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クワイエット・テラー
マイカ、捕縛さる Ⅳ
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そこにいた全員が、その爆音に一瞬気をとられた。マイカは二度目ながらもその衝撃にビクっと体が反応し、そのままさっとしゃがみ込んだ。クニトも思わずマイカの肩から手を離してしまった。
「パメラ・ブライズが発動した!?」カーラが顔をひきつらせて言った。「アタシらには発射の情報は入ってきていないわ!」
さらに遅れて、もっと大きな爆発音がズドン、ズドンと、連続で鳴り響く。マイカはそれが、青い閃光と同時に聞こえたものとは、別の方向から聞こえてきた気がした。
カーラも彼の部下たちも皆、この鮮烈な光と爆発音が想定外のことだったようで、狼狽している様子であった。クニトもポカンとしていて、状況を把握できていないようだ。
マイカはそれを見て、とっさに彼が右手の親指と人差し指でつまむようにして持っていた機器をいとも簡単に奪い取った。一瞬の隙を突かれて、クニトは「あっ!」と大きな声を出して、仲間にマイカの逃走を知らせるぐらいしかできなかった。
そして、マイカは一気に後方へ、がむしゃらに走りだした。それが、あまりに無鉄砲な行動だとマイカも分かっていた。しかし、そうするしかなかった。捕まったら……おそらく終わりなのだから。
「おい!」カーラが怒鳴る声が聞こえる。「逃げても無駄なんだからね!言ったはずよ!下手な抵抗したら容赦無く撃つってね!」
マイカは確かに「撃つ」という言葉を聞いたが、止まれなかった。もうどうしていいか分からなかった。どんな行動をとれば正解なのか。ならば何も考えず本能に従って行動するしかない。マイカは下を向いてひたすら前傾姿勢で走った。
「馬鹿ね!」
カーラは、仲間の銃を奪い取り、自ら銃を構えて、マイカの足に照準を合わせる。そして、躊躇なくトリガーを引いた。その銃から発射されたのは鉛の銃弾なんかではなく、照準装置のレーザーよりもずっと細い一筋の光線であった。
光線は、マイカの右ふくらはぎに命中した。
「ヒャッ!」
右ふくらはぎに強烈な痛みが走り、マイカは足がもつれ、前方に顔から勢いよく転んだ。
そのままうずくまり、「あああ……」と低い声を漏らす。
右ふくらはぎはひどく痙攣していて、マイカは床に突っ伏したまま、体を動かせないどころか、それぐらいのうめき声しか発することができない。ただ、苦悶の表情を浮かべて寝そべるしかなかった。
カーラ率いる武装集団「セドレット・サバカ支部」の各員が、右ふくらはぎを抑えて、低い唸り声をあげながら倒れ込んでいるマイカのところへゆっくりと集まってきた。
「だから言わんこっちゃないわ」カーラが半ば呆れた感じで言った。「まだ抵抗を続ける気力はあるかしら?」
マイカは返事をする力もなかった。
「その様子じゃあ、無理そ・う・だ。」
カーラはマイカを真上から見下ろしてニンマリ笑った。
クニトが倒れているマイカの右腕を強引に引っ張り、握られた拳の中身を確認する。しかし、もう機器はマイカの手中になかった。撃たれた衝撃で手から離れ、飛ばされてしまったのだろう。クニトは「ちっ」と舌打ちをして、すぐにカーラの顔色を窺った。
カーラは、何も言わずにクニトのヘッドギアを掴んで、強く横に押した。クニトはいとも簡単に床に転がり、そのままバツが悪そうにして、後ろに下がった。
「まったく手こずらせやがる娘だよ!」カーラが不満げに呟いた。「それにしても、どうなってるのかしら。二発目の発射があるなんて聞いてないんだから!」
マイカは痛みをいくらかでも和らげるために呼吸を整えるのに必死で、カーラの言葉など耳に入ってこなかった。
「まあ、とにかくアタシらはアタシらの任務を遂行するだけだわ。おい、早くこの小娘を拘束しなさい!」
今度は体格の良い大柄な男が、依然としてうつ伏せになって苦しんでいるマイカに近寄り、例の機器を取り出した。
マイカの肩を掴み、少々荒々しく、マイカの体を起こし、そのまま仰向けにさせた。
「やめ……て……」
マイカは痛みを堪えて、声を振り絞った。
「そういうわけにはいかん」大柄な男が言った。
万事休すか。
こんな大柄な男に、マイカのような細身の少女が抵抗するにしても、あっけなく制されてしまうだろう。しかも、マイカは手負いの状態である。これ以上抵抗する力など残っていない。
「私は何も悪いことはしていない。なんで捕まらなきゃいけないのか分からない!」
ならばと、マイカは説得だけでも続けようとした。
「くどい!」大柄な男はマイカに怒鳴りつけた。
マイカはその怒鳴り声に臆することなく、大きな瞳をさらに見開き、大柄な男に目で訴え続けた。その瞳を涙であふれさせている少女の切実な表情に圧倒され、大柄な男は一瞬手を止めてしまう。
「アガツ!早くしろ~!」カーラが急かした。
「は、はい!すいません!」大柄な男は我に返って、マイカの両足にまたがるようにして、頭をガシっと掴んだ。このデリカシーのかけらもない行為が、マイカの心に火をつけた。荒っぽく髪の中に手を入れられ、このアガツという男に対して、抑えがたい怒りがこみあげてきた。
「事情は本部で聞くからな」
そう言って、アガツは例の機器を改めてマイカの喉元に付けようとした。
機器が喉元に届くか届かないかというとき、怒れるマイカは最後の抵抗をした。左足を思い切り振り上げ、膝を男の股間に的中させた。
「うおっ……おぉ……!」
大柄な体はバランスを崩し、機器をまだ右手に掴んだまま、悶えるように後方へ転がった。アガツは、足が痙攣しているからといって油断した。
マイカもまた、悶え苦しんでいた。左足を振り上げた時に、痙攣した右足に力を入れてしまったものだから、さらにひどく右足が痙攣してしまった。痛みを伴う痺れは、太ももにまで及んでいた。
「このガキ!」カーラが顔を紅潮させて声を荒げた。「どれだけアタシらをコケにしたら気が済むのよ!」
カーラは鬼の形相になって、銃を構える。
「その反抗的な左足も今、大人しくさせてやるわよ!」
カーラは、今度は至近距離で、マイカの左ふくらはぎに狙いを定めた。マイカは、うずくまったままで、もはや格好の的となっていた。
「己の愚かな行為を悔みなさ~い」
カーラは十分もったいぶってから、トリガーに置いた指に力をぐぐっと入れた。サディスティックな笑みを浮かべて――
だがその笑みは、そこにいなかったはずの何者かの声によって、一旦消える。
「ちょっと待った!」
カーラ率いる武装集団の後方から、若い男性の声がした。
一同は背後を振り返り、その声の主の姿を視界に捉えた。カーラも引き金に置いた指をいったん離して、眉間にしわを寄せながら振り返り、その男をキッと睨みつけた。
現れたのは、カーラたちと同じような格好をした男であった。しかし、全く同じではないようだ。プロテクターやヘッドギアのデザインが細部で異なっていた。
「レイン!?」カーラが現れた男に言った。「アンタ、なんでこんなところにいるのよ!?SOMMEの作戦本部を抜け出して来たの!?」
「ええまあ」と現れた男がおどけて言った。「あそこにいると息詰まっちゃうんですよね。俺みたいな下っ端、必要ないみたいだったし。ちょうどサバカのマトリウム炉で侵入者って聞いたから飛び出して来ちゃいました」
「あんたねぇ」カーラは呆気にとられていた。「そんな勝手なことしたら、後でどうなっても知らないわよ!?」
「別に構いませんよ」と言ってレインは鬱陶しげにヘッドギアを外した。
突如現れたこのレインという男は、リーダーのカーラに少しも物怖じしない様子だ。ヘッドギアを外すと、まだ10代後半ぐらいの若者で、いかにもといった感じの優男であった。
クニトやアガツのような彼よりずいぶん年上であろう男たちですら、直属のボスであるカーラを恐れていたというのに、この若者は何者なのか。
「馬鹿ね!あんたがこんなところにいたらアタシらにも迷惑がかかるのよ!さっさと戻ってちょうだい!」カーラは叱りつけるように言った。
「まあまあ」と言ってレインは顔も見ずにカーラの前を通り過ぎ、十数名いる仲間の間を割って入ろうとする。
カーラは、説教する気も失せて、「まったく!」と言った。
「前線本部はいったいどうなっているのよ?パメラ・ブライズを連発するなんてね。アタシらは一回きりって聞いていたけど?」
レインは前を向いたまま、簡潔に答えた。
「それがどうやらあまり状況はよくないみたいですよ。詳しいことは俺にもわかりません。なにせ、もう俺たちはお払い箱のようだったんで」
レインは、仲間が並ぶ隙間から、倒れているマイカを見つけた。そして目の色を変えて、仲間を掻き分けながら駆け寄った。マイカは、まだうっすら涙を浮かべていたが、キョトンとした表情でレインを見つめていた。
「あーあー、こんな美しいお嬢さんに、こんなひどいことを」
レインは、マイカのふくらはぎに光線銃の焼け跡を見つけて、沈痛な面持ちで言う。
「野獣のような連中で怖かったでしょう?」
「あの……」マイカは、状況が飲み込めず答えに窮した。
「ちょっと!?その小娘に優しくしてどうするつもりなの!?」カーラが腰に手を当てて大声でレインに言った。「そいつは重~っ大な法令違反を犯しているわ。さらに言えば、マトリウム炉を破壊して、対根絶者作戦本部を妨害するつもりだったのよ!あ~こわい、こわい!」
「そうなの?」レインはマイカに尋ねた。
「何の……ことなのか……さっぱり……」マイカはまだ痛みがズキズキと残っている中、とぎれとぎれになりながらも、なんとかそう答えた。
「だそうですよ」レインは、カーラの方に向き直って言った。
「こいつ、ずっとしらばっくれているんだよ!こんな大それたことをするんだから、キトラの手の者に違いないわ!」カーラは顔を真っ赤にさせている。
「そんな、決めつけるのは良くないですよ」レインはカーラをなだめるように言う。「とりあえず、もう乱暴はやめましょう」
カーラはレインのその落ち着き払った態度が気に喰わなくて、ますます頭に血が上った。
「ア、アタシだって、撃ちたくて撃ったわけじゃない!この娘が抵抗したからよ!」カーラはまくしたてるように言う。「それに、ここはアンタが出しゃばる場面ではないんだよ!サバカのリーダーはアタシだ!アンタにとやかく言われる筋合いはないんだよ!」
「まあまあ、そんなムキにならずに」レインはカーラの迫力にやや面食らった。
大柄な男アガツも、その生意気な態度に気に食わないのか、威圧するようにレインに迫り、声を荒げた。
「てめえ、SOMMEに選抜されたからっていい気になるなよ。いいか?おまえの行動だって重大な法令違反だぞ。MIOはおまえの任務放棄と俺たちへの任務妨害を許しちゃおかねえだろうよ。」
「その通りよ!」カーラも続いて言った。「でも、今なら許してあげるわ。さっさと持ち場へ帰りな!アンタはサバカに所属していたが今は違う。ここはアタシたちに任せておけばいいのよ!」
「もう今さらノコノコ戻れませんよ」
レインはすました顔をしている。
マイカは、レインを不思議そうに見ていた。上司に逆らって、なんともないような顔をしている。聞いていると、なにやら他の人たちに一目置かれているようだ。マイカは、この男のおかげで、なんとなく状況が好転するのではないかと思い始めた。
