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7 七変化
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「本当に分かってる? 新しい傷をこさえて不細工になってみなさい――劉に嫌われるから。そうしたら2人とも犯罪者にされて日本に帰れないから」
「そうさ,君だって困るよね」非難がましい涙目をむけてくる。「だったら僕がどうにかならないように1人にしないでよ――昨日の夜みたいに独りぼっちにさせるなんてなしさ」
「アホクサ! あんた,あたしよか2歳も年上なんだよね。ションベン垂れな発言やめてくれる。人間みんな1人なの。1人で生まれ1人で死んでくの」
「ママ!」いきなり縋りつかれた。人の腹に顔を埋めておいおい泣きだす。「やだ! やだ! ママ! 捨てちゃやだ! いい子にするから捨てないで!」
局部に蹴りをいれた。モンゴルブラックのフロアに倒れこみ,海老型に丸まって身悶えしている。その間に十分な距離を保った。「どう,懲りた?」
すると頭を擡げるなりニタリと笑った。ダイビングして再接近すると足首に絡みつく。ゲラゲラ大笑いしている。スニーカーの靴裏で押しかえすが,埒があかない。しまいには泥で汚れたスニーカーを両手でつつみこみ,頰ずりしたり接吻したりする。
腹部を蹴りあげた。腹をかかえてフロアを転げまわるが,すぐさま起きあがり,滑りよる。
胸部を蹴りあげる。ゲッと声をあげてフロアにはりつくが,それでも起きあがり,再接近をはかる。「もっと――もっと――もっと,もっと頂戴!」笑いながら足首にじゃれついてくる。
「変態!――」また急所を蹴った。
七転八倒していたが,両手を突きたて,噎せかえりつつも顔をあげる。精悍な面魂だ。親指を突きたてる。「なかなかやるな――だがな本気でかかってこいよ」立ちあがり,シュッシュッと息を吐きながら,両足でステップを刻み,見えないサンドバッグに打撃を繰りかえす。スポコンアニメの主人公気どりか?――
両足を払ってやった。派手に転倒する。
「もう十分でしょう。いい加減,メインが戻ってきなよ」こっちも疲れた。
「そうです。もう十分でしょう」おとなびた声色を響かせる。
まだ戻ってこないようだ。今度は誰よ?
肩で息をして上半身をゆっくり起こすと,両腕の内側に両足をひきよせて正座する。「そのくらいで自分を責めるのはよしなさい。先生はね――」
「うるせぇ!」飛び蹴りを食らわした。
フロアに細長くのびたまま身動きしなくなった。蹴りがききすぎたのか? 恐るおそる近づいてみれば,薄目をあけて何かこしょこしょ言っている。耳を澄ました。
「御主人さまに気にいられたいだけなのに,いつも叱られてばかり。どうして祀鶴歌は御主人さまに嫌われちゃうんだろう,愛されたいだけなのに」勢いをつけてゴロリと仰むけになるなり,すっくと立ちあがる。絡めあわせた両指を片頰に寄せ,上目遣いで恥じらったように見つめてくる。
「マジでやめて――ほんとキモイから――」後退りした途端,人格の1人が両腕をひらき,人の名前を連呼しながら飛びかかってきた。膝蹴りをお見舞いする。
敵は大の字に倒れた。
こんな状態が続けば身がもたない。敗北でも譲歩でもなく,駆けひきだ。今度の人格が現れたら,少しだけいい気持ちにさせてやる。
……来た。動きだした。
徐に手足を立てて四つん這いになるなり猛スピードでむかってくる。「分かった,分かったから,そこでとまりなさい」
祀鶴歌のなかの誰かが両手をついたまま臀部をおろし,背筋をのばした。
「そうよ,いい子ね,よくできたわ」
「ワン!」と満面の笑みを浮かべ,ハッハッと舌を垂れた。よだれも垂れた。
人格じゃのうて犬格かい!
