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第11話
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門の近くのポストの中には茶色い封筒に入ったウィルの仕事関係の資料、新聞、それと小さな箱と、一通の手紙。それを見てソフィアはため息を吐いた。
手紙の裏面を眺めながら階段を上り、この場で破ってしまおうか考えた。でも良心がその手紙を破るなと叫んでいる。
洋館の中に戻り、ダイニングへ向かった。その途中で廊下を掃除していたメイドと出会った。
「奥様、わたくしが取りに行きましたのに。外寒くありませんでしたか?」
奥様という言葉にまだ慣れないソフィアは「大丈夫よ」と言いながら笑みを浮かべた。この屋敷のメイド達は皆ソフィアに優しい。そしてとてもフレンドリー。ハンプソン家ではほとんどのメイドとは口を利けず、その上ソフィアの周りにはほとんどメイドが寄り付かなかった。
「ウィル様はもう、朝食食べていらっしゃるのかしら」
「先ほど降りてまいりましたよ」
ダイニングへ着くと、目がはっきりと開いていないウィルがコーヒーを左手に持ち、万年筆を右手に持ち、ノートにすらすらと書き記していた。
「おはようございます。今日は冷えますね」
「おはよう。持ってきてくれたのか。ありがとう」
「いえ、たまたま早く起きたので」
ポストに入っていたものをテーブルの上に置いた。ウィルはいつも一番に新聞を眺めるけれども、今日は小包に手を出して、紐をほどいた。紙を取って、中に入っていたのは手に乗るほどの小さな小さな箱だった。ウィルはそれをソフィアの前に出すと、それを開けた。
「僕からの気持ちだよ」
その中に入っていたのはダイヤモンドがはめ込まれた指輪だった。
「こんなもの。よろしいんですか」
「指輪してた方が、自然でしょう」
まるで氷が解けたような、寒い冬を超えて春がやってきたような、ソフィアの凝り固まっていた笑みが自然な暖かな笑みに変わった。
「とても嬉しいです。ありがとうございます」
その指輪を右手の薬指にはめて、指輪のはまったソフィアの手の甲にキスをした。ソフィアは嬉しそうな恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「ウィル様の分もあるんですか?」
「うん」
ウィルも右手の薬指に指輪をはめた。
「お揃いですね。嬉しいです」
「ほんとだねぇ」
万悦の表情を浮かべたソフィアは指輪を眺めていた。そんなソフィアをウィルは眺めて、ふと下に移った。そこにはあの手紙。宛名を見てみると『ミア・ハンプソン』と書かれている。
「またきたのか」
「はい、たぶん舞踏会の招待状です。大体考えていることは分かっています」
「なにを考えていると?」
「私とウィル様を離婚させようとしているのだと思います」
メイドが注いだ紅茶を一口飲み、ソフィアは体を温めた。
「あの子つい最近、あのオリバーっていう子と結婚することになったんじゃないのかい?もう乗り換え?」
「妹はお金持ちで眉目秀麗な、男性を探しているんです。そして今まで会った中でウィル様以上の方はいらっしゃらないかと」
「君が行きたいなら連れていくよ」
「大丈夫です。行かないです」
キッチンから運ばれてきたサンドイッチと、果物、温かいトマトのスープがやってきた。髪をかき上げ、スプーンで丁寧にスープを飲んだ。
「君は誰か好きな人が出来たことがある?」
そう質問されてソフィアは手を止めて表情を曇らせた。
「たくさんいました」
それはウィルが予想していた返答の正反対の答えだった。ウィルにとってソフィアは恋愛に全く興味のない少女に見えていた。
「皆さん、私に好意を持っていただいて、私もその殿方達に思いを寄せました。ですが、どの方もミアに横から奪われてしまって、一年以上婚約関係を結ぶことが出来たオリバーとは、親にも、ミアにもほとんど何も話していなかったから続いていたんです。でもいつの間にかオリバーもミアの虜になってしまっていました」
純粋で、素直な心を持っているからこそ、好きだと言ってくれる相手には自らも好意を持ち、浮気なんて一度もしたことが無かった。
「だから、ウィル様には舞踏会に行ってほしくありません。貴方様まで奪われてしまったら、私はどうしたらよいのか」
「それは僕に好意を持ってくれているから?それともソフィアにとって僕は便利だから?」
その二つに対してソフィアは「不可抗力です」と答えた。
「家には戻れないし、かといって近くにいるウィル様に甘えないという選択肢も取りたくない。ですけれども今は、貴方様を愛しているからだと思います」
「君は結構はっきりしているんだね」
「ウィル様が女たらしでもない限り、こんなことしてくださらないでしょう。それに婚姻届けを出した以上、私は貴方様を愛すつもりです。それが私のできる精いっぱいの恩返しですので」
この言葉をソフィアは全く恥ずかしがっていなかった。堂々として、はっきりと言ってのけた。そんな印象をウィルはもっていなかったために、自分から話題を切り出しておいて先を越された恥ずかしさで、自分の気持ちを言いそびれた。
それをごまかすようにコーヒーを飲んでいる。それを見てソフィアは小さく笑った。
