13 / 866
序章
12.私は運命を知りました。
しおりを挟む
その後、私達はそれぞれ仕事を割り振られ早速取り掛かる事となりました。私はたまたま目が合ってしまったからか、侍女長に王女殿下の私室の掃除を任されました。
王女殿下の私室にお邪魔させていただき、私は目を疑いました。
明らかに物が少ないのです。この国唯一の王女殿下であらせられるにも関わらず、王女殿下の部屋には物が少な過ぎるのです。
皇宮…それも王子殿下や王女殿下へは必要経費として、氷金貨約五百枚分程の膨大な予算が毎年与えられている筈なのに、その予算とは明らかに不釣り合いな物の少なさでした。
……何故私がそんな事を知っているかと? 実家にいた頃、あの男の部屋の掃除を押し付けられた際にたまたまその資料を見ただけです。
ただ王女殿下があまり物欲の無い方なだけかもしれません。ですので私は、不躾にも王女殿下に問いました。
………欲しい物があればどうなさるのですか、と。
すると王女殿下はお答えくださりました。
「じじょちょうに言って、氷金貨二十枚分までなら用意してもらえます」
この時、私は確信しました。この皇宮の侍女は──救いようの無い屑ばかりなのだと。
まさか幼い王女殿下に与えられた予算を大幅に横領しているとは…この様子だと余罪はいくらでも見つけられそうですし、どうせ何処かに改竄した帳簿がある事でしょう。
絶対にいつか見つけ出してあの屑共を掃き溜めに棄ててやりますわ………こんなにも純粋で高潔な王女殿下を騙すなんて、恥知らずにも程がある。同じ人間として恥ずかしいです。今すぐ天へと送ってやりたい。
「お教えくださり誠にありがとうございます、王女殿下」
私がそうやってお礼を告げると、王女殿下はきょとんとしていた。そして私の顔を見上げて、
「……はじめてです。そんなふうにおはなししてもらえたのは」
四歳の少女らしく無邪気に笑った。
…は? なんですか、あの屑共は礼儀作法すらままならない愚者なのですか? それとも四歳の王女殿下相手に優位に立っていると優越感に浸る馬鹿なのですか?
あー……久方ぶりに怒りを覚えました。
決めました。王女殿下を舐め腐った屑共は全員皇宮から追い出します。社会的に抹殺します。王女殿下の侍女として、私はあの屑をきちんと処理致します。
そう、これからどうやってあの屑共を廃棄するか考えを巡らせていた所、王女殿下が顔を少し赤くしながらくいっと私のスカートの裾を引っ張って。
「…その、あなたのおなまえは、なんですか?」
「私のですか?」
そう、失礼にも聞き返すと王女殿下はこくりと頷いた。
……昨日の今日で急展開過ぎて、まだ偽名を考えられてないんですが、どうしましょうか。
「私には、王女殿下にお伝え出来る名前が無いのです。申し訳ございません」
膝をつき深く頭を下げてお詫び申し上げる。すると王女殿下はとても悲しそうな表情をお作りになられてしまった。…こんな事なら適当な名前を名乗るべきでしたね。
すると王女殿下が私の両手を握って、
「それじゃあっ、わたしが、おなまえをつけてもいいですか…?」
大きくて丸い、綺麗な寒色の瞳を揺らして言いました。…驚きました。まさかこんな事を言われるとは。
「………勿論でございます。王女殿下より我が名を賜る事が出来るなど、我が一生の誉にて」
王女殿下より名を賜る者など、後にも先にも私だけなのではないでしょうか。そう考えると…ちょっぴり嬉しいですね、特別な感じがして。
そして王女殿下は熟考なされた後、ついに私へと名を下賜してくださった──。
「──ハイラ、というのはどうですか?」
息が、止まるかと思いました。何故その名が…何故その言葉がここで出てくるのかと、戸惑いました。
…それは、あの絵本の主人公の名前。大好きなあの絵本の……。
戸惑いに溺れる私を置いて、王女殿下は続けた。
「その……あなたは、とってもやさしい人だから。あの絵本のしゅじんこうみたいに、こころやさしい人だとおもったんです」
「…っ」
かつての記憶が、いつかの思い出が蘇る。
夜寝付けなくて、お母さんに読み聞かせてもらった絵本。私は…その主人公に憧れていました。
優しくて、強くて、大切な人を守れるだけの力があって。大好きなお母さんを守れない私からすれば、とても羨ましい存在でした。
でもお母さんは絵本を読む度に『貴女は最初からハイラのように優しい素敵な女の子よ』と私に言っていました。
それでもハイラになりたいと駄々をこねる私に、お母さんはいつも『きっとなれるわ。貴女はとっても心優しい子だから』と言って頭を撫でてくれました。
……ハイラのような優しくて強い人になりたい。そんな夢は、もう私の中には無い。なぜなら、もう、私が一番守りたかった人はこの世にいないのですから。
「………っ」
急に目頭に熱がこもり、私は母への感情を溢れさせてしまった。王女殿下の目の前で、無様にも泣いてしまったのです。
つい先日亡くなったばかりの母を思い出して、王女殿下のお言葉に涙してしまった…必死に涙を止めようとしましたが、止まる気配はありません。
とめどなく涙を溢れさせる私を、王女殿下はとても心配して下さりました。
今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の事をあのように評価して下さるのか。今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の心の壁をいとも容易く壊してしまったのか。
今すぐにでも泣き出してしまいそうな御顔の王女殿下に、私は「大丈夫です。すみません、取り乱して」と伝える。
新品の侍女の服の袖を涙に濡らしながら、私は王女殿下に向けて、またもや質問を投げかけました。
「…本当によろしいのですか? 私が、その名を賜っても」
王女殿下のお言葉に意を唱えるなど許される事ではありません。ですが、どうしても確認しておきたかったのです。
私に、その名を名乗る資格があるのかを。
「あなたはきっと…とってもやさしくて、つよくて、たくさんの人をまもれるすごい人になるでしょうから! それなら、ハイラというおなまえがぴったりです!」
王女殿下は私が泣き止んだのを確認してほっと胸を撫で下ろし、新雪のように柔らかく儚い笑顔を浮かべた。
……あぁ、どうしてそんな事が王女殿下には分かるのでしょうか。私が凄い人になれるだなんて──でも、とても嬉しかった。今までの私の努力や積み重ねは全て無意味では無かったのだと分かって、心の底から安心してしまいました。
王女殿下、私は、今一度あの夢を見ても良いのでしょうか。大事な人を守りたいと願っても良いのでしょうか。
もし、それが叶うのなら…私は貴女を守りたい。新たな私と、一度は捨てた夢を今一度与えて下さった貴女を……私はその名にかけてお守りしたいです。
誰よりも純粋で、誰よりも高潔で、誰よりも優しい王女殿下。
会って数十分足らずの私に、そのような資格が無い事は重々承知の上です。それでも私は………ハイラとなるのであれば、その名に相応しく貴女の傍で貴女をお守りしたいのです!
「…ありがたく頂戴致します。本日より私めは──ハイラ、と名乗らせていただきます。これから王女殿下の侍女としてお仕え致します故、敬語もお使いにならなくて結構でございます」
正しく膝を折り、頭を垂れる。
どうすれば王女殿下の傍で王女殿下をお守りする事が出来るのでしょうか。皇宮という果てなき地獄において、少しでも王女殿下に快適に過ごしていただくには、どうすればよいのでしょうか。
考えても考えても答えは出てきません。きっと、今、私の頭がとても興奮と幸福に満ちているからなのでしょう。
興奮でまともに思考する事すら出来ない私に向けて、王女殿下がふにゃりと笑いながら手を差し伸べて来た。
「──ハイラ、きょうからよろしくね」
窓から射し込む光が、王女殿下を照らす。光を背負いながら微笑むそのお姿は……まるで、神話に聞く神の使いのようでした。
私はその手を取りました。不遜にも王女殿下の御手に触れてしまいました。
細くて少し力を入れたらすぐにでも壊れてしまいそうなその手指を見て、私は更に守らねばという意思を固くしました。
一度は諦めて捨ててしまった夢。これが最後だから…夢を見させて欲しい。叶えさせて欲しい。
これから私はハイラとして生きる。あの家の庶子では無く、王女殿下の侍女のハイラとして。
だから最後にもう一度──夢を追う事をお許しください、神よ。
♢♢♢♢
…これが、今より二年程前の話です。私と姫様が運命的な出会いを果たしやはり運命だったのだと証明された日ですね。……違う? 何言ってるんだ? いいえ、私は何も間違った事は申しておりません。
私と姫様は間違いなく運命だったのですよ。でなくてはあのような劇的な出会いは果たさないでしょう。
さて。私が姫様の専属侍女となったのは実は半年前の話なのです。それまでの一年と半年の間、私は姫様の周りに散らばるゴミ屑を一つ一つ丁寧に廃棄していっておりました。
この時の為にあったのだと思う程私の知恵はよく働き、次々に屑を陥れる事が出来て楽しかったです。あの手この手ありとあらゆる手段を駆使し、時に実家の権威を使ってまでして私は彼女達を社会的に抹殺しました。
たかだか十六の私には彼女達の未来を完膚なきまでに潰す事が限界だったのです。
ただその際に厄介だったのがケイリオル卿でした。流石に嘘八百で黙せるような相手ではないので、姫様に割り当てられていた予算の横領について大人しく語りました。
するとケイリオル卿もそれにはかなり怒っていらしたようでした。顔の布のせいで何も分かりませんが。…とまぁ、そのお陰もありまして、私が独断で皇宮二班の侍女を次々追い出したのもそういう事ならとお許しを得ました。
あぁちなみに。私はこの二年で姫様を心から敬愛する事となりましたが…同時に皇帝陛下と王子殿下の事は嫌いになりましたね。心底。
健気で努力家な私の姫様の期待を裏切る豚野郎ですから。……あら、口が滑ってしまいましたわ。
私の口が悪い? それは気のせいですわよ。
姫様とお呼びするようになった経緯は秘密です。私と、姫様の二人だけの秘密。…乙女の秘密を暴くのは良くない事でしてよ?
長話はこのぐらいにして。とりあえず私は、建国祭での城の臨時侍女の仕事を終わらせなければならないのです。この仕事のせいで、熱に魘される姫様の付きっきりの看病が出来ないのですから!
ですのでケイリオル卿も嫌いです。いくら私が優秀だからとこのような命令を下してくれましたね………っ!
早急に終わらせて、すぐに戻りますからね姫様! 貴女のハイラがすぐに向かいますから!!
………私を専属侍女に選んで下さった事、私に名を与えて下さった事、私に夢を見させて下さった事……全ての恩に報いるべく、私はこれからも貴女に尽くします。
愛しの姫様。どうか、これからも貴女のお傍に──。
王女殿下の私室にお邪魔させていただき、私は目を疑いました。
明らかに物が少ないのです。この国唯一の王女殿下であらせられるにも関わらず、王女殿下の部屋には物が少な過ぎるのです。
皇宮…それも王子殿下や王女殿下へは必要経費として、氷金貨約五百枚分程の膨大な予算が毎年与えられている筈なのに、その予算とは明らかに不釣り合いな物の少なさでした。
……何故私がそんな事を知っているかと? 実家にいた頃、あの男の部屋の掃除を押し付けられた際にたまたまその資料を見ただけです。
ただ王女殿下があまり物欲の無い方なだけかもしれません。ですので私は、不躾にも王女殿下に問いました。
………欲しい物があればどうなさるのですか、と。
すると王女殿下はお答えくださりました。
「じじょちょうに言って、氷金貨二十枚分までなら用意してもらえます」
この時、私は確信しました。この皇宮の侍女は──救いようの無い屑ばかりなのだと。
まさか幼い王女殿下に与えられた予算を大幅に横領しているとは…この様子だと余罪はいくらでも見つけられそうですし、どうせ何処かに改竄した帳簿がある事でしょう。
絶対にいつか見つけ出してあの屑共を掃き溜めに棄ててやりますわ………こんなにも純粋で高潔な王女殿下を騙すなんて、恥知らずにも程がある。同じ人間として恥ずかしいです。今すぐ天へと送ってやりたい。
「お教えくださり誠にありがとうございます、王女殿下」
私がそうやってお礼を告げると、王女殿下はきょとんとしていた。そして私の顔を見上げて、
「……はじめてです。そんなふうにおはなししてもらえたのは」
四歳の少女らしく無邪気に笑った。
…は? なんですか、あの屑共は礼儀作法すらままならない愚者なのですか? それとも四歳の王女殿下相手に優位に立っていると優越感に浸る馬鹿なのですか?
あー……久方ぶりに怒りを覚えました。
決めました。王女殿下を舐め腐った屑共は全員皇宮から追い出します。社会的に抹殺します。王女殿下の侍女として、私はあの屑をきちんと処理致します。
そう、これからどうやってあの屑共を廃棄するか考えを巡らせていた所、王女殿下が顔を少し赤くしながらくいっと私のスカートの裾を引っ張って。
「…その、あなたのおなまえは、なんですか?」
「私のですか?」
そう、失礼にも聞き返すと王女殿下はこくりと頷いた。
……昨日の今日で急展開過ぎて、まだ偽名を考えられてないんですが、どうしましょうか。
「私には、王女殿下にお伝え出来る名前が無いのです。申し訳ございません」
膝をつき深く頭を下げてお詫び申し上げる。すると王女殿下はとても悲しそうな表情をお作りになられてしまった。…こんな事なら適当な名前を名乗るべきでしたね。
すると王女殿下が私の両手を握って、
「それじゃあっ、わたしが、おなまえをつけてもいいですか…?」
大きくて丸い、綺麗な寒色の瞳を揺らして言いました。…驚きました。まさかこんな事を言われるとは。
「………勿論でございます。王女殿下より我が名を賜る事が出来るなど、我が一生の誉にて」
王女殿下より名を賜る者など、後にも先にも私だけなのではないでしょうか。そう考えると…ちょっぴり嬉しいですね、特別な感じがして。
そして王女殿下は熟考なされた後、ついに私へと名を下賜してくださった──。
「──ハイラ、というのはどうですか?」
息が、止まるかと思いました。何故その名が…何故その言葉がここで出てくるのかと、戸惑いました。
…それは、あの絵本の主人公の名前。大好きなあの絵本の……。
戸惑いに溺れる私を置いて、王女殿下は続けた。
「その……あなたは、とってもやさしい人だから。あの絵本のしゅじんこうみたいに、こころやさしい人だとおもったんです」
「…っ」
かつての記憶が、いつかの思い出が蘇る。
夜寝付けなくて、お母さんに読み聞かせてもらった絵本。私は…その主人公に憧れていました。
優しくて、強くて、大切な人を守れるだけの力があって。大好きなお母さんを守れない私からすれば、とても羨ましい存在でした。
でもお母さんは絵本を読む度に『貴女は最初からハイラのように優しい素敵な女の子よ』と私に言っていました。
それでもハイラになりたいと駄々をこねる私に、お母さんはいつも『きっとなれるわ。貴女はとっても心優しい子だから』と言って頭を撫でてくれました。
……ハイラのような優しくて強い人になりたい。そんな夢は、もう私の中には無い。なぜなら、もう、私が一番守りたかった人はこの世にいないのですから。
「………っ」
急に目頭に熱がこもり、私は母への感情を溢れさせてしまった。王女殿下の目の前で、無様にも泣いてしまったのです。
つい先日亡くなったばかりの母を思い出して、王女殿下のお言葉に涙してしまった…必死に涙を止めようとしましたが、止まる気配はありません。
とめどなく涙を溢れさせる私を、王女殿下はとても心配して下さりました。
今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の事をあのように評価して下さるのか。今日会ったばかりなのに、どうしてこの御方は私の心の壁をいとも容易く壊してしまったのか。
今すぐにでも泣き出してしまいそうな御顔の王女殿下に、私は「大丈夫です。すみません、取り乱して」と伝える。
新品の侍女の服の袖を涙に濡らしながら、私は王女殿下に向けて、またもや質問を投げかけました。
「…本当によろしいのですか? 私が、その名を賜っても」
王女殿下のお言葉に意を唱えるなど許される事ではありません。ですが、どうしても確認しておきたかったのです。
私に、その名を名乗る資格があるのかを。
「あなたはきっと…とってもやさしくて、つよくて、たくさんの人をまもれるすごい人になるでしょうから! それなら、ハイラというおなまえがぴったりです!」
王女殿下は私が泣き止んだのを確認してほっと胸を撫で下ろし、新雪のように柔らかく儚い笑顔を浮かべた。
……あぁ、どうしてそんな事が王女殿下には分かるのでしょうか。私が凄い人になれるだなんて──でも、とても嬉しかった。今までの私の努力や積み重ねは全て無意味では無かったのだと分かって、心の底から安心してしまいました。
王女殿下、私は、今一度あの夢を見ても良いのでしょうか。大事な人を守りたいと願っても良いのでしょうか。
もし、それが叶うのなら…私は貴女を守りたい。新たな私と、一度は捨てた夢を今一度与えて下さった貴女を……私はその名にかけてお守りしたいです。
誰よりも純粋で、誰よりも高潔で、誰よりも優しい王女殿下。
会って数十分足らずの私に、そのような資格が無い事は重々承知の上です。それでも私は………ハイラとなるのであれば、その名に相応しく貴女の傍で貴女をお守りしたいのです!
「…ありがたく頂戴致します。本日より私めは──ハイラ、と名乗らせていただきます。これから王女殿下の侍女としてお仕え致します故、敬語もお使いにならなくて結構でございます」
正しく膝を折り、頭を垂れる。
どうすれば王女殿下の傍で王女殿下をお守りする事が出来るのでしょうか。皇宮という果てなき地獄において、少しでも王女殿下に快適に過ごしていただくには、どうすればよいのでしょうか。
考えても考えても答えは出てきません。きっと、今、私の頭がとても興奮と幸福に満ちているからなのでしょう。
興奮でまともに思考する事すら出来ない私に向けて、王女殿下がふにゃりと笑いながら手を差し伸べて来た。
「──ハイラ、きょうからよろしくね」
窓から射し込む光が、王女殿下を照らす。光を背負いながら微笑むそのお姿は……まるで、神話に聞く神の使いのようでした。
私はその手を取りました。不遜にも王女殿下の御手に触れてしまいました。
細くて少し力を入れたらすぐにでも壊れてしまいそうなその手指を見て、私は更に守らねばという意思を固くしました。
一度は諦めて捨ててしまった夢。これが最後だから…夢を見させて欲しい。叶えさせて欲しい。
これから私はハイラとして生きる。あの家の庶子では無く、王女殿下の侍女のハイラとして。
だから最後にもう一度──夢を追う事をお許しください、神よ。
♢♢♢♢
…これが、今より二年程前の話です。私と姫様が運命的な出会いを果たしやはり運命だったのだと証明された日ですね。……違う? 何言ってるんだ? いいえ、私は何も間違った事は申しておりません。
私と姫様は間違いなく運命だったのですよ。でなくてはあのような劇的な出会いは果たさないでしょう。
さて。私が姫様の専属侍女となったのは実は半年前の話なのです。それまでの一年と半年の間、私は姫様の周りに散らばるゴミ屑を一つ一つ丁寧に廃棄していっておりました。
この時の為にあったのだと思う程私の知恵はよく働き、次々に屑を陥れる事が出来て楽しかったです。あの手この手ありとあらゆる手段を駆使し、時に実家の権威を使ってまでして私は彼女達を社会的に抹殺しました。
たかだか十六の私には彼女達の未来を完膚なきまでに潰す事が限界だったのです。
ただその際に厄介だったのがケイリオル卿でした。流石に嘘八百で黙せるような相手ではないので、姫様に割り当てられていた予算の横領について大人しく語りました。
するとケイリオル卿もそれにはかなり怒っていらしたようでした。顔の布のせいで何も分かりませんが。…とまぁ、そのお陰もありまして、私が独断で皇宮二班の侍女を次々追い出したのもそういう事ならとお許しを得ました。
あぁちなみに。私はこの二年で姫様を心から敬愛する事となりましたが…同時に皇帝陛下と王子殿下の事は嫌いになりましたね。心底。
健気で努力家な私の姫様の期待を裏切る豚野郎ですから。……あら、口が滑ってしまいましたわ。
私の口が悪い? それは気のせいですわよ。
姫様とお呼びするようになった経緯は秘密です。私と、姫様の二人だけの秘密。…乙女の秘密を暴くのは良くない事でしてよ?
長話はこのぐらいにして。とりあえず私は、建国祭での城の臨時侍女の仕事を終わらせなければならないのです。この仕事のせいで、熱に魘される姫様の付きっきりの看病が出来ないのですから!
ですのでケイリオル卿も嫌いです。いくら私が優秀だからとこのような命令を下してくれましたね………っ!
早急に終わらせて、すぐに戻りますからね姫様! 貴女のハイラがすぐに向かいますから!!
………私を専属侍女に選んで下さった事、私に名を与えて下さった事、私に夢を見させて下さった事……全ての恩に報いるべく、私はこれからも貴女に尽くします。
愛しの姫様。どうか、これからも貴女のお傍に──。
37
あなたにおすすめの小説
『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています
六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。
しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。
「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】巻き込まれたけど私が本物 ~転移したら体がモフモフ化してて、公爵家のペットになりました~
千堂みくま
ファンタジー
異世界に幼なじみと一緒に召喚された17歳の莉乃。なぜか体がペンギンの雛(?)になっており、変な鳥だと城から追い出されてしまう。しかし森の中でイケメン公爵様に拾われ、ペットとして大切に飼われる事になった。公爵家でイケメン兄弟と一緒に暮らしていたが、魔物が減ったり、瘴気が薄くなったりと不思議な事件が次々と起こる。どうやら謎のペンギンもどきには重大な秘密があるようで……? ※恋愛要素あるけど進行はゆっくり目。※ファンタジーなので冒険したりします。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】
かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。
名前も年齢も住んでた町も覚えてません。
ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。
プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。
小説家になろう様にも公開してます。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる