14 / 17
第13話
しおりを挟む
ある日ミアからの手紙がプツリと途切れた。それを見たソフィアもウィルももう諦めたものだと思い安堵の気持ちが訪れたのもつかの間だった。
屋敷の玄関に備え付けられているベルが洋館内に響き渡り、玄関近くに居たメイドは不用心にも誰が立っているのか確認せず玄関の鍵を開け、扉を開けた。
「こんにちは。お姉様、いるかしら?」
ミアとオリバーが立っていた。メイドは会釈をし「少々お待ちください」と言い扉を一旦閉めようとしたけれども、オリバーが外からドアノブを強くひき、ミアは扉の隙間からするりと、洋館の中へ入った。メイドは無理に入ってくる二人に恐怖した。
「困ります。旦那様に確認してまいりますので、いったん外でお待ちください」
「この屋敷では客人を寒空の下で待たせるのか。なんていう屋敷だ。屋敷の中に入ったぐらいでバチは当たらないだろう」
「オリバーの言う通り。それに二人が結婚したっていう話を聞いて、結婚祝いを持ってきたの」
確かにミアの右手にはケーキの箱のようなものがある。けれどもメイド達はハンプソン家の人間を容易に入れないようにと言われている。
二人は行儀や礼儀という単語を全く知らないのか、誰に制止されようが洋館の中を進んでいく。そして飾られている絵画や高級な置物にべたべたと触る。
「高い物ばかり飾られているわね」
「ただの骨董品だろう」
「それもそうだけれどもね」
洋館の中を進んでいきミアは階段を眺めた。そして不気味な笑みを浮かべると、階段へ向かった。それを見てメイドは必死で止めようとしたけれどもミアは「お姉様にお会いしたいの」と言って制止を振り切ろうとする。その上オリバーが「ただ姉に会いたがっているんだ。何をそんなに嫌がる必要がある」と言ってミアを二階へ上がらせようとしている。
「何をしているんですか」
押し問答を繰り広げている二人を二階から眺めてウィルは眉間にしわを寄せた。
「ここは私の屋敷ですけれども。身勝手なことをされるのであれば警察でも騎士団でもなんでも呼んで、付きだしますよ」
警察、騎士団、その言葉を聞いたオリバーは後ずさりしたけれどもミアは、まったく気にしておらずにっこりと笑って「申し訳ございません」と言った。
「でも、どうしてもお姉様をお会いしたくて。こちらケーキです。よかったら食べてください」
「下で話をしましょう。客間へ案内してくれたまえ」
メイド達はギクシャクしながらも、二人を客間へ案内した。客間へ案内された二人は出された紅茶を飲みながらウィルが降りてくることを待った。
ウィルはラフな普段着で降りてきて、二人と面を合わせた。
「お久しぶりです。ウィル・ケイルトン様」
「お久しぶりです。そちらの方は?」
「私の婚約者のオリバーです」
「オリバー・フェルメールと申します。貴方がソフィアと結婚した方でしたか」
椅子から立ち上がり、しっかりと礼をし、それを返すようにウィルも丁寧に頭を下げ、胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「ウィル・ケイルトン。バギンズファクトリーの社長を務めております」
名刺の端を指で押さえて、オリバーの前に差し出した。その名刺を受け取ったオリバーは目を丸くした。
「貴族ではないのですか?」
「商人ですね」
「バギンズと言えば、かなりの富豪だという噂だと思うのですが」
「まだまだ成長期です」
二人とも席につき「さて」とウィルは大きなため息をついた。あまり敬語を使わないウィルが敬語を使っているためか厳かな雰囲気となっている。
「ミアさん、貴方私の妻にどれだけの危害を加えれば気が済むのですか」
「危害?そんなこと何もしておりませんよ」
「これは言葉の違いですね。質問を変えます。私の妻にどれだけ執着すれば気が済むのですか。もう彼女は貴方と関わりたくないと言っている。それなのに執拗に手紙を送りつけて、友人たちまで使って大量の手紙を送り付け。迷惑という言葉を知らないのですか」
睨みつけるように静かに目を細めるウィルに対して、オリバーは「違う」と声を上げた。
「違います。ケイルトンさん、貴方はソフィアに騙されている。ソフィアはミアのことをいじめていたんですよ。それなのに人に怒られたから貴方のところへ逃げて。ソフィアは罰を受けるべきなんです」
「罰を受けるべきなら、警察でも、騎士団にでも相談すればいい。裁判で有罪になれば適切な罰を受けることが出来
ますからね」
真面目にまっすぐと二人を見てウィルは言うのに対して、オリバーは怯む。
「いや、そんな重大なことじゃないのに…」
「そう、重大じゃない。それと妻がミアさんをいじめたという証拠はどこにあるのでしょうか」
「ミアが殴られた痣を見たことがある」
適切な反論をされたウィルは特に動じることもなく、ミアを見た。
「その痣はいつ、どこで、なぜつけられたのですか?それと本当にソフィアがつけた傷ですか?」
「あれは屋敷の中でした。ほんの一か月前。ちょっとした口論になってしまって」
「口論の理由は何ですか?」
「それは、思い出したくありません。とにかく罵倒されたことを覚えています…」
俯きながらのらりくらりと返答を返すミアにたいしてウィルはまた質問をしようとしたけれどもそれをオリバーがさえぎった。
「ミアがこう言っているんです。やめてください。ミアの傷を抉るのは」
ウィルのことを睨みつけて、ミアの手を握りしめる。
「貴方がミアさんを守りたいように、私も妻を守りたいのです。だからミアさんがどうなろうが、私は特に何も思わない」
「それは人間としてどうなんですか」
「貴方もソフィアに対して、力加減のないビンタをしたではないですか。何も思わないから貴方もソフィアにビンタをしたのでしょう?」
一旦何を言おうか迷ったオリバーだったけれども「あれは罰だ」と言った。
「ではこれも罰です。今すぐ私もミアさんを殴りたいですよ」
すべてが裏目に出てしまう。オリバーを見てミアは涙を流し始めた。
「お願いです。お姉様に合わせてください。私はお姉様と仲直りをしたいだけなの」
「それはできませんね」
「どうしてだ。ミアはここに出てきているんだぞ」
それを聞いたウィルは両手を握りしめて「黙れ」と小さく低音な声を発した。
「今ソフィアはあの大量の手紙の件で精神的に追い詰められ体を壊しています。出てこれるわけないでしょう」
屋敷の玄関に備え付けられているベルが洋館内に響き渡り、玄関近くに居たメイドは不用心にも誰が立っているのか確認せず玄関の鍵を開け、扉を開けた。
「こんにちは。お姉様、いるかしら?」
ミアとオリバーが立っていた。メイドは会釈をし「少々お待ちください」と言い扉を一旦閉めようとしたけれども、オリバーが外からドアノブを強くひき、ミアは扉の隙間からするりと、洋館の中へ入った。メイドは無理に入ってくる二人に恐怖した。
「困ります。旦那様に確認してまいりますので、いったん外でお待ちください」
「この屋敷では客人を寒空の下で待たせるのか。なんていう屋敷だ。屋敷の中に入ったぐらいでバチは当たらないだろう」
「オリバーの言う通り。それに二人が結婚したっていう話を聞いて、結婚祝いを持ってきたの」
確かにミアの右手にはケーキの箱のようなものがある。けれどもメイド達はハンプソン家の人間を容易に入れないようにと言われている。
二人は行儀や礼儀という単語を全く知らないのか、誰に制止されようが洋館の中を進んでいく。そして飾られている絵画や高級な置物にべたべたと触る。
「高い物ばかり飾られているわね」
「ただの骨董品だろう」
「それもそうだけれどもね」
洋館の中を進んでいきミアは階段を眺めた。そして不気味な笑みを浮かべると、階段へ向かった。それを見てメイドは必死で止めようとしたけれどもミアは「お姉様にお会いしたいの」と言って制止を振り切ろうとする。その上オリバーが「ただ姉に会いたがっているんだ。何をそんなに嫌がる必要がある」と言ってミアを二階へ上がらせようとしている。
「何をしているんですか」
押し問答を繰り広げている二人を二階から眺めてウィルは眉間にしわを寄せた。
「ここは私の屋敷ですけれども。身勝手なことをされるのであれば警察でも騎士団でもなんでも呼んで、付きだしますよ」
警察、騎士団、その言葉を聞いたオリバーは後ずさりしたけれどもミアは、まったく気にしておらずにっこりと笑って「申し訳ございません」と言った。
「でも、どうしてもお姉様をお会いしたくて。こちらケーキです。よかったら食べてください」
「下で話をしましょう。客間へ案内してくれたまえ」
メイド達はギクシャクしながらも、二人を客間へ案内した。客間へ案内された二人は出された紅茶を飲みながらウィルが降りてくることを待った。
ウィルはラフな普段着で降りてきて、二人と面を合わせた。
「お久しぶりです。ウィル・ケイルトン様」
「お久しぶりです。そちらの方は?」
「私の婚約者のオリバーです」
「オリバー・フェルメールと申します。貴方がソフィアと結婚した方でしたか」
椅子から立ち上がり、しっかりと礼をし、それを返すようにウィルも丁寧に頭を下げ、胸ポケットから一枚の名刺を取り出した。