「それに」とレインは続けた。「あなたたちの妨害だなんてとんでもない。俺は、マトリウム炉で起こっている事件の援護に来ただけです。もちろん、この少女は拘束され、事情聴取を受けるべきです」
「パメラ・ブライズが発動した!?」カーラが顔をひきつらせて言った。「アタシらには発射の情報は入ってきていないわ!」
さらに遅れて、もっと大きな爆発音がズドン、ズドンと、連続で鳴り響く。マイカはそれが、青い閃光と同時に聞こえたものとは、別の方向から聞こえてきた気がした。
カーラも彼の部下たちも皆、この鮮烈な光と爆発音が想定外のことだったようで、狼狽している様子であった。クニトもポカンとしていて、状況を把握できていないようだ。
マイカはそれを見て、とっさに彼が右手の親指と人差し指でつまむようにして持っていた機器をいとも簡単に奪い取った。一瞬の隙を突かれて、クニトは「あっ!」と大きな声を出して、仲間にマイカの逃走を知らせるぐらいしかできなかった。
そして、マイカは一気に後方へ、がむしゃらに走りだした。それが、あまりに無鉄砲な行動だとマイカも分かっていた。しかし、そうするしかなかった。捕まったら……おそらく終わりなのだから。
「おい!」カーラが怒鳴る声が聞こえる。「逃げても無駄なんだからね!言ったはずよ!下手な抵抗したら容赦無く撃つってね!」
マイカは確かに「撃つ」という言葉を聞いたが、止まれなかった。もうどうしていいか分からなかった。どんな行動をとれば正解なのか。ならば何も考えず本能に従って行動するしかない。マイカは下を向いてひたすら前傾姿勢で走った。
「馬鹿ね!」
カーラは、仲間の銃を奪い取り、自ら銃を構えて、マイカの足に照準を合わせる。そして、躊躇なくトリガーを引いた。その銃から発射されたのは鉛の銃弾なんかではなく、照準装置のレーザーよりもずっと細い一筋の光線であった。
光線は、マイカの右ふくらはぎに命中した。
「ヒャッ!」
右ふくらはぎに強烈な痛みが走り、マイカは足がもつれ、前方に顔から勢いよく転んだ。
そのままうずくまり、「あああ……」と低い声を漏らす。
右ふくらはぎはひどく痙攣していて、マイカは床に突っ伏したまま、体を動かせないどころか、それぐらいのうめき声しか発することができない。ただ、苦悶の表情を浮かべて寝そべるしかなかった。
カーラ率いる武装集団「セドレット・サバカ支部」の各員が、右ふくらはぎを抑えて、低い唸り声をあげながら倒れ込んでいるマイカのところへゆっくりと集まってきた。
「だから言わんこっちゃないわ」カーラが半ば呆れた感じで言った。「まだ抵抗を続ける気力はあるかしら?」
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「その様子じゃあ、無理そ・う・だ。」
カーラはマイカを真上から見下ろしてニンマリ笑った。
クニトが倒れているマイカの右腕を強引に引っ張り、握られた拳の中身を確認する。しかし、もう機器はマイカの手中になかった。撃たれた衝撃で手から離れ、飛ばされてしまったのだろう。クニトは「ちっ」と舌打ちをして、すぐにカーラの顔色を窺った。
カーラは、何も言わずにクニトのヘッドギアを掴んで、強く横に押した。クニトはいとも簡単に床に転がり、そのままバツが悪そうにして、後ろに下がった。
「まったく手こずらせやがる娘だよ!」カーラが不満げに呟いた。「それにしても、どうなってるのかしら。二発目の発射があるなんて聞いてないんだから!」
マイカは痛みをいくらかでも和らげるために呼吸を整えるのに必死で、カーラの言葉など耳に入ってこなかった。
「まあ、とにかくアタシらはアタシらの任務を遂行するだけだわ。おい、早くこの小娘を拘束しなさい!」
今度は体格の良い大柄な男が、依然としてうつ伏せになって苦しんでいるマイカに近寄り、例の機器を取り出した。
マイカの肩を掴み、少々荒々しく、マイカの体を起こし、そのまま仰向けにさせた。
「やめ……て……」
マイカは痛みを堪えて、声を振り絞った。
「そういうわけにはいかん」大柄な男が言った。
万事休すか。
こんな大柄な男に、マイカのような細身の少女が抵抗するにしても、あっけなく制されてしまうだろう。しかも、マイカは手負いの状態である。これ以上抵抗する力など残っていない。
「私は何も悪いことはしていない。なんで捕まらなきゃいけないのか分からない!」
ならばと、マイカは説得だけでも続けようとした。
「くどい!」大柄な男はマイカに怒鳴りつけた。
マイカはその怒鳴り声に臆することなく、大きな瞳をさらに見開き、大柄な男に目で訴え続けた。その瞳を涙であふれさせている少女の切実な表情に圧倒され、大柄な男は一瞬手を止めてしまう。
「アガツ!早くしろ~!」カーラが急かした。
「は、はい!すいません!」大柄な男は我に返って、マイカの両足にまたがるようにして、頭をガシっと掴んだ。このデリカシーのかけらもない行為が、マイカの心に火をつけた。荒っぽく髪の中に手を入れられ、このアガツという男に対して、抑えがたい怒りがこみあげてきた。
「事情は本部で聞くからな」
そう言って、アガツは例の機器を改めてマイカの喉元に付けようとした。
機器が喉元に届くか届かないかというとき、怒れるマイカは最後の抵抗をした。左足を思い切り振り上げ、膝を男の股間に的中させた。
「うおっ……おぉ……!」
大柄な体はバランスを崩し、機器をまだ右手に掴んだまま、悶えるように後方へ転がった。アガツは、足が痙攣しているからといって油断した。
マイカもまた、悶え苦しんでいた。左足を振り上げた時に、痙攣した右足に力を入れてしまったものだから、さらにひどく右足が痙攣してしまった。痛みを伴う痺れは、太ももにまで及んでいた。
「このガキ!」カーラが顔を紅潮させて声を荒げた。「どれだけアタシらをコケにしたら気が済むのよ!」
カーラは鬼の形相になって、銃を構える。
「その反抗的な左足も今、大人しくさせてやるわよ!」
カーラは、今度は至近距離で、マイカの左ふくらはぎに狙いを定めた。マイカは、うずくまったままで、もはや格好の的となっていた。
「己の愚かな行為を悔みなさ~い」
カーラは十分もったいぶってから、トリガーに置いた指に力をぐぐっと入れた。サディスティックな笑みを浮かべて――
だがその笑みは、そこにいなかったはずの何者かの声によって、一旦消える。
「ちょっと待った!」
カーラ率いる武装集団の後方から、若い男性の声がした。
一同は背後を振り返り、その声の主の姿を視界に捉えた。カーラも引き金に置いた指をいったん離して、眉間にしわを寄せながら振り返り、その男をキッと睨みつけた。
現れたのは、カーラたちと同じような格好をした男であった。しかし、全く同じではないようだ。プロテクターやヘッドギアのデザインが細部で異なっていた。
「レイン!?」カーラが現れた男に言った。「アンタ、なんでこんなところにいるのよ!?SOMMEの作戦本部を抜け出して来たの!?」
「ええまあ」と現れた男がおどけて言った。「あそこにいると息詰まっちゃうんですよね。俺みたいな下っ端、必要ないみたいだったし。ちょうどサバカのマトリウム炉で侵入者って聞いたから飛び出して来ちゃいました」
「あんたねぇ」カーラは呆気にとられていた。「そんな勝手なことしたら、後でどうなっても知らないわよ!?」
「別に構いませんよ」と言ってレインは鬱陶しげにヘッドギアを外した。
突如現れたこのレインという男は、リーダーのカーラに少しも物怖じしない様子だ。ヘッドギアを外すと、まだ10代後半ぐらいの若者で、いかにもといった感じの優男であった。
クニトやアガツのような彼よりずいぶん年上であろう男たちですら、直属のボスであるカーラを恐れていたというのに、この若者は何者なのか。
「馬鹿ね!あんたがこんなところにいたらアタシらにも迷惑がかかるのよ!さっさと戻ってちょうだい!」カーラは叱りつけるように言った。
「まあまあ」と言ってレインは顔も見ずにカーラの前を通り過ぎ、十数名いる仲間の間を割って入ろうとする。
カーラは、説教する気も失せて、「まったく!」と言った。
「前線本部はいったいどうなっているのよ?パメラ・ブライズを連発するなんてね。アタシらは一回きりって聞いていたけど?」
レインは前を向いたまま、簡潔に答えた。
「それがどうやらあまり状況はよくないみたいですよ。詳しいことは俺にもわかりません。なにせ、もう俺たちはお払い箱のようだったんで」
レインは、仲間が並ぶ隙間から、倒れているマイカを見つけた。そして目の色を変えて、仲間を掻き分けながら駆け寄った。マイカは、まだうっすら涙を浮かべていたが、キョトンとした表情でレインを見つめていた。
「あーあー、こんな美しいお嬢さんに、こんなひどいことを」
レインは、マイカのふくらはぎに光線銃の焼け跡を見つけて、沈痛な面持ちで言う。
「野獣のような連中で怖かったでしょう?」
「あの……」マイカは、状況が飲み込めず答えに窮した。
「ちょっと!?その小娘に優しくしてどうするつもりなの!?」カーラが腰に手を当てて大声でレインに言った。「そいつは重~っ大な法令違反を犯しているわ。さらに言えば、マトリウム炉を破壊して、対根絶者作戦本部を妨害するつもりだったのよ!あ~こわい、こわい!」
「そうなの?」レインはマイカに尋ねた。
「何の……ことなのか……さっぱり……」マイカはまだ痛みがズキズキと残っている中、とぎれとぎれになりながらも、なんとかそう答えた。
「だそうですよ」レインは、カーラの方に向き直って言った。
「こいつ、ずっとしらばっくれているんだよ!こんな大それたことをするんだから、キトラの手の者に違いないわ!」カーラは顔を真っ赤にさせている。
「そんな、決めつけるのは良くないですよ」レインはカーラをなだめるように言う。「とりあえず、もう乱暴はやめましょう」
カーラはレインのその落ち着き払った態度が気に喰わなくて、ますます頭に血が上った。
「ア、アタシだって、撃ちたくて撃ったわけじゃない!この娘が抵抗したからよ!」カーラはまくしたてるように言う。「それに、ここはアンタが出しゃばる場面ではないんだよ!サバカのリーダーはアタシだ!アンタにとやかく言われる筋合いはないんだよ!」
「まあまあ、そんなムキにならずに」レインはカーラの迫力にやや面食らった。
大柄な男アガツも、その生意気な態度に気に食わないのか、威圧するようにレインに迫り、声を荒げた。
「てめえ、SOMMEに選抜されたからっていい気になるなよ。いいか?おまえの行動だって重大な法令違反だぞ。MIOはおまえの任務放棄と俺たちへの任務妨害を許しちゃおかねえだろうよ。」
「その通りよ!」カーラも続いて言った。「でも、今なら許してあげるわ。さっさと持ち場へ帰りな!アンタはサバカに所属していたが今は違う。ここはアタシたちに任せておけばいいのよ!」
「もう今さらノコノコ戻れませんよ」
レインはすました顔をしている。
マイカは、レインを不思議そうに見ていた。上司に逆らって、なんともないような顔をしている。聞いていると、なにやら他の人たちに一目置かれているようだ。マイカは、この男のおかげで、なんとなく状況が好転するのではないかと思い始めた。
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