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クワイエット・テラー
誘引 Ⅴ
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「相変わらず綺麗だったなぁ。なんかみとれちゃうの。うっとりしちゃう。金髪のお姉さんが出てくるところはすぐ終わっちゃうんだけど、もうそこだけ一時停止してずっと見ていたいって感じ!」
「そう」とリナは相槌を打つ。「あなたが言うんだから相当なのね。私も見てみたいな」
「うん。ハーフのような顔立ちで、透き通るような白い肌なの。それでいてあの光り輝くブロンドの髪。もちろん容姿は完璧なんだけど、それだけじゃないの!」
「うんうん」リナは興味深そうに頷く。
「内面から溢れ出る強さみたいなものを感じるの。私もあんな女性になりたいなって、ずっと思っているけど到底なれそうにないなって改めて思ったよ」
「相変わらず、憧れているのね」リナは笑顔で言った。
姉の笑みは特別な意味などなかったはずだが、マイカはハッと思った。よく考えてみれば、姉と金髪の女性は、だいたい同い年くらいだ。それに気づき、なんとなく金髪の女性を持ち上げすぎるのは、気が引けた。
「もちろん、一番の憧れはお姉ちゃんだよ」
マイカがそう言うと、リナは吹き出しそうになった。「ちょっと、笑わせないでよ。そんな気遣いは無用よ。あっはっは」
「気遣いじゃないよ。本当にお姉ちゃんみたいに完璧にこなせる人になりたいと思っているよ!」
そうムキになって言うと、マイカはタイミング悪く、急にのどがむずむずして「ゴホッ、ゴホッ」と咳き込んだ。
「ほら、思ってもないことを言うから!」
「ほんとだってば!」
マイカは咳き込みながら、リナに渡された緑茶をすすった。
「それでね」と息を整えてマイカは言った。「今度の夢では、金髪のお姉さんの後ろのほうに悪魔みたいなのがいたの。悪魔って言ってもなんか石像の悪魔なんだけどね。その場面が全体的に薄暗いから、そのせいかな?あんなのがあったなんて今まで分からなかったよ」
「悪魔だなんて気持ち悪い」リナは気味悪がった。
「それがそうでもないよ。なんか背中丸めて、目もパッチリしていてかわいらしいの」
「なにそれ。かわいい悪魔だなんて」リナは想像してみるが、あまり思い浮かばない。「ファンタジー映画とかに出てくるゴブリン?あんな感じ?」
「ゴブリンかぁ。たしかに西洋の悪魔って感じなんだけど、なんとなく沖縄のシーサーのほうがイメージとしてあってるかな。シーサーにコウモリの翼をつけたような」
「なにそれ」リナはその悪魔の姿を想像して笑った。「その夢おもしろいね。私も見てみたいわ。あぁ……確か、あと2人女の子が出てくるんじゃなかった?」
「そうそう!」
マイカは自分に熱があることなどすっかり忘れて、夢の報告に夢中になっていた。
「2人目のフードの女の子!やっと顔見れたんだ!」
「やっぱり女の子だったの?」
リナは興味深そうに聞いた。リナは、まだもう少し幼かったマイカがフードの少女の顔がいつもあと一歩で見られないと残念がっていたのを何度となく見たことがあった。それだけに、このことは興味深かった。
「うん、私と同い年ぐらいかな?そんな気がした。一瞬しか見えなかったけど、顔はすごくかわいかったと思う。あと優等生って感じ!学級委員長をやっていそうな……」
「へぇ。かっこいいわね」
「うん。でもなんか近寄りがたいって感じだったな。不思議な子……」
「嫌?」リナが食べ終わった食器をキッチンへ運びながら聞いた。「その子が……」
「嫌じゃないけど、仲良くなれるか分からないかも」
真剣にそう言うマイカを見て、リナはまた吹き出しそうになった。夢の中の少女と真剣に友達になれるかどうかを考えている妹がおかしかった。
「なにかおかしい?」マイカはヨーグルトにスプーンをざくざくと刺して言った。
「おかしくないよ」リナは笑いをこらえながら答えた。「ほら、もう一人出てくるでしょ?美人さんが」
「そう!」マイカはスプーンをもった手でリナを指差した。「青髪の女の子!その子がいる部屋に行ったんだけどね」
「悲しそうな顔をしてるんでしょ?」リナが食器を洗いながら得意げに言う。話を聞いているうちに、昔マイカがその夢について教えてくれたことをリナはだんだんと思い出してきた。
「そうなんだけど……」
「あっ」リナはまた思い出したかのように言う。「体が動かないんだっけ?」
「それもあってる!」マイカはテンションが上がってきた。「あと声も出せないの。とにかく何も青髪の女の子に伝えられなくて、彼女の方もただ私を悲しそうな表情で見ているだけ。今までならそこで夢は終わるんだけど……」
「それでそれで?」リナは食器を洗う手をとめ、また食卓の椅子に座った。
「でも、なぜか分からないけど口は動かせて……。だから夢が終わっちゃう前に、私が高校生になったよーとか勉強がたいへんーとか、声にはならないけど、とにかくしゃべり続けたんだけど……」
そこまで言ってリナが遮った。「応えてくれたの?」
「うん。でも何て言っているか分からなかった。同じ言葉を繰り返していたようなんだけど。」
マイカは青髪の少女の口の動きを思い出そうとした。しかし、それを全く思いだせないどころか、夢から覚めるときに聞こえた声のこともすっかり忘れていた。
「でも何か伝えようとしてくれたってだけでうれしいな。」
「その子のことは好きみたいね。」リナはおちょくるように言った。
「好きだなんて」マイカは照れくさそうに言った。「だって、すごく綺麗な瞳の色をしているの。サファイアみたい。ずっと見つめていたら吸い込まれそうになっちゃう」
「あらあら」
マイカがうっとりしながら、そう言うのを見て、リナはあきれた表情で言う。
「あなたも相当きれいよ。私とは大違い。本当に姉妹かしら。あなたの髪の色は金でも青
でもないけど、その長くて艶のある黒髪も素敵よ。男子がほっとかないんじゃない?」
「えー!」とマイカは驚き、容器の底に残ったヨーグルトをスプーンですくった。「あの人
たちに比べたら、私なんて全然だよ!それにお姉ちゃんだって素敵だよ!」
「ふふ」とリナは微笑んで、キッチンに戻った。「ありがとう。でもあなたは私の自慢の妹よ。美人が見る夢には、やっぱり美人がたくさん出てくるのよ」
「ちょっと、なにそれ~?」マイカは頬をふくらませた。
「さぁ、私はそろそろ出るけど、あなたは本当に大丈夫?」リナは、食器を洗い終えて、パンパンに膨れている肩掛けのカバンをえいっと持ち上げた。
「うん、大丈夫だよ。お姉ちゃんと話したら少し良くなったかも」
マイカは食べ終わったヨーグルトの容器をゴミ箱に捨て、自分のかばんをひょいと持ち上げた。
「待って。」マイカは急いで玄関で靴を履いている姉を呼び止める。「途中まで一緒に行こう」
二人は海沿いの街に住んでいる。妹のマイカはその街にある普通科の高校に徒歩で通っていて、姉のリナは勤務先まで通勤するのに、30分ほど電車に乗る。そのためリナは、マイカより早く家を出る。一方、マイカは家から学校まで、歩いても10分程度の距離にあるので、ゆとりをもって通学できる。
「いっしょに行くだなんて、珍しいね」リナが言った。
「うん」マイカが照れながらうなずく。「なんかひとりになったら、急に行く気しなくなっちゃう気がして。お姉ちゃんといっしょなら行かなきゃって気持ちを保っていられるというか」
「あなたらしいね。」リナがくすくすと笑う。「じゃあ、行こっか。」
2人はマンションの自宅を出て、駅に向かった。海沿いの広い歩道を歩く。仕事では外回りも多いリナは、ふつうマイカよりも速く歩けるが、マイカがくっつくように真横を歩くので、リナは歩幅をマイカに合わせた。
「広美先生の授業は何時限目なの?」リナがマイカに訊いた。
「最後。5時限目だよ」
「あらら。それじゃあ、最後まで頑張らないと先生の授業受けられないのね」
「そうなの。それがきついところなんだよねぇ」
「無理そうだったら、がまんしないで早退しなさいね」
「うん……」マイカは覇気のない返事をした。
「今日は部活の日?」
「そうだよ。でも先輩たちが夏に引退しちゃって、部員が2人だけになっちゃったから実質活動なんてないに等しいよ。先生も産休でいなくなっちゃうし」
「あら、そうなの」リナはすこし残念そうに言った。
「先輩がはりきってるから、これからどうなるかわからないけど。でも私はできれば、幽霊部員でいたいな」マイカは冗談めかしく言った。
「おもしろかったのにな」
「なにが?」
「あなたが一生懸命難しい本とたたかっているのが」リナが思い出し笑いをしながら言った。
マイカは「やめてよ」とリナに苦笑いを浮かべて、言い返す。
「私は大変だったよ。せっかく楽できそうな部活に入ったのに、急に先輩たちが毎週読書会やるって言い出すんだもん」
「きっと、あなたみたいな女の子が入ってきてうれしかったのよ」リナが冷やかす。
「私はだまされた気分だよ」マイカは口をへの字に曲げた。
「あれなんだっけ?あれ!あれ!」
「あれじゃ分からないよ」
「あなた、私に聞いてきたじゃない?『真理の探究』だとか『演繹』だとか。・・・全然分からなかったけど」リナは目をつむり、額に手を当ててなんとかそれらの言葉を絞り出した。
「『方法序説』かな。デカルトの……」
「それかな?ああいうのって、なんかちょっと賢くなった気がするよね。さすが若王子って感じ。」
「私にだってちんぷんかんぷんだよ。『理性』がどうのこうの言ってたかと思えば、いつのまにか心臓の話になったりするし……」
マイカは思い出してげんなりした。
「ああ・・・思い出したら、体調がますます悪くなりそう」
「ごめんごめん」リナが申し訳なさそうにマイカの背中をさする。
そんな会話をしているうちに、マイカとリナは、最寄りの玄保駅まで来た。駅からマイカの通う若王子高校までは徒歩数分の距離にある。若王子高校の生徒たちも電車通学の生徒が何人か駅から出てきていた。
「まもなく1番線に、南遠州ライナー快速空港行きが参ります」
駅の中からアナウンスが聞こえてきた。
「ゆっくり話しながら来たらもうこんな時間!」リナがマイカの肩をポンとたたいた。「それじゃあ、無理はしちゃだめよ」
「うん、ありがとう。お姉ちゃんも気をつけてね。」マイカは手を振って、駆け足で改札を抜けるリナを見送った。
「そう」とリナは相槌を打つ。「あなたが言うんだから相当なのね。私も見てみたいな」
「うん。ハーフのような顔立ちで、透き通るような白い肌なの。それでいてあの光り輝くブロンドの髪。もちろん容姿は完璧なんだけど、それだけじゃないの!」
「うんうん」リナは興味深そうに頷く。
「内面から溢れ出る強さみたいなものを感じるの。私もあんな女性になりたいなって、ずっと思っているけど到底なれそうにないなって改めて思ったよ」
「相変わらず、憧れているのね」リナは笑顔で言った。
姉の笑みは特別な意味などなかったはずだが、マイカはハッと思った。よく考えてみれば、姉と金髪の女性は、だいたい同い年くらいだ。それに気づき、なんとなく金髪の女性を持ち上げすぎるのは、気が引けた。
「もちろん、一番の憧れはお姉ちゃんだよ」
マイカがそう言うと、リナは吹き出しそうになった。「ちょっと、笑わせないでよ。そんな気遣いは無用よ。あっはっは」
「気遣いじゃないよ。本当にお姉ちゃんみたいに完璧にこなせる人になりたいと思っているよ!」
そうムキになって言うと、マイカはタイミング悪く、急にのどがむずむずして「ゴホッ、ゴホッ」と咳き込んだ。
「ほら、思ってもないことを言うから!」
「ほんとだってば!」
マイカは咳き込みながら、リナに渡された緑茶をすすった。
「それでね」と息を整えてマイカは言った。「今度の夢では、金髪のお姉さんの後ろのほうに悪魔みたいなのがいたの。悪魔って言ってもなんか石像の悪魔なんだけどね。その場面が全体的に薄暗いから、そのせいかな?あんなのがあったなんて今まで分からなかったよ」
「悪魔だなんて気持ち悪い」リナは気味悪がった。
「それがそうでもないよ。なんか背中丸めて、目もパッチリしていてかわいらしいの」
「なにそれ。かわいい悪魔だなんて」リナは想像してみるが、あまり思い浮かばない。「ファンタジー映画とかに出てくるゴブリン?あんな感じ?」
「ゴブリンかぁ。たしかに西洋の悪魔って感じなんだけど、なんとなく沖縄のシーサーのほうがイメージとしてあってるかな。シーサーにコウモリの翼をつけたような」
「なにそれ」リナはその悪魔の姿を想像して笑った。「その夢おもしろいね。私も見てみたいわ。あぁ……確か、あと2人女の子が出てくるんじゃなかった?」
「そうそう!」
マイカは自分に熱があることなどすっかり忘れて、夢の報告に夢中になっていた。
「2人目のフードの女の子!やっと顔見れたんだ!」
「やっぱり女の子だったの?」
リナは興味深そうに聞いた。リナは、まだもう少し幼かったマイカがフードの少女の顔がいつもあと一歩で見られないと残念がっていたのを何度となく見たことがあった。それだけに、このことは興味深かった。
「うん、私と同い年ぐらいかな?そんな気がした。一瞬しか見えなかったけど、顔はすごくかわいかったと思う。あと優等生って感じ!学級委員長をやっていそうな……」
「へぇ。かっこいいわね」
「うん。でもなんか近寄りがたいって感じだったな。不思議な子……」
「嫌?」リナが食べ終わった食器をキッチンへ運びながら聞いた。「その子が……」
「嫌じゃないけど、仲良くなれるか分からないかも」
真剣にそう言うマイカを見て、リナはまた吹き出しそうになった。夢の中の少女と真剣に友達になれるかどうかを考えている妹がおかしかった。
「なにかおかしい?」マイカはヨーグルトにスプーンをざくざくと刺して言った。
「おかしくないよ」リナは笑いをこらえながら答えた。「ほら、もう一人出てくるでしょ?美人さんが」
「そう!」マイカはスプーンをもった手でリナを指差した。「青髪の女の子!その子がいる部屋に行ったんだけどね」
「悲しそうな顔をしてるんでしょ?」リナが食器を洗いながら得意げに言う。話を聞いているうちに、昔マイカがその夢について教えてくれたことをリナはだんだんと思い出してきた。
「そうなんだけど……」
「あっ」リナはまた思い出したかのように言う。「体が動かないんだっけ?」
「それもあってる!」マイカはテンションが上がってきた。「あと声も出せないの。とにかく何も青髪の女の子に伝えられなくて、彼女の方もただ私を悲しそうな表情で見ているだけ。今までならそこで夢は終わるんだけど……」
「それでそれで?」リナは食器を洗う手をとめ、また食卓の椅子に座った。
「でも、なぜか分からないけど口は動かせて……。だから夢が終わっちゃう前に、私が高校生になったよーとか勉強がたいへんーとか、声にはならないけど、とにかくしゃべり続けたんだけど……」
そこまで言ってリナが遮った。「応えてくれたの?」
「うん。でも何て言っているか分からなかった。同じ言葉を繰り返していたようなんだけど。」
マイカは青髪の少女の口の動きを思い出そうとした。しかし、それを全く思いだせないどころか、夢から覚めるときに聞こえた声のこともすっかり忘れていた。
「でも何か伝えようとしてくれたってだけでうれしいな。」
「その子のことは好きみたいね。」リナはおちょくるように言った。
「好きだなんて」マイカは照れくさそうに言った。「だって、すごく綺麗な瞳の色をしているの。サファイアみたい。ずっと見つめていたら吸い込まれそうになっちゃう」
「あらあら」
マイカがうっとりしながら、そう言うのを見て、リナはあきれた表情で言う。
「あなたも相当きれいよ。私とは大違い。本当に姉妹かしら。あなたの髪の色は金でも青
でもないけど、その長くて艶のある黒髪も素敵よ。男子がほっとかないんじゃない?」
「えー!」とマイカは驚き、容器の底に残ったヨーグルトをスプーンですくった。「あの人
たちに比べたら、私なんて全然だよ!それにお姉ちゃんだって素敵だよ!」
「ふふ」とリナは微笑んで、キッチンに戻った。「ありがとう。でもあなたは私の自慢の妹よ。美人が見る夢には、やっぱり美人がたくさん出てくるのよ」
「ちょっと、なにそれ~?」マイカは頬をふくらませた。
「さぁ、私はそろそろ出るけど、あなたは本当に大丈夫?」リナは、食器を洗い終えて、パンパンに膨れている肩掛けのカバンをえいっと持ち上げた。
「うん、大丈夫だよ。お姉ちゃんと話したら少し良くなったかも」
マイカは食べ終わったヨーグルトの容器をゴミ箱に捨て、自分のかばんをひょいと持ち上げた。
「待って。」マイカは急いで玄関で靴を履いている姉を呼び止める。「途中まで一緒に行こう」
二人は海沿いの街に住んでいる。妹のマイカはその街にある普通科の高校に徒歩で通っていて、姉のリナは勤務先まで通勤するのに、30分ほど電車に乗る。そのためリナは、マイカより早く家を出る。一方、マイカは家から学校まで、歩いても10分程度の距離にあるので、ゆとりをもって通学できる。
「いっしょに行くだなんて、珍しいね」リナが言った。
「うん」マイカが照れながらうなずく。「なんかひとりになったら、急に行く気しなくなっちゃう気がして。お姉ちゃんといっしょなら行かなきゃって気持ちを保っていられるというか」
「あなたらしいね。」リナがくすくすと笑う。「じゃあ、行こっか。」
2人はマンションの自宅を出て、駅に向かった。海沿いの広い歩道を歩く。仕事では外回りも多いリナは、ふつうマイカよりも速く歩けるが、マイカがくっつくように真横を歩くので、リナは歩幅をマイカに合わせた。
「広美先生の授業は何時限目なの?」リナがマイカに訊いた。
「最後。5時限目だよ」
「あらら。それじゃあ、最後まで頑張らないと先生の授業受けられないのね」
「そうなの。それがきついところなんだよねぇ」
「無理そうだったら、がまんしないで早退しなさいね」
「うん……」マイカは覇気のない返事をした。
「今日は部活の日?」
「そうだよ。でも先輩たちが夏に引退しちゃって、部員が2人だけになっちゃったから実質活動なんてないに等しいよ。先生も産休でいなくなっちゃうし」
「あら、そうなの」リナはすこし残念そうに言った。
「先輩がはりきってるから、これからどうなるかわからないけど。でも私はできれば、幽霊部員でいたいな」マイカは冗談めかしく言った。
「おもしろかったのにな」
「なにが?」
「あなたが一生懸命難しい本とたたかっているのが」リナが思い出し笑いをしながら言った。
マイカは「やめてよ」とリナに苦笑いを浮かべて、言い返す。
「私は大変だったよ。せっかく楽できそうな部活に入ったのに、急に先輩たちが毎週読書会やるって言い出すんだもん」
「きっと、あなたみたいな女の子が入ってきてうれしかったのよ」リナが冷やかす。
「私はだまされた気分だよ」マイカは口をへの字に曲げた。
「あれなんだっけ?あれ!あれ!」
「あれじゃ分からないよ」
「あなた、私に聞いてきたじゃない?『真理の探究』だとか『演繹』だとか。・・・全然分からなかったけど」リナは目をつむり、額に手を当ててなんとかそれらの言葉を絞り出した。
「『方法序説』かな。デカルトの……」
「それかな?ああいうのって、なんかちょっと賢くなった気がするよね。さすが若王子って感じ。」
「私にだってちんぷんかんぷんだよ。『理性』がどうのこうの言ってたかと思えば、いつのまにか心臓の話になったりするし……」
マイカは思い出してげんなりした。
「ああ・・・思い出したら、体調がますます悪くなりそう」
「ごめんごめん」リナが申し訳なさそうにマイカの背中をさする。
そんな会話をしているうちに、マイカとリナは、最寄りの玄保駅まで来た。駅からマイカの通う若王子高校までは徒歩数分の距離にある。若王子高校の生徒たちも電車通学の生徒が何人か駅から出てきていた。
「まもなく1番線に、南遠州ライナー快速空港行きが参ります」
駅の中からアナウンスが聞こえてきた。
「ゆっくり話しながら来たらもうこんな時間!」リナがマイカの肩をポンとたたいた。「それじゃあ、無理はしちゃだめよ」
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