【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ

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第十話

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 私の部屋へやってきたときジェラール様は酷く疲れているようだった。刺繍の道具を枕の下へ隠し、ベッドから出た。彼は眉間を指で押さえ、重い足取りでソファへと座った。

「お疲れ様でございます。ご夕食はお食べになられたのですか?」
「ああ」

 深くソファの背もたれに寄りかかり、ひじ掛けに肘を置くと、頭をもたげた。大きく息を吸い胸を膨らませると、一気に吐き出した。私は丸椅子に座って、向き合った。

「顔色が良くなっている」
「はい、おかげさまで」

 お風呂から上がったばかりなのか、シャツは胸が少し見えるほどはだけ、黒髪がまだ濡れている。

「髪の水けをとりましょうか?そのままでは風邪をひいてしまいますし、タオルを持ってきますので」
「それより隣に座ってくれ」

 彼は背もたれに腕を乗せている。体が強張った。丸椅子から立ち上がり、一人分の空間を開け、ソファへ座った。ジェラール様は何も言わなかった。背もたれに置いていた左手を空中で、握ったりひらいたりさせていた。無理やり私のことを抱き寄せたりということはしないのね。てっきり、組伏せられて、夜伽をするとばかり。

「お義母様が、ジェラール様は女性には興味がないとおっしゃっておりました。なのに、どうしてカタリナと結婚なさらなかったのですか?私のことは拒絶するばかりか、お優しくしてくださっています」
「それは、根本が間違っている」
「根本?」

 頬杖をついて、そっぽ向いていた。

「俺は、女に興味がないわけではない。それに好みの女や、嫌いな女だっている。知性も品性もない女と結婚するなんてことはしたくない。俺を怖がる女とも」
「ジェラール様を怖がるなんてことはありませんが、私の知性や品性が高いかと言われれば首をかしげてしまうのですが」

 膝をぴいたりとくっつけ、その上に手のひらを乗せていた。横目にジェラール様を見ると、こちらへ顔を向けていたためすぐに顔をそらした。

「見栄を張らず、プライドを持たず、着飾らない。それは知性がある証拠だ。それに分かりやすい」

 分かりやすいってどういうこと?私ってそんな表情とか態度に出てる?いや、そんなそんな、私はそんなに分かりやすくない。だって自分を制御してるし。

「それは」

 髪を触られ、そちらを見るとこちらへ近づいてきていた。体が触れるほど近づくと、肩に手を置き、抱き寄せられた。体が強張り、関節という関節が錆びついたように動かない。頭にキスをされている。心臓がバクバクと、耳元で鳴っている。

 太ももを大きな手のひらで撫でるように触られ、膝の上に置いていた手を胸の前で握りしめた。混乱した。肩を触っていた手が降りてきて、神経という神経が彼の手が置かれている部分に集中している。

 怖い。恥ずかしい。裸になるなんて無理。あちこち触られて、いれるなんて。一度も男性の性器を見たこともないのよ。は、入る気がしない。まるで自分自身を守るために身体中は、防御姿勢に入り全く動こうとしなかった。触られていることが気持ち悪いなんてことはない。ただ男性に触られたことなんてほとんどないから、ただひたすらに怖い。

 世の中の女性はみんなこれを結婚式の後、体験してるんだから。私だっていつかジェラール様と夜伽をすることになるのだから、それが早いか遅いかの違いでしょ?それより私は四日も待たせた。遅すぎるぐらい。我慢しなくちゃ。ジェラール様はお優しいから大丈夫。

 目の前が涙でゆがんで、思わず両手で顔を覆ってしまった。彼は私の体を触ることをやめ、ただ静かに抱きしめた。

「私、怖くて、ごめんなさい…」

 顔を上げ手をどけると、額にキスをされた。私の頭は彼の首元にすっぽりと収まって、抱きしめられているうちに怖さは薄れた。

「こういうことに関して、どれぐらい知っている?」
「小説のそういう描写を読んだことがある程度です。母親代わりも、教師も教えることを渋っていたものですから、本で読んだ知識だけ」

 顔が熱くなって両手で頬を包み込んだ。こんなことを人に話すのは初めて。それもこれから夜伽をする人に。

「絵でもなんでも見たことがないものですから、リアルな様子が分からなくて。裸になる事さえ恥ずかしいというのに、触ったりするだなんて。それに私、男性とはほとんど触れ合ったことがなく、キスをしたのもジェラール様が初めてなのです」

 なんて恥ずかしい告白をしてしまったのかしら。きっとバカにされているわよね。こんな女やってられないと思われているに違いない。このままじゃ嫌われて、実家へ帰る羽目になってしまう。

 その優しさが私の涙を止まらなくさせた。申し訳ない。つい先日顔を見合わせた相手に、抱きしめられていることも恐ろしく、私の身体は拒絶している。

「そうか」
「ジェラール様が嫌いなわけでも嫌なわけでもないのです。ただ、心と体がこの状況に追いついていないんです。一週間前まで私はただの田舎に住む何も知らない世間知らずな女で、伯爵夫人になるなんて想像もしていなかったんですもの。私はジェラール様が言うような人間ではありません。ただのびのびと育って、何も知らず、のうのうと生きてきただけなんです。ごめんなさい」

 いてもたってもいられなくなり、彼の腕から離れ、立ち上がると部屋を出た。わき目もふらず廊下を走って、階段を下りて、外へ飛び出した。
 
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