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クワイエット・テラー
合流/発火 Ⅱ
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「前に動き出したわ!」
マイカは、根絶者から視線を逸らさず、まっすぐ見つめていた。だいぶ近くまで来て、根絶者の姿はもうかなり大きくなっていた。
「ワイヤーも全部外されちゃったね。いよいよヤバイ局面になってきたかな!」
あっけらかんとしていたレインからも、さすがに緊張感が伝わってきた。
「力はみなぎって来たかい?ヒーロー!」
レインは己自身も奮い立たせるかのようにマイカに声をかける。
「わからない!でもすごくドキドキはしてる」マイカは前方の怪物に眼差しを注ぐだけでも精一杯だった。「でもどこまで近づくの?」
「すぐそばまでさ!」
レインは細い目を見開き、歯を食いしばってハンドルを握っていた。
「手が震えている!こんな興奮することはないよ!物語なら本当にクライマックスって感じだ。主役は、MIOでもSOMMEでもなく、俺たちなんだからね!」
レインの握ったハンドルはブルブルと揺れ動いている。マイカは、根絶者がどんどんと迫ってくるにつれて、恐怖感がますます増幅していった。深淵の闇に落とされたり、体の大部分を金属にされたりしたあの悪夢が、脳裏によぎり始めた。
「こわい……」マイカは思わずそうこぼした。
「もう奴はすぐそこだ。弱音を吐いている暇はないよ!」
「ご、ごめん!」
マイカは俯きがちになっている自分に喝を入れ直した。マイカはゆっくりと会話するのがこれで最後になるだろうと思いつつ、「言ってなかったけど」とレインに話しかけた。
「私、あれに2度も殺されかけているの。」
レインは驚きの表情も少し見せたが、黙って話を聞いた。
「1度目はお姉ちゃんに助けられたんだけど、2度目は誰か分からないけどきっとこの世界の人に……」
「へえ、誰だろうな?」
「金髪のお姉さんだったらいいな」マイカは照れ臭そうに言った。
「金髪のお姉さん?」
「うん。私がこの世界に来るといつも笑顔で迎えてくれるとても綺麗な金髪の女性」マイカは少しはにかんで続けた。「もしこの世界を救うことが、その人も救うことになるなら私は力になりたい」
レインにとって、金髪の綺麗な女性にずばり当てはまる人物がひとり思い当たった。それだけに、レインは少しばかり嫉妬心を抱いた。
「そうだな。あの怪物を倒せばきっとその女性は喜んでくれるよ。俺が保証する」
レインは、その女性のことを詳しく聞く気にはなれなかった。
あっという間にイサゴージュはもう数百メートルほど先にいた。それはスピードこそ牛歩といった感じであるが、ズウン、ズウンと鼓膜を破りそうなぐらいの音を立てながら、近くの建物を押しのけるように破壊しつつ前に進んでいた。
辺りには大量の粉塵が舞っている。そのせいで少しずつ視界が悪くなる中、レインはブレーキをかけ、減速しながら近づいていった。一度、粉塵が晴れた瞬間、すぐそこに根絶者の頭部が見えた。
「ひゃっ!!」マイカは突然悲鳴のような声をあげた。「こんな近くまで来て大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ!俺は、さっきこの距離でこいつと戦ったんだよ!」レインはマイカを叱咤する。「今度こそどう!?イセリックの力は!?」
「全く!」マイカは真顔で即答した。
「なんか呪文みたいなのはないのか?」
レインは根絶者の周りを旋回し始めた。
「そんなの知らないよ!アブラカタブラとか?こんな進んだ世界に生きてて、なに古臭いこと言ってるの!」
レインは少し考えるそぶりを見せてから、不意に言った。
「1度、インレスを切ってみるか!?」
「な、な、なに馬鹿なこと言ってるのよ!」マイカは慌てて言った。
「根絶者のよどみ……いや、生の雰囲気に触れたら何か変わるかもしれないだろ?大丈夫だ!俺が支えててやるからさ!」