「ウィル・ケイルトン。バギンズファクトリーの社長を務めております」
名刺の端を指で押さえて、オリバーの前に差し出した。その名刺を受け取ったオリバーは目を丸くした。
「貴族ではないのですか?」
「商人ですね」
「バギンズと言えば、かなりの富豪だという噂だと思うのですが」
「まだまだ成長期です」
二人とも席につき「さて」とウィルは大きなため息をついた。あまり敬語を使わないウィルが敬語を使っているためか厳かな雰囲気となっている。
「ミアさん、貴方私の妻にどれだけの危害を加えれば気が済むのですか」
「危害?そんなこと何もしておりませんよ」
「これは言葉の違いですね。質問を変えます。私の妻にどれだけ執着すれば気が済むのですか。もう彼女は貴方と関わりたくないと言っている。それなのに執拗に手紙を送りつけて、友人たちまで使って大量の手紙を送り付け。迷惑という言葉を知らないのですか」
睨みつけるように静かに目を細めるウィルに対して、オリバーは「違う」と声を上げた。
「違います。ケイルトンさん、貴方はソフィアに騙されている。ソフィアはミアのことをいじめていたんですよ。それなのに人に怒られたから貴方のところへ逃げて。ソフィアは罰を受けるべきなんです」
「罰を受けるべきなら、警察でも、騎士団にでも相談すればいい。裁判で有罪になれば適切な罰を受けることが出来
ますからね」
真面目にまっすぐと二人を見てウィルは言うのに対して、オリバーは怯む。
「いや、そんな重大なことじゃないのに…」
「そう、重大じゃない。それと妻がミアさんをいじめたという証拠はどこにあるのでしょうか」
「ミアが殴られた痣を見たことがある」
適切な反論をされたウィルは特に動じることもなく、ミアを見た。
「その痣はいつ、どこで、なぜつけられたのですか?それと本当にソフィアがつけた傷ですか?」
「あれは屋敷の中でした。ほんの一か月前。ちょっとした口論になってしまって」
「口論の理由は何ですか?」
「それは、思い出したくありません。とにかく罵倒されたことを覚えています…」
俯きながらのらりくらりと返答を返すミアにたいしてウィルはまた質問をしようとしたけれどもそれをオリバーがさえぎった。
「ミアがこう言っているんです。やめてください。ミアの傷を抉るのは」
ウィルのことを睨みつけて、ミアの手を握りしめる。
「貴方がミアさんを守りたいように、私も妻を守りたいのです。だからミアさんがどうなろうが、私は特に何も思わない」
「それは人間としてどうなんですか」
「貴方もソフィアに対して、力加減のないビンタをしたではないですか。何も思わないから貴方もソフィアにビンタをしたのでしょう?」
一旦何を言おうか迷ったオリバーだったけれども「あれは罰だ」と言った。
「ではこれも罰です。今すぐ私もミアさんを殴りたいですよ」
すべてが裏目に出てしまう。オリバーを見てミアは涙を流し始めた。
「お願いです。お姉様に合わせてください。私はお姉様と仲直りをしたいだけなの」
「それはできませんね」
「どうしてだ。ミアはここに出てきているんだぞ」
それを聞いたウィルは両手を握りしめて「黙れ」と小さく低音な声を発した。
「今ソフィアはあの大量の手紙の件で精神的に追い詰められ体を壊しています。出てこれるわけないでしょう」
88
あなたにおすすめの小説
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
凛 伊緒
恋愛
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた──
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は──
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです
白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」
国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。
目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。
※2話完結。
婚約破棄されたので、その場から逃げたら時間が巻き戻ったので聖女はもう間違えない
aihara
恋愛
私は聖女だった…聖女だったはずだった。
「偽聖女マリア!
貴様との婚約を破棄する!!」
目の前の婚約者である第二王子からそう宣言される
あまりの急な出来事にその場から逃げた私、マリア・フリージアだったが…
なぜかいつの間にか懐かしい実家の子爵家にいた…。
婚約破棄された、聖女の力を持つ子爵令嬢はもう間違えない…
【完結】「お前に聖女の資格はない!」→じゃあ隣国で王妃になりますね
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
恋愛
【全7話完結保証!】
聖王国の誇り高き聖女リリエルは、突如として婚約者であるルヴェール王国のルシアン王子から「偽聖女」の烙印を押され追放されてしまう。傷つきながらも母国へ帰ろうとするが、運命のいたずらで隣国エストレア新王国の策士と名高いエリオット王子と出会う。
「僕が君を守る代わりに、その力で僕を助けてほしい」
甘く微笑む彼に導かれ、戸惑いながらも新しい人生を歩み始めたリリエル。けれど、彼女を追い詰めた隣国の陰謀が再び迫り――!?
追放された聖女と策略家の王子が織りなす、甘く切ない逆転ロマンス・ファンタジー。
聖女を無能と罵って婚約破棄を宣言した王太子は追放されてしまいました
もるだ
恋愛
「お前とは婚約破棄だ! 国から出ていけ!」
王命により怪我人へのお祈りを続けていた聖女カリンを罵ったのは、王太子のヒューズだった。若くて可愛い聖女と結婚するつもりらしい。
だが、ヒューズの暴挙に怒った国王は、カリンではなく息子の王太子を追放することにした。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
【完結】女王と婚約破棄して義妹を選んだ公爵には、痛い目を見てもらいます。女王の私は田舎でのんびりするので、よろしくお願いしますね。
五月ふう
恋愛
「シアラ。お前とは婚約破棄させてもらう。」
オークリィ公爵がシアラ女王に婚約破棄を要求したのは、結婚式の一週間前のことだった。
シアラからオークリィを奪ったのは、妹のボニー。彼女はシアラが苦しんでいる姿を見て、楽しそうに笑う。
ここは南の小国ルカドル国。シアラは御年25歳。
彼女には前世の記憶があった。
(どうなってるのよ?!)
ルカドル国は現在、崩壊の危機にある。女王にも関わらず、彼女に使える使用人は二人だけ。賃金が払えないからと、他のものは皆解雇されていた。
(貧乏女王に転生するなんて、、、。)
婚約破棄された女王シアラは、頭を抱えた。前世で散々な目にあった彼女は、今回こそは幸せになりたいと強く望んでいる。
(ひどすぎるよ、、、神様。金髪碧眼の、誰からも愛されるお姫様に転生させてって言ったじゃないですか、、、。)
幸せになれなかった前世の分を取り返すため、女王シアラは全力でのんびりしようと心に決めた。
最低な元婚約者も、継妹も知ったこっちゃない。
(もう婚約破棄なんてされずに、幸せに過ごすんだーー。)
お前との婚約は、ここで破棄する!
ねむたん
恋愛
「公爵令嬢レティシア・フォン・エーデルシュタイン! お前との婚約は、ここで破棄する!」
華やかな舞踏会の中心で、第三王子アレクシス・ローゼンベルクがそう高らかに宣言した。
一瞬の静寂の後、会場がどよめく。
私は心の中でため息をついた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる