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星降る世界とお嬢様編

32.お嬢様とアイゼンラット帝国

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「くそっ! 上空を抑えられたうえに、いつのまにか砦の周囲を囲まれたみたいだ!」

 次々に入ってくる伝令からの報告に、シュトレ王子の顔がゆがむ。
 
 上空に魔人たちとセントワーグ領軍の飛空船。
 ルーランド砦の周りには、すでに帝国軍の旗が無数にひるがえっているらしい。

 やっぱりリリーちゃんは本当に裏切って……。

 そんなはず。
 ないよ、うん……ない。
 だって……あのリリーちゃんだよ?
 転生してこの世界にきたときからの、ずっと大切な大親友。
 私の天使だよ?

「ねぇ、きこえてるんでしょ? お姉ちゃん出てきてよ。助けに来たよー?」

 砦に、由衣の声が響き渡る。
 
 ……助けに来たって……なに?

 あの子が何考えてるのかわからないけど。
 もし、リリーちゃんを巻き込んだんだったら……ゆるさないから!

「ちょっと、もしかして一人で行くつもりじゃないでしょうね?」
「いくら、前世の妹さんでも、危険じゃないかな?」

 由衣の元に行こうとしたら、ジェラちゃんとガトーくんに手をつかまれた。

「放してよ! 妹のイタズラは私が止めないと!」
「クレナちゃん。これイタズラっていうレベルじゃないだろ」
「だから、私が説得してくるから!」

 わかってる。
 今の由衣は、アイゼンラット帝国の第一皇女。
 私が彼女の立場だったら。
 
 ううん、由衣だけじゃなくて。
 サキさんのように、帝国の魔人に転生したとしたら……。

 乙女ゲーム『ファルシアの星乙女』のラスイベ。
 帝国が滅びて。
 ファルシア王国だけが幸せになる物語を変えたいと……思うよね。

 でも……でもね。
 その先にあるのは。
 ゲームと同じように……世界の滅亡かもしれないのに!

「……行ってくるよ。絶対にゲームのバッドエンドにはしないから!」
「ダメだ! 行かせない!」

 私の前に、シュトレ様が立ちふさがった。

「……停戦の使者をたてる。相手は第一皇女なんだろ。こちらの話くらいは聞いてくるはずだ……」
「……停戦ですか?」

 普通の皇女だったら、そうなんだろうけど。

 ……あの子わがままだから。
 聞いてくれるだろうか。


**********
 
 いつのまにか、砦の中央広場付近に大きなテントが設置されていて。
 周囲に帝国の旗がひるがえっている。

「うわぁ、星乙女とそのご一行だね。私の事覚えてる?」

 ひょこっと、赤髪の少女が目の前に現れた
 ショートヘアの髪。
 やや吊り上がった目。
 ちょっとだけボーイッシュなカワイイ女の子。

「生徒会の交流会でお会いしましたよね?」
「覚えてたんだ。嬉しいー。案内役をまかされたからさ、よろしくー!」

 人懐っこい笑顔で手をさしのべてくる。
 
「こちらこそ。アリア様への面会を許可頂きましてありがとうございます」
「あはは。そんなにかしこまらなくても平気平気。同じ転生者同士、仲良くやろうよー」
 
 名前は確か……カレンさん、だったと思う。
 サキさんもだけど。
 魔人の人達って、前世の名前をそのまま使ってるのかな?
 
 
 帝国側は使者を受け入れてくれて。
 いったん停戦ってことになった。

 由衣の性格だったら。
 あのまま、降伏勧告でも不思議じゃなかったのに。
 ……なんでだろう。

「クレナ大丈夫だよ。何があって守るから」

 隣を歩いていたシュトレ王子が、私を抱き寄せてそっとつぶやく。
 よくみたら、耳が真っ赤だ。

「ありがとう……シュトレ様」

「あはは、ラブラブなんだね。二人とも」
 
 シュトレ王子のすぐ後ろにカレンさんのニヤニヤした顔があった。
 あれ?
 さっきまで案内で先頭を歩いてたよね?

「不思議だよねー。クレナってさ、ゲームだと男だし脇役みたいなキャラだったじゃん?」
「ええ、ゲームだとそうですね」
「いやだなぁ、敬語じゃなくていいってば」
「う、うん」

 表情がころころ変わる。
 なんか、ネコみたい子だなぁ。

「まぁ、確かにクレナってカッコよかったけどね。リリアナを庇って死ぬシーンとか最高に萌えよ!」
「あーなんだか、ジェラちゃんが同じようなことを言ってた気がする……」
「ちょっと、アンタ何言ってるのよ!」
 
 ジェラちゃんが駆け寄ってきて、後ろから私の口をふさいだ。

「ジェラもさ、ゲームだと大人しい女の子なのに。なんか面白いよねー」
「私は全然おもしろくないわよ! いいから早く案内してよね!」
「ゲームの話でしょ。あー……そういうことね。いいんじゃない、理解あるわよ私」

 カレンさんは、興奮気味に私と真っ赤な顔のジェラちゃんを見比べている。
 理解って……え?

「ちがうから。ジェラちゃんとは親友どうしで」
「ちがわないわよ……バカ……」

 ジェラちゃんは、うつむきながら私の腕にもたれかかる。
 それを見たカレンさんは嬉しそうに悲鳴を上げた。

「ちょっと……オレの妹と婚約者様は、一体何をしてるのかな?」

 ああ……あんまり表情かわってないけど。
 怒ってるよ、これ。

 最近ブラックシュトレの登場が多すぎるよね?! 

「あはは。なんかよくわかんないけど、主人公側も楽しそうだね」

 カレンさんはおなかを抱えて笑っている。
 楽しそうっていうか。
 
 ……助けて欲しいんですけど! 


**********
 
 停戦中に、由衣……アリア様のいるテントに案内されたのは。

 私のほかに。

 シュトレ様。
 ジェラちゃん。
 ガトーくん。
 ナナミちゃん。
 あと、キナコとだいふくもち。 

 昨日、アリア様の部屋にいたメンバーだ。
 リリーちゃんはいないけど……。

 ぎゅっと手を握しりめる。
 大丈夫……リリーちゃん……。
 何か反乱のも事情があるんだよね……。
 影になんて負けてないよね……。


「おーい、連れていたよー!」

 カレンさんが豪華なテントの布をめくると。

 金色の長い髪の少女と、銀髪の少女が抱き合っていた。
 
「うふふ、よくやったわ、リリアナ。少しは使えるじゃない」
「アリアちゃんの為ですから。頑張りましたわ!」
 
 金髪の少女は、嬉しそうに頬を染めている。
 
 ……え? 
 由衣と……リリーちゃんだよね?

「あら、ちょうどよかったわ。お姉ちゃんおかえりなさい!」

 私たちの姿をみつけた由衣が、リリーちゃんを両手で押しのけて近づいてきた。
 リリーちゃんは、うらめしそうにこちらを睨んでいる。
 
 何、今の……。
 どういうことなの。
 私は、由衣の肩をつかむと思わず大声で叫んだ。
    
「由衣! リリーちゃんに何をしたのよ!」

 次の瞬間。
 魔法の枝が次々に私の身体に巻き付いてきた。
 
 これ……リリーちゃんの魔法だ。

「貴女こそ、アリアちゃんに何をするんですか!」

 リリーちゃんが私に魔法を?
 ウソ……なんで。

「大丈夫よ、リリアナ。じっとしてなさい!」
「アリアちゃんが言うなら……従いますけど……」

 不満そうにうつむくリリーちゃんが手を伸ばすと。 
 魔法の木の枝は、しゅるしゅると地面に消えていく。
 
 呆然と立ちつくす私に、由衣が嬉しそうに耳元でささやいた。

「彼女の記憶をね、少しだけいじったの。お姉ちゃんと私を入れ替えておいたわ」
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