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15.情報戦
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「ご婚約、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「王女が伯爵令息との婚約など珍しいですなぁ。リュカ殿は余程優秀なのでしょうね」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて意地悪な質問をリュカに投げかける招待客の方は、たくさんいらっしゃいます。だけど、問題ありません。
「ありがとうございます。私は確かに伯爵家の三男です。ですが、幼い頃から王女の婚約者となるべく教育されておりましたので、ご心配には及びませんよ。なぁ、カティ」
「ええ、リュカはとっても優秀なんですの。それに、わたくしは見た目が華やかではないでしょう? よく、王女にしては華やかさが足りないと陰口を言われておりましたの。でも、リュカはわたくしが良いと言ってくれました。わたくしの婚約する為に、たくさん勲章を貰うくらい頑張ってくれましたの。先日なんて、腕が……。失礼、こんな所で申し上げる話ではありませんわね」
「私の怪我は、いつもカティが癒してくれました。私はカティが大好きなのです。それに、カティより美しい女性など居ません」
「あら、そんな事言ってくれるのはリュカだけよ」
「そんな事はない。カトリーヌ王女のような素晴らしい方と婚約できて私は本当に幸せ者です。こうして、婚約を祝って下さる方もいらっしゃいますし」
「そうですね。お祝いのお言葉、本当にありがとうございます」
「あ、ああ……おめでとうございます」
嫌味を言ってくる人を、リュカは優雅にあしらっています。先程の方は、わたくしが登場した時に地味だなと呟いた方ですから、しどろもどろになっておられましたわ。
リュカが伯爵家だから、わざと王族のみが分かるような問いかけをしてくる方もいらっしゃいましたが、リュカは全て完璧に受け答えをしています。
カツン……カツン……。軽やかな靴音が聞こえます。さぁ、またご挨拶をしなくては。
「ご婚約、おめでとうございます。カトリーヌ王女」
聞き覚えのある声に、見覚えのある笑顔。クリストフ様です。
リュカが、そっと手を握ってくれました。
大丈夫、覚悟は決めていましたもの。
「ありがとうございます。こちら、婚約者のリュカですわ」
「リュカ・デ・ロドラと申します。カドゥール国の王子であるクリストフ様に祝福頂き、恐悦至極に存じます」
「……おや、僕の事をご存知なのですか?」
「ええ、クリストフ様は有名ですから。優秀な方であると聞いております」
「そうかい。リュカ殿もカトリーヌ王女の婚約者になられるくらいなのだからさぞ優秀なんだろうね。少しだけ伺っても良いかな? リュカ殿は我が国の産物をご存知かい?」
「ええ、存じておりますよ。農作物では林檎をあちこちに輸出しておられましたね。それから、鉱山でよく採れるのは銀でしたか……。そうそう、最近ではミスリルの鉱山が見つかったとか。おめでとうございます」
にこやかだったクリストフ様の表情が、ピシリと固まりました。表面上は穏やかですが、わたくしはこの顔のクリストフ様を知っています。
ルイーズに夢中になってから、パーティーでわたくしをエスコートする時の作り笑いです。
以前は仮面のような笑顔が恐ろしかったですが、今はなんとも思いません。リュカは心配そうにわたくしの手を握って下さいますけど、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。
クリストフ様は、冷たい声でリュカに問いかけました。
「……何故、それを知っている? まだほとんど公にしていないのに」
「おや、そうでしたか? 我が国は今のところ必要ありませんので特にお話しはしませんでしたが、皆知っておりますよ。特産品と言われると真っ先に思い付いたものですから申し上げました」
これは、予めリュカと打ち合わせしていた通りの流れなのですが、思ったよりもクリストフ様が不快そうな顔をなさっておられますね。お言葉まで乱れておられますわ。
ミスリルの鉱山が見つかったのは、半年程前です。あの地獄のような王妃教育で、散々習いましたので間違いありません。わざと情報を止めて、各国から問い合わせが来るのを待ったそうです。早く連絡が来た国は、その後丁重に扱う事にしたそうですわ。
