弱輩者の第三王子~僕なんかに執政できるんですかね。~

拙糸

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第四章 波乱の内政・外交編

第5話 大バカ

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「いいか! 草を掻き分け、地べたを這いつくばってでも、必ず見つけるぞ。塵1つ見逃すな! 行くぞ!」
「はっ!!」

ジーク兄さんに向かって敬礼するのは、タールランドの王国軍だ。大臣や官職、その他諸々の人間だけでは捜索するのに人手が足りないので、今動かせる全勢力を投入することにした。本来ならば、刈り入れ時が終わって徴収できるようになった農民兵を動かし、税金の捜索に当たらせたかったのだが、本当に徴収されたばかりで、まだ軍の規律や動きかたを知らないものが多い。よって、下手に動かすと、二次災害というか、本来ならば起こる筈のない事故を起こしかねないということで、本兵しかいない。
人手が足りない分は、時間をかけてカバーすれば良いが、最も深刻なのはそこではない。一番深刻なこと、それは、未だに実行犯と思われる、ジェノという男の行方が分かっていないということだ。



「そこの影はどうだ?」
「……っ、違う。これはただの岩だ!」
「一体何処に隠しやがったんだ?」

犯人の手がかりもない。木材の行方を知るものもいない。今回の捜索は、まさに砂漠に落としたコンタクトレンズを見つける位に、難しい。タールランドにある6つの領土の、スージィ、ツトゴ、モロ、メーデ、ナトム、そして王都がある、ここダモスに分散させて捜索しているが、全く何の報告もないのがとても不思議である。まさか、国外に持ち出されたのだろうか。そう考えると、1つ矛盾点が生じてくる。ここタールランドは、直接隣接する国がズール帝国のみで、西側をロウジ山脈が、南側をスムジア山脈が囲っている。国外に持ち出そうとすると、考えられるルートは三つ。安全に、そして確実に物資を運び出すことのできる、ジャンター平原を通り帝国へと続く、ロール街道。魔物が現れ、少し過酷な道のりだが、ダモスから東の帝国方面へと突き進む旧テジム街道、そして、息を潜めてスムジア王国方面へと通ることができるが、山を二つ越えなければならない、南のスムジア山脈を経由するスムジア登山道だ。しかし、ロール街道や旧テジム街道を帝国方面へと向かう際は、必ず検問を受ける必要があるし、南の山脈を、あの材木を抱えて運び出すのには、非常に時間がかかる上に、道も狭い。よって、山の警備隊や、スムジアの警備隊に見つかるだろう。したがって、何処のルートを通って国外に持ち出そうとすると、必ず引っ掛かって情報が入ってくる筈なのだが……。

「ホスロ、どう?」
「そうですな……。先程検問所や警備隊に問い合わせましたが、音沙汰なしですな。」
「だよね。あんなに大々的なことをしたんだから、見つかるルートをわざわざ通るわけがないよね。」

この三つのルート以外にも、西のロウジ山脈を越えるルートがあるのではないかと思う人もいるかもしれないが、この山脈を隣国へと抜けようとしても、物理的に不可能である。そう、山脈とは名ばかりで、道が繋がっていないからだ。詳しく言うと、こちらのタールランド側と隣国側の間に、氷河時代に作られた巨大なU字谷があり、越えたくても越えられない。
更に、ロウジ山脈の西の端の方は、万年雪に覆われており、木材を抱えて通ることはまず不可能だ。それに、凶暴なスノーウルフも出る。
よって、絶対に三つのルート以外から国内に出ることは不可能だというわけだ。それを共に聞いていたカーマンは、こちらを何か言いたげな様子で見ているが……いや、気のせいかな?
色々と試行錯誤を重ねるが、ベストな答えがなかなか浮かばない。自分の思考力の足りなさに、頭をかきむしる。国の長として、不甲斐ないと思った。
さっきから同じ事を繰り返しているので、見かねたホスロが僕にこんな提案をしてきた。

「……タイト様、一旦城の外に出ましょう。」
「……………………うん。」

自分にやるせなさを感じながら、外に出た。
城の二階、展望台へと出た。外はもう、暗かった。
近くに置いてある椅子に座る。ホスロが、「ウルップ殿、また椅子や机を買いなさったな…」とぶつぶつ言っている。
ベランダには、色とりどりの椅子達が至るところに置いてあった。
一つ、木でできた椅子を引っ張ってきて、ホスロも座る。

「部屋にずっと引きこもって文書を漁っていても、出てこないことだって、分からないことだって、たくさんあります。そんな時、よく私は外に出て、空を見上げていました。すると、アイデアが自然と浮かんでくるのです。騙されたと思っても良いですから、やってみてください。」

言われるがままに、空を見上げる。僕の頭上には、満点の星々がこれでもかというほど、美しく輝いていた。最近ちゃんと見たことがなかった空。こんなに綺麗だったのかと、改めて感じた。雄大な空を見つめていると、なんだか心が軽くなっていく気がした。

