イセリック/クワイエット・テラー

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クワイエット・テラー

デウス・アグナの遣い Ⅱ

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 マイカは作倉の特徴を自分なりに伝えてみた。

「デウスがどんな人かなんて、こっち側の人間には知る由もないことだよ。デウスは現実世界に生きているからね」

「そうなんだ……」

 マイカは言ってみて損したと思いながら、外の景色に目をやった。すると、遠くにもくもくと黒い煙が立ち上がっているのを見つけた。マイカはそれを視界に入れた瞬間ギョッとした。一瞬、あの悪夢が脳裏に蘇り、全身に鳥肌がたつ。

 マイカはネガティブなイメージを振り払い、おそるおそる黒い煙の発生源を辿っていくと、見覚えのある建物があった。それは、ついさっきまでマイカがいたマトリウム炉と同じ建物だった。さっきまでいたそれとは違うようだが。

「あそこ!火事みたい!」

 マイカは燃えているマトリウム炉の方を指差して言った。レインがその方向に視線を向けた。

「あ~あ、あの爆発音はあれか!派手にぶっ飛んだなぁ!」

「ば、爆発したの……!?」

「この島を管理するお偉いさん方が少々無茶をしちゃったみたいだね」レインはおどけて言った。「もしかしたら、爆発するのが、さっき俺たちがいた建物だったかもしれなかったんだ。マイカはラッキーだよ。」

「そんな……」マイカはまた違う怖さで鳥肌がたった。

 レインはニヤけた顔を、キリッとさせて言った。

「もう俺たちソートエッジの手は出し尽くした。あとはマイカにかかっているんだ」

「私に……」

 マイカは返事に窮していると、急に体にGがかるのを感じた。

 機体が降下し始めたのだ。先行の5台が下方に広がるビル群の中に入っていったので、レインもそれに続く。

 6台のエアリアルクルーズは、隙間などほとんどないと思われた非常に狭いビルの谷間を通過していく。マイカは灯りが灯らない暗い高層ビル群の隙間に飲み込まれてしまいそうな感覚を覚えた。

「今は真夜中なの?」

「ソートエッジに昼も夜もないよ」レインは鼻で笑ったようだった。

「なにそれ?」マイカは首をかしげて言った。

 マイカはレインが禅問答をしかけているのか、本気で言っているのか分からなかった。ソートエッジという言葉に対しても突っ込みたいところだが、それはおそらくこの世界のことを指しているのだろうと類推できた。マイカとしても「なにそれ?」を無駄撃ちしたくないところである。

「本当は昼と夜はあったんだけどね。」レインは昔を懐かしむように話した。「根絶者がソートエッジに姿を現してから、昼はなくなってしまったんだ。それ以来ずっと夜のままだ」

 マイカはレインの話を黙って聞いている。

「でもソートエッジは眠らない。根絶者が現れる前だって、昼も夜も関係なくこの街は活気で溢れていたんだ。今だって本来は皆活動をしている時間帯だ。つまり今も本当なら、君の言う夜なんかじゃないんだよ。」

「でも真っ暗だよ。この都市は活動的とは言い難いわ」

「作戦中は、強制的に停電になるんだよ。仕方がないさ」

「そうなんだ」

 マイカはとりあえず納得がいく形でこの話題を終えて安心した。そして、エアリアルクルーズのライトが照らす灯りを頼りに、高層ビルが立ち並ぶ景色を眺めた。高速で移り変わる景色の中に、マイカは見覚えのある文字を見つけた。マイカは興奮気味にレインに言う。

「今、カタカナでラーメンって書いてあった!」

「ラーメンが好きなのか?」レインはプッと吹き出した。「あいにく今日はどこも休業日だよ。こんなときに呑気に営業しているラーメン屋があるもんか」

「なんだか急に日本的なものがでてきたから!」とマイカは言い返した。

「日本?」レインは興味深そうにマイカのつぶやきに反応した。「今、日本って言った?ジャパンの日本?」

「そうだけど……!もしかして、ここは日本なの?」マイカは食い入るように尋ねた。

「ここは日本じゃないよ。でもソートエッジが建設されたときは日本の文化にかなり影響を受けたと言われているよ」

「えっ……」

 マイカが絶句していると、レインが会話を先へ進めた。

「やっぱりマイカは日本人なんだ。実は俺のルーツも日本にあるんだよ!まあ、そりゃそうだろっていう話なんだけどね」

 マイカはレインが何を言っているのか全然理解できなかった。わかることといえば、この世界に「日本」という概念が存在するということだ。そしてこのソートエッジなる世界が自分のいる現実世界とつながっている可能性も生じてきた。

 この調子でもっとこの世界についての情報を集めたいが、マイカは頭の整理がつかなく、何をどのように聞いていいかわからなかった。トンチンカンな質問をして、レインに不信感をさらに与えてしまうのもいかがなものかとも思った。

「どうりで少し日本人っぽく見えた」

 マイカは話を合わせるように、返事をした。

「やっぱり分かった?レインって名前はちょっとややこしかったかな?本当は、名前も日本テイストな名前が良かったんだけどね!」

「サトシとかシゲルとか?」

「お、なかなかいいセンスしてるね!」

 案外レインにウケたので、マイカは「ふふっ」と声を出して笑った。マイカは焦ってこの世界を知ろうとするより、こうしていたほうが、円滑に事が運ぶのではないかと思えてきた。

 会話が弾んできたところで、機内のスピーカーから、サバカ支部の主任セドレット、カーラの声が聞こえてきた。マイカにとっては不快な声であるが、あの独特な口調が嫌でも耳についてしまう。

 どうやら、セドレット本部から緊急の出動要請を受けたらしい。

「2発目のパメラ・ブライズで完全に動きを止めていたらしいんだけどね。なんだか復活の兆しが見えてきたらしいのよ。そのことがどうしてかわかんないんだけど、レジデュアルの連中にバレたんですって」

 レインは「なんですって!」とわざとらしく驚いたフリをした。

「さらに厄介なことに、一部の過激派が、作戦区域になだれ込んだらしいのよね。一部といってもかなりの数らしいんだけど。とにかく、レジデュアル鎮圧にサバカ支部にも出動要請が入ったわ。」

「主任、……それで、俺は?」

「アンタは、参加しなくていいわ」とカーラは不機嫌そうに言った。「その小娘をサバカ支部に連れて行きなさい。そいつは騒ぎたいだけのアホどもとワケがちがうからね。」

 マイカは、スピーカーに向かって、ムッとした表情で舌をベッと出した。

「わかりました。任せてください。」レインはニヤリとして言った。

「しっかり頼むわよ。ただ……」

「ただ?」

「上にアンタのことを聞かれたら、アタシはアンタをかばいきれないからね!」

 カーラは強い口調で、念を押した。

「大丈夫です。俺が無理矢理手伝ったんですから。主任は何の責めを負う必要もありません。」

「もちろんそうよ!」

 通信はブチっという音がして途切れた。そして、その直後、先行していた5台はアクロバティックに機体を翻して、進行方向の反対側へと変えた。SOMMEが、根絶者イサゴージュの侵攻に応戦している要塞都市の方向だ。

「さあ、これで自由にデートができるね」

 レインはフロントガラスの隅に映し出された機体後方の映像を見て、サバカ支部のエアリアルクルーズ5台が見えなくなるのを確認して言った。

「いいの?」

「いいもなにも、このまま捕まっちゃったら、どうしようもないだろ?」

「それはそうだけど……、これからどうするの?」

 マイカがそう言うと、レインはエアリアルクルーズを徐々に減速させた。

「だから、デートさ」

 レインが振り返り、マイカの顔を見て言った。レインは相変わらずニヤニヤしていて、口元が緩んでいた。

「デートって……」

 マイカには、レインの発言が冗談なのか本気なのかよく分からなかった。マイカの表情に不安と困惑が見てとれると、レインは慌てて言い添えた。

「そんな顔しないでよ。傷つくなあ。君をあの怪物のもとまで連れて行くまでのデートだよ」

 マイカはレインのなにげない言葉に、マイカの表情はますます曇っていく。同時に、胸を締め付けられるような感覚を覚える。デートという軽い言葉に油断していた。まさかそう繋がるとは、とマイカは急に息苦しさを感じ始めた。

「ちょっと待って。私をあの怪物のところに連れていってどうするの!?」

 マイカは操縦席のシートをガシッと掴む。その手はワナワナと震えていた。それを感じとったレインは、首を少し傾げて言った。

「華麗に破壊するんだろ?あの怪物を」
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