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クワイエット・テラー
マイカ、捕縛さる Ⅲ
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「スポーツカー?」
それがマイカの第一印象だった。
しかし、よく見たらそんなにカッコイイものではない。その形はいたってシンプルである。流線形の平たいボディは、表面がほとんどガラス張りになっていて、側面のみ真珠色にカラーリングされている。車輪のようなものはついていないが、羽やプロペラがついているというわけでもない。
そんな、見たこともないような謎の機体が5台、綺麗に列をそろえて、マイカのいる建物に無音で近付いてくる。スリングのほうに目を向けなかったら、気づかなかったであろうというぐらい駆動音を発していなかった。
その5台の飛行物体はそのまま通り過ぎると思いきや、次第にスピードを緩めた。マイカのいるバルコニーに着陸しようとしているのか、ゆっくりと下降してきた。
「え!?ちょっと何!?」
マイカは、警戒してゆっくりと後ずさる。助けに来てくれたのだろうか?いや、それはあまり期待できそうもない。マイカは、傍にピタッとまとわりついて離れないスリングをちらっと見て、顔をしかめる。
「あなた、大げさじゃない?」
スリングが言うには、ここは「タチイリキンシクイキ」とのこと。マイカは、そんな場所に踏み入ってしまった責めを負わされてしまうのではないかと、そんな直感が働いた。
そもそも、あの平たい箱型の飛行物体には、コミュニケーションがとれる「ヒト」が乗っているのだろうか。また、訳の分からない鬱陶しいロボットが現れるのではないかという不安もある。
――C-3POみたいなのが運転しているだなんてやめてよ。……C-3POならまだマシなほうか……。
だが、せめて話が通じる人間であればとマイカは祈った。もう、これ以上混乱するのはたくさんだ。とにかく、事情を説明して助けてもらおう。何の情報もないこの状況から脱しよう。運が良ければ、あの怪物の手掛かりもつかめるかもしれない。
5台の機体は、マイカがいる場所の近くにゆっくりと降り立った。
そして、それぞれの機体から、2人、あるいは3人、まさに「完全武装」といった風体の人間が飛び出してきた。
――うえっ!
マイカは顔をこわばらせた。警察官ぐらいまでは想像していたが、まさか軍隊の兵士さながらの格好をしている人間が出てくるとは思わなかった。戦争でも始まるのかというスタイルだ。
皆、フルフェイスのヘッドギアをかぶり、プロテクターを全身に纏っている。胴や腕に着けたプロテクターが、武士の鎧に形も模様もかなり似ているのが印象的であった。だからといって古臭い感じは全くなく、むしろよりシンプルに洗練されていて、かえってマイカにはそれが前衛的に思えた。
フルフェイスのヘッドギアはシャープな流線形のデザインだ。耳はヘッドホンのようなもので、そして目はサングラスのような色のついたレンズで保護されていた。彼らの胴のプロテクターには、スリングと同じくMIOという文字がプリントされていた。
マイカは、とりあえず人間が出てきて、少しホッとした。しかし、ホッとしたのも束の間、彼らは総勢10名ほどで、マイカからおよそ5メートルほど離れた位置で止まり、綺麗に横二列に並び、かなりいかつい銃を両手でしっかりと構えた。
――えっ……!?
それらの照準装置から放たれる赤いレーザーはマイカに向かって飛ばされ、マイカの胸に赤い点が集まった。マイカは、想定していた状況よりも急な展開に驚いた。
「いきなりそんな……!」マイカは固まって動けない。
並んで銃を構える武装集団の後ろから、もうひとりやってきた。
「あ~ら、どんな悪党かと思えば、かわいこちゃんじゃないの~!」
その男はヘッドギアを着用しておらず、その顔をさらしていた。顎が二つに割れているのが特徴的な、いかにも中年のオジサンという容姿だった。
「セドレット・サバカ支部のカーラよ」と野太い声で言った。「ここで何をしているのかしら?」
その気になる口調はともかく、どうやらこのカーラという男がリーダーらしい。そのカーラは、一番左隅で銃を構える仲間の肩に肘を置いて、リラックスする姿勢をとった。
「なにって……私は……」緊張のせいか、マイカはもごもごとしてしまう。
「答えられないのかしら~?」カーラは仲間の耳に息を吹きかける。
「いや……、ちがうんです。その……」マイカははっきりしない。
すると――
「おまえはいくつかの重大な法令違反を犯しているのよ!」とそのオカマ口調の男カーラは急に語気を強めて言った。「根絶者出現時に、一般人が外出することは禁止されていることは分かっているわね!?」
マイカはいきなり怒鳴られて、委縮してしまう。
「あの、ちょっと待ってください!」
マイカはなんとかそう言ったが、リーダーらしき男カーラは「それに!」と言ってマイカの言葉をピシャリと遮った。
「全てのマトリウム炉は立ち入り禁止区域Aに指定されているのよ!……Aよ?分かってるの?外出禁止だけでも重大な法令違反だけど、よくもまぁ、こんなところに堂々と侵入できたものね!」
「待ってください!」マイカは向けられた多くの銃口に怯みながらも、さっきより大きな声を出すよう努めて言った。「私はここに来たくて来たわけではありません。ここはいったいどこなんですか?」
「ま~、とぼけちゃって!」カーラは大げさに驚いて見せた。「そもそも、おまえは何者なのかしら?見たところまだ若いけど、……どうせレジデュアルの過激派の手のものでしょう?でなければ、こんなところにわざわざ忍び込もうだなんて思わないだろうからねぇ」
カーラは、今度は違う仲間の首に後ろから手をまわして楽な姿勢をとっていた。
「レジデュアル?過激派?」マイカは、全くもって訳が分からなかった。
「とぼけても無駄よ。そのスリングだって、どうやったか分からないけど、おまえが壊したんじゃないの~?……そいつは、すべての住民情報を読み取れるはずなんだけどねぇ。どういうわけか、あんたのは読みとれなかったみたいなのよ~」
マイカはスリングを一瞥した。スリングはすでに黙っていて何の言葉も発しなかった。やはり、この鬱陶しい機械が、この分からず屋の連中を呼んだらしい。
「私、都マイカって言います!気づいたらここに居たんです!別に何か悪さをしようだなんて思っていません!信じてください!」
マイカは真剣なまなざしでカーラに訴えた。
「しらばっくれるんじゃないよ!おまえには、聞きたいことがたくさんあるのよ!十分に事情聴取する必要があるんだから」
「しらばっくれてなんて……」
カーラは「おい」と言うと、前列にいた比較的小柄な男が銃を構えたままマイカに近付いてきた。マイカは、とっさに手を上げて、息をのむ。
「無駄な抵抗するんじゃないわよ」とカーラはニタニタしながら言った。「逮捕よ」
「逮捕って!」マイカは目の前に向けられた銃口にたじろぎながら、言った。「私、悪いこと何もしていません!やめてください!」
近づいてきた小柄な男が、銃を使って、腕を下ろすようジェスチャーで伝えた。マイカが泣きそうな顔で、ゆっくりと上げた手を下ろすと、自分と同じぐらいの身長しかないその男に、左腕をガシッと掴まれた。
「いたっ!!」わざとらしく大声を出す。
小柄な男はマイカの二の腕を掴みながら、反対の手でマッチ棒の箱ぐらいの何かしらの小さな機器を取り出した。マイカは最初、手錠をされるのだろうと思った。だが、得体の知れないものが出てきて、それが逆に恐怖心を煽った。小柄な男は、それをマイカの顔に近づける。
「やめてください!」
マイカは、自由な右手で顔に近づけられたその手をはたき、強く握られた左腕を振り回して抵抗した。
「抵抗するな!」小柄な男は叱りつけるように言って、マイカの腕をますます強く握った。
「痛いってば!」
マイカも負けずと振りほどこうとする。
小柄な男が、マイカを制圧するのに苦戦していると、カーラが、怒鳴り声をあげる。
「クニト!何モタモタしてるのよ!」
小柄な男はクニトという名前らしい。
「おまえ、それ以上抵抗するなら容赦無く撃つわよ!」
そのカーラの声で、残りのメンバーは再び銃口をマイカへ向けなおす。
マイカは、観念して腕を振り回すのをやめ、じっとした。やれやれと言った様子で、小柄な男クニトはその小型の機器についたボタンを押した。機器のランプが赤から緑に変わる。それを確認して、再びマイカの左腕の二の腕を掴んだ。
「今度は大人しくしてろよ」
そう言って、クニトは、その機器をもった手をマイカの喉元まで伸ばした。
その機器が体に触れたらどうなってしまうかとマイカは考えると、すぐに嫌な考えが浮かんだ。リモコンでいつでも電気ショックのような苦痛を与えることができる機器かもしれない。
この世界は信用ならない。マイカは、怯えつつもクニトを鋭い目つきで睨みつけた。
「そ、そんな目をしても無駄だ」とクニトは言った。虚勢を張ってはいるが、マイカの迫力に一瞬ひるんだのだろう。クニトの手が止まった。
それを見て、カーラがケラケラと笑って言った。
「大人しくしていれば、無闇に危害を加えたりはしないわ。アタシらだって、鬼じゃあない。おまえの身分をはっきりさせ、おまえがここで何をしようとしていたか明らかになるまで拘束するのがアタシらの任務なの。わかってちょうだいよ?」
さきほどとは打って変わって、いささかご機嫌な様子であった。
「だから……、私はいつのまにかここにいたんだってば!」マイカは言い返す。
「そうやってシラを切り通そうとするのは、心証を悪くするだけよ。いい?重々承知の上だろうけど、おまえの状況を教えてやるわ。この場所は今、MIO、いや、おまえらのような異端者を除く善良なる住民すべてにとって非常に重要な場所なの。一般人など立ち入る隙など本来皆無に等しいけど、おまえはどういうわけか踏み入ったの。その上、監視ロボットにまで不具合を起こさせた。そして、悪事は露見した。おまえの状況は極めて良くないのは、わかるわね~?」
マイカは黙って聞いていたが、納得がいかなかった。納得いくわけがない。下唇を噛み締めながら、マイカはどう説明すれば、わかってもらえるのかと思った。いや、情緒不安定な言動からして、このカーラというヤツはとうてい話のわかる相手ではなさそうだ。
マイカには拘束されている時間などない。1時間程度しかこの世界に居られないのだから。こんなやりとりをしている間だって時間はどんどん流れていく。しかし、こんなふうに囲むように銃口を向けられている絶望的な状況では、どうしようもない。マイカはなすすべなく、抵抗を諦め、黙り込んだ。
「動くなよ」
そう言って、クニトが、今度はまずマイカの両肩を掴み、自分の正面に向かせた。マイカは眉間にしわを寄せて嫌悪感を露わにしていたが、黙って従った。
「よしよし、いい子だよ」
そして、クニトがようやく機器をマイカの喉元に取り付けようとした瞬間――
「え……?」マイカの心臓がドクンと波打つ。
あの青い閃光がその場をさーっと照らし、ほぼ同時に、巨大な爆発音が鳴り響いた。
それがマイカの第一印象だった。
しかし、よく見たらそんなにカッコイイものではない。その形はいたってシンプルである。流線形の平たいボディは、表面がほとんどガラス張りになっていて、側面のみ真珠色にカラーリングされている。車輪のようなものはついていないが、羽やプロペラがついているというわけでもない。
そんな、見たこともないような謎の機体が5台、綺麗に列をそろえて、マイカのいる建物に無音で近付いてくる。スリングのほうに目を向けなかったら、気づかなかったであろうというぐらい駆動音を発していなかった。
その5台の飛行物体はそのまま通り過ぎると思いきや、次第にスピードを緩めた。マイカのいるバルコニーに着陸しようとしているのか、ゆっくりと下降してきた。
「え!?ちょっと何!?」
マイカは、警戒してゆっくりと後ずさる。助けに来てくれたのだろうか?いや、それはあまり期待できそうもない。マイカは、傍にピタッとまとわりついて離れないスリングをちらっと見て、顔をしかめる。
「あなた、大げさじゃない?」
スリングが言うには、ここは「タチイリキンシクイキ」とのこと。マイカは、そんな場所に踏み入ってしまった責めを負わされてしまうのではないかと、そんな直感が働いた。
そもそも、あの平たい箱型の飛行物体には、コミュニケーションがとれる「ヒト」が乗っているのだろうか。また、訳の分からない鬱陶しいロボットが現れるのではないかという不安もある。
――C-3POみたいなのが運転しているだなんてやめてよ。……C-3POならまだマシなほうか……。
だが、せめて話が通じる人間であればとマイカは祈った。もう、これ以上混乱するのはたくさんだ。とにかく、事情を説明して助けてもらおう。何の情報もないこの状況から脱しよう。運が良ければ、あの怪物の手掛かりもつかめるかもしれない。
5台の機体は、マイカがいる場所の近くにゆっくりと降り立った。
そして、それぞれの機体から、2人、あるいは3人、まさに「完全武装」といった風体の人間が飛び出してきた。
――うえっ!
マイカは顔をこわばらせた。警察官ぐらいまでは想像していたが、まさか軍隊の兵士さながらの格好をしている人間が出てくるとは思わなかった。戦争でも始まるのかというスタイルだ。
皆、フルフェイスのヘッドギアをかぶり、プロテクターを全身に纏っている。胴や腕に着けたプロテクターが、武士の鎧に形も模様もかなり似ているのが印象的であった。だからといって古臭い感じは全くなく、むしろよりシンプルに洗練されていて、かえってマイカにはそれが前衛的に思えた。
フルフェイスのヘッドギアはシャープな流線形のデザインだ。耳はヘッドホンのようなもので、そして目はサングラスのような色のついたレンズで保護されていた。彼らの胴のプロテクターには、スリングと同じくMIOという文字がプリントされていた。
マイカは、とりあえず人間が出てきて、少しホッとした。しかし、ホッとしたのも束の間、彼らは総勢10名ほどで、マイカからおよそ5メートルほど離れた位置で止まり、綺麗に横二列に並び、かなりいかつい銃を両手でしっかりと構えた。
――えっ……!?
それらの照準装置から放たれる赤いレーザーはマイカに向かって飛ばされ、マイカの胸に赤い点が集まった。マイカは、想定していた状況よりも急な展開に驚いた。
「いきなりそんな……!」マイカは固まって動けない。
並んで銃を構える武装集団の後ろから、もうひとりやってきた。
「あ~ら、どんな悪党かと思えば、かわいこちゃんじゃないの~!」
その男はヘッドギアを着用しておらず、その顔をさらしていた。顎が二つに割れているのが特徴的な、いかにも中年のオジサンという容姿だった。
「セドレット・サバカ支部のカーラよ」と野太い声で言った。「ここで何をしているのかしら?」
その気になる口調はともかく、どうやらこのカーラという男がリーダーらしい。そのカーラは、一番左隅で銃を構える仲間の肩に肘を置いて、リラックスする姿勢をとった。
「なにって……私は……」緊張のせいか、マイカはもごもごとしてしまう。
「答えられないのかしら~?」カーラは仲間の耳に息を吹きかける。
「いや……、ちがうんです。その……」マイカははっきりしない。
すると――
「おまえはいくつかの重大な法令違反を犯しているのよ!」とそのオカマ口調の男カーラは急に語気を強めて言った。「根絶者出現時に、一般人が外出することは禁止されていることは分かっているわね!?」
マイカはいきなり怒鳴られて、委縮してしまう。
「あの、ちょっと待ってください!」
マイカはなんとかそう言ったが、リーダーらしき男カーラは「それに!」と言ってマイカの言葉をピシャリと遮った。
「全てのマトリウム炉は立ち入り禁止区域Aに指定されているのよ!……Aよ?分かってるの?外出禁止だけでも重大な法令違反だけど、よくもまぁ、こんなところに堂々と侵入できたものね!」
「待ってください!」マイカは向けられた多くの銃口に怯みながらも、さっきより大きな声を出すよう努めて言った。「私はここに来たくて来たわけではありません。ここはいったいどこなんですか?」
「ま~、とぼけちゃって!」カーラは大げさに驚いて見せた。「そもそも、おまえは何者なのかしら?見たところまだ若いけど、……どうせレジデュアルの過激派の手のものでしょう?でなければ、こんなところにわざわざ忍び込もうだなんて思わないだろうからねぇ」
カーラは、今度は違う仲間の首に後ろから手をまわして楽な姿勢をとっていた。
「レジデュアル?過激派?」マイカは、全くもって訳が分からなかった。
「とぼけても無駄よ。そのスリングだって、どうやったか分からないけど、おまえが壊したんじゃないの~?……そいつは、すべての住民情報を読み取れるはずなんだけどねぇ。どういうわけか、あんたのは読みとれなかったみたいなのよ~」
マイカはスリングを一瞥した。スリングはすでに黙っていて何の言葉も発しなかった。やはり、この鬱陶しい機械が、この分からず屋の連中を呼んだらしい。
「私、都マイカって言います!気づいたらここに居たんです!別に何か悪さをしようだなんて思っていません!信じてください!」
マイカは真剣なまなざしでカーラに訴えた。
「しらばっくれるんじゃないよ!おまえには、聞きたいことがたくさんあるのよ!十分に事情聴取する必要があるんだから」
「しらばっくれてなんて……」
カーラは「おい」と言うと、前列にいた比較的小柄な男が銃を構えたままマイカに近付いてきた。マイカは、とっさに手を上げて、息をのむ。
「無駄な抵抗するんじゃないわよ」とカーラはニタニタしながら言った。「逮捕よ」
「逮捕って!」マイカは目の前に向けられた銃口にたじろぎながら、言った。「私、悪いこと何もしていません!やめてください!」
近づいてきた小柄な男が、銃を使って、腕を下ろすようジェスチャーで伝えた。マイカが泣きそうな顔で、ゆっくりと上げた手を下ろすと、自分と同じぐらいの身長しかないその男に、左腕をガシッと掴まれた。
「いたっ!!」わざとらしく大声を出す。
小柄な男はマイカの二の腕を掴みながら、反対の手でマッチ棒の箱ぐらいの何かしらの小さな機器を取り出した。マイカは最初、手錠をされるのだろうと思った。だが、得体の知れないものが出てきて、それが逆に恐怖心を煽った。小柄な男は、それをマイカの顔に近づける。
「やめてください!」
マイカは、自由な右手で顔に近づけられたその手をはたき、強く握られた左腕を振り回して抵抗した。
「抵抗するな!」小柄な男は叱りつけるように言って、マイカの腕をますます強く握った。
「痛いってば!」
マイカも負けずと振りほどこうとする。
小柄な男が、マイカを制圧するのに苦戦していると、カーラが、怒鳴り声をあげる。
「クニト!何モタモタしてるのよ!」
小柄な男はクニトという名前らしい。
「おまえ、それ以上抵抗するなら容赦無く撃つわよ!」
そのカーラの声で、残りのメンバーは再び銃口をマイカへ向けなおす。
マイカは、観念して腕を振り回すのをやめ、じっとした。やれやれと言った様子で、小柄な男クニトはその小型の機器についたボタンを押した。機器のランプが赤から緑に変わる。それを確認して、再びマイカの左腕の二の腕を掴んだ。
「今度は大人しくしてろよ」
そう言って、クニトは、その機器をもった手をマイカの喉元まで伸ばした。
その機器が体に触れたらどうなってしまうかとマイカは考えると、すぐに嫌な考えが浮かんだ。リモコンでいつでも電気ショックのような苦痛を与えることができる機器かもしれない。
この世界は信用ならない。マイカは、怯えつつもクニトを鋭い目つきで睨みつけた。
「そ、そんな目をしても無駄だ」とクニトは言った。虚勢を張ってはいるが、マイカの迫力に一瞬ひるんだのだろう。クニトの手が止まった。
それを見て、カーラがケラケラと笑って言った。
「大人しくしていれば、無闇に危害を加えたりはしないわ。アタシらだって、鬼じゃあない。おまえの身分をはっきりさせ、おまえがここで何をしようとしていたか明らかになるまで拘束するのがアタシらの任務なの。わかってちょうだいよ?」
さきほどとは打って変わって、いささかご機嫌な様子であった。
「だから……、私はいつのまにかここにいたんだってば!」マイカは言い返す。
「そうやってシラを切り通そうとするのは、心証を悪くするだけよ。いい?重々承知の上だろうけど、おまえの状況を教えてやるわ。この場所は今、MIO、いや、おまえらのような異端者を除く善良なる住民すべてにとって非常に重要な場所なの。一般人など立ち入る隙など本来皆無に等しいけど、おまえはどういうわけか踏み入ったの。その上、監視ロボットにまで不具合を起こさせた。そして、悪事は露見した。おまえの状況は極めて良くないのは、わかるわね~?」
マイカは黙って聞いていたが、納得がいかなかった。納得いくわけがない。下唇を噛み締めながら、マイカはどう説明すれば、わかってもらえるのかと思った。いや、情緒不安定な言動からして、このカーラというヤツはとうてい話のわかる相手ではなさそうだ。
マイカには拘束されている時間などない。1時間程度しかこの世界に居られないのだから。こんなやりとりをしている間だって時間はどんどん流れていく。しかし、こんなふうに囲むように銃口を向けられている絶望的な状況では、どうしようもない。マイカはなすすべなく、抵抗を諦め、黙り込んだ。
「動くなよ」
そう言って、クニトが、今度はまずマイカの両肩を掴み、自分の正面に向かせた。マイカは眉間にしわを寄せて嫌悪感を露わにしていたが、黙って従った。
「よしよし、いい子だよ」
そして、クニトがようやく機器をマイカの喉元に取り付けようとした瞬間――
「え……?」マイカの心臓がドクンと波打つ。
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