「どうです? 心がスーっとなっていくでしょう。まるで、自分の心が空に吸われるように。色々と考え込んでしまったときは、こうしてみてください。」

僕が隣を見ると、ホスロも同じように空を見上げていた。この空を見ていると、自分は一体何をそんなに考え込んでしまっていたのだろうと思う。

「ありがとう、ホスロ。おかげで落ち着くことができたよ。冷静な心を失ったら、なにもないもんね。」
「ええ。何事も道筋は表だけではないですからな。」

と言い、ホスロは笑った。
そうだよね。何事も道筋は表だけではない………………………ん?
その単語ワードを聞いた途端、頭のなかにあることが浮かんだ。

『ジェノ・シャウル。元林業統一管理局の局長で、現在は仕事をやめて現地指導員だけ務めていたらしいんだけど…。』

林業局。その名の通り、この国の林業、とくに、この辺ツトゴ領の管理を行っている、官職の一つ。つまり、林業の統括責任者というわけだ。

『わざわざこんな時期にこんな山の中まで入ってくるたぁな、ちと信じられねぇんだ。』
彼ら林業従事者は、交易することによって初めてその利益を得ることができる。だが、その彼らの言い分だと、山を上り下りして移動しているわけじゃなさそうだ。じゃあ、どうやって?

………色々と駆け巡る記憶。そこから思考を巡らせると、ある一つの答えにたどり着いた。

「そっか…………そりゃあ、見つからないわけだよ。」
「タイト様?」

流石に頭がパンクしたのかと、ホスロが心配そうに見てくる。ふふっ、僕はこんなことで容量オーバーにはならないよ。

「ホスロ、彼らは“裏ルート”を使って移動していたんだ。」
「“裏ルート”ですと? ジェノが用意して作っておいた、別の逃走ルートがあると言うのですか?」
「違う。彼らは、始めからあった別のルートを選んだんだ。ジェノ・シャウルは林業局の局長。つまり、この地域の事情や、経済、それに交易ルートについて、我々よりもたくさんの情報を持っている。そんな彼が、いろいろな人に見つかるリスクを負った三つのルートを、バカみたいに通る筈がない。そう、我々王族も知らない、“裏ルート”を使っていたんだ。転移魔法というこたえもありそうだが、お世辞にも、彼らツトゴの人間のなかに、上位空間魔法を操れる人間がいるとは言えない。そう考えると、必然的に裏ルートのみ可能性が残るのだ。彼らが、長年使って来たのであろう、裏ルートをね。」
「なるほど…………では、我々は見つけられそうにないですな。林業関係者は城内にもおりませんぞ…?」
「いるじゃないか。ツトゴ領の、頼もしい助っ人が。」

僕の目には、既に勝ち星が見えていた。



はぁ…はぁ………
「急げ、もう少しだ。もう少しで、ズール帝国に着くぞ。」

男は、もう一人の男と大きな塊を担ぎながらトンネルを潜っていた。

「ふふっ、ざまぁみやがれ。まさか我々〈ムーン〉が林業関係者に化けてツトゴ領に潜っていたことなど、予想も着くまい。」
「あの国王は、裏ルートすら分からない大バカ者みたいだな。」

あっははは、と笑い声を上げた。だが、男達の笑みは突然の明かりにしぼんだ。

「……悪かったね、大バカ者で。」
「きっ貴様…………、どうやって“裏ルート”をっ!!?」
「そうだよね、君たちには大バカ者の考えが、分かる筈もないよね。まさか、ツトゴ領主から直でそれを聞いたなんて、思いもしないだろうね。」

タイト・タールの脇には、ツトゴ領主、ヘンリー・カーマンが控えていた。

「ヘンリーは、裏ルートを僕に教えようとしたが、ツトゴにいる他の林業従事者の、交易ルートを減らすわけにはいくまいと考えた。もちろん、それは法律違反のルートだからね、ずっと葛藤していたんだ。でも、彼は僕たちのために力を貸してくれた。彼の、進退をかけてね。」

『タイト様、ずっと黙っていて申し訳ありませんでした。我々ツトゴの人間は、中央である王族の命令を無視し、裏ルートを使って通常の取引価格の何倍もの値段で販売をしておりました。私は、覚悟を決めて辞職するつもりです。』
『ヘンリー。危険を覚悟で教えてくれてありがとう。まあ、辞職については僕預かりで留めておくよ。それで、裏ルートというのは?』
『……ええと、この地図上に見えませんが、およそ30本の地下トンネルがあります。そのうちの一つを、おそらく彼らは通っているものかと。』
『そうか……ありがとう、ヘンリー。よしみんな、探しにいこう!』

「ちっ……。」
「ジェノ・シャウル、君の計算は間違いだったようだね。」

僕は、杖を彼の顔へと向ける。

「大バカ野郎、なめんなよ?」

ジェノは、その場にへたりこんだ。
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