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星降る世界とお嬢様編

31.お嬢様と反乱の理由

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 ファルシア王国、東の要。
 ルーランド砦は朝から大混乱に陥っていた。

「うわぁっと。クレナ、起きてた?」
「うわ、シュトレ様?」

 私が部屋の扉を開けたのと。
 シュトレ王子が部屋をノックしようとしたのが同時だったみたいで。

 前のめりによろけたシュトレ様を慌てて受け止めようとして。
 そのまま二人で倒れ込んだ。
 
 頬にシュトレ様の金髪が触れて。
 大好きな……彼の匂いを感じた。

「ご、ごめん」
「ううん、こちらこそ」

 二人で顔を見合わせる。
 なんだか、まるでマンガみたい。

 思わず笑みがこぼれる。

「ホントに……朝から息がぴったりな夫婦ですねー」
「顔真っ赤にして見つめあってるから、チューでもするのかとおもったぜ!」
 
 ソファーの裏側から声が聞こえる。
 よく見ると。
 ドラゴン二人が、赤と白の頭をひょこひょこ動かしている。
 いつの間に起きたんだろ。 

「そこ! 見えてるし聞こえてるからね!?」

 二人は慌ててソファーの裏に隠れた。

 ……ええと。
 そんなことしてる場合じゃないんだった。

「シュトレ様! 外の様子は見ました?!」
「ああ……どうなってるんだ、あれ……」

 ……なんで。
 セントワーグ領軍の飛空船が、帝国の旗を。
 あれじゃまるで……裏切ったみたいな……。
 
「ファルシア王国に騎士たちに告げます。直ちに降伏しなさい! 砦の制空権は我々が制圧しましたわ!」

 帝国旗を掲げた飛空船から大きな声が聞こえてくる。

 私は足の力が抜けてしまって。
 思わずシュトレ王子に抱きつく形になった。
 
 王子は、私を抱きしめながら、悔しそうに窓の外を眺めている。

 ――なんで?

 うそだ。
 うそだよ。

 だって、今のは……リリーちゃんの声だ。


**********

「強行突破よ! あれくらいの数、何とか出来るわよ!」

 ジェラちゃんが大きな声で叫んで、机を叩いた。

 私たちは砦の中で作戦会議を開いている。
 上空にいる飛空船……リリーちゃんから与えられた時間は一時間。

 その間に、降伏するのか、戦うのか決めないといけない。
 彼女の出した条件は三つ。

 降伏して、この砦を放棄すること。
 飛空船のうち軍艦は置いていくこと。
 魔星鎧スターアーマー も放棄すること。

 王族であるシュトレ王子やジェラちゃん、ガトーくん。
 あ、一応私もだけど。
 人質にとったりはしないみたい。

 ……リリーちゃん……何が目的なんだろう。

「確かに。どうやらセントワーグ領軍すべてが敵に回ったわけじゃないようだし。戦えばすぐに勝てそうだよね」

 ガトーくんが片手を額にあてて、窓の外をまぶしいそうに覗く。 

 上空に浮かんでいる飛空船の数は思ったよりも少なくて。
 セントワーグ領軍の半分もいないみたい。

「ねぇ、落ち着いて考えよう? リリーちゃんが、なんの目的もなくこんなことをするなんて考えられないよ……」

 私はなるべく笑顔で。
 部屋にいる全員を説得するように見渡した。

「アンタ、何言ってるの? 帝国旗をかかげて降伏勧告してきてるのよ?」
「うん、それはわかってるんだけど。でも、あの数で反乱なんて不自然だよね?」
 
 いくら飛空船で上空を抑えたからっていっても。
 あの数だけだったら……ガトーくんの言う通りすぐ勝てると思う。

 でも……そんなことリリーちゃんだってわかってるはず。

 どうしても。
 どうしても。

 リリーちゃん、貴女の意図が読めないよ……。

「もともと、リリアナはゲームで王家に反乱をおこす設定だったわ。だからゲームのキャラなんて……」
「ジェラちゃん!」

 私はジェラちゃんに詰め寄った。

「な、なによ。間違ったことは言ってないわよ!」

 ジェラちゃん。
 だったら……なんで。
 なんでそんなに目に涙をためて泣きそうな顔をしてるの?

「お姉ちゃん、私、あのリリアナさんが裏切るなんて信じられないんです……」
「うん……私もだよ……」
 
 ナナミちゃんが泣きそうな顔で私に抱きついてきた。

 そうだよ。
 キナコのいう影がもし影響してたとしても。
 それでも。
 リリーちゃんが私たちを裏切るなんて……やっぱりどう考えても。
 
 絶対ないよ!


「あのね。こういうのはどうかな。今から私がストップでリリーちゃんと直接話してくるから……」
「それは無理ですよ、ご主人様」

 キナコが大きなため息をつく。
 すぐ横ではだいふくもちがうなずいている。

「なんで? それが一番確実だと思うけど。大丈夫、これでも子供の頃からの親友同士なんだから!」
「そういうことじゃないんですよ……」
「じゃあどうして?」

 キナコは水色の綺麗な瞳でまっすぐ見つめてくる。
 いつもの子供のようなにこにこした表情はまったくなくて。
 すごく真剣な雰囲気。
 
「昨日……二回ストップの魔法を使いましたよね? すごく魔力を使ったはずです」
「うん。二回目の時は魔力酔いしたけど……」

「いくらご主人様でも……一晩で回復したりしません。おそらく今日はストップ使えませんよ」

 言われてみれば。
 今まで一日二回もストップの魔法を使ったことなんてなかった。
 それじゃあ、今の私はどれくらい魔力が残ってるんだろう。

 ……ゲームだったら……ステータスで魔力の量がわかるのに。

 ……。

 ………。

 あれ? 待って。

 急に、すごく嫌な想像が頭をよぎった。

 サキさんは、私の魔法を止める方法はほとんどないって言っていた。
 じゃあ……今の状況は?
 漠然とした不安な予感が、まるで洪水のように押し寄せてくる。

 もし一連のすべての動きが、帝国の……ううん、由衣やサキさんの計算通りだったとしたら?

「いやでも。まさか……」

 シュトレ王子も気づいたみたいで。
 青ざめた顔をしている。

「すぐに、空は無視して砦の防衛を固めるんだ!」
「兄上、どうしたんですか、急に!」
「お兄様? 降伏勧告はどうすのよ?」
「ジェラちゃん、それ時間稼ぎだと思う! 多分帝国軍が来るよ!」

 シュトレ様は、部屋を飛び出すと、周囲の兵士に指示をおくる。
 私も、外に控えていたクレイにお父様への伝言をお願いした。

 セントワーグ領軍……リリーちゃんの意味のなさそうな反乱は。
 帝国軍が砦を包囲するための時間稼ぎと。 


 私がまだストップの魔法を使えるかどうか……試すためだ。

 ――リリーちゃん。

 なんで?
 なんでなの?  

 
「なぁんだ、もう気づいちゃったの? でも遅かったみたいね」

 砦に大きな声で指示が飛び交う中。

 突然。
 
 上空に、背中に大きな翼を生やしたたくさんの影が出現した。
 
 影の中心に、豪華な椅子に座っている銀髪の少女がいて。
 その周囲を魔人が支えている。


「ずっと待ってた。迎えにきたわ、お姉ちゃん!」
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