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前編
3.イリスの地獄-2
しおりを挟む「う……、あ……」
(やめて! 誰か助けて!)
いよいよイリスの体は全く動かなくなったが、思考ははっきりしていた。
自分の体と尊厳が、理不尽に奪われようとしている。なのに何もできない。
下着をずり上げられ、誰にも見せたことのない乳房を、無遠慮に掴まれた。手加減はなく握りしめられているかのように痛む。
「お前、秀才って評判なんだっけ。お勉強は出来ても、上手に生きる頓才はない、つまらない優等生」
スカートの中へ手を差し込まれ、下着が膝まで下ろされた。
虫のように思えるおぞましい手が素肌を這いまわった後、許されない場所に指を突き立てられる。
痛みで体が勝手に強張った。
「淫魔の雑ざりものだから、反発して優等生ぶってるのが見え透いてるよ。ここも使ったことないんだろ? そんなこと興味ありませんって顔だよな。馬鹿にしてないで、せっかく綺麗な顔と体に生まれたんだから、女を使って楽すればいいじゃないか」
ベルトを外す金属音。衣擦れの音。
絶望が、イリスに現実を見せないようにしてくれているのか、五感の情報が断片的になっていく。
下着が膝で止まっているために開かない両足を、体の前に来るほど持ち上げられる。
そして何の心構えもないまま、熱の塊が体内へ押し入ってきた。
「あ、ぐ……」
体験したことのない激痛。
どこまで深く貫かれたのか、取り返しのつかない重傷を負ったのではないかと思うほどだった。
「なんだ。本物の淫魔は廃人になるほど良いって聞くけど、雑ざりものじゃあ劣るな。あ、やっぱり処女か」
これが何かは知っている。愛する人と行うべき、大事な行為だ。このように、よく知らない相手と、蔑まれて踏みにじられながらする行為ではない。
痛みと、アルヴィドの言葉が心を粉々にしていく。
イリスの中に居座っていた杭は、無慈悲に乱暴な出入りを始めた。ソファがぎしぎしと軋む音を立てる。
まるで内臓を引き裂かれているかのようだ。死んでしまう。痛い、怖い。頭の中が滅茶苦茶になり、視界は赤く染まっていく。このまま、殺されてしまうのだろうか。
「悪いって程でもない。別に自信を無くす必要はないよ」
傷口を何度も突き刺さされ、動かない体を繰り返し揺さぶられて、長すぎる時間の果てにそれは終わりを迎えた。彼は低いうめき声を漏らすと、急に動かなくなった。
そうしてじっと覆いかぶさっていたアルヴィドは、息をついて体を起こした。イリスの上から退き、服装を整え始める。
どうしてこんなことに。混乱だけで頭が満たされた。
痛くて気持ち悪いのに、どうして、という疑問が頭の中を占拠するばかりで、何の気力も湧かない。
「あー、すっきりした。お前みたいな辺境出身には分からないだろうけど、エーベルゴートとして生きるのは鬱憤が溜まるんだよ。たまには羽目を外さないとやってられない。まぁ、楽しかったよ。ありがとう」
楽しかった。ありがとう。内心そうとは思っていない、上辺だけの言葉。
何を言っているのか分からない。
イリスは彼に何か与えただろうか。許しただろうか。どちらも違う。ただ奪われ、踏みにじられただけだ。
「でも僕は一回で満足かな。またしたくなったら適当に他の男とやってくれ。お前が誘えば、隣の部屋の男どもなら簡単に靡くだろうさ」
耳をふさぎたくても、体はまだ指一本動かないままだ。
アルヴィドはイリスを侮辱し終えると、杖を取り出して呪文を詠唱した。
治癒と浄化と再生が重ねがけされる。
イリスの体の痛みは治まり、足の間に纏わりついていた不快な体液の感触は消え、破れたブラウスが元通り直った。
彼はイリスの膝で止まっていた下着をおざなりに上げ、胸元も戻してブラウスのボタンを留めていく。
「はい、おめでとう。これでまた新品だ。さすがにユニコーンは騙せないだろうが、人間の男にはわからない」
ボタンを一番上まで留めて、終わった合図のようにぽんと叩いてから離れた。
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