「私もそこまで鈍感じゃございません」
「読みを間違えた。もっと恋愛に乏しいのだと思っていたのに」
「ウィル様は恋愛経験が豊富そうです」
「ま、人並みにね」
手紙の裏面を眺めながら階段を上り、この場で破ってしまおうか考えた。でも良心がその手紙を破るなと叫んでいる。
洋館の中に戻り、ダイニングへ向かった。その途中で廊下を掃除していたメイドと出会った。
「奥様、わたくしが取りに行きましたのに。外寒くありませんでしたか?」
奥様という言葉にまだ慣れないソフィアは「大丈夫よ」と言いながら笑みを浮かべた。この屋敷のメイド達は皆ソフィアに優しい。そしてとてもフレンドリー。ハンプソン家ではほとんどのメイドとは口を利けず、その上ソフィアの周りにはほとんどメイドが寄り付かなかった。
「ウィル様はもう、朝食食べていらっしゃるのかしら」
「先ほど降りてまいりましたよ」
ダイニングへ着くと、目がはっきりと開いていないウィルがコーヒーを左手に持ち、万年筆を右手に持ち、ノートにすらすらと書き記していた。
「おはようございます。今日は冷えますね」
「おはよう。持ってきてくれたのか。ありがとう」
「いえ、たまたま早く起きたので」
ポストに入っていたものをテーブルの上に置いた。ウィルはいつも一番に新聞を眺めるけれども、今日は小包に手を出して、紐をほどいた。紙を取って、中に入っていたのは手に乗るほどの小さな小さな箱だった。ウィルはそれをソフィアの前に出すと、それを開けた。
「僕からの気持ちだよ」
その中に入っていたのはダイヤモンドがはめ込まれた指輪だった。
「こんなもの。よろしいんですか」
「指輪してた方が、自然でしょう」
まるで氷が解けたような、寒い冬を超えて春がやってきたような、ソフィアの凝り固まっていた笑みが自然な暖かな笑みに変わった。
「とても嬉しいです。ありがとうございます」
その指輪を右手の薬指にはめて、指輪のはまったソフィアの手の甲にキスをした。ソフィアは嬉しそうな恥ずかしそうな表情を浮かべた。
「ウィル様の分もあるんですか?」
「うん」
ウィルも右手の薬指に指輪をはめた。
「お揃いですね。嬉しいです」
「ほんとだねぇ」
万悦の表情を浮かべたソフィアは指輪を眺めていた。そんなソフィアをウィルは眺めて、ふと下に移った。そこにはあの手紙。宛名を見てみると『ミア・ハンプソン』と書かれている。
「またきたのか」
「はい、たぶん舞踏会の招待状です。大体考えていることは分かっています」
「なにを考えていると?」
「私とウィル様を離婚させようとしているのだと思います」
メイドが注いだ紅茶を一口飲み、ソフィアは体を温めた。
「あの子つい最近、あのオリバーっていう子と結婚することになったんじゃないのかい?もう乗り換え?」
「妹はお金持ちで眉目秀麗な、男性を探しているんです。そして今まで会った中でウィル様以上の方はいらっしゃらないかと」
「君が行きたいなら連れていくよ」
「大丈夫です。行かないです」
キッチンから運ばれてきたサンドイッチと、果物、温かいトマトのスープがやってきた。髪をかき上げ、スプーンで丁寧にスープを飲んだ。
「君は誰か好きな人が出来たことがある?」
そう質問されてソフィアは手を止めて表情を曇らせた。
「たくさんいました」
それはウィルが予想していた返答の正反対の答えだった。ウィルにとってソフィアは恋愛に全く興味のない少女に見えていた。
「皆さん、私に好意を持っていただいて、私もその殿方達に思いを寄せました。ですが、どの方もミアに横から奪われてしまって、一年以上婚約関係を結ぶことが出来たオリバーとは、親にも、ミアにもほとんど何も話していなかったから続いていたんです。でもいつの間にかオリバーもミアの虜になってしまっていました」
純粋で、素直な心を持っているからこそ、好きだと言ってくれる相手には自らも好意を持ち、浮気なんて一度もしたことが無かった。
「だから、ウィル様には舞踏会に行ってほしくありません。貴方様まで奪われてしまったら、私はどうしたらよいのか」
「それは僕に好意を持ってくれているから?それともソフィアにとって僕は便利だから?」
その二つに対してソフィアは「不可抗力です」と答えた。
「家には戻れないし、かといって近くにいるウィル様に甘えないという選択肢も取りたくない。ですけれども今は、貴方様を愛しているからだと思います」
「君は結構はっきりしているんだね」
「ウィル様が女たらしでもない限り、こんなことしてくださらないでしょう。それに婚姻届けを出した以上、私は貴方様を愛すつもりです。それが私のできる精いっぱいの恩返しですので」
この言葉をソフィアは全く恥ずかしがっていなかった。堂々として、はっきりと言ってのけた。そんな印象をウィルはもっていなかったために、自分から話題を切り出しておいて先を越された恥ずかしさで、自分の気持ちを言いそびれた。
それをごまかすようにコーヒーを飲んでいる。それを見てソフィアは小さく笑った。
「私もそこまで鈍感じゃございません」
「読みを間違えた。もっと恋愛に乏しいのだと思っていたのに」
「ウィル様は恋愛経験が豊富そうです」
「ま、人並みにね」
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