弱輩者の第三王子~僕なんかに執政できるんですかね。~

拙糸

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第三章 騎士学校、留学(?)編

第14話 学びの自由

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「ふぅ、もう少しで今回の計画がパーになるところだった…。」

本当に危ないところだった。途中シーナに助け船を出してもらえていなかったら、間違いなく僕はタールランドに生きては帰れないだろう。

「あなたって結構おっちょこちょいなのね。」
「リリー、君に言われたくないよ。」

ふふふっと笑うこの女の子は、ズール帝国大臣サガミの娘である、リリー・サガミだ。初対面の時に可憐なという表現をしたが、今は撤回しておこう。

「なんか、今失礼なこと考えてなかった?」
「い、いやまさか。あっはは。」

なんでこいつまで人の考えていることが分かるんだよ。僕の顔に、そんなに本当のことが表れているのだろうか。

「そういえば、次は大陸政治学だったわね。担当教師は、確か外国から招いた特別講師だとか。」
「ああ、うん。なんとなく誰だか分かった気がする。」

大陸政治をよく知り、かつそれを人に的確に教えられる人材は、僕の情報網によれば一人しか引っ掛からない。

「とにかく、急ぎましょ。B棟の二階にある講義室よ。」
「はいはい。」

気分がのらないまま、講義室へと急いだ。



「ハローエブリワーン!」

なんて随分と陽気な挨拶をかまして入ってきたのは、我がタールランドの大臣、ホスロ・ナガールだ。僕に内緒でついてきていたのはなんとなく気づいてはいたが、まさか外部講師として学校に潜入するとは思いもしなかった。何にしても………………………気まずい。例えるなら、子供が学校で親から教わる、みたいな感じだ。

「映えある帝国騎士学校一年生の皆さん、初めましてですな。…………ほとんどは。」

こちらを見てニヤニヤしている。本当にやめてほしい。
周りのみんなも、僕の顔とホスロの顔を交互に見て、ざわざわとしている。はぁ…………。

「さて、皆さんもご存知の通り、私はタールランドで現在も大臣の職を務めております。ですから皆さんには………………」

「ふわぁあ。」
「タイト、もう少し真面目に講義を受けなさいよ!」
「でも、これただのガイダンスだよ?」
「あのねぇ………………」

正直言って、今ホスロが話していることをそのまんま、何年か前、ホスロから勉強を教わる始めに聞いた。一言一句、同じである。逆にここまで同じ話ができるのは、ある意味才能だと思う。そして、一応訂正だけしておこう。僕は決して! 決して! ホスロをバカにしているわけではな(バコッ)
(ストン)
「ちょちょっとタイト!? 大丈夫?」
「む、ぐぅ……」

いてててて。頭がぐらぐらする。自分の頭を触ると、大きなたんこぶが出来ており、その回りには白い粉がついていた。あ、チョーク投げやがったな。

「人の話は聞かなければなりませぬぞ。将来ロクな大人になれませんからな。お、そうだ。今のは暴力ではありませんぞ、立派な指導ですからな♪」
「し、指導者ぶりやがってぇぇ…」
「もう一発、喰らいますかな?」
「け、結構です……………」

学校の仕組みを普段のストレス発散に使うとは、全くとんでもない男だ。流石に、これではアホな先生だと思われてしまうだろう。現に、僕の周りの生徒たちはヒソヒソと話している。

「あの先生、本当に大臣なのかしら。」
「テンションも場違いだし。」
「大丈夫か、アレホスロ?」

しまいには、三人称単数モノ呼ばわりまでされている。ホスロのキャリアとその腕に、泥を塗るような評価を受けている。

「さあ、話していても仕方がないですからな。さっそく講義を始めましょうぞ。」

ダンッ
「俺は……いや、俺たちは辞退させてもらうぜ。」

これぞヤンキー、風の三人組が、ホスロに指をさして言う。他人事ではあるが、さっきの振るまいには頭がきたのだろう。

「どういうことですかな?」
「あんた、いくら高名な大臣サマだからって、生徒を間接的に攻撃する権利はねぇはずだ。」
「だからさっきも言ったでしょう、これは指導だと……」
「指導という名の下で生徒にストレスを発散しているだけなんじゃねぇか?」
「……なんですと?」

ヒッヒッヒッ…と周りの連中も囃し立てる。周りの生徒たちも、更にざわざわし始める。

「あんたのやり方は、この学校のあるべき姿とは反対じゃねえか。こっちには“学びの自由”ってもんがあるんだ。聞こうが聞くまいが俺たちの勝手じゃねえか?なんでお前らのやり方を全部押し付けられなければならねぇんだ?」
「お前さんは、どこの出身かね?」
「俺はアレク・ギース。ズール帝国公爵、ギース家の長男だ。」

このヤンキー、公爵家の人間だったのか。なんとも態度がデカいのはそのせいか。

「そうか、ならば将来公爵として、ギースの領地を治めるために、この学校に学びに来ているというわけですな?」
「そのとおりだ。」
「お主は、公爵には程遠いかもしれぬな。」
「なんだとっ!?」

ホスロが、ゆっくりとギースの方を向き、そして、見据えた。

「お主の言う“学びの自由”は、学ぶか否かを決定するために存在するのではない。これは、たくさんの学びの選択肢の中で、自分に最もふさわしい思考や思想をみつけ、探求し、己を見つめ直すためにあるのだ。決して、履き違えるでない。みなもそうだぞ?」

しんと静まり返った生徒たちの方を向き、続ける。

「確かに、私のやり方はお前さんたちの倫理や生活スタイルから逸脱しているかもしれぬ。だが、もしかしたら、そのおかしなやり方を学んでおけば、何処かで活きてくる可能性は十分にあるだろう。たくさんのことを学び、知識を得て、その上で“学びの自由”の原則から、それを取捨選択し、最も良い答えを導きだしてほしいのだ。私はこれから大陸政治学を教える上で、先にお主たちに伝えておきたかったことだ。」

静まり返った教室の何処かで、拍手が起きた。そして、それはまた一人と増やし、やがてクラス全体に広がった。アレクたちは、舌打ちをして席についた。

「さあ、始めよう。まずは、このページを開いてくだされ。古代から学んでいこうかの。」



「流石だね、ホスロ。あのヤンキーを口負かせさせちゃうとは。」
「ほっほっ、そんなの朝飯前ですぞ。」

ここは、A棟にある談話室。主に、先生と生徒が面談を行うところだ。その他にも、生徒の休憩室として使われてるけど。授業後に、僕はホスロと面談というかたちでティーパーティーを開いていた。

「しかし、こんなところで紅茶を飲んで叱られないのですかな?」
「まあ、大丈夫なんじゃない?」

ホスロが疑いの目を僕に向けてくるが、スルーしておこう。

「なんにせよ、これで目標ターゲットは、十中八九ホスロに接触してくるだろうね。」
「まさかこの私が無能な教師の役を演じることになるとは…やりたくなかったのですが、自己中心的な雰囲気を出すために、タイト様にチョークを投げてしまい申し訳なかったです。決してわざとではありません。」
「へぇ。アレクに『指導という名の下で生徒にストレスを発散しているだけなんじゃねぇか?』なんて言われて冷や汗かいてたくせにね。」

僕は、白い目を向ける。

「一体、なんのことでしょうな。」

ホスロは、スルーする。

「まあ、そんなことを話すためにホスロに会いに来たわけじゃないんだ。今回の件について、新たなことが分かった。」

僕は、懐から手紙を出す。

「む? これはなんですかな?」
「犯人の動機について、ちょっと腑に落ちない点があったから調べてもらってたんだ。これはその報告だよ。」
「失礼しますぞ……………むっ、これは…。」
「うん。これが動機だとすると、ジョンネルは必然的に犯人候補から外れるんだ。彼は、生まれも育ちもズール帝国だからね。」
「振り出しに戻る………というわけですな?」
「だからホスロにお願いに来たのさ。………容疑者の調査のね。」
「ですが、この人はあなたの………。」
「信じられないから、ホスロにはっきりさせてほしいんだ。頼める?」
「分かりました。全力をつくしましょう。」

留学はあと1ヶ月。それまでに証拠を見つけなければ、僕は帝国からもダメ王子の烙印が押されるだろうし、サガミの助けも受けられなくなってしまうだろう。

「ぜったいに、明らかにしてみせるぞ…!」
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