勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫

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18.追放テイマーとネコのバッジ

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 ネコのマークの運送ギルド。
 今は朝早い時間なんだけど、ギルドの建物内はたくさんの人でにぎわっている。

 輸送隊の出発って、朝が多いからね。

「ふーん、ついにパーティー組むのね?」
「うん。ついにっていうのが、分からないけど?」
「ほら、アンタいつも隣街くらいしか輸送にいかないじゃない? 遠出するってなったら人数が必要だからね」
「そうなの?」
「ええ。遠距離に行く人は、固定パーティーを組んでるわ」

 運送ギルドの受付をしてるリサが、嬉しそうカウンターから身を乗り出す。
 彼女の長い黒髪がゆれて、優しい匂いがした。
 
「で。一体誰と組むのよ? あー、ギルドの仕事が無かったら大親友の私が入ってあげたのに!」
「あはは、ありがとう」

 リサはカウンターに頬杖をつきながら、書類を眺める。

「えーと、なになに。アンタと、ベールさん……やっぱり彼となんだ。あー、ギルドの仕事さえなければ……」

 彼女は顔の前で手を組むと、うっとり天井を見上げた。
 よく見ると目がハートになっている。
 あー、それでウチのパーティーに入りたかったのね。

 ちょっと。そこの大親友……。

「で、えーと。うそ……このアレスって……まさか賢者アレス様?」
「うん、その賢者アレス様」
「ちょっと! なんで勇者パーティー抜けてアンタのところ入ろうとしてるのよ!」
「うーん、なんでだろう?」

 私は唇に人差し指を押し当てて、考える仕草をした。

「使命よりも、この村が気に入ってしまったとか言ってたけど、何が気に入ったんだろうねぇ」
「この村で気に入ったって……ああ、そういことね」

 リサがニヤニヤしながら私を見つめてくる。
 なにがわかったんだろう?

「え、リサ何か知ってるの?」
「はぁ……アンタってホントに昔から鈍すぎよね……。その容姿とか元勇者パーティーとかさぁ……」
「なにそれ、意味わからないんだけど?」  

「それだけカワイイ顔してなにいってるのよ!」

 彼女は私のほっぺたを引っ張ってきた。

「ひょっふぉ、やめひぇひょ!」
「柔らかくて気持ちいい。やっぱりこれ落ち着くわぁ。んで、あとはミルフィナさんね……」

「人の顔で遊ばないでよね、もう!」

 頬を押さえながら、リサを睨む。
 
 ……あれ?
 ……なんか彼女の動きが固まってない? 

「……ねぇ、まさかとは思うけどさ……ミルフィナってミルフィナ王女じゃなわいよね?」
「えーと。あはは、本人なんだけど……」
「はぁぁぁ?」

 やっぱり、そうなるよね?

「彼女ね、身分を隠して仕事するのはイヤなんだって」
「いや、どこの世界に運送ギルドで働く王族がいるのよ!」

 ほらぁ……。
 王子様、言われてますよー?
 普通はこんな反応なんですよー?

「ちょっと待ってて、上の人間に話してくるから!」
「うん、ごめんね。リサ」
「……いいわよ。まぁ、なんだかアンタらしいわ」

 彼女は、後ろ姿で手をヒラヒラさせながら階段を登っていった。

「ふぅ」

 ベリル王子みたいに偽名でもよかったんだけど、本人がどうしてもって強く要望したから。
 ううん。
 よく考えたら、ベールも通らないんじゃなかな。
 そんな従兄、本当は存在しないし。

 ……狭い村だから、ちょっと確認したらすぐわかるよね?
  

 しばらくカウンターでぼーっと待っていたら、リサが慌てた表情で降りてきた。
 すぐ後ろには背の高いちょびヒゲの男の人がついてくる。

 私は、胸についている金色のバッジに目を奪われた。
 リボンのついたプレゼント箱の横に、同じリボンをつけたネコがぴったりくっついている。
 なにあの可愛いデザイン!