「さあ,体をきれいにしましょう。かわいいわね」
キャッと甲高い声を発するなり,両腕を前に丸め,二足立ちすると繰りかえしジャンプする。「シャワーを浴びるのよ。もっとかわいくなりましょう」
フロアを転げまわり,喜びを全身で表現してから,大きく跳ねて飛びつくと,悪びれた風もなく両胸にタッチして顔面をなめようとする。
反射的に握った両拳をすんでのところで押しひろげ,両頰を往復びんたした。「お行儀よくなさい!」
丸めた全指を揃え置き,まとまりよく座りなおす。
「それでいいわ。ついてきて」
バスルームに犬を誘い,待ての合図をしてから湯加減の調節をした。戻ってくると,不安げな面もちがぱっと輝き,元気よくキャンキャンと鳴く。
「さあ,ここからは自分でするの。なかに入ってシャワーを浴びてきて」
犬は小首を傾げたまま動かないでいる。
「頭からお湯を浴びるのよ――小ぎれいになって帰ってくるの」
犬はそわそわしはじめた。言われていることが分からないのか? 別の人格を呼んだほうが手っとり早いかもしれない。だが従順でないタイプだと困る。もう少し犬につきあってみよう。
「いい,もう一度言うわね――なかに入ってシャワーを浴びるの。あたしはむこうで待ってるから」その場を立ちさろうとするなり,クンクンとしきりに鼻を鳴らす。それでも立ちどまらないでいると,四足歩行で先に回りこみ,行く手を遮る。
「悪い子だわ。戻りなさい」
平たくうずくまってしまった。このバカ犬が……
「さあ,来て」バスルームのドアをあけはなった。
「そうさ,君だって困るよね」非難がましい涙目をむけてくる。「だったら僕がどうにかならないように1人にしないでよ――昨日の夜みたいに独りぼっちにさせるなんてなしさ」
「アホクサ! あんた,あたしよか2歳も年上なんだよね。ションベン垂れな発言やめてくれる。人間みんな1人なの。1人で生まれ1人で死んでくの」
「ママ!」いきなり縋りつかれた。人の腹に顔を埋めておいおい泣きだす。「やだ! やだ! ママ! 捨てちゃやだ! いい子にするから捨てないで!」
局部に蹴りをいれた。モンゴルブラックのフロアに倒れこみ,海老型に丸まって身悶えしている。その間に十分な距離を保った。「どう,懲りた?」
すると頭を擡げるなりニタリと笑った。ダイビングして再接近すると足首に絡みつく。ゲラゲラ大笑いしている。スニーカーの靴裏で押しかえすが,埒があかない。しまいには泥で汚れたスニーカーを両手でつつみこみ,頰ずりしたり接吻したりする。
腹部を蹴りあげた。腹をかかえてフロアを転げまわるが,すぐさま起きあがり,滑りよる。
胸部を蹴りあげる。ゲッと声をあげてフロアにはりつくが,それでも起きあがり,再接近をはかる。「もっと――もっと――もっと,もっと頂戴!」笑いながら足首にじゃれついてくる。
「変態!――」また急所を蹴った。
七転八倒していたが,両手を突きたて,噎せかえりつつも顔をあげる。精悍な面魂だ。親指を突きたてる。「なかなかやるな――だがな本気でかかってこいよ」立ちあがり,シュッシュッと息を吐きながら,両足でステップを刻み,見えないサンドバッグに打撃を繰りかえす。スポコンアニメの主人公気どりか?――
両足を払ってやった。派手に転倒する。
「もう十分でしょう。いい加減,メインが戻ってきなよ」こっちも疲れた。
「そうです。もう十分でしょう」おとなびた声色を響かせる。
まだ戻ってこないようだ。今度は誰よ?
肩で息をして上半身をゆっくり起こすと,両腕の内側に両足をひきよせて正座する。「そのくらいで自分を責めるのはよしなさい。先生はね――」
「うるせぇ!」飛び蹴りを食らわした。
フロアに細長くのびたまま身動きしなくなった。蹴りがききすぎたのか? 恐るおそる近づいてみれば,薄目をあけて何かこしょこしょ言っている。耳を澄ました。
「御主人さまに気にいられたいだけなのに,いつも叱られてばかり。どうして祀鶴歌は御主人さまに嫌われちゃうんだろう,愛されたいだけなのに」勢いをつけてゴロリと仰むけになるなり,すっくと立ちあがる。絡めあわせた両指を片頰に寄せ,上目遣いで恥じらったように見つめてくる。
「マジでやめて――ほんとキモイから――」後退りした途端,人格の1人が両腕をひらき,人の名前を連呼しながら飛びかかってきた。膝蹴りをお見舞いする。
敵は大の字に倒れた。
こんな状態が続けば身がもたない。敗北でも譲歩でもなく,駆けひきだ。今度の人格が現れたら,少しだけいい気持ちにさせてやる。
……来た。動きだした。
徐に手足を立てて四つん這いになるなり猛スピードでむかってくる。「分かった,分かったから,そこでとまりなさい」
祀鶴歌のなかの誰かが両手をついたまま臀部をおろし,背筋をのばした。
「そうよ,いい子ね,よくできたわ」
「ワン!」と満面の笑みを浮かべ,ハッハッと舌を垂れた。よだれも垂れた。
人格じゃのうて犬格かい!
「さあ,体をきれいにしましょう。かわいいわね」
キャッと甲高い声を発するなり,両腕を前に丸め,二足立ちすると繰りかえしジャンプする。「シャワーを浴びるのよ。もっとかわいくなりましょう」
フロアを転げまわり,喜びを全身で表現してから,大きく跳ねて飛びつくと,悪びれた風もなく両胸にタッチして顔面をなめようとする。
反射的に握った両拳をすんでのところで押しひろげ,両頰を往復びんたした。「お行儀よくなさい!」
丸めた全指を揃え置き,まとまりよく座りなおす。
「それでいいわ。ついてきて」
バスルームに犬を誘い,待ての合図をしてから湯加減の調節をした。戻ってくると,不安げな面もちがぱっと輝き,元気よくキャンキャンと鳴く。
「さあ,ここからは自分でするの。なかに入ってシャワーを浴びてきて」
犬は小首を傾げたまま動かないでいる。
「頭からお湯を浴びるのよ――小ぎれいになって帰ってくるの」
犬はそわそわしはじめた。言われていることが分からないのか? 別の人格を呼んだほうが手っとり早いかもしれない。だが従順でないタイプだと困る。もう少し犬につきあってみよう。
「いい,もう一度言うわね――なかに入ってシャワーを浴びるの。あたしはむこうで待ってるから」その場を立ちさろうとするなり,クンクンとしきりに鼻を鳴らす。それでも立ちどまらないでいると,四足歩行で先に回りこみ,行く手を遮る。
「悪い子だわ。戻りなさい」
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