる。
とても幸せだ、とても幸福だ、と私の心は言っているのに。

「そうだよ。きみのこの体は俺の、俺だけのものだ。心も、俺に捧げてくれる?」

「……初めて見た時から、囚われているわ」

言うと、ミュチュスカは少し驚いたような顔をしたが、破顔した。そして、私の手をそっと握るとシーツに押し付ける。彼が腰を動かす度に、鈍い痛みと、ぴりりとした快楽を運んだ。
だけどそれ以上に、ミュチュスカに、彼に抱かれているという事実そのものが私に多幸感を運んだ。

「ァっ……あ、ぁッ、あ!」

「名前を呼んで」

ミュチュスカは苦しそうな声をした。
見れば、白磁の肌に汗が滲んでいた。
ああ、美しい。
舐め取りたい。呆然とそう思った。
私は五指を絡めた指先に力を込めて、ミュチュスカを呼んだ。

「ミュチュスカ、ミュチュスカぁ……」

「うん……。メリューエル。俺も、きみと同じだ。俺の心も体も、魂も、全てをきみに捧げるよ。きみは俺に囚われる。俺もまた、きみに囚われるんだ。……愛してる。きみを求める、きみが欲しいと願うこの気持ちを、世間が愛と呼ぶなのなら、俺はきみに愛していると、そう伝えるよ」

「もっとも、名前なんてどうでもいい。それはきみを縛るための道具に過ぎない」とミュチュスカは続けた。
言葉そのものより、中身を重視するところがミュチュスカらしいな、とどうしてかそう思って、笑みが浮かんだ。
笑った私に何を感じたのか、ミュチュスカもまた薄く微笑んで口付けを交わす。
優しい口付けだ。
愛を感じる。愛してると思うことが出来る。
優しさでできた、触れ合い。

ミュチュスカが腰を動かすと、痺れるような、くすぐったいような、緩い快楽に襲われた。
私が体をびくりと動かすと、ミュチュスカはそこを執拗に狙った。
だけど、ミュチュスカもまた苦しげにの呼吸をし、眉を寄せ、辛そうだった。私は、絡めた手を持ち上げて頬を擦り寄せた。

「ミュチュスカ……ぁっ、ん、や、ァっ……ま、待って」

「……なに?……どうしたの」

優しい声。泣きそうになる。
私はちゅ、ちゅ、と労りの口付けをミュチュスカの指に落とした。先程、彼がしてくれたように。

「……ミュチュ、ミュチュスカの……好きにしていいのよ?私は……私はきっと、あなたになら何をされてもいいの。だから……私で、気持ちよくなってほしい」

私の言葉に、ミュチュスカは目を見開いた。
白金のまつ毛が跳ね上がる。彼の紺青色の瞳が私を見つめた。その虹彩には変わらず、踊るような煌めきが流星のように走っている。
彼は私をじっと見た後、「いや」と首を横に振った。

「ねえ、メリューエル。それはきみの本心?」

「え?ええ。そうよ?なにか……おかしかった?」

困惑して眉を下げると、彼が安堵したような、苦味を含むように笑った。

「……俺が下手くそすぎて、早く終わらせろってことか思った。ごめんね、メリューエル。俺は初めてのきみを上手に導くことが出来るほど、経験があるわけじゃない」

「そう……なの」

ミュチュスカに経験があまりない、というのは驚きにも似た意外性を感じた。だけどすぐに、納得する。そんなの、私が許すはずがないだろう。婚約者がほかの女にうつつを抜かし、あまつさえほかの女を腕に抱く。

ああ……だめ。
想像しただけで、胸をわしづかまれたように痛むの。
私が眉を寄せていると、ミュチュスカが少し言いにくそうに、視線を逸らしながらぽつりと言った。

「……。……俺も、きみが初めてなんだ」

「………そう、なの?」

「……恥ずかしいから、あまり聞き返さないで。女々しくて、死にたくなる」

「どうしてあなたがそのことに羞恥を感じるのか私には分からないけど……私はすごく嬉しいわ。あなたも、それがわかっているから、教えてくれたのではなくて?」

尋ねると、ミュチュスカは少し困ったような顔をしたが、やがて僅かにはにかんだ。
誤魔化すように口付けが落とされて、ぐっと腰を押し付けられる。少し、鈍い痛みを伝えてくるけど、それは彼を受け入れている証拠だ。それを思うと現金な私の体はあっさりと快楽に落ちた。彼がなかを擦る度に、彼を感じる度に、背筋を快楽の波が伝う。

「ぁっ……ぁ、アっ……!や、ン、ぅ」

「っ……は、メリューエル。気持ちいい?」

「きもちっ、気持ちいい、からぁっ……ミュチュスカ。キス、して……?」

彼に抱かれ、彼の口付けを受ける。それは幸福の象徴だ。背に手を回して抱き寄せると、ミュチュスカはそれに逆らわず私の唇に求めるものをくれた。濃い口付けになった。
何度も互いを貪り合い、舌を絡め、吐息を交わせ、呼吸すら奪うような、そんなキス。
ぴちゃぴちゃと、もうどこから音が鳴っているのか分からない。
ミュチュスカが腰を引いて、浅く擦り付けた。
背筋が反る。ミュチュスカが笑って、私の背に手を差し込んで、抱き寄せる。逃げられない。
快感を逃がす術がなく、私は彼に抱かれたたま達した。

「んっ、ン、んぅ──ッ……!」

口付けを受けたまま、足をピンとさせて達すると、ミュチュスカは口付けを解いた。
そして、私の耳元でかすれた声を零した。

「出る、きみのなかに。俺の子種を」

「あっ、ァ、~~~!」

ミュチュスカの、子を成す液が私の中に吐き出される。肉欲の末に果たされる、子の種となるもの。それが、私のなかに──。
そう思うと、どうしようもない私の体はぎゅう、とまた彼のものを締め付けた。
彼の子を孕む。
ミュチュスカに抱かれ、その精を受ける。
その事実を再度思い知っただけで、私は甘い快楽に達してしまった。
ミュチュスカが息を乱す。

「っ……は、出る」

それは、熱い迸りだった。
いま、出されている、と感じた。
ミュチュスカのものだ。
ミュチュスカの欲望だ。
彼がわたしに欲情し、成された液体だ。
私の、私のためだけの──。

嬉しくて、涙がこぼれた。
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