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17.魔王軍は侵攻したい

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<<魔王目線>>

「わっはっはー、わっはっはー。俺たち魔王軍!」
「声が小さい! 大きな声でもっと堂々と!」
「わっはっはー、わっはっはー。俺たち魔王軍!!」

 魔王城に魔物たちの威勢の良い声が響き渡る。

「いかがでしょう、魔王様?」
「いや……いかがといわれても……なぁ……」

 オレは壇上にある玉座に座って、部下である魔物たちを眺めていた。
 大きな鎧に巨大な槍をもった集団が、武器を上にかざしながら声を張り上げている。
 胸には、魔王軍直属の精鋭部隊のマーク。
 一糸乱れぬ動きは、さすが選ばれしエリート集団だけど。

 ……なにこのシュールな風景。

「わが軍の勇壮な姿の前に、人間どもは恐れひれ伏すでしょうな!」

 側近の一人が、満足そうにうなずいてる。

「……恐れひれ伏す前に、笑い転げるんじゃないか?」
「なにかおっしゃいましたかな?」
「いや、なんでもない……ぞ」

 いやいや。
 何の冗談だよこれ。

「偉大なる魔王様、勇壮な精鋭たちになにかお言葉を!」

 もう一人の側近が、興奮しながら話しかけてくる。
 なんでこのタイミングで、オレに話を振るかなぁ。
 なかなか楽しい宴会芸だったよ……なんていえないんだけど?
 
「ごくろう!」

 笑い声に気づかれないように、口元を押さえながら短く答えた。

「おおお……」
「な、なんと……」 
 
 まずい、なにか長いセリフを言った方がよかった?
 
「ありがたいお言葉……さすが我らが主!」
「うぉぉ、魔王様に栄光あれ!」
「魔王様、一生ついていくっす!」

 屈強な戦士たちは、雄たけびをあげながら泣きはじめる。
 
 いやいやいや。
 どうすればいいんだよ、コレ。

 オレは両手で口元を押さえて笑いをこらえている。

 ――これ、コントですか?
 ――魔物コント大会ですか?

 
「魔王様、失礼します!」

 突然、正面の大きな扉が開いて、戦士が飛び込んで来た。
 背中には伝令の大きなドクロの旗がひるがえっている。

「貴様、今、大事な軍議の最中だぞ!」

 側近が大きな声で、伝令を怒鳴りつけた。

 ……軍議? 
 
 いやいやいや。
 ごつい魔物の集団が芸をやってただけだよね?
 
「よい、申してみよ……」

 オレは伝令に声をかける。
 いやぁ、彼のおかげで助かったよ。あのままだと笑い転げて玉座からずり落ちそうだったからね。
 あとでこっそり褒美をとらせよう。

「はっ。ありがたき幸せ。先ほど四天王の一人、水の魔性メルクル様が、ハファルル王国を攻め滅ぼしました!」

「おおお!」
「なんと、さすがは四天王の紅一点!」

 謁見の間にどよめきがおきる。
 
 はて? メルクルは、なんでハファルルなんて攻め落としたんだ?
 あの国に戦略的な意味なんてないと思うんだけど。

「なぁ、我はハファルル攻略を命じた覚えはないのだが……」
「何をおっしゃいますか!」
「魔王様、ハファルルの温泉に入りたいとおっしゃられていましたよね?」

 側近たちは、嬉しそうにオレを見つめてくる。
 
 あー……いったな。いったよ。
 そろそろ寒くなってきたし、温泉に入りたかったからね。
 ハファルル王国は温泉の観光がうりだからね。

 ……。

 …………。

 いや、なに滅ぼしてくれちゃってるの?!
 普通に旅行に行きたかっただけなんだけど!

「さらに、続けて申し上げます! 火の魔性ファードラ様が、ウラヤシス王国を占領されました!」

「おおおお!」
「さすがは四天王筆頭!」
「向かうところ敵無しですな!」

「なぁ、聞いておきたいのだが……ウラヤシスを攻めろといったのも、我なのか?」
「もちろんでございますとも!」
「あの国の遊園地なる娯楽施設を思う存分堪能されたいとおっしゃいましたよね?」

 ……。

 ………。 

 ああ、いったさ、いったよ!
 アトラクション並ぶ時間が長かったからね!
 四天王との遊園地旅行……ではなくて敵情視察のときだよね!

 だれも占領しろとは……。

「さらにさらに申し上げます! 風の魔性ウィンザ様と土の魔性ドルドルト様が……」
「いや、もうよい。報告ご苦労であった」
「はっ。ありがたき幸せ!」

 伝令の兵士は大きく平伏すると、背中の旗が地面に思い切りぶつかった。
 
 ぷぷぷ……やばい、そう来たか!
 そういうオチでしたか!
 さすがコント大会。

 オレは玉座によりかかって、必死に笑いを耐えた。

「おお、魔王様があんなにお喜びに!」
「さすがは四天王の皆様!」
「われらも、魔王様のご期待に応えねば!」

 ――ダメだ。
 話題を変えよう。
 このままだとみんなの前で笑い転げてしまいそうだ。
 そんなことになったら……オレの魔王としての威厳が無くなってしまう。

「こほん。して、人間どもに現れた『勇者』とやらは、その後どうした?」
「ご安心ください。魔王様」

 魔王軍親衛隊の隊長が、一歩前に歩み出て頭を下げた。

「我が友、先遣隊長グラッフェルが討伐に向かいました。まもなく吉報が入るかと」

「おおお!」
「なんと、グラッフェル様、自ら出向かれたのか!」
「人間の勇者など、ひとたまりもありますまい」

 なるほど。これはナイスな判断だね。
 勇者が育つ前にいきなり強い幹部で倒す。

 すべての悪の組織に教えてあげたいくらいだ。

「あいわかった。グラッフェルの手にかかれば、勇者など空き缶のようにひとひねりであろうな!」
「ははーっ。……偉大なる魔王様、してその『アキカン』とはいかなるものでしょうか?」

「うむ……。そのなんだ。とにかくひとひねりなのだ!」
「おおおお!」
「さすがは魔王様だ! 未知の言葉を操られる!」

「それでは、我ら魔王軍の勝利を願って、お前たちいくぞ!」
「おおおお!」

 親衛隊長の言葉に、魔物たちが怒号のような雄たけびを上げえる。 

「わっはっはー、わっはっはー。俺たち魔王軍! はっ!」
「魔王様にささげるのだぞ! もっとリズミカルに、誠意をこめて!」
「わっはっはー、わっはっはー。俺たち魔王軍!! はっ!!」


 魔王城の軍議は……翌朝みんなが倒れるまで続いた……。
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