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4.簒奪者の苦しみ

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深夜、誰もいない謁見の間に1人の男が現れた。

この国の国王だ。

王のみが座る事を許される玉座に乱暴に腰を下ろし魔力を椅子に込める。椅子は王の望む反応を示さず、静かなままだ。

「ちっ……! またダメか……!!!」

男は面白くなさそうに椅子を蹴り上げた。

大きな音が響き渡り、衛兵の足音が近づいてくる。

「誰だっ……!」

「ああ……まだ民が苦しんでいる……だが私は王たる資格はない……しかし……!」

先ほどとはうってかわって、民の為に苦しむ男を演じる国王。

「……へ、陛下?」

見張りの兵士は、玉座の間で泣き叫ぶ国王に恐る恐る声をかけた。

「ああ、スコットか。こんな深夜にすまない。少し考えごとがあってね。ここなら……私は自分の罪と向き合えるから……」

「……陛下……!」

そういうことか。
あれは事故だったのに。

そもそも、隣国の使者にいきなり攻撃をした前王が愚かだっただけなのに。

国民の大多数が信じているストーリーを、スコットも信じていた。スコットは、国を憂う新しい国王の姿に心を打たれ、涙を流した。

「私は……この国の王になる資格はないんだよ……」

「そんな事ありません! 貴方様は素晴らしい国王陛下です!」

「ありがとう……だが私は……話し合いもできず……」

「あれは事故です! みな、分かっています! 陛下が王になってから、みな幸せに暮らしています! 以前は考えられない事でした! 陛下は我々の希望なのです!」

「……ありがとう……少しだけ救われたよ……すまないね。しばらく1人にしてくれるかい? それから、恥ずかしいから誰にも言わないでもらえるかい?」

「はっ! 仰せのままに!」

スコットは次の日から、王の素晴らしさを周りに吹聴するようになる。

上手く騙せたと王はほくそ笑んだ。

ふたたび1人になった王は、玉座に何度か魔力を流す。しかし、部屋は静寂に包まれたままだ。

「駄目か。やはりクライブを利用するしかなさそうだな」

懐柔しようとしたリーリアに拒絶され、わがままを理由に塔に幽閉した王。女性に嫌われた経験のない王が唯一自由にできなかった女性。それがリーリアだった。

思い通りにならないリーリアが嫌いで、邪魔だ。

しかし彼には、リーリアを殺せない理由があった。

「……ったく、なにが愛だ。面倒な封印をしやがって」

玉座は王が座ると輝く。

現在の玉座は、以前と違い輝きを失っていた。謁見の際は光魔法で誤魔化しているが、本来この玉座は王が座った瞬間魔法を使わずとも光り輝くようにできている。

死を悟った父は、リーリアを守る為に玉座にとある封印を施した。

だから、リーリアは死なずに済んだ。王はリーリアを利用して封印を解こうとした。

しかし王の思惑通りにはいかず、どれだけ優しくしてもリーリアは王を拒絶した。

今はまだ良い。だが半年後、正式に王と認定されるまでになんとかしないと。

苛立つ王はふたたび玉座を蹴り上げ、部屋を出て行った。
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