【完結】妹に人生を狂わされた代わりに、ハイスペックな夫が出来ました

第１４話

　体を壊したということを聞いてミアは涙を流しながら、顔を両手で覆ってどんどんと泣き始めた。オリバーはそれを慰める以外に役に立たず。ウィルは話ができないと判断して席を立った。

「ミアさん、もうここにこないと約束するなら、私はなにもしない。もし何かするというのであれば私は容赦しない」

　涙で目元を赤くしたミアは顔を上げると「一度だけでいいんです。お姉様と話をさせてください」と傍から見たら必死に見えるだろう。それに感化されたオリバーはウィルに同じく願った。

「ちょっと会うぐらいいいだろう」
「駄目です」
「なぜ！」
「私が嫌だからです。妻があんなにミアさんのことで疲弊したというのに、これ以上妻の病状を悪化させるわけにはいかない。お引き取りを」

　ミアの必死の泣き真似も全く通じずウィルは二人に背中を向けてドアノブを捻った。扉を開けた先を見てウィルは目を丸くした。
　青白いままの顔色をしたままネグリジェとカーディガン姿。部屋に入ろうとしてウィルが方を掴んで止めると優しく笑った。

「ちょっと話をするだけだから。本当にちょっとだけ」
「駄目だ。部屋に戻るんだ」
「大丈夫」
「君の大丈夫は聞き飽きた。ベッドでねむっているんだ」

　大きく上下しているソフィアの肩に手を置いて、ベッドまで連れて行こうとウィルは思った。いつものソフィアならばこれに従うだろう。けれども今日のソフィアはその手を振り払って、ミアに近づいた。そしていつもの大人しい雰囲気とは裏腹にミアのことを睨みつけると、右手を挙げた。

　部屋にパシンッという平らな音が響くと、ミアは叩かれた頬を抑えて、オリバーはソフィアのことを突き飛ばした。
　
「ソフィア！」
「いい加減にしなさい！

　オリバーの声に覆いかぶさるほどに大きな声。それに驚きミアもオリバーも肩を震わせた。

「ミア！いつまで子供じみたことをしているつもりなの！」
「…は？」

　一瞬ミアの仮面の一部がはがれた。

「私のことを侮辱するのはまだいいとして、ウィル様までを侮辱するのは許さないわ！今までだって、オリバーのことだって、他の婚約者のことだって、侮辱して。もう我慢の限界よ！」
「ミアがいつ俺のことを侮辱したっていうんだ」
「毎日よ。私がオリバーと婚約したと知った時から、毎日のようにオリバーは暴力癖があるとか、見るからに優しくないとか、顔も良くないし、金も稼げそうじゃないとか、散々なことを言っていたじゃない！」

　それを聞いたオリバーは喉を詰まらせたように硬直した。

「ミアがそんなこと言うわけないだろ」
「貴方たぶんミアに、今まで会った中でいちばん爵位が高くて、お金持ちで優しくて魅力的って言われたでしょう？」

　どんどんと表情を曇らせていくオリバーに対して、ミアはただ頬を抑えて俯いている。

「初めての婚約者、ファーストキスは初めて。いろいろ言われたでしょう。全部嘘。婚約者全員に言ってる。婚約したら言うセリフみたいなものなのよ」

　耐えきれなくなったのかオリバーはミアと向き合い「そんなこと嘘だろ」と聞いた。ミアは何も返答をしない。ただ頬を抑えて俯いているだけ。それを見てオリバーは部屋から出て行った。そしてやっとミアは顔を上げた。

「そんなことして楽しい？お姉様」

　冷たい怒りを孕んだミアの鋭い視線、ソフィアは動じなかった。

「楽しいわけないでしょう。貴方もさっさとこの屋敷から出ていきなさい」
「なんでそんな説教するの」
「私達のお母様も、お父様も親として貴方のことを叱れないからよ。だから代わりに私が叱るしかないでしょう。もうこんなことやめて普通の人と結婚しなさい」
「なんで。お姉様が結婚したウィル様は普通の人なの？なわけないわよね。大富豪と結婚しておいてよくそんなこと言えるわね」

　その視線は強い怒りを帯びた激怒の視線に変わっていき、ソフィアは下唇を噛んだ。

「貴方だって普通にしていれば可愛いんだから。人に怒りをぶつけていないで、自分で婚約者を探して、正しい道を歩みなさい」
「じゃあ、お姉様、ウィル様と離婚して、ウィル様を私に渡して。私ウィル様となら幸せに生きていける気がするわ」

　それに対してウィルの方が反論しようとしたけれども、ソフィアはそれを止めた。

「貴方はヒビの入ったコップ。どれだけ幸福が注がれてもすぐにもっと上がほしくなる。ウィル様と結婚したところで貴方に幸せが訪れると私には思えない。どっちも不幸になって終わりよ。自分でもわかっているんじゃないの？」

　目を丸くして、歯を食いしばったミアは両手でソフィアのことを突き飛ばした。渾身の力で突き飛ばされたミアはウィルに受け止められる。

「お姉様に私の何が分かるのよ！一歳しか変わらないのに、堂々と説教しないでよ！」
「でも、ミア。貴方は綺麗なのだから、普通に生活すればいい貰い手が付く」

　怒りが爆発したミアはソフィアもウィルも押しのけると、部屋から出ていった。そのあと玄関の音が勢いよく閉めらた大きな音がしてソフィアは胸をなでおろした。