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三章
それはきっと愛の告白 ※R18
しおりを挟むこうなるともう、私はミュチュスカに逆らえない。私に出来るのは、彼に体を委ねることだけだった。
くたりと力を抜いて、ミュチュスカの肩に額をつけた。
「……むね」
「そう。じゃあ、脱いで」
ミュチュスカが言った。
私は、たくしあげられた寝着をそろそろと胸元まで押し上げた。そうすれば、すぐに剥き出しの肌があらわになる。ツンと上向く突起は、まるで彼の愛撫を心待ちにしているようで、あまりにもいやらしい。
「っ……」
羞恥のあまり息を詰めると、ミュチュスカがふ、と息を吐きかけた。
「ひァッ!」
「……こんなに敏感なのに、ディミアンに触らせて、何も感じなかった?」
ミュチュスカの指がいたずらに胸元の蕾を摘む。それだけでびりびりとした快楽が走り、腰が揺れた。
「やっ、ァ、感じてなっ、感じてないからぁ……!」
声に泣きが入る。
だけどミュチュスカは許してくれない。
ぴん、ぴん、と指先で蕾を弾いてはきゅっと摘んだ。甲高い声が零れた。
「や、あァッ……!ぁ、あ……」
びくびく、と抑えきれずに肩が跳ねた。
少し触れられただけなのに。
あまりにも私の体は、ミュチュスカの指に敏感に反応する。甘い快楽を極めて、私はミュチュスカの胸に頭を擦り寄せた。もう、許して欲しくて。甘やかして欲しくて。……優しく、されたい。
「達した?」
ミュチュスカが私の頭を撫でて尋ねた。
私はこくこくと何度も頷き、ミュチュスカに訴えた。
「ディ……ディミアンにされた時はぜんぜん気持ちよくなかったの。本当よ?本当に……ただ、気持ち悪いだけだった。気持ち悪くて、気持ち悪くて……吐きそうだった。だって、あのひとの舌は、口は…………」
あまりにも冷たくて。
いや、実際は温かかったのだろう。
だけど私には、心の臓に氷を押し当てられたかのような冷たさを感じた。私はミュチュスカのシャツを掴んだ。
「……あのひとは、ミュチュスカじゃないもの。ただ、気持ち悪いだけ。不快だった。吐きそうだった。……嫌だったの」
「……うん。信じるよ。……ごめんね、嫉妬した」
ミュチュスカは穏やかな、落ち着いた声で言って、私の背を撫でた。その手の優しさに、安堵する。
「俺が……殺したかったな。きみの肌を味わった舌を抜いて、きみの裸体を見た目玉をくり抜いて、きみに触れた手を切り落としてやりたかった」
「ミュチュ、」
「あとはどこを舐められたの?」
ミュチュスカの言葉はあまりにも攻撃的で、乱暴だった。彼がこんな物言いをするなんて、私は知らなかった。戸惑いに顔を上げる。
顎を持ち上げられた。紺青色の瞳は変わらず美しく澄んでいるのに、その奥の感情を読み取ることは出来なかった。
私は首を横に振る。ぎこちない仕草となってしまった。
「ど、どこも」
「本当に?」
「え、ええ。ここを、舐められそうになったけど……でも、その前にディミアンは……」
私は自身の中心を指し示した。
言葉の先は紡がなかったけど、ミュチュスカには伝わったのだろう。彼は目を眇めて私を見た。
「……そう」
彼は一言だけ、言った。
なにか、他にも言いたいことがあるのにそれを無理に封じ込めたような、そんな声だった。
「…………」
ミュチュスカは何も話さず、黙り込んだままだった。沈黙の時間が続き、私は彼の顔を覗き込んだ。
「ミュチュスカ……?きゃっ」
彼の名を呼んだ途端、肩を押され、手を取られ。
ベッドに押し付けられた。押し倒されたのだ。びっくりして目を見開いていると、歪んだ笑みを浮かべるミュチュスカがいた。
「良かった。……メリューエル。彼にここを許そうものなら、例え相手が死者であろうと俺は何をするか分からなかった」
ミュチュスカはそう言いながら、丈長の寝着をぐっと捲し上げた。
ミュチュスカの、どこか危うい均衡はほんの少し何かが起これば、容易く崩れ去りそうなもろさがあった。その危うさに、その脆さに、目が離せない。魅入られる。魅了される。
ミュチュスカ・アリアン、という男に。
昏い絶望を丁寧に覆い隠したような瞳で、取り繕ったように『普通』の顔をするミュチュスカ。
その顔はいつも通りなのに、なにかが違う。その瞳が、浮かべる表情が、雰囲気が、空気が。全てが、いつもと少し変わっていた。
張り詰めたような空気。
少しの衝撃で容易く崩れてしまいそうな、危うさを孕んだ雰囲気。
息を詰める私に、ミュチュスカが微笑んだ。
ふ、と下着に口付けられる。
そのあまりのみだらさに、抵抗しなければ、と心は思うのに、体は動かない。今のミュチュスカには逆らえない。逆らいたくない。
だって、そうしたらなにかが変わってしまう。
なにかが、崩れ落ちてしまう──。
そう、思ったから。
ミュチュスカは薄い下着の布を歯で噛んで引っ張り、下ろす。
「例え、死んでいてもその遺体を損壊するような真似をするかもしれない。そうすれば、俺は二度と騎士として剣を振るうことはできなくなる。……そうならなくて、良かった。本当に」
心から思っているようでいて、そうなってもいいと思っているような、そんな声。今のミュチュスカの心情は、推し量れない。
私が息を飲んで黙っていると、ミュチュスカが笑った。
「どうしたの。静かになって」
「ミュ……ミュチュスカ」
「うん。きみの、ミュチュスカ・アリアンだ。きみの、きみだけの|俺(もの)だよ。メリューエル。きみと俺が、ひとつになれればいいのにね」
ミュチュスカの手が、私の首に触れた。
まるで、首を絞めるような手つきだ。
そっと手が首に回されて、握られる。
力を込められたら、窒息死するだろう。
ミュチュスカは軽く力を込めると、無表情のまま、無感情に言った。
「……俺を置いていくのは許さない。……置いていくなら、今ここで、きみを殺す」
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