【完結】妹ばかり愛され追い出された姉ですが、無口な夫と暮らす日々が幸せすぎます

コトミ

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第十二話

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「結構です」
「ですが奥様、こんなものもう二度とお目にかかれませんよ。ここで買っておかなければいつ手に入るかなんてわかりません!」

 朝から屋敷へやってきたのは宝石商であった。客間に広げられた様々な宝石のはめ込まれたアクセサリー。私がいくら苦笑いをして「いらない」と言っても、食い下がり、一向に帰ろうとしない。ジェラール様がここにいてくださったのなら、一蹴してくれたかもしれないのに。

「このエメラルドなんて、美しいでしょう?奥様によくよくお似合いになると思います。ぜい試着してみてくださいまし」

 重そうなエメラルドがつけられたピアスを渡されたけれど、布の入った木箱へそっと戻した。私はアクセサリーは重くて苦手だし、こんな宝石に何の意味があるのかさっぱり私にはわからない。

「結構です。私、アクセサリーが苦手なんです。重くて、着飾ることが趣味ではありませんし。どうぞおかえりください」

 もう一時間もこの人の相手をし続けた。もういいだろうと思わず立ち上がった。それでも宝石商は全く引こうとせず、金の模様がしつらえられたブレスレットなり、世界に一つしかないティアラ、真珠のネックレス。物がありすぎて、逆に怪しく思えてきた。

「お伺いいたしますけれど、こちらはどこで手に入れたのですか?きっとこんなにたくさんの物を手に入れるだなんて、たくさんの場所を巡ってきたのでしょうね。一つ一つ説明してくださいます?」
「そんなことを聞いてなんになるって言うんですか。大切なのはこれら一つ一つに確実に価値があるということですよ。今買っておけば十年後には価値が跳ね上がること間違いなしですよ。舞踏会では花形になりましょう」

 人の前で腕組みをするだなんて失礼極まりないけれど、私は腕組みをして宝石商と向き合った。思わずため息を漏らして、メアリーに耳打ちした。

「衛兵を連れてきて」

 メアリーは会釈すると外へ出た。宝石商はなおもしゃべり続けていたけれど、二人の衛兵がやってくると言葉を区切った。私は宝石商の前に銀貨を一枚置いた。

「長々と説明頂いたんですもの、わずかばかりの謝礼です。この方を外へお連れして」

 最後まで往生際が悪かったけれど、鞘に納められた剣で頭をこずかれると、宝石を片付けてそそくさと帰って行った。その後、私は疲れ果てて、ソファに腰かけていた。明日にはジェラール様が帰ってくるから、私も心の準備をしなければいけない。
 
 伯爵夫人らしからぬと自分でもわかっているけれど、これ以外私の心を穏やかにしてくれることなんてない。土いじりをして花を育てているだなんてジェラール様には言えないわね。

 外から取ってきた花たちを中庭へ植えて、小さなまだ幼い木を鉢植えへ移した。美しい薔薇をいくつも咲かせるのもいいけれど、私は野草も好きなのよ。

「奥様、昼食はいかがなさいますか?」
「あまり、お腹空いてないの」

 立ち上がって庭を歩いて回った。ブルーベリーの木に小鳥たちがとまって、ブルーベリーをついばんでいる。私も一つブルーべりーを取って食べてみたけれど、とてもすっぱかった。

「お言葉ですが、朝もあまり食べていらっしゃらなかったと思うのですが。このままでは、体がもたないと思います。少しでも体に入れた方が良いかと」 

 確かに私は朝からパンを一つと、水を何杯か、それからブルーベリーを一つまみしか食べていない。でもどうしてだかお腹が空かない。胃がぐるぐると回っているせいかもしれないし、悩みがありすぎるからかもしれない。 

「分かったわ。少しだけ食べる」

 どうやらケーキが焼き上がったらしく、私のところへ持ってやってきた。ベリータルト。ここでとれたブルーベリーを使ったらしい。

 素直に椅子に座り、切り分けられたベリータルトをフォークで一口分作り食べた。口の中に甘さと酸っぱさが広がった。美味しい。とても美味しいけれど、三角形に切り取られた一切れさえすべて食べられる気がしない。
 
「このケーキ持って行って、みんなで食べて」
「いえ、そんな」
「私、食は細い方なの。だから食べて」
 
 さて、私は明日へ向けて心の準備をしなければ。きっと次こそは逃げられないだろうし、どうにかこうにかして私自身を騙さなければ。でも、私はまだ怖いし、あの時のことを思い出すだけで動悸がしてくる。こんなことならもっと男性と触れあっておくべきだった。

「あの、奥様」
「なに?」
「何か悩んでいらっしゃいませんか?」

 ホールケーキののったトレーを持ちながらメアリーは心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「あの、メアリーは結婚してるの?」
「いえ、でも、恋人ならいますが」
「そうなのね。あのね、私、年下の子にこんな相談するべきじゃないかもしれないけど、ジェラール様と初夜もまだなの。私の男性経験が無さすぎるせいなんだけど、怖くって」

 ポカンとした表情で彼女は私のことを見つめていた。

「大丈夫です。一瞬のことですから。それに慣れてしまえばきっと、大丈夫です」
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