我が国は、知ってはいましたが必要ないので連絡をしませんでした。だけどそのせいで我が国は舐められてしまったのでしょう。王妃教育で教師に散々馬鹿にされましたわ。リュカはそれを間近で見ていました。ずいぶん腹が立っていたらしく、今回は絶対に言ってやると意気込んでおりました。
既に各国が勘づいてミスリルの購入を働かきかけています。パーティーでも、クリストフ様にミスリル鉱山の話をしていた方は多くいらっしゃいました。
先程のわたくしの容姿の件や、今回のミスリル鉱山の件など、リュカが情報通で油断ならない人物であると示す為に警備に付いている騎士の方々にご協力頂いています。いつもはこんな事はしないのですが、今回だけ特例で認めて頂きました。
パーティーでミスリル鉱山の件が話題になれば合図を出してもらう事になっていますし、他にも話題にした方が良い情報はリュカに合図や暗号で連絡が来ます。
ミスリル鉱山の件だけは事前に注視するように伝えてありました。噂にすらなっていないのに口に出すのはまずいですから、パーティーでの会話を確認する必要があったのです。パーティーで話題になっていれば、こちらも鉱山の話題を出す事でリュカが油断ならない人物だと思わせる事が出来ます。
騎士団の皆様は、全面協力をして下さいました。わたくしは元々騎士団で治療する事も多かったので顔見知りの方も多く、わたくし達は密かに応援されていたそうです。わたくしとリュカの婚約はとても祝福されました。涙を流して喜んで下さる方までいらっしゃって、嬉しくなりましたわ。
「カトリーヌ姫の婚約者はとても優秀なようですね」
「ええ、そうなんですの。リュカと婚約できてとっても幸せですわ」
「そうですか。どうかお幸せに」
「「ありがとうございます」」
こうして、クリストフ様のとご挨拶は終了致しました。クリストフ様が慇懃無礼な様子だったのが気になりますわね。
「リュカ、これで良かったの? わざわざ鉱山の事を言わなくても良かったんじゃ?」
「万が一にでも、カティに婚約の申し込みが来たら困る。こう言っておけば、俺は油断ならない男として扱われる。舐められる訳にはいかないんだ。それより、怖くなかったか?」
「平気よ。リュカが一緒だもの」
そう言うと、リュカが真っ赤な顔でわたくしの手を強く握って下さいました。
「ありがとうございます」
「王女が伯爵令息との婚約など珍しいですなぁ。リュカ殿は余程優秀なのでしょうね」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべて意地悪な質問をリュカに投げかける招待客の方は、たくさんいらっしゃいます。だけど、問題ありません。
「ありがとうございます。私は確かに伯爵家の三男です。ですが、幼い頃から王女の婚約者となるべく教育されておりましたので、ご心配には及びませんよ。なぁ、カティ」
「ええ、リュカはとっても優秀なんですの。それに、わたくしは見た目が華やかではないでしょう? よく、王女にしては華やかさが足りないと陰口を言われておりましたの。でも、リュカはわたくしが良いと言ってくれました。わたくしの婚約する為に、たくさん勲章を貰うくらい頑張ってくれましたの。先日なんて、腕が……。失礼、こんな所で申し上げる話ではありませんわね」
「私の怪我は、いつもカティが癒してくれました。私はカティが大好きなのです。それに、カティより美しい女性など居ません」
「あら、そんな事言ってくれるのはリュカだけよ」
「そんな事はない。カトリーヌ王女のような素晴らしい方と婚約できて私は本当に幸せ者です。こうして、婚約を祝って下さる方もいらっしゃいますし」
「そうですね。お祝いのお言葉、本当にありがとうございます」
「あ、ああ……おめでとうございます」
嫌味を言ってくる人を、リュカは優雅にあしらっています。先程の方は、わたくしが登場した時に地味だなと呟いた方ですから、しどろもどろになっておられましたわ。
リュカが伯爵家だから、わざと王族のみが分かるような問いかけをしてくる方もいらっしゃいましたが、リュカは全て完璧に受け答えをしています。
カツン……カツン……。軽やかな靴音が聞こえます。さぁ、またご挨拶をしなくては。
「ご婚約、おめでとうございます。カトリーヌ王女」
聞き覚えのある声に、見覚えのある笑顔。クリストフ様です。
リュカが、そっと手を握ってくれました。
大丈夫、覚悟は決めていましたもの。
「ありがとうございます。こちら、婚約者のリュカですわ」
「リュカ・デ・ロドラと申します。カドゥール国の王子であるクリストフ様に祝福頂き、恐悦至極に存じます」
「……おや、僕の事をご存知なのですか?」
「ええ、クリストフ様は有名ですから。優秀な方であると聞いております」
「そうかい。リュカ殿もカトリーヌ王女の婚約者になられるくらいなのだからさぞ優秀なんだろうね。少しだけ伺っても良いかな? リュカ殿は我が国の産物をご存知かい?」
「ええ、存じておりますよ。農作物では林檎をあちこちに輸出しておられましたね。それから、鉱山でよく採れるのは銀でしたか……。そうそう、最近ではミスリルの鉱山が見つかったとか。おめでとうございます」
にこやかだったクリストフ様の表情が、ピシリと固まりました。表面上は穏やかですが、わたくしはこの顔のクリストフ様を知っています。
ルイーズに夢中になってから、パーティーでわたくしをエスコートする時の作り笑いです。
以前は仮面のような笑顔が恐ろしかったですが、今はなんとも思いません。リュカは心配そうにわたくしの手を握って下さいますけど、そんなに心配しなくても大丈夫ですわ。
クリストフ様は、冷たい声でリュカに問いかけました。
「……何故、それを知っている? まだほとんど公にしていないのに」
「おや、そうでしたか? 我が国は今のところ必要ありませんので特にお話しはしませんでしたが、皆知っておりますよ。特産品と言われると真っ先に思い付いたものですから申し上げました」
これは、予めリュカと打ち合わせしていた通りの流れなのですが、思ったよりもクリストフ様が不快そうな顔をなさっておられますね。お言葉まで乱れておられますわ。
ミスリルの鉱山が見つかったのは、半年程前です。あの地獄のような王妃教育で、散々習いましたので間違いありません。わざと情報を止めて、各国から問い合わせが来るのを待ったそうです。早く連絡が来た国は、その後丁重に扱う事にしたそうですわ。
我が国は、知ってはいましたが必要ないので連絡をしませんでした。だけどそのせいで我が国は舐められてしまったのでしょう。王妃教育で教師に散々馬鹿にされましたわ。リュカはそれを間近で見ていました。ずいぶん腹が立っていたらしく、今回は絶対に言ってやると意気込んでおりました。
既に各国が勘づいてミスリルの購入を働かきかけています。パーティーでも、クリストフ様にミスリル鉱山の話をしていた方は多くいらっしゃいました。
先程のわたくしの容姿の件や、今回のミスリル鉱山の件など、リュカが情報通で油断ならない人物であると示す為に警備に付いている騎士の方々にご協力頂いています。いつもはこんな事はしないのですが、今回だけ特例で認めて頂きました。
パーティーでミスリル鉱山の件が話題になれば合図を出してもらう事になっていますし、他にも話題にした方が良い情報はリュカに合図や暗号で連絡が来ます。
ミスリル鉱山の件だけは事前に注視するように伝えてありました。噂にすらなっていないのに口に出すのはまずいですから、パーティーでの会話を確認する必要があったのです。パーティーで話題になっていれば、こちらも鉱山の話題を出す事でリュカが油断ならない人物だと思わせる事が出来ます。
騎士団の皆様は、全面協力をして下さいました。わたくしは元々騎士団で治療する事も多かったので顔見知りの方も多く、わたくし達は密かに応援されていたそうです。わたくしとリュカの婚約はとても祝福されました。涙を流して喜んで下さる方までいらっしゃって、嬉しくなりましたわ。
「カトリーヌ姫の婚約者はとても優秀なようですね」
「ええ、そうなんですの。リュカと婚約できてとっても幸せですわ」
「そうですか。どうかお幸せに」
「「ありがとうございます」」
こうして、クリストフ様のとご挨拶は終了致しました。クリストフ様が慇懃無礼な様子だったのが気になりますわね。
「リュカ、これで良かったの? わざわざ鉱山の事を言わなくても良かったんじゃ?」
「万が一にでも、カティに婚約の申し込みが来たら困る。こう言っておけば、俺は油断ならない男として扱われる。舐められる訳にはいかないんだ。それより、怖くなかったか?」
「平気よ。リュカが一緒だもの」
そう言うと、リュカが真っ赤な顔でわたくしの手を強く握って下さいました。
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