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後編
25.上級捜査官-2
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「同じ学年だった、ベネディクト・エーベルゴートですよ」
「あ……、そう、でしたか」
彼は、話したこともない、アルヴィドの実弟だった。
はっきりとは覚えていないが、学生時代はもっと大人しい風貌で、このように当時のアルヴィドをそのまま大人にしたような姿ではなかったはずだ。
アルヴィドの弟が、魔法警察の花形の上級捜査官として、この学校を訪れている。例の事件の報告を受けるとグンナルが話していたのだから、彼がその報告を持ってきたのだろう。
ルーヘシオンに思いがけず兄弟が揃ったことになる。
「あなたにはお礼を言いたかったんですよ。あなたのおかげで、私は次期当主になれました」
「何のことを――」
快活な笑顔を崩さないベネディクトの言葉に、イリスは覚えがなかった。
一体何を言っているのか。それよりも、気持ちが悪いので早急に手を解放してほしかった。
「あなたが……」
「っ……!」
急に顔を寄せてきたベネディクトに、我慢の限界がきて手を振りほどく。
抗議しようと口を開きかけて、続く言葉に耳を疑った。
「兄に、強姦されてくれたおかげでね」
「え……」
一瞬呆けてしまった。
だが耳打ちされたその内容を脳が理解すると、イリスは戦慄した。
(どうして、知っているの……?)
この男は、知っている。イリスがアルヴィドとグンナル以外には絶対知られたくない秘密を、知っている。
寒くもないのに総毛立ち、呼吸が浅くなる。心臓はばくばくと早鐘を打っており、頭が回らない。
少なくとも自分が精神的に悪い状況にあると理解し、イリスは一歩後ずさる。
ところが、ベネディクトはその分前へ出て、イリスの腕を掴んだ。逃げられない。
「は、放して……」
声が無様に震えるが、このような状況を、セムラクなしに平静ではいられなかった。
ベネディクトは上機嫌でイリスを無視して続きを語り聞かせる。
「記憶を消される前に、兄と家で話したんですよ。そうしたら、詳しくは話さないのですが、記憶を植え付けられたと零して、男のくせに男を怖がってるんですよね。しかも自分そっくりの私を特に。ベゼルス大会での敗北。あなたの研究対象である記憶分離の魔術。何があったのか、全部が一つに繋がって見えました」
イリスはアルヴィドへの復讐のため、ベゼルス大会で勝利して記憶の鏡を使う権利を得た。そしてグンナルに協力させ、自身の凌辱の記憶をアルヴィドへ植え付けた。その結果彼は男性恐怖症になった。
それらを、この男はおおむね推測している。
「何を仰っているのか、わかりません。偶然ではありませんか」
知られてはいけない。
イリスは必死にしらを切ろうとするが、青ざめ震えていては、全く否定にならない。
「なぜ兄があなたに目を付けたと思いますか。数えきれないほど大勢の女子生徒に囲まれていた兄が、なぜ、一学年下で全く関わりのなかったあなたのことを知っていたのか」
アルヴィドは、イリスに興味を持ったきっかけは、忘れてしまったと語っていた。
「私が、教えてあげたんですよ」
ベネディクトは、かつてイリスを凌辱した時のアルヴィドのように、狂気を感じる笑みを浮かべて、そう打ち明けてくれた。
「あ……、そう、でしたか」
彼は、話したこともない、アルヴィドの実弟だった。
はっきりとは覚えていないが、学生時代はもっと大人しい風貌で、このように当時のアルヴィドをそのまま大人にしたような姿ではなかったはずだ。
アルヴィドの弟が、魔法警察の花形の上級捜査官として、この学校を訪れている。例の事件の報告を受けるとグンナルが話していたのだから、彼がその報告を持ってきたのだろう。
ルーヘシオンに思いがけず兄弟が揃ったことになる。
「あなたにはお礼を言いたかったんですよ。あなたのおかげで、私は次期当主になれました」
「何のことを――」
快活な笑顔を崩さないベネディクトの言葉に、イリスは覚えがなかった。
一体何を言っているのか。それよりも、気持ちが悪いので早急に手を解放してほしかった。
「あなたが……」
「っ……!」
急に顔を寄せてきたベネディクトに、我慢の限界がきて手を振りほどく。
抗議しようと口を開きかけて、続く言葉に耳を疑った。
「兄に、強姦されてくれたおかげでね」
「え……」
一瞬呆けてしまった。
だが耳打ちされたその内容を脳が理解すると、イリスは戦慄した。
(どうして、知っているの……?)
この男は、知っている。イリスがアルヴィドとグンナル以外には絶対知られたくない秘密を、知っている。
寒くもないのに総毛立ち、呼吸が浅くなる。心臓はばくばくと早鐘を打っており、頭が回らない。
少なくとも自分が精神的に悪い状況にあると理解し、イリスは一歩後ずさる。
ところが、ベネディクトはその分前へ出て、イリスの腕を掴んだ。逃げられない。
「は、放して……」
声が無様に震えるが、このような状況を、セムラクなしに平静ではいられなかった。
ベネディクトは上機嫌でイリスを無視して続きを語り聞かせる。
「記憶を消される前に、兄と家で話したんですよ。そうしたら、詳しくは話さないのですが、記憶を植え付けられたと零して、男のくせに男を怖がってるんですよね。しかも自分そっくりの私を特に。ベゼルス大会での敗北。あなたの研究対象である記憶分離の魔術。何があったのか、全部が一つに繋がって見えました」
イリスはアルヴィドへの復讐のため、ベゼルス大会で勝利して記憶の鏡を使う権利を得た。そしてグンナルに協力させ、自身の凌辱の記憶をアルヴィドへ植え付けた。その結果彼は男性恐怖症になった。
それらを、この男はおおむね推測している。
「何を仰っているのか、わかりません。偶然ではありませんか」
知られてはいけない。
イリスは必死にしらを切ろうとするが、青ざめ震えていては、全く否定にならない。
「なぜ兄があなたに目を付けたと思いますか。数えきれないほど大勢の女子生徒に囲まれていた兄が、なぜ、一学年下で全く関わりのなかったあなたのことを知っていたのか」
アルヴィドは、イリスに興味を持ったきっかけは、忘れてしまったと語っていた。
「私が、教えてあげたんですよ」
ベネディクトは、かつてイリスを凌辱した時のアルヴィドのように、狂気を感じる笑みを浮かべて、そう打ち明けてくれた。
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