11 / 24
11 真相解明の責任
しおりを挟む
劉と蜜瑠が視線の応酬を交わした。祀鶴歌とあたしも互いの顔を見あった。
「実行犯を婚約者として匿っている?」ユアンミンがナイフとフォークをおろした。「それって航空機爆破犯が――」祀鶴歌を強い視線でさしてからナプキンを置いた。「失礼するわ」
ブーツの足音が遠ざかっていった。テーブルに一つ空席ができた。険悪なムードを感じたためか,付近のテーブルからも立ちさる者が出た。
「まずは正式な名前を聞かせてもらえませんか,祀鶴歌さん」蜜瑠がテーブルに両肘をつき,組みあわせた両手に顎を置いた。
「食事の席でよさないか」劉が叱責した。
「ならば場所をかえますか。このままクルーザーをおりて本国に来てもらっても構いませんよ」
拘束されれば日本政府も手だしはできない。死ぬ寸前まで痛めつけながらも死なせない秘技を尽くした拷問にかけられ,犠牲者たちは一刻も速く天国に逝きたいと願う――祀鶴歌が冗談まじりに並べた言葉が真実になろうとしていた。
「乗客リストを見れば分かるでしょう」祀鶴歌が伏し目がちに答えた。
劉が何も答えなくていいと口を挟む。
「乗客リスト? とっくに調べました」蜜瑠は例の目を絞るだけの笑みを見せた。「ところが何処にもないんです,祀鶴歌なんて名前は」
「そんなはずは――だって引率の先生が予約の際に知らせたはずだ」祀鶴歌が素の口調で言った。
「引率の先生?」蜜瑠が両手にのせた顎を揺すった。
祀鶴歌が黙りこむ。
「引率の先生というのは誰です? あなた方は一体どういう目的で台湾にむかっていたんです?」蜜瑠と目があいかけて,あたしは外方をむいた。
「答えられませんか……」ため息まじりに言う。「せめてどの座席に座っていたかを思いだしてもらえませんか。そうすればリストと照合してあなた方がどういう偽名を使って乗りこんだかが分かる。引率の先生とやらの偽名も判明するでしょう」
あたしも祀鶴歌も口を噤んでいた。
「そちらの出方次第ではこちらにも考えがありますよ。この国では相手が子供だからといって容赦などしない」組んだ両手を解いて真顔になる。背筋が寒くなった。
「おい――」蜜瑠が手をあげると,何処からともなくイーチン姿の男たちが集まってきた。屈強な体つきをしている。ランチの出席者たちは談笑も食事もやめて,固唾をのんで情勢を見守っていた。
「何だ? 何をするつもりだ?」劉が立ちあがり,祀鶴歌におおいかぶさった。
「当局にひきわたします。僕たちには口を割りそうにありませんから」蜜瑠の合図でイーチン集団が詰めよる。
「よさないか!」劉がこめかみに青筋を立てて怒鳴った。
「プロに任せましょうよ」彼特有の笑みを浮かべる。「これ以上庇いだてすれば自身のためになりませんよ。爆破を指示した張本人だと思われても仕方ない」
「日本が黙っていないぞ。中国と日本の関係を悪化させることになる」
「日本はいつも弱腰です。何も言ってきやしません。それに日本人なんですか? 何処の国籍の人間だか――」顎を一振りすれば,イーチンの1人が祀鶴歌に腕をのばした。
その腕を劉が振りはらう。「よせっ! やめろと言っているだろう!」周囲を見据えた。「分かっているのか――私が嫡子だ」そう呟いてから中国語で何か喋った。
イーチン集団が構えた腕を一斉におろし,視線を落として姿勢を正した。
「さあ,早く――」劉が祀鶴歌を立たせた。
「海滋!」蜜瑠が憤怒を露わにして声を荒げた。「約束しましたよ,必ずあなたの力で事件を解明すると! できなかった場合には――」
「煮るなり焼くなり好きにすればいい」劉は祀鶴歌の背を抱いて会場を後にした。
「実行犯を婚約者として匿っている?」ユアンミンがナイフとフォークをおろした。「それって航空機爆破犯が――」祀鶴歌を強い視線でさしてからナプキンを置いた。「失礼するわ」
ブーツの足音が遠ざかっていった。テーブルに一つ空席ができた。険悪なムードを感じたためか,付近のテーブルからも立ちさる者が出た。
「まずは正式な名前を聞かせてもらえませんか,祀鶴歌さん」蜜瑠がテーブルに両肘をつき,組みあわせた両手に顎を置いた。
「食事の席でよさないか」劉が叱責した。
「ならば場所をかえますか。このままクルーザーをおりて本国に来てもらっても構いませんよ」
拘束されれば日本政府も手だしはできない。死ぬ寸前まで痛めつけながらも死なせない秘技を尽くした拷問にかけられ,犠牲者たちは一刻も速く天国に逝きたいと願う――祀鶴歌が冗談まじりに並べた言葉が真実になろうとしていた。
「乗客リストを見れば分かるでしょう」祀鶴歌が伏し目がちに答えた。
劉が何も答えなくていいと口を挟む。
「乗客リスト? とっくに調べました」蜜瑠は例の目を絞るだけの笑みを見せた。「ところが何処にもないんです,祀鶴歌なんて名前は」
「そんなはずは――だって引率の先生が予約の際に知らせたはずだ」祀鶴歌が素の口調で言った。
「引率の先生?」蜜瑠が両手にのせた顎を揺すった。
祀鶴歌が黙りこむ。
「引率の先生というのは誰です? あなた方は一体どういう目的で台湾にむかっていたんです?」蜜瑠と目があいかけて,あたしは外方をむいた。
「答えられませんか……」ため息まじりに言う。「せめてどの座席に座っていたかを思いだしてもらえませんか。そうすればリストと照合してあなた方がどういう偽名を使って乗りこんだかが分かる。引率の先生とやらの偽名も判明するでしょう」
あたしも祀鶴歌も口を噤んでいた。
「そちらの出方次第ではこちらにも考えがありますよ。この国では相手が子供だからといって容赦などしない」組んだ両手を解いて真顔になる。背筋が寒くなった。
「おい――」蜜瑠が手をあげると,何処からともなくイーチン姿の男たちが集まってきた。屈強な体つきをしている。ランチの出席者たちは談笑も食事もやめて,固唾をのんで情勢を見守っていた。
「何だ? 何をするつもりだ?」劉が立ちあがり,祀鶴歌におおいかぶさった。
「当局にひきわたします。僕たちには口を割りそうにありませんから」蜜瑠の合図でイーチン集団が詰めよる。
「よさないか!」劉がこめかみに青筋を立てて怒鳴った。
「プロに任せましょうよ」彼特有の笑みを浮かべる。「これ以上庇いだてすれば自身のためになりませんよ。爆破を指示した張本人だと思われても仕方ない」
「日本が黙っていないぞ。中国と日本の関係を悪化させることになる」
「日本はいつも弱腰です。何も言ってきやしません。それに日本人なんですか? 何処の国籍の人間だか――」顎を一振りすれば,イーチンの1人が祀鶴歌に腕をのばした。
その腕を劉が振りはらう。「よせっ! やめろと言っているだろう!」周囲を見据えた。「分かっているのか――私が嫡子だ」そう呟いてから中国語で何か喋った。
イーチン集団が構えた腕を一斉におろし,視線を落として姿勢を正した。
「さあ,早く――」劉が祀鶴歌を立たせた。
「海滋!」蜜瑠が憤怒を露わにして声を荒げた。「約束しましたよ,必ずあなたの力で事件を解明すると! できなかった場合には――」
「煮るなり焼くなり好きにすればいい」劉は祀鶴歌の背を抱いて会場を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる