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クワイエット・テラー
誘引 Ⅳ
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「マイカ?」
聞きなれた優しい声だ。マイカは夢から覚めて自分の部屋に戻って来た。頭痛や吐き気はおさまっていたが、体はだるいままで、目も開けたくない。ベッドから出るのがとても億劫だ。あの夢の中では平気だったのに、今はこんなにもしんどいなんて。小鳥のさえずる声が聞こえる。もう朝なんだ。
「お姉ちゃん……」
リナがマイカを心配して起こしに来た。マイカと歳が5つ離れた姉のリナは、2人で両親が遺したマンションに暮らしている。というのも、マイカの両親はすでに他界してしまっていて、姉妹2人は支え合って生活することを強いられていた。しかし、支え合っているといっても、家計はリナの収入でなんとかきりもりしているため、マイカは姉に頭が上がらない。
「体調はどう?」リナは掛け布団にくるまっているマイカの顔をのぞき込む。「まだ熱があるようだったら、今日は休んだら?」
「そうしようかなぁ」
マイカは体を少し起こしたが、とうていベッドから出られる気はしなかった。気持ちは完全に欠席のほうへ傾いている。あの夢を見た後だからかもしれない。このまま余韻に浸っていたい。もしかしたら、また寝ればあの夢をもう一度見られるかもしれない。
「とりあえず体温計ってみよっか。体温計もってくるね。」
「うん、お願い。」
マイカは姉の優しさに甘えて、また横になり、マイカはその日ずっと寝ていられるという安心感にひたっていた。
リナがマイカの部屋から出ていき、体温計をリビングへとりにいってくれている最中のことであった。
「あっ!」マイカは大事なことを思い出し、ベッドから飛び起きた。
リナが体温計を持ってマイカの部屋に戻って来る。リナは、ついさっきまでだるそうにしていたマイカがせわしなく机の上の教科書類を整理しているのでびっくりした。
「ちょっと……、寝てなくていいの!?」
「今日、広美先生の最後の授業の日だった!行かなくちゃ!」
「広美先生って……、部活の顧問の先生だっけ?」
「そう!産休とるんだって!今日で学校に来るの、最後みたいだから挨拶しないと!」
そう言いながら、マイカはクローゼットを開けて着替えを始めた。秋の半ばにさしかかって肌寒くなってくる頃で、ちょうと衣替えの季節であった。マイカははじめてこの日冬服を出した。
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だよ!ほら、この通り体、動いてるでしょ?」
マイカはせっせと着替えをする。下着姿になって、体全体に鳥肌が立った。しかし、悪寒がするなんて言ってはいられない。
「とりあえず体温、計ったら?」
「体温は計らないよ」とブレザーのボタンを締めながら、マイカは言った。「だってもし計って38度とか見ちゃったら、余計具合悪くなっちゃいそうだから……。」
「そう……」リナはあっけにとられた。「その先生のこと相当気に入っているのね。」
「そういうわけじゃないけど……。」
マイカにとって広美先生は、特別大好きな先生というわけではなかった。しかし、いったん欠席のスイッチを入れたところから、再びエンジンをかけることができたのだから、その先生の最後の授業に参加するということはマイカにとって大事なことなのだろう。
着替えを終えたマイカに、リナはリビングで朝ごはんを食べるよう言った。だが、マイカは何も口にする気にはなれなかった。いつもは朝食を楽しみにしてベッドから出るのに、何も食べる気が起きないということはやはり調子が悪いのだとマイカは確信した。
冷蔵庫をあさり、なんとか食べられるものを探した。マイカはヨーグルトを選び、食卓の椅子に座った。リナも向かい側に座って朝食をとりはじめた。マイカが心配で、せっかく作ったスクランブルエッグの味を楽しんでいないようである。
「それだけで大丈夫?」
リナはトーストをかじりながら、マイカのために取り分けたスクランブルエッグを差し出して言った。
「ごめん。無理」マイカは申し訳なさそうに突き返した。「お姉ちゃん食べていいよ。」
「あなたが平気ならいいけど」
リナは差し出した小皿を、そのまま自分の手元に引き戻した。
「そういえば」と言ってマイカはスプーンでヨーグルトを少しずつすくって口に入れた。
「久しぶりにあの夢、見たよ」
「あの夢って…」リナは首をかしげたが、すぐに何のことか分かった。「あぁ、……金髪の美人が出てくる夢?昔毎日のように見ていた……」
「そうそう!」
マイカは嬉々として話し始めた。
聞きなれた優しい声だ。マイカは夢から覚めて自分の部屋に戻って来た。頭痛や吐き気はおさまっていたが、体はだるいままで、目も開けたくない。ベッドから出るのがとても億劫だ。あの夢の中では平気だったのに、今はこんなにもしんどいなんて。小鳥のさえずる声が聞こえる。もう朝なんだ。
「お姉ちゃん……」
リナがマイカを心配して起こしに来た。マイカと歳が5つ離れた姉のリナは、2人で両親が遺したマンションに暮らしている。というのも、マイカの両親はすでに他界してしまっていて、姉妹2人は支え合って生活することを強いられていた。しかし、支え合っているといっても、家計はリナの収入でなんとかきりもりしているため、マイカは姉に頭が上がらない。
「体調はどう?」リナは掛け布団にくるまっているマイカの顔をのぞき込む。「まだ熱があるようだったら、今日は休んだら?」
「そうしようかなぁ」
マイカは体を少し起こしたが、とうていベッドから出られる気はしなかった。気持ちは完全に欠席のほうへ傾いている。あの夢を見た後だからかもしれない。このまま余韻に浸っていたい。もしかしたら、また寝ればあの夢をもう一度見られるかもしれない。
「とりあえず体温計ってみよっか。体温計もってくるね。」
「うん、お願い。」
マイカは姉の優しさに甘えて、また横になり、マイカはその日ずっと寝ていられるという安心感にひたっていた。
リナがマイカの部屋から出ていき、体温計をリビングへとりにいってくれている最中のことであった。
「あっ!」マイカは大事なことを思い出し、ベッドから飛び起きた。
リナが体温計を持ってマイカの部屋に戻って来る。リナは、ついさっきまでだるそうにしていたマイカがせわしなく机の上の教科書類を整理しているのでびっくりした。
「ちょっと……、寝てなくていいの!?」
「今日、広美先生の最後の授業の日だった!行かなくちゃ!」
「広美先生って……、部活の顧問の先生だっけ?」
「そう!産休とるんだって!今日で学校に来るの、最後みたいだから挨拶しないと!」
そう言いながら、マイカはクローゼットを開けて着替えを始めた。秋の半ばにさしかかって肌寒くなってくる頃で、ちょうと衣替えの季節であった。マイカははじめてこの日冬服を出した。
「ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だよ!ほら、この通り体、動いてるでしょ?」
マイカはせっせと着替えをする。下着姿になって、体全体に鳥肌が立った。しかし、悪寒がするなんて言ってはいられない。
「とりあえず体温、計ったら?」
「体温は計らないよ」とブレザーのボタンを締めながら、マイカは言った。「だってもし計って38度とか見ちゃったら、余計具合悪くなっちゃいそうだから……。」
「そう……」リナはあっけにとられた。「その先生のこと相当気に入っているのね。」
「そういうわけじゃないけど……。」
マイカにとって広美先生は、特別大好きな先生というわけではなかった。しかし、いったん欠席のスイッチを入れたところから、再びエンジンをかけることができたのだから、その先生の最後の授業に参加するということはマイカにとって大事なことなのだろう。
着替えを終えたマイカに、リナはリビングで朝ごはんを食べるよう言った。だが、マイカは何も口にする気にはなれなかった。いつもは朝食を楽しみにしてベッドから出るのに、何も食べる気が起きないということはやはり調子が悪いのだとマイカは確信した。
冷蔵庫をあさり、なんとか食べられるものを探した。マイカはヨーグルトを選び、食卓の椅子に座った。リナも向かい側に座って朝食をとりはじめた。マイカが心配で、せっかく作ったスクランブルエッグの味を楽しんでいないようである。
「それだけで大丈夫?」
リナはトーストをかじりながら、マイカのために取り分けたスクランブルエッグを差し出して言った。
「ごめん。無理」マイカは申し訳なさそうに突き返した。「お姉ちゃん食べていいよ。」
「あなたが平気ならいいけど」
リナは差し出した小皿を、そのまま自分の手元に引き戻した。
「そういえば」と言ってマイカはスプーンでヨーグルトを少しずつすくって口に入れた。
「久しぶりにあの夢、見たよ」
「あの夢って…」リナは首をかしげたが、すぐに何のことか分かった。「あぁ、……金髪の美人が出てくる夢?昔毎日のように見ていた……」
「そうそう!」
マイカは嬉々として話し始めた。
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