10 / 22
第十話
しおりを挟む
私の部屋へやってきたときジェラール様は酷く疲れているようだった。刺繍の道具を枕の下へ隠し、ベッドから出た。彼は眉間を指で押さえ、重い足取りでソファへと座った。
「お疲れ様でございます。ご夕食はお食べになられたのですか?」
「ああ」
深くソファの背もたれに寄りかかり、ひじ掛けに肘を置くと、頭をもたげた。大きく息を吸い胸を膨らませると、一気に吐き出した。私は丸椅子に座って、向き合った。
「顔色が良くなっている」
「はい、おかげさまで」
お風呂から上がったばかりなのか、シャツは胸が少し見えるほどはだけ、黒髪がまだ濡れている。
「髪の水けをとりましょうか?そのままでは風邪をひいてしまいますし、タオルを持ってきますので」
「それより隣に座ってくれ」
彼は背もたれに腕を乗せている。体が強張った。丸椅子から立ち上がり、一人分の空間を開け、ソファへ座った。ジェラール様は何も言わなかった。背もたれに置いていた左手を空中で、握ったりひらいたりさせていた。無理やり私のことを抱き寄せたりということはしないのね。てっきり、組伏せられて、夜伽をするとばかり。
「お義母様が、ジェラール様は女性には興味がないとおっしゃっておりました。なのに、どうしてカタリナと結婚なさらなかったのですか?私のことは拒絶するばかりか、お優しくしてくださっています」
「それは、根本が間違っている」
「根本?」
頬杖をついて、そっぽ向いていた。
「俺は、女に興味がないわけではない。それに好みの女や、嫌いな女だっている。知性も品性もない女と結婚するなんてことはしたくない。俺を怖がる女とも」
「ジェラール様を怖がるなんてことはありませんが、私の知性や品性が高いかと言われれば首をかしげてしまうのですが」
膝をぴいたりとくっつけ、その上に手のひらを乗せていた。横目にジェラール様を見ると、こちらへ顔を向けていたためすぐに顔をそらした。
「見栄を張らず、プライドを持たず、着飾らない。それは知性がある証拠だ。それに分かりやすい」
分かりやすいってどういうこと?私ってそんな表情とか態度に出てる?いや、そんなそんな、私はそんなに分かりやすくない。だって自分を制御してるし。
「それは」
髪を触られ、そちらを見るとこちらへ近づいてきていた。体が触れるほど近づくと、肩に手を置き、抱き寄せられた。体が強張り、関節という関節が錆びついたように動かない。頭にキスをされている。心臓がバクバクと、耳元で鳴っている。
太ももを大きな手のひらで撫でるように触られ、膝の上に置いていた手を胸の前で握りしめた。混乱した。肩を触っていた手が降りてきて、神経という神経が彼の手が置かれている部分に集中している。
怖い。恥ずかしい。裸になるなんて無理。あちこち触られて、いれるなんて。一度も男性の性器を見たこともないのよ。は、入る気がしない。まるで自分自身を守るために身体中は、防御姿勢に入り全く動こうとしなかった。触られていることが気持ち悪いなんてことはない。ただ男性に触られたことなんてほとんどないから、ただひたすらに怖い。
世の中の女性はみんなこれを結婚式の後、体験してるんだから。私だっていつかジェラール様と夜伽をすることになるのだから、それが早いか遅いかの違いでしょ?それより私は四日も待たせた。遅すぎるぐらい。我慢しなくちゃ。ジェラール様はお優しいから大丈夫。
目の前が涙でゆがんで、思わず両手で顔を覆ってしまった。彼は私の体を触ることをやめ、ただ静かに抱きしめた。
「私、怖くて、ごめんなさい…」
顔を上げ手をどけると、額にキスをされた。私の頭は彼の首元にすっぽりと収まって、抱きしめられているうちに怖さは薄れた。
「こういうことに関して、どれぐらい知っている?」
「小説のそういう描写を読んだことがある程度です。母親代わりも、教師も教えることを渋っていたものですから、本で読んだ知識だけ」
顔が熱くなって両手で頬を包み込んだ。こんなことを人に話すのは初めて。それもこれから夜伽をする人に。
「絵でもなんでも見たことがないものですから、リアルな様子が分からなくて。裸になる事さえ恥ずかしいというのに、触ったりするだなんて。それに私、男性とはほとんど触れ合ったことがなく、キスをしたのもジェラール様が初めてなのです」
なんて恥ずかしい告白をしてしまったのかしら。きっとバカにされているわよね。こんな女やってられないと思われているに違いない。このままじゃ嫌われて、実家へ帰る羽目になってしまう。
その優しさが私の涙を止まらなくさせた。申し訳ない。つい先日顔を見合わせた相手に、抱きしめられていることも恐ろしく、私の身体は拒絶している。
「そうか」
「ジェラール様が嫌いなわけでも嫌なわけでもないのです。ただ、心と体がこの状況に追いついていないんです。一週間前まで私はただの田舎に住む何も知らない世間知らずな女で、伯爵夫人になるなんて想像もしていなかったんですもの。私はジェラール様が言うような人間ではありません。ただのびのびと育って、何も知らず、のうのうと生きてきただけなんです。ごめんなさい」
いてもたってもいられなくなり、彼の腕から離れ、立ち上がると部屋を出た。わき目もふらず廊下を走って、階段を下りて、外へ飛び出した。
「お疲れ様でございます。ご夕食はお食べになられたのですか?」
「ああ」
深くソファの背もたれに寄りかかり、ひじ掛けに肘を置くと、頭をもたげた。大きく息を吸い胸を膨らませると、一気に吐き出した。私は丸椅子に座って、向き合った。
「顔色が良くなっている」
「はい、おかげさまで」
お風呂から上がったばかりなのか、シャツは胸が少し見えるほどはだけ、黒髪がまだ濡れている。
「髪の水けをとりましょうか?そのままでは風邪をひいてしまいますし、タオルを持ってきますので」
「それより隣に座ってくれ」
彼は背もたれに腕を乗せている。体が強張った。丸椅子から立ち上がり、一人分の空間を開け、ソファへ座った。ジェラール様は何も言わなかった。背もたれに置いていた左手を空中で、握ったりひらいたりさせていた。無理やり私のことを抱き寄せたりということはしないのね。てっきり、組伏せられて、夜伽をするとばかり。
「お義母様が、ジェラール様は女性には興味がないとおっしゃっておりました。なのに、どうしてカタリナと結婚なさらなかったのですか?私のことは拒絶するばかりか、お優しくしてくださっています」
「それは、根本が間違っている」
「根本?」
頬杖をついて、そっぽ向いていた。
「俺は、女に興味がないわけではない。それに好みの女や、嫌いな女だっている。知性も品性もない女と結婚するなんてことはしたくない。俺を怖がる女とも」
「ジェラール様を怖がるなんてことはありませんが、私の知性や品性が高いかと言われれば首をかしげてしまうのですが」
膝をぴいたりとくっつけ、その上に手のひらを乗せていた。横目にジェラール様を見ると、こちらへ顔を向けていたためすぐに顔をそらした。
「見栄を張らず、プライドを持たず、着飾らない。それは知性がある証拠だ。それに分かりやすい」
分かりやすいってどういうこと?私ってそんな表情とか態度に出てる?いや、そんなそんな、私はそんなに分かりやすくない。だって自分を制御してるし。
「それは」
髪を触られ、そちらを見るとこちらへ近づいてきていた。体が触れるほど近づくと、肩に手を置き、抱き寄せられた。体が強張り、関節という関節が錆びついたように動かない。頭にキスをされている。心臓がバクバクと、耳元で鳴っている。
太ももを大きな手のひらで撫でるように触られ、膝の上に置いていた手を胸の前で握りしめた。混乱した。肩を触っていた手が降りてきて、神経という神経が彼の手が置かれている部分に集中している。
怖い。恥ずかしい。裸になるなんて無理。あちこち触られて、いれるなんて。一度も男性の性器を見たこともないのよ。は、入る気がしない。まるで自分自身を守るために身体中は、防御姿勢に入り全く動こうとしなかった。触られていることが気持ち悪いなんてことはない。ただ男性に触られたことなんてほとんどないから、ただひたすらに怖い。
世の中の女性はみんなこれを結婚式の後、体験してるんだから。私だっていつかジェラール様と夜伽をすることになるのだから、それが早いか遅いかの違いでしょ?それより私は四日も待たせた。遅すぎるぐらい。我慢しなくちゃ。ジェラール様はお優しいから大丈夫。
目の前が涙でゆがんで、思わず両手で顔を覆ってしまった。彼は私の体を触ることをやめ、ただ静かに抱きしめた。
「私、怖くて、ごめんなさい…」
顔を上げ手をどけると、額にキスをされた。私の頭は彼の首元にすっぽりと収まって、抱きしめられているうちに怖さは薄れた。
「こういうことに関して、どれぐらい知っている?」
「小説のそういう描写を読んだことがある程度です。母親代わりも、教師も教えることを渋っていたものですから、本で読んだ知識だけ」
顔が熱くなって両手で頬を包み込んだ。こんなことを人に話すのは初めて。それもこれから夜伽をする人に。
「絵でもなんでも見たことがないものですから、リアルな様子が分からなくて。裸になる事さえ恥ずかしいというのに、触ったりするだなんて。それに私、男性とはほとんど触れ合ったことがなく、キスをしたのもジェラール様が初めてなのです」
なんて恥ずかしい告白をしてしまったのかしら。きっとバカにされているわよね。こんな女やってられないと思われているに違いない。このままじゃ嫌われて、実家へ帰る羽目になってしまう。
その優しさが私の涙を止まらなくさせた。申し訳ない。つい先日顔を見合わせた相手に、抱きしめられていることも恐ろしく、私の身体は拒絶している。
「そうか」
「ジェラール様が嫌いなわけでも嫌なわけでもないのです。ただ、心と体がこの状況に追いついていないんです。一週間前まで私はただの田舎に住む何も知らない世間知らずな女で、伯爵夫人になるなんて想像もしていなかったんですもの。私はジェラール様が言うような人間ではありません。ただのびのびと育って、何も知らず、のうのうと生きてきただけなんです。ごめんなさい」
いてもたってもいられなくなり、彼の腕から離れ、立ち上がると部屋を出た。わき目もふらず廊下を走って、階段を下りて、外へ飛び出した。
731
あなたにおすすめの小説
わたしの婚約者なんですけどね!
キムラましゅろう
恋愛
わたしの婚約者は王宮精霊騎士団所属の精霊騎士。
この度、第二王女殿下付きの騎士を拝命して誉れ高き近衛騎士に
昇進した。
でもそれにより、婚約期間の延長を彼の家から
告げられて……!
どうせ待つなら彼の側でとわたしは内緒で精霊魔術師団に
入団した。
そんなわたしが日々目にするのは彼を含めたイケメン騎士たちを
我がもの顔で侍らかす王女殿下の姿ばかり……。
彼はわたしの婚約者なんですけどね!
いつもながらの完全ご都合主義、
ノーリアリティのお話です。
少々(?)イライラ事例が発生します。血圧の上昇が心配な方は回れ右をお願いいたします。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
(完結)可愛いだけの妹がすべてを奪っていく時、最期の雨が降る(全5話)
青空一夏
恋愛
可愛いだけの妹が、全てを奪っていく時、私はその全てを余すところなく奪わせた。
妹よ・・・貴女は知らない・・・最期の雨が貴女に降ることを・・・
暗い、シリアスなお話です。ざまぁありですが、ヒロインがするわけではありません。残酷と感じるかどうかは人によるので、わかりませんが、残酷描写シーンはありません。最期はハッピーエンドで、ほのぼのと終わります。
全5話
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
この恋に終止符(ピリオド)を
キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。
好きだからサヨナラだ。
彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。
だけど……そろそろ潮時かな。
彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、
わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。
重度の誤字脱字病患者の書くお話です。
誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。
完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
そして作者はモトサヤハピエン主義です。
そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。
小説家になろうさんでも投稿します。
諦めていた自由を手に入れた令嬢
しゃーりん
恋愛
公爵令嬢シャーロットは婚約者であるニコルソン王太子殿下に好きな令嬢がいることを知っている。
これまで二度、婚約解消を申し入れても国王夫妻に許してもらえなかったが、王子と隣国の皇女の婚約話を知り、三度目に婚約解消が許された。
実家からも逃げたいシャーロットは平民になりたいと願い、学園を卒業と同時に一人暮らしをするはずが、実家に知られて連れ戻されないよう、結婚することになってしまう。
自由を手に入れて、幸せな結婚まで手にするシャーロットのお話です。
妹に婚約者を奪われたけど、婚約者の兄に拾われて幸せになる
ワールド
恋愛
妹のリリアナは私より可愛い。それに才色兼備で姉である私は公爵家の中で落ちこぼれだった。
でも、愛する婚約者マルナールがいるからリリアナや家族からの視線に耐えられた。
しかし、ある日リリアナに婚約者を奪われてしまう。
「すまん、別れてくれ」
「私の方が好きなんですって? お姉さま」
「お前はもういらない」
様々な人からの裏切りと告白で私は公爵家を追放された。
それは終わりであり始まりだった。
路頭に迷っていると、とても爽やかな顔立ちをした公爵に。
「なんだ? この可愛い……女性は?」
私は拾われた。そして、ここから逆襲が始まった。
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる