勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!

柚子猫

文字の大きさ
77 / 95

77.追放テイマーとそれぞれの想い

しおりを挟む
「うわぁ、ついに勇者メンバー勢ぞろいじゃん。あとでサインしてもらってもいいですか!」

 ウェイトレス姿のコーディーが目をきらきら輝かせている。
 まるで憧れのヒーローに出会った子供みたい。
 
「コーディー、個室を貸してくれてありがと」
「ううん。大親友の頼みだからね。これくらいまかせてよ!」

 うわぁ。
 なにその笑顔。
 私の大親友ってば、まるで別人みたいなんですけど。

「それじゃあ、皆様ごゆっくりおすごしくださいね。あ。お料理は出来次第お持ちしますので」

 彼女は、私たちを奥の個室に案内すると、嬉しそうにキッチンに戻っていった。

 今私たちがいるのは、フォルト村の中央広場にあるレストラン。
 ちょっと前までは、村で食事を食べるって言ったら、ここしかなかったんだけど。

 今は人もたくさんふえたし、小さな丘を取り巻くように、美味しいお店もオシャレなカフェもたくさん出来た。
 田舎暮らしがしたかったはずなのに……。

 なんだか。
 どんどん賑やかになってるんだよね。

「えーと、あらためまして。お久しぶりです、ベルガルトさん!」
「そうだな。また、皆でこうしてそろうことになるとはな」
「いっとくけど、最初にお姉さまと合流したのは私なんだから!」
「いえいえ、それはこの賢者たる私ですよ、ダリアさん」
「順番なんて……旦那様はわたくしを情熱的にむかえてくださいましたわ」

 戦士ベルガルトさん。
 魔法使いのダリアちゃん。
 賢者アレス様。
 精霊使いのシェラさん。

 少し前まで、勇者様と一緒に旅をした、大切なパーティーメンバー。

 ……この暖かい雰囲気が、なんだか
 ……すごく懐かしい。 
 
「お、お姉さま?」
「どうした、ショコラ。なにかあったのか?」

 私の顔をみたダリアちゃんとベルガルトさんが慌てている。
 どうしたんだろ?

「ショコラさん、よろしければこれを……」
「旦那様、わたくしのハンカチをお使いください」

 アレス様とシェラさんが同時にハンカチを差し出してきた。

「……涙を拭いてくださいませ、旦那様」

 うわ。言われて初めて気が付いた。
 いつの間にか頬に涙が……恥ずかしい!

 慌ててシェラさんからハンカチを受けとると、濡れた頬と目を押さえた。
 手の平からラベンダーの甘い香りが広がってくる。

「ありがと……」
「いいえ、わたしくしのものは旦那様のものですので」
 
 シェラさんは、出会ったころからずっと優しい。
 こんなこと……冒険してた頃にもあったなぁ……。
 勇者様の態度や言葉に落ち込んだりして……。
 あの頃は……勇者様をめぐる自称ライバルだったのに。

 あ。
 そうだ。
 勇者様だ。

「ねぇ、ベルガルトさん。勇者様が地下牢に捕らえられたのって本当ですか?」
「ざまぁですわね。あんな生ゴミ……そのまま埋めてしまえばいいのに」

 優しいシェラさん……あれ?
 性格変わってません?

「勇者様か……勇者は、ショコラなのだろう?」

 ベルガルトさんが、私の腰にある聖剣を見つめて不思議そうにつぶやいた。

「あはは……そうですね。元勇者様、でしょうか?」
「そうだな。あと……俺に敬語なんて使わわなくていい」
「でも」
「良いんだ。お前は勇者なのだから」

 んー。

「えーと、慣れてなくて。なんだか違和感があるんですけど……」
「旦那様。ベルガルトは、旦那様と親しくしたいだけなのですよ~」
「お、お前! 何をいってるんだ!」
「冒険中も、ずっと羨ましそうにアレスやゴミムシを見てましたから」

 うわぁ。
 なんてさわやかな笑顔で、とんでもないこと話してるの、シェラさん!

「シェ、シェラ。お前性格変わり過ぎだぞ!」
「あら。もともとこういう性格だったんですよ。ゴミムシのせいで我慢していただけです!」

 シェラさんは嬉しそうに私の腕に抱きついてきた。
    
「お姉さま、私も私も!」

 反対側の腕にダリアちゃんがぴったりくっついてくる。
 なにこのハーレム状態。

 ってそんなことより。
 今は元勇者様の話を聞かないと。
 
「それで元勇者様と王国は今どうなってるんですか?」 
「ああ。元勇者は捕らえられて、今王国の権力は公爵家……あの女がにぎっている」

 あの女って……公爵令嬢のカトレア様?

「油断しないほうがいい……あの女は……危険だ」

 確かに。
 熱い視線は怖かったけど。
 悪い人には見えなかったけどなぁ。

「大丈夫だ。ショコラのことは今度こそ俺が守るさ……」

 ベルガルドさんが視線を宙に泳がせながらボソッとつぶやいた。

「え?」

「はーい! お待たせしました!! 当店自慢のフォルト料理ですー!」

 扉が大きく開いて、大きなお皿を抱えたコーディーが入ってきた。

「え? なに? もしかして大事な話し中だったりしました?」
「い、いや。そんなことは……ない」

 えーと?
 とりあえず、美味しい料理を食べてから色々考えよう。
 おなかが空いてたら、いいアイデアも浮かばないもんね。
 
 うん。     


**********

<<ベリル王子視点>>

「とりあえず、作戦は成功ってことかな?」
「そうですね。勇者もつかまりましたし。王国は魔界に降伏するそうですよ」
「うん。少し計画とは違ったけど、おおむね予定通りだね」

 思わず苦笑いする。
 公爵家がこんなに早く動くとは思わなかったな。
 
 本当は僕が乗り込んで勇者と対峙する予定だったんだけどな。
 
「それで、王子様はどうするんです?」
「どうもしないよ。アイツがショコラの邪魔になりそうだったからね」
「王位を取り戻したりはしないんです?」

 賢者アレスは腕組みをしながらまっすぐ見つめてくる。

 こいつ……。。
 僕の回答はわかってるくせに。

「そんなつもりはないさ。僕はね、王子としてではなく、一人の男として彼女の近くにいたいんだ」
「王族の義務を捨ててでも……ですか?」
「彼女の下にいたほうが、国民も幸せになれる。そう思わない?」
「まぁ、そういうと思いましたよ。ただ、もし彼女を悲しませることがあれば……」
「あはは、同じセリフを君に返すよ」
 
 瞳を見ればわかる。
 彼は僕の同士であり……ライバルだ。

「さて。これでご主人様はどう動くだろうね」
「彼女はノンビリ暮らすのが夢だそうですよ」
「……だろうね」

 転生勇者であり。
 魔王を倒した英雄で、僕やミルフィナや魔王、伝説の獣のご主人。

 やれやれ。
 肩書が多すぎて、とても彼女の望みは叶いそうもないだけど。
 
 それでも、全力でサポートをしてみせるさ。
 僕の。
 僕のすべてをかけてね。 

 ……。

 …………。

 視線を窓の外に向けて、彼女の家の明かりを愛おしく見つめる。


 彼女が元の世界に戻ってしまわないように……。
しおりを挟む
感想 40

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。

樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。 ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。 国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。 「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

『捨てられシスターと傷ついた獣の修繕日誌』~「修理が遅い」と追放されたけど、DIY知識チートで壊れた家も心も直して、幸せな家庭を築きます

エリモコピコット
ファンタジー
【12/6 日間ランキング17位!】 「魔法で直せば一瞬だ。お前の手作業は時間の無駄なんだよ」 そう言われて勇者パーティを追放されたシスター、エリス。 彼女の魔法は弱く、派手な活躍はできない。 けれど彼女には、物の声を聞く『構造把握』の力と、前世から受け継いだ『DIY(日曜大工)』の知識があった。 傷心のまま辺境の村「ココン」に流れ着いた彼女は、一軒のボロ家と出会う。 隙間風だらけの壁、腐りかけた床。けれど、エリスは目を輝かせた。 「直せる。ここを、世界で一番温かい『帰る場所』にしよう!」 釘を使わない頑丈な家具、水汲み不要の自動ポンプ、冬でもポカポカの床暖房。 魔法文明が見落としていた「手間暇かけた技術」は、不便な辺境生活を快適な楽園へと変えていく。 やがてその温かい家には、 傷ついた銀髪の狼少女や、 素直になれないツンデレ黒猫、 人見知りな犬耳の鍛冶師が集まってきて――。 「エリス姉、あったか~い……」「……悔しいけど、この家から出られないわね」 これは、不器用なシスターが、壊れた家と、傷ついた心を修繕していく物語。 優しくて温かい、手作りのスローライフ・ファンタジー! (※一方その頃、メンテナンス係を失った勇者パーティの装備はボロボロになり、冷たい野営で後悔の日々を送るのですが……それはまた別のお話)

1歳児天使の異世界生活!

春爛漫
ファンタジー
 夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。 ※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。

処理中です...