勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫

文字の大きさ
26 / 95

26.追放テイマーと黒髪のお姉さん

しおりを挟む
 美人のお姉さんが作り出した水の光に包まれて、ゆっくりと心が穏やかになっていく。
 なんだろう。
 何かが抜けていくような、不思議な気分。
 遠い意識の中で……王子とお姉さんの声が聞こえてくる。

「うーん。さすがに勇者だけあるわね。簡単に解除させてくれないわ……」
「そんな……お願いします、お姉さん!」
「うふふ。お姉さんに任せて! 伊達に水の魔性なんて名乗っていないわ!」

 私の周りの光が強くなっていく。 

「くっ、呪われたスキルよ! 恋する乙女の邪魔をするなら、このメルクル様が許さないわよ!」
「メルクルさん、僕にも何か手伝わせてください!」
「強く願いなさい! 本当にこの子が大事なら!」
「……はい!」
「……本当に好きなのね、この子のことが。うふふ、魔力から伝ってくるわ。その力も使わせてもらうわよ!」

 私を包んでいる水の光が眩しくて、目を開けていることが出来ない。
 勇者様の姿が浮かんでは消える。
 胸が……苦しいよ。   

「もう、なんて強力なスキルなの! 人間ごときが生意気な力を!」
「ショコラ! 頑張れ!」

 ……ベリル王子の声が聞こえる。
 ……優しくてあたたかい。

「魔王様! 私に力をお貸しください!!」

 やがて、胸の中で何かが壊れたような音がした。
 突然ぽっかり穴が開いたような、そんな気分。

「……ふぅ、終わったわよ。あ」

 うぁぁ、いきなり、冷たい!
 冷たいんですけど!
 私は、大量の水をかぶって、意識を取り戻した。

「ゴメンね。最後まで制御しきれなかったわ。でもスキルは解けたわよ」
「……そうなんですか? って、お店の中大変! すいません私のせいで濡らしてしまって」

 店内を見ると、床も商品棚もびしゃびしゃになっている。

「うふふ、いいのよ。やったのは私なんだから。それよりこれ!」

 メルクルさんは、大きなタオルを差し出してきた。

「彼には目の毒よね。とりあえず羽織ってて。タオルもっと持ってくるから」

 目の毒って、なんだろう。
 王子を見ると、手を目の前に当てて顔を真っ赤にしている。
 
 え?
 
 私はゆっくり、自分の身体を確認する。
 全身が水で濡れていて、ブラウスから水色の物体が透けて見えている。

 ……。

 …………。 

 きゃーきゃーきゃーーっ!

「王子、今すぐお店から出てて!」
「いや、でも……」
「いいから! はやく!」

 王子は耳まで真っ赤にしながら、店を飛び出していった。
 

**********

「うん、もう大丈夫そうね。服ももうすぐ乾くと思うわ」

 店の奥から戻った黒髪のお姉さん、メルクルさんが魔法で風をおこして髪を乾かしてくれている。

「ありがとうございます。ご迷惑おかけしました」
「いいのよ。あそこで集中力がきれるなんて、私もまだまだよねぇ」

 私は髪をタオルに押し当てながら、水分を取っていく。

「しばらくそのローブで我慢してね。それも由緒正しい魔王軍のローブだから」
「……魔王軍?」
「……いいえ、魔法国よ、魔法国。それにしてもよく似合うわ。スカウトしちゃいたいくらい」

 今私が来ているのは、胸元に大きなリボン、スカートにフリルがたくさんついている赤い服。
 ローブというよりも、前世の甘ロリワンピに似てる気がする。
  
「あの……それで、本当に魅了チャームになんてかかってたんですか?」
「ええ……ウワサには聞いていたけど、ろくでもないわね、人間の勇者は……」
「勇者様が私に、そんなスキルをかける理由がないと思うんですけど?」
「うふふ、貴女自分をわかってないのね。ホントに可愛いわ」

 メルクルさんは私の頬を優しくなでると、嬉しそうに目を細めた。
 その視線に思わずドキッとしていしまう。
 美しい仕草と、美しい表情。なんてきれいな人なんだろう。
   
「ねぇ、人間の勇者ってどんな人なの?」
「勇者様ですか? そうですね……」

 えーと、王都の勇者募集で初めて出会ったんだよね。
 私の番になって、聖剣に手をかざそうとした瞬間に後ろから割り込んできて……。
  
 自慢ばっかりするあの人の事、すごく大嫌いだったのに。
 
 ……あれ?
 ……なんで一緒にパーティーなんて組んだのかな。
 ……なんであんなに……心惹かれたのかな。
 
「あはは、皆さんが知ってる通りの素敵な・・・勇者様、ですよ」

 私はひきつりながら、なんとか問いかけに答える。 

「ふーん? うふふ、正常ね。これでもう平気よ」

 メルクルさんは、嬉しそうに微笑んだ。
 
「あの……?」
「純粋な子ほどかかりやすいのよね。あの勇者……ホントにゆるせない。魔王様に代わって倒してやるわ」
「魔王……ですか?」
「ちがうちがう、魔法国よ。うふふ」
「魔法国……ですか?」

 聞いたことがない国だけど……どんな国なんだろう?

「ねぇ、お姉さんとしては、本当にウチにきてほしいんだけどな? とてもにぎやかで楽しいわよ?」

 メルクルさんは、私の手をにぎって、ニッコリ微笑んできた。
 うわぁ、すごい破壊力。
 おもわずハイって言っちゃいそう。

「あの、お誘い嬉しいんですけど。私、運送ギルドの仕事が好きなので」 

 ううん、ダメよ私。
 せっかく田舎で憧れのスローライフを手にしたんだから。

「そうなの? うーん残念だわ。なにかあったらいつでもお姉さんを頼ってもいいからね?」
「いろいろとありがとうござました」

 私は大きく頭を下げた。
  
「そうそう。外に待たせているステキな王子様を迎えに行かないと」
「ああ、そうですね!」
「彼とっても心配してたのよ? 『大切な人』ですって。妬けちゃうわねぇ」
 
 そういえば、メルクルさんの魔法に包まれていた時に聞こえていたような。
 
 ――大切な人。
 ――好きな人。
 
 うわぁぁぁ。
 ウソウソ。

 私は頬を押さえてその場にうずくまる。
 恥ずかしくて頭が蒸発しちゃいそう。

 まって、落ち着いて考えよう。
 きっと食事が美味しいとか、ご主人様だからとか、そんなオチだから。
 だって……相手はこの国の第一王子なんだよ?

 ……あれ?
 ……今メルクルさん、『王子』って言ったよね? 

 慌てて見上げると、メルクルさんは妖艶な仕草で微笑んでいた。

「うふふ、お姉さんはね、何でも知っているのよ?」
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

処理中です...