レインの顔はいたって真面目で、その提案はどうやら冗談ではないようだ。いったんエアリアルクルーズは粉塵の海に飛び込んでいく。
「何よ、その理屈!」マイカは何を言い出すのかと、ムキになって言い放った。
「やるのか?やらないのか?」レインはおかまいなしに、答えを迫った。
マイカはすっかりレインのペースに引き込まれ、考える暇も与えられず、ついついヤケクソになってしまった。「わかった!やるわよ!」
「よし!じゃあこの砂煙を抜けたら、インレス全解除だ!」
マイカは不本意ながらも、コクっとうなずいた。
クルーズはまもなく粉塵の海を抜けた。出た場所はまたしてもイサゴージュの頭部の正面であった。レインは後ろを振り返り、「ごめんよ!」と言ってマイカの上半身を不自然な体勢で抱きかかえた。そして、足元のペダルを2度縦、横に思い切り蹴り上げた。
マイカは吹き込んできた突風に飛ばされそうになるのをこらえるのに必死で、いきなりの抱擁に抵抗する暇もなかった。
「どう!?」
レインがマイカにしがみつきながら言う。
「どうって!何も変わらないよ!目も開けられない!」
マイカは目を思いきりつぶり、下を向いて背中を出来るだけ丸めて踏ん張っていた。
「やつはすぐそこにいるんだ!何か感じるものはないか?」
マイカはおもむろに顔をあげ、一瞬だけ頑張って目を開けてみた。実際はもっと離れているだろうが、マイカにはその迫力から、イサゴージュの頭部が、もう手が届きそうなぐらいの位置にあるように感じられた。
遠くからはイサゴージュを包む鎧のような外皮は、コンクリートのような材質を思わせたが、近くで見ると意外にも波打つぐらいブヨブヨとしていた。その気味の悪さにマイカは「ひえっ!」と短い悲鳴をあげ、のけぞった。
マイカはレインもろとも後部シートにバタンと倒れこみ、そのままインレスが解除されたドアから外に放り出された。
「マイカ!」
レインがマイカの手首を間一髪のところでしっかりと掴んだ。
「助けて!」マイカの顔は一気に青ざめた。
「大丈夫だ!がんばれ!」
レインは、男らしくない細い腕に思い切り力を入れてマイカを引っ張り上げた。マイカが後部シートにかろうじてしがみついた時には、「ゼエゼエ」と息が上がっていた。顔面蒼白になりながらも、息苦しそうに咳をするレインを見て、マイカは辛辣な言葉を言い放った。
「私そんな重くないから!しっかりしてよ!」
「力持ちってタイプじゃないのは見ればわかるだろ?」
九死に一生を得て、安心するのも束の間、操縦者のいないエアリアルクルーズはバランスを崩しながら思わぬ方向へ飛んでいく。
「ちょっと、前!前!」マイカはレインの背中をバンバンと叩く。
エアリアルクルーズはイサゴージュの側頭部へと突っ込んでいくところであった。マイカが咄嗟にレインの体を抱えて、操縦席へ押し込む。レインはその勢いのまま、ハンドルにしがみついた。
「間に合ってくれ!」
レインはペダルを再び蹴り上げて、同時にイサゴージュを避けるようにハンドルを思い切り右へ切った。
「いや、間に合わないでしょ!」
マイカがそう叫んだ通り、エアリアルクルーズはギリギリのところでイサゴージュの側頭部をこするようにぶつかった。ブヨブヨの皮膚のおかげで致命的な衝撃は抑えられたが、それでもクルーズは大きくバランスを崩し、数十メートルほど飛ばされた。
なんとかぶつかる前にレインがインレスを作動させたので、外に投げ出されることはなかったが、クルーズ内は洗濯機の状態になった。
「ふう」とレインは息をついて、操縦席の横の窪みにハマっていたところから這い上がった。「なんとか助かっね」
「何度私は死の恐怖を味合えばいいわけ……?」
マイカは後部シートに寝そべったままそうつぶやいた。
「どうだった?フロントガラス越しじゃなくて生で根絶者を見てみて!」
マイカはそう訊かれると、すぐに起き上がってレインに文句を言った。
「あんな危険な思いまでして、結局何もなかったわよ!収穫ゼロ!ひどくない!?」
「やっぱりダメか」レインはパチンと額を叩いた。
「そもそもインレスだっけ?解除しなくてよかったんじゃないの!?そもそも仕切りなんてないようなもんなんだから!」
「そんなことないよ。インレスが起動している以上は、外の空気は入ってこないんだから」
レインが落ちつき払って反論してくるので、「あぁ」とマイカはうずくまって、顔を両手で覆った。「もうどうしたらいいの?」
「そんなこの世の終わりみたいな声出さなくても」
「どうにかしないと本当に終わっちゃうんでしょ!?ほら見て!」
マイカはイサゴージュの進行方向にある、ランドマーク的存在といったような、二棟の円柱が並び立つツインタワーを指差して言った。
「このままだとあの高層ビルに突撃して行っちゃうよ!」
「あれはパラタイン・ネットワークのビャクシンタワーだ。もう避難して中に人はいないだろうけど」
「ならいいけど」マイカは少し安心した。
「いやだめだ!」レインが真顔で否定する。「俺はあそこのテレビを見て育ったんだ。なるべくなら壊したくない!ニンジャのカエル四人組が世界征服を企む悪と闘うカートゥーンが大好きなんだ」
「……だったらなんとかしないとね」マイカはため息交じりに言った。
マイカは、イサゴージュをじっと見つめた。恐怖心は依然としてあったが、いくぶんかは緩和されていた。それに、怖いなんて言っていられる状況ではなかった。自分が倒すのだ、自分が救世主だと暗示をかけつつ、全神経を集中させて、体から何かがこみあげてくるのを待った。
「あーダメだ!!」マイカは集中力がとぎれると、シートにもたれかかった。「いくら集中しても力なんて湧きあがってこない!」
「よし!」とレインは熱意がこもった声を発した。「こうなったら俺たち、あいつに向かって思い切って飛びこんでみようか!」
「はい?」レインの言動にいちいち驚いていたらキリがない。全く本気で言っているのか冗談で言っているのか分からない男だ。
「ずいぶん軽いノリで言うじゃない。それは最終手段ってことにしてくれる?」
「ソートエッジのためにマイカといっしょに死ねるなら本望だよ」
「まるで旧日本兵ね」
マイカはレインの無鉄砲な性格に呆れていると、後方になにやら気配を感じた。なんとなく後ろを振り返ってみると、マイカは一瞬固まった。
「ちょっと!後ろ!後ろ!」
マイカは、根絶者から視線を逸らさず、まっすぐ見つめていた。だいぶ近くまで来て、根絶者の姿はもうかなり大きくなっていた。
「ワイヤーも全部外されちゃったね。いよいよヤバイ局面になってきたかな!」
あっけらかんとしていたレインからも、さすがに緊張感が伝わってきた。
「力はみなぎって来たかい?ヒーロー!」
レインは己自身も奮い立たせるかのようにマイカに声をかける。
「わからない!でもすごくドキドキはしてる」マイカは前方の怪物に眼差しを注ぐだけでも精一杯だった。「でもどこまで近づくの?」
「すぐそばまでさ!」
レインは細い目を見開き、歯を食いしばってハンドルを握っていた。
「手が震えている!こんな興奮することはないよ!物語なら本当にクライマックスって感じだ。主役は、MIOでもSOMMEでもなく、俺たちなんだからね!」
レインの握ったハンドルはブルブルと揺れ動いている。マイカは、根絶者がどんどんと迫ってくるにつれて、恐怖感がますます増幅していった。深淵の闇に落とされたり、体の大部分を金属にされたりしたあの悪夢が、脳裏によぎり始めた。
「こわい……」マイカは思わずそうこぼした。
「もう奴はすぐそこだ。弱音を吐いている暇はないよ!」
「ご、ごめん!」
マイカは俯きがちになっている自分に喝を入れ直した。マイカはゆっくりと会話するのがこれで最後になるだろうと思いつつ、「言ってなかったけど」とレインに話しかけた。
「私、あれに2度も殺されかけているの。」
レインは驚きの表情も少し見せたが、黙って話を聞いた。
「1度目はお姉ちゃんに助けられたんだけど、2度目は誰か分からないけどきっとこの世界の人に……」
「へえ、誰だろうな?」
「金髪のお姉さんだったらいいな」マイカは照れ臭そうに言った。
「金髪のお姉さん?」
「うん。私がこの世界に来るといつも笑顔で迎えてくれるとても綺麗な金髪の女性」マイカは少しはにかんで続けた。「もしこの世界を救うことが、その人も救うことになるなら私は力になりたい」
レインにとって、金髪の綺麗な女性にずばり当てはまる人物がひとり思い当たった。それだけに、レインは少しばかり嫉妬心を抱いた。
「そうだな。あの怪物を倒せばきっとその女性は喜んでくれるよ。俺が保証する」
レインは、その女性のことを詳しく聞く気にはなれなかった。
あっという間にイサゴージュはもう数百メートルほど先にいた。それはスピードこそ牛歩といった感じであるが、ズウン、ズウンと鼓膜を破りそうなぐらいの音を立てながら、近くの建物を押しのけるように破壊しつつ前に進んでいた。
辺りには大量の粉塵が舞っている。そのせいで少しずつ視界が悪くなる中、レインはブレーキをかけ、減速しながら近づいていった。一度、粉塵が晴れた瞬間、すぐそこに根絶者の頭部が見えた。
「ひゃっ!!」マイカは突然悲鳴のような声をあげた。「こんな近くまで来て大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ!俺は、さっきこの距離でこいつと戦ったんだよ!」レインはマイカを叱咤する。「今度こそどう!?イセリックの力は!?」
「全く!」マイカは真顔で即答した。
「なんか呪文みたいなのはないのか?」
レインは根絶者の周りを旋回し始めた。
「そんなの知らないよ!アブラカタブラとか?こんな進んだ世界に生きてて、なに古臭いこと言ってるの!」
レインは少し考えるそぶりを見せてから、不意に言った。
「1度、インレスを切ってみるか!?」
「な、な、なに馬鹿なこと言ってるのよ!」マイカは慌てて言った。
「根絶者のよどみ……いや、生の雰囲気に触れたら何か変わるかもしれないだろ?大丈夫だ!俺が支えててやるからさ!」
レインの顔はいたって真面目で、その提案はどうやら冗談ではないようだ。いったんエアリアルクルーズは粉塵の海に飛び込んでいく。
「何よ、その理屈!」マイカは何を言い出すのかと、ムキになって言い放った。
「やるのか?やらないのか?」レインはおかまいなしに、答えを迫った。
マイカはすっかりレインのペースに引き込まれ、考える暇も与えられず、ついついヤケクソになってしまった。「わかった!やるわよ!」
「よし!じゃあこの砂煙を抜けたら、インレス全解除だ!」
マイカは不本意ながらも、コクっとうなずいた。
クルーズはまもなく粉塵の海を抜けた。出た場所はまたしてもイサゴージュの頭部の正面であった。レインは後ろを振り返り、「ごめんよ!」と言ってマイカの上半身を不自然な体勢で抱きかかえた。そして、足元のペダルを2度縦、横に思い切り蹴り上げた。
マイカは吹き込んできた突風に飛ばされそうになるのをこらえるのに必死で、いきなりの抱擁に抵抗する暇もなかった。
「どう!?」
レインがマイカにしがみつきながら言う。
「どうって!何も変わらないよ!目も開けられない!」
マイカは目を思いきりつぶり、下を向いて背中を出来るだけ丸めて踏ん張っていた。
「やつはすぐそこにいるんだ!何か感じるものはないか?」
マイカはおもむろに顔をあげ、一瞬だけ頑張って目を開けてみた。実際はもっと離れているだろうが、マイカにはその迫力から、イサゴージュの頭部が、もう手が届きそうなぐらいの位置にあるように感じられた。
遠くからはイサゴージュを包む鎧のような外皮は、コンクリートのような材質を思わせたが、近くで見ると意外にも波打つぐらいブヨブヨとしていた。その気味の悪さにマイカは「ひえっ!」と短い悲鳴をあげ、のけぞった。
マイカはレインもろとも後部シートにバタンと倒れこみ、そのままインレスが解除されたドアから外に放り出された。
「マイカ!」
レインがマイカの手首を間一髪のところでしっかりと掴んだ。
「助けて!」マイカの顔は一気に青ざめた。
「大丈夫だ!がんばれ!」
レインは、男らしくない細い腕に思い切り力を入れてマイカを引っ張り上げた。マイカが後部シートにかろうじてしがみついた時には、「ゼエゼエ」と息が上がっていた。顔面蒼白になりながらも、息苦しそうに咳をするレインを見て、マイカは辛辣な言葉を言い放った。
「私そんな重くないから!しっかりしてよ!」
「力持ちってタイプじゃないのは見ればわかるだろ?」
九死に一生を得て、安心するのも束の間、操縦者のいないエアリアルクルーズはバランスを崩しながら思わぬ方向へ飛んでいく。
「ちょっと、前!前!」マイカはレインの背中をバンバンと叩く。
エアリアルクルーズはイサゴージュの側頭部へと突っ込んでいくところであった。マイカが咄嗟にレインの体を抱えて、操縦席へ押し込む。レインはその勢いのまま、ハンドルにしがみついた。
「間に合ってくれ!」
レインはペダルを再び蹴り上げて、同時にイサゴージュを避けるようにハンドルを思い切り右へ切った。
「いや、間に合わないでしょ!」
マイカがそう叫んだ通り、エアリアルクルーズはギリギリのところでイサゴージュの側頭部をこするようにぶつかった。ブヨブヨの皮膚のおかげで致命的な衝撃は抑えられたが、それでもクルーズは大きくバランスを崩し、数十メートルほど飛ばされた。
なんとかぶつかる前にレインがインレスを作動させたので、外に投げ出されることはなかったが、クルーズ内は洗濯機の状態になった。
「ふう」とレインは息をついて、操縦席の横の窪みにハマっていたところから這い上がった。「なんとか助かっね」
「何度私は死の恐怖を味合えばいいわけ……?」
マイカは後部シートに寝そべったままそうつぶやいた。
「どうだった?フロントガラス越しじゃなくて生で根絶者を見てみて!」
マイカはそう訊かれると、すぐに起き上がってレインに文句を言った。
「あんな危険な思いまでして、結局何もなかったわよ!収穫ゼロ!ひどくない!?」
「やっぱりダメか」レインはパチンと額を叩いた。
「そもそもインレスだっけ?解除しなくてよかったんじゃないの!?そもそも仕切りなんてないようなもんなんだから!」
「そんなことないよ。インレスが起動している以上は、外の空気は入ってこないんだから」
レインが落ちつき払って反論してくるので、「あぁ」とマイカはうずくまって、顔を両手で覆った。「もうどうしたらいいの?」
「そんなこの世の終わりみたいな声出さなくても」
「どうにかしないと本当に終わっちゃうんでしょ!?ほら見て!」
マイカはイサゴージュの進行方向にある、ランドマーク的存在といったような、二棟の円柱が並び立つツインタワーを指差して言った。
「このままだとあの高層ビルに突撃して行っちゃうよ!」
「あれはパラタイン・ネットワークのビャクシンタワーだ。もう避難して中に人はいないだろうけど」
「ならいいけど」マイカは少し安心した。
「いやだめだ!」レインが真顔で否定する。「俺はあそこのテレビを見て育ったんだ。なるべくなら壊したくない!ニンジャのカエル四人組が世界征服を企む悪と闘うカートゥーンが大好きなんだ」
「……だったらなんとかしないとね」マイカはため息交じりに言った。
マイカは、イサゴージュをじっと見つめた。恐怖心は依然としてあったが、いくぶんかは緩和されていた。それに、怖いなんて言っていられる状況ではなかった。自分が倒すのだ、自分が救世主だと暗示をかけつつ、全神経を集中させて、体から何かがこみあげてくるのを待った。
「あーダメだ!!」マイカは集中力がとぎれると、シートにもたれかかった。「いくら集中しても力なんて湧きあがってこない!」
「よし!」とレインは熱意がこもった声を発した。「こうなったら俺たち、あいつに向かって思い切って飛びこんでみようか!」
「はい?」レインの言動にいちいち驚いていたらキリがない。全く本気で言っているのか冗談で言っているのか分からない男だ。
「ずいぶん軽いノリで言うじゃない。それは最終手段ってことにしてくれる?」
「ソートエッジのためにマイカといっしょに死ねるなら本望だよ」
「まるで旧日本兵ね」
マイカはレインの無鉄砲な性格に呆れていると、後方になにやら気配を感じた。なんとなく後ろを振り返ってみると、マイカは一瞬固まった。
「ちょっと!後ろ!後ろ!」
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