 ギルドで売ってるのかな? 期間限定ギルドバッジみたいな……。
 あとでリサに聞いてみよっと。

「……ちょっと、ショコラ聞いてる? ギルドマスターが話があるって」
「え?」
「こうして直接お話するのは初めてですね、ショコラさん。フォルト村運送ギルドマスターのフェイです」

 この背の高いちょびヒゲさん、たまにギルドの建物で見かけるなって思ってたけど。
 ここのギルドマスターだったんだ。

「失礼ですが、メンバーの方を全員お呼び頂いてもよろしいですか? 少しお話させてください」

 ギルドマスターさんは、嬉しそうにニコニコわらっている。
 
 怒ってるわけじゃなさそうだけど。
 えーと。

 ……。

 …………。

 結成前なのに、いきなりギルドマスターから呼び出しされてるんですけど!?


**********

<<勇者目線>> 
  

「勇者様に、直撃インタビューのコーナー!」

 オレは、北の大森林の街で勇者新聞の記者からインタビューを受けている。
 
 ……病院のベッドの上で。

「北の大森林での戦いは、勇者様がお倒れになるくらい大変だったみたいですね。どんな相手だったんですか?」

 オレは、インタビュアーの女性記者の胸元に注目する。
 ……すごいな。
 是非一度、魔物より彼女にお相手してもらいたい。

「まぁ、すごい数の魔物が潜んでたんだ。全部倒したから安心してよ!」
「やはり天啓を受けた勇者さまですね。素晴らしいですわ!」

 ふっ、さっそくオレに惚れたな。
 オレはゆっくりと彼女に手を伸ばす。

「ハイ! それでは次の質問です」

 ……おい。今避けられなかったか?
 ……オレの手をかわさなかったか?

 気のせいだよな?
 なにせオレはこの世界に選ばれた転生勇者なんだぜ!

「メンバーの一人、ショコラさんが抜けられましたが、なにかあったのでしょうか?」
「ここから先、大変な戦いになりそうだったからさ。怪我をさせたくなかったんだ……」
「なんてお優しい……」

 今度こそ!
 オレは彼女に抱きつこうと、そっと両手を伸ばす。

「次の質問です。それでは、新しいメンバーを増やしたりはしないのですか?」

 避けた!
 明らかに避けたよな!

 くそう、この女。
 まてよ……。
 これは彼女のじらしプレイというやつじゃないのか?

 ふふふ、可愛い奴め。

「今度、料理人と荷物持ちを数名募集する予定です。新聞記事を見ているそこの君! 一緒に魔王を倒さないか!」

 オレは髪をさっとかきあげた。

 ――決まった。
 
 かっこいい。
 かっこよすぎだろう、オレ。
 
「まぁ。とても素晴らしいですね! あれ? でも……でしたら……」
「どうしました、美しいお嬢さん!」
「ショコラさんに抜けて頂いた理由と矛盾しませんか?」

 可愛らしく首をかしげるインタビュアーの女性記者。
 
「ちょっと、入るわよ!」

 突然、大きな音立てて扉が開く。
 オレの最有力嫁候補、金髪ロりっ子魔法使い、ダリアだ。

「バカ。インタビュー中は入ってくるなって言ってあっただろうが!」
「バカはどっちよ。インタビューより先に、森でボロボロにされたグラッフェルとかいうヤツの攻略方法考えないと!」
「ちょっと待て。それ以上しゃべるな!」
「はぁ? 逃げ遅れてたら私たち全滅してたのよ?」

 まずい。
 勇者新聞の記者がジト目でこっちをみている。 

「魔物から、逃げた……のですか?」
「ち、ちがいますよ、見逃してあげたんです!」
「……本当ですか?」
 
 ちょっと。
 美人がにらむと怖いから、やめてくれないかな?

「おい、勇者よ! 傷なら治癒ヒールの呪文でなおっているだろう。なんで病院に入院している!」
「バカ! 怪我人によりそってもらう看護師は、男のロマンだろうが!」

 なんで戦士ベルガルトまで、病室にきてるんだよ。

「勇者は森の魔物から逃げ出して、病院で看護師とイチャイチャと……」

 女性記者が、ペンをはしらせている。

「ちょっとおちつこう。今度ご馳走をおごるからさ?」
「本当ですか? 私、美味しいお店知ってるんですよ。うふふ。さすが勇者様ですね」

 オレは、彼女の書いていたメモを受け取ると、ゴミ箱に投げ捨てた。

 あぶねー。
  
 ふっ。でも、まぁ結果計算通りだ。
 食事デートで彼女をものにすれば、なんの問題もないだろ。

 なにせオレは、この世界でたった一人、聖剣に選ばれし勇者だからな!
 
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