勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫

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52.追放テイマーと戦の演説会

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 メルクルさんの転送魔法でフォルト村に戻ってきた私は、これから始まる演説の準備をしていた。

「ホントにこれ、戦いの士気を上げるための演説なんですよね?」
「当然でございますわ。主様!」
「ああ、やっぱり主様は可愛らしいです~」

 私の周りにいるのは、水の魔性メルクルさん率いる宮廷魔術師……ううん、メイドチーム。
 彼女たちは、くるくると動き回って私の髪型やメイク、ドレスを整えていく。

 ちらりと窓ガラスに映る自分の姿が目に入った。

 黒いブラウスにはたくさんのフリル。
 赤いチェック風の上着と短いフレアスカート、胸元には可愛らしい赤いリボン。
 スカートの下にはふりふりレースのパニエ。

 ふわりとまとめた髪の上には、シルクハットのような可愛らしい帽子がちょこっとのっている。

 なにこれ。
 前世のアイドル衣装みたいなんだけど。

「うふふ、完成よ。やっぱり主様は何を着ても似合いますわね!」

 メルクルさんは最後に帽子の位置を整えると、嬉しそうに微笑んだ。

「ねぇ、メルクルさん。私この格好で演説するんですか?」
「とても似合ってますわ。自信を持ってくださいませ!」
「そういうことじゃなくて、ほら。普通戦の前の演説だし、もうちょっとびしっとした格好しません?」
「魔王軍では、これが普通なんですよ」

 ……そうなのかなぁ。
 ……何故かだまされてる気がするんだけど。

「じゅ、準備は終わったか、我が主よ!」
「うふふ、終わってますわよ、魔王様」

 メルクルさんの言葉を聞いて、魔王様が勢いよく部屋に飛び込んできた。
 すごくタイミング良すぎな気がするんだけど。
 もしかして、ずっと扉の前で待ってたわけじゃないよね?

 頭の中で、お利口な犬のようなイメージが浮かんでくる。

 こんなに、がっちりとした身体に黒髪のさわやかイケメンなのに。
 なんだか……おかしい。

 思わず、笑みがこぼれてしまう。
 
「どうですか、魔王様。主様のこの可愛らしさ!」
「あ、ああ……」

 魔王シャルル様は、私の前で彫刻のように固まってしまった。
 そんなにおかしな恰好なのかな。
 だよね、まるでテレビの中のアイドルみたいだもん。

「やっぱり変だよね? 場違いだよね? すぐに着替えるから!」
「いや、ちがう……。カワイすぎる……なにこれ。マイヒロイン天使すぎなんだけど……」
「……はい?」 
 
 魔王様は口元を押さえながらぽつりとつぶやいた。
 顔が、ううん。耳まで真っ赤になっている。

「そ。そのままでいこうよ。ああ、まさかアイドルを目の前で見れる日が来るなんて、感動だよ……」
「あの、私、吟遊歌姫アイドルじゃないですよ?」 
「ううん、違うんだ。前世でさ、歌って踊る可愛らしい人たちを……ってわからないよね、ゴメン」
「前世って……まさか転生……とか、なんて……?」
 
 私の表情を見つめていた魔王様も、驚いた顔に変わる。

 ――まさか。
 ――でも。

「もう。そろそろ出番ですわ。ステージに行きましょう!」
「待って、今大事な話を……」
「さぁ、急がないと間に合いませんわ!」

 私はメルクルさん率いるメイドチームにひかれながら、ステージに向かっていく。

「ねぇ、ショコラさん! これが終わったら話の続きをさせてもらってもいいかな?」
「うん。もちろん!」

 転生前にルーレットを回した不思議な空間には、私以外にもたくさんの人がいたよね。

 もしかして。
 もしかしてだけど。

 初めて、この世界に転生してきた人に会えたのかもしれない!!
 私はステージ前で振り向くと、口に両手をあてて大きな声で叫んでみた。
 
「魔王様! サーティーニャンのアイスって知ってますか?」
「……知っているとも、マイヒロイン!」

 私の問いかけに、魔王シャルル様は大きく両手を上げて丸を作った。


**********

 フォルト村郊外に作られた臨時の会場には、すでにたくさんの人が集まっていた。
 周囲の道も出店が立ち並んでいて、人で溢れかえっている。

「会場限定、ショコラ様グッズ、残りわずかですー!」
「入場券をお持ちでない方は、入れませんので下がってくださいー!」
「ステージでは、演出の関係で、煙や水がかかることがありますので、あらかじめご了承くださいー!」

 ステージ上は色とりどりのカラフルなライトで照らされている。
 会場のいたるところにあるのは、巨大なスピーカー。
 それから映像を映し出すためのモニターのようなもの。
 
 ……。

 ………。

「ねぇ、メルクルさん。どうみても、吟遊歌姫アイドルのライブステージに見えるんですけど?」
「いやですわ、主様ったら。あくまでも演説ですよ?」
「スタンドマイクもあるし! それに楽器や演奏の人達までもうスタンバイしてるし!」
「演説を盛り上げるためですわ!」
  
「ショコラちゃん。はやくはやく!」

 ステージの上から、小鳥のようなキレイな声が響き渡る。

「ミルフィナちゃん?!」

 私とお揃いの服を着て、可愛らしく手を振っている紫髪の美少女。
 うわぁぁ。
 なにこの天使のような生き物。
 カワイすぎでしょ、ミルフィナちゃん!!
 
「ミルフィナちゃん、どうしてここに?」
「そんなの決まってますわ。ショコラちゃんと一緒にステージで歌うためですわよ!」
   
 ……歌うっていった。
 ……今、絶対歌うっていったよね?
 
 私はくるりと振りかえる、メルクルさんを思い切りにらみつけた。

「ねぇ、これ完全に歌う流れですよね!」
「うふふ。だから、歌って踊るのが魔界流の演説なんですよ、ショコラ様。ああやっと主様の歌声がきけますわ」

 メルクルさんはうっとりした表情で、両手を胸の前で組んでいる。

「ラブリーショコラ、プリティーミルフィナ! ふっふー!」
「ふっふー! ふっふー!」

 会場から大きな声が上がる。
 前世のペンライトのようなものをふって踊っている集団の先頭にいるのは。

 ……ドルドルトさんと、えーと。
 まさか。
 森の英雄、剣聖クロウ様?

「さぁ、ショコラ様。演説会をはじめましょう!」
「素敵なステージにしますわよ!」

 ミルフィナちゃんが嬉しそうにマイクを差し出してきた。


 もう!
 魔王軍って、私の想像をはるかに超えてるんですけど!!
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