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26.リーリアの野望

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「アラン様はともかく……彼は思慮深い方だと思ってたのに……」

「兄弟って似るもんなんかね。最初は良かったけど、今はアラン様がリーリアを馬鹿にしてた時みてぇな感じだ。アラン様よりタチ悪いかも。笑って小馬鹿にしてくる」

「酷い……! 許せないわ」

「俺は気にしてねぇよ。ありがとな、怒ってくれて」

「クライブは優しすぎるわ! 第一、魔力なしだと思ったから馬鹿にして良いなんておかしいわ!」

「そっか……リーリアは魔力が少なくてずっと苦しんでたんだもんな」

「あれはわたくしが努力しなかっただけだから良いのよ! けど! クライブは違うわ! だいたい、魔力なんて多くても少なくても良いじゃない。うちの国もおかしいわ! お父様はダメだって言ってるのに、魔力がない子達は理由を付けて廃嫡するし! 悪い事なんてしてないのに!」

「だよな。父上は俺を生かしてくれたけど、他の家なら殺されてたと思うぜ。時を戻る魔法が廃れるわけだ」

「あの魔法は、完全に失われたものね」

「ああ。父上が魔導書を焼いたら、覚えてた筈の術式が頭の中から全部消えた。魔法が使えるようになった今も全く思い出せねぇ。多分、もう知ってる奴はいないと思う」

魅了魔法のように生まれつき身についている魔法以外は全て魔導書を読んで覚える。世界から魔導書が失われると、魔法を覚えていても忘れてしまう。

時を戻る魔法は、完全に世界から失われた。

「やり直しは出来ないんだから、覚悟を決めてやらないとね。わたくしね、この件が終わったらやりたい事があるの。カシムお兄様と魔導書を研究して、クリストファーお兄様と保護した貴族の子達の面倒を見て分かったんだけど、魔力が少ないと言われてる方達はね、単に得意な魔法を知らないだけなのよ!」

「なるほどな。魔力の核が見えたから気が付いたんだな。核の色か」

「そ、さすがクライブ。色によって得意な魔法が違ったのよ! そんな事知らない貴族達は、苦手な魔法を無理に覚えさせようとして出来損ないの烙印を押していたの」

「得意な魔法が分かれば、伸びるって事か。リーリアはそんな人達を救いたいんだな?」

「ううん。救うなんておこがましいわ。世界中の人達に魔力が多くても少なくても、魔力がなくても素晴らしい生き方が出来るって伝えたいだけ。ちょっとだけアラン様に感謝しなくちゃね。クライブを陥れようとしてくれたから、わたくしの夢を人々に伝える理由ができるわ」

「愛しい婚約者が魔力無しだと侮辱された王女様は、そもそも魔力の有無で差別される事を疑問に思った……って筋書きか」

「ええ! 今のわたくしは魔力が潤沢にあるから、魔力が少ない人の気持ちは分からないと思われてるわ。けど、わたくしは知ってる。ヒソヒソされて辛かった事も、卑屈になって逃げてばかりだった、醜い心も、いざという時役に立たなくて苦しんだ気持ちも……。わたくしみたいに、逃げてる人達に伝えたいの。もっとたくさんの選択肢がある、あなたは素晴らしい人なんだって。魔力が少ないと廃嫡されて家を追い出された子達は、得意魔法なら伸びる子が多かった。得意魔法が見つからない子達も、手先が器用だったり周りを気遣えたり、クライブみたいに強かったり、何かしら向いてる事があったわ。何も出来ないと落ち込んでる子も、笑顔でみんなを優しく包んでくれたりするの。みんなね、魔法が苦手なクライブが騎士として頑張ってる姿を見て励みになるって言ってくれたの! 家を追い出されて辛いのに……前を向いて頑張ってる姿がとっても素敵なのよ。前のわたくしは、出来ないのだからと逃げて……優しい家族に甘えてばかりだった。魅了魔法のせいだと分かってるけど……わたくしがちゃんとしていれば……あんな悲劇は起きなかったのに」

「まだ……後悔してんのか?」

「ええ。一生後悔し続けると思う」

「けど、リーリアは甘えてただけで……」

「ううん。わたくしが甘かったの。家庭教師の先生や家族や侍女達は……最初から魅了にかかってたわけじゃない。思い出してみるとね、最初はわたくしのわがままを注意してくれていたの。だけど……わたくしは一切聞かなかった。クライブと出会った時もチャンスだったのに……結局怠けたわ。そのうちみんな魅了にかかって……あんなことに。だからね、恩返しするの。うちの国だけじゃなく、世界中を良くするわ。みんなが楽しく生きられるようにしたいの」

「デカい夢だな。付き合うぜ。みんなが笑ってりゃ、リーリアも幸せなんだな?」

「ええ!」

クライブは、リーリアの頭を優しく撫でた。

「けどな、リーリア」

「なあに?」

「その為には、リーリアが世界一幸せじゃなきゃな。幸せじゃない奴が、人を幸せに出来ると思うなよ」

「そうね。でも大丈夫。わたくし、クライブがいれば幸せだもの」

リーリアは無邪気に微笑みクライブの頬に口付けをした。
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