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第3章 苦労と、新たなる星に

第1話

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 あれから俺達は生存者0という悲しい結果になりながらも、ボロボロになった身体で三天衆が用意してくれた馬車に乗り込んだ。
 戦士組合員も、レノアさんだけを残して全員が殉職となってしまった。彼は誰が見てもわかる程に無理した笑顔で「忘れないであげてくれ」と、悲しむ俺達に優しく言い残した後に、スズレン村に村人達と彼等の墓作りに残った。
 俺達も残ろうかと思ったが、クロムの冒険者ギルドで報告を聞きたいと言われ渋々レノアさんを残して帰路に向かう事にしたのだった。帰り道ではイリスは一瞬にして疲れていたのか、人の肩に頭を乗せ……しかも涎を垂らしながら寝てしまい、アスティアはそれを見て何故か怒り出す始末で大変だった。

「やっと着いたー!」

 イリスが久しぶりのクロムと言いたげに、背伸びをしながら馬車を降りる。
 俺としては「やっと」と言うが、終始寝たきり状態になっていた彼女で、何かと肩に頭をカクンと乗せてくる為に姿勢を崩さないでいたこちらが、「やっと」な気分なんだが……。
 帰り道ですらアスティアの不機嫌も増していき、余計疲れが増した俺と元気になったイリス、そして助けにきてくれて今も怒っているアスティアと共にギルドへと向かった。

「お帰りなさい! ヴァイス君、イリスさん!」

 ギルドに一歩踏み入れた瞬間、事前に連絡を受けていたのか久しぶりのティファさんが満面な笑みでお出迎えしてくれた。
 駆け出して、案の定俺を小脇にスルーしてイリスに抱き付く。そんな悲しいお出迎えを受けながら、冒険者ギルドクロム支部の上層部から事の顛末を報告する。
 ティファさんとは違い、堅苦しい人達に囲まれながらイリスと俺はあったことを全て説明し終わると、次は戦士組合員の御偉方が現れ、レノアさんが今だに残っている理由と、生存者はレノアさんのみとガイアスさんの死後についてイリスから説明を行い、数時間に登る尋問のような物を受け、やっとの思いで解放される事になった。

「うぅー……疲れたよぉー」

 イリスがギルドの近くにある酒場で、顔を突っ伏しながら溜息を吐く。

「仕方ないだろ。迷宮ダンジョンモンスター出現、よりにもよって迷宮ダンジョンの主が地上に出たのは前代未聞なんだから」

「そうかもしれないけどー、少しは休ませてくれたっていいじゃん。帰って早々何時間も拘束してさー」

「ま、おかげでギルドから特別報酬貰えたし、良いじゃないか?」

 そう、俺達はギルドから恩賞的なものを受け取り、本来のサンドスネーク討伐よりも多額のお金を受け取った。
 実際倒したのは三天衆だったが、それまで被害を食い止めた事による感謝らしい。

「ひひ、そうだね!それにレベルアップもしたし!」

 ……イリスも俺もかなりのレベルアップをしたが、残念な事に彼女の知力は何故か不思議と、世界の理に反する勢いで上がっていない。
 こんなに悲しいステータスは驚きと疑問を感じずにはいられないが、予想以上の経験値を得られたのは良かったと思う。ーが、俺としては一つ嫌な考えとぬか喜びな気もしなくもない。
 ギルドランクがBからAへと、俺は昇格してしまっていた。
 低レベルでありながら、ギルドランクBは固有スキル所得に影響しているが、Aとなると冒険者としての格はあがっても俺からしたら面倒な事にしかならないのだ。

 ギルドランク、Fから始まり最高ランクSなのだが…、大体ランク付けにより仕事が大幅に増えて高額クエストが受けられるし、保証も何かとあり便利なシステムなのだが…。
 “A”からは少し特殊になる。それは迷宮ダンジョン攻略の義務化である。
 世界各地に突如としてランダムに出現し、そして未知の領域となる迷宮ダンジョンを、ギルドランクAと指定組合ランクSからは強制的に依頼が突きつけられ、拒否できない事になる。
 何が面倒なのか、それは迷宮ダンジョンの構造が未知となり、最下層まで攻略するまでは帰れないのだ。
 深ければ深いほど、迷宮ダンジョンに潜り続け道具アイテムが底を尽けば地上に戻り、また潜るの繰り返し。
 中には数年単位まで現在攻略しているグループもあれば、たった数日で攻略する迷宮ダンジョンもある。
 潜ってみなければ全容はわからないし、どんな資源がありどんなモンスターがいるかも不明の超危険クエストなのだ。

「Aランクか……」

 溜息を吐きながら、テーブルに置かれている唐揚げを口に入れる。

「凄い事じゃない。その歳で、そのレベルでAランクは最速記録って話よ?」

 アスティアがジョッキを両手で持ちながら、憂鬱な俺へ励ましにならない言葉を送る。
 今は漸く怒りが収まって、イリスと楽しそうに会話しながら食事をしている彼女は、俺への気持ちは知りまいと軽く言ってくる。

「冗談じゃない。迷宮ダンジョンだぞ、迷宮ダンジョン……。あの化物で死にかけたのに、また巣食う場所に自分から足を踏み入れるなんて最悪だって」

「ヴァイスならなんだかんだとやれるよ!」

 イリスは理由もなく気楽な口調で励ますのを恨めしく思いながら、ジョッキを手に持って溜息を吐きながら一気飲みをする。
 もっとも俺が憂鬱なのは、本を読み漁る為の休日が強制依頼迷宮攻略によって消える事だ。

「それよりアスティアはなんでクロムに来てんだっけ?」

「はあー?今更?しかもわからないの?」

 俺の唐突な疑問が、アスティアが少し苛立ちながらジョッキを乱暴に置く。
 ……優しく置け、ジョッキが粉砕するかテーブルが壊れる。なんて言えるはずもなく。

「な、なんだっけ?」

 俺の間抜けな答えにイリスが冷めた目で答える。

「ヴァイスー、それは酷いよ。ティアとパーティ組む事忘れてたの?」

 ああ、そんな事半月も前に言ってたな。
 ぶっちゃけ後衛は欲しいけど、アスティアは一日二発……不器用にスキルを放てば一発の役に立たない魔法使いなんだよな。正直まともな仲間が1人はいい加減欲しい。

「オ、オボエテイタヨ。ヨクキテクレタ」

「おい、カタコトに聞こえるぞ」

 アスティアの怒気に当てられながらの食事は、以降味が全くわからなかった。

 多少休まる程の賑わった食事を終えて、アスティアは家を見つけるまでイリスの家に泊まるとの事で解散した。
 そういえばイリスの家は俺すら知らないし、気になる所だが…。明日明後日は休みにしようと俺の提案にイリスが賛成した事により、真っ直ぐ帰って休む気にしかなれず、彼女の家は今度で良いかと思いながら家へと向かう。
 家に着いた瞬間、疲れがピークに達したのと、緊張の糸が切れたのか直ぐにでも倒れる様に眠ってしまった。

♢♦︎♢

「おっはよーーー!!!」

「何この部屋…本で散らばってるじゃん」

「あ、ティア拾わないであげて。それヴァイス片付けると怒るんだよ」

 翌朝、休みだというのに朝早くから騒がしい子達が部屋に押し入り、熟睡していた俺を叩き起こした。
 なに、これは一種のイジメだろうか。昨日まで大変な日々を過ごした俺達だし、俺としては仲間が疲れ切って寝入っているなら起こさずにほっといてくれるもんだと思うのだが、彼女達にとって仲間とはなんなのか……切実にすれ違いの“仲間”という定義についてお話し合いがしたい。
 半眼で視線だけを2人に向ける。アスティアはわざわざ散ばした本を一箇所に積んでいく。本棚に入れないのは有り難いが、やめて欲しい。
 そんなアスティアの行動に頭良いとポンと手を叩きながら、イリスも同じ様にせっせと本タワーを作り始める。やめて欲しい。イリスには何故散ばしたのか、何度か説明したはずなのだが……。本タワーにすると、上からしか本を読めないではないか……そもそもー。

「そもそも帰ってくれないか」

「ええっ!?」

「はあ?折角来たんだから起きなさいよ!それに片付けてあげて、それは酷いわよヴァイス」

「あのな、今日明日休みにしただろ? 普通ならそれぞれプライベートタイムな訳だ。 イリス、君に鍵を渡したのは仕事の日わざわざ起こしに来るけど、一々大家から合鍵を貰いに行く迷惑行為を防ぐ為だ。 休日まで押し掛けて来させるために渡した訳じゃない。 そして俺はまだまだ眠い、疲れ切ってるんだから今日は大人しく帰ってほっといてくれ。……それと、本を積むのもダメだ! それもほっとけ、崩せ、おいイリス? 積むのやめろって言ってるだろ。 なにちょっと楽しそうに積んでるんだよ。積み木じゃないんだぞ?」

 寝起きによる苛立ちを爆発させながら、勢い良くまくし立てたつもりが、少々甘やかし過ぎたイリスには痛くも痒くも無さそうに……と、言うよりも何処吹く風な如く聞き耳立てない様子で、俺の布団を剥がす。

「折角の休みなんだから部屋に籠るのは勿体無いよ!」

「……勿体無くない。まず休日ってのは人に左右される事を休日とは言わない。俺の休日は1人でいる事だ……帰りなさい」

 玄関を指差しながら、不貞腐れるイリスに言い放つ。

「そんな事言わないで、早く起きろ!」

「はいっ!」

 アスティアの殺気が込められた瞳と、ポキポキと指を鳴らされ仁王立ちする彼女に冷や汗を流しながら、飛び起きる様にベッドから飛び出すと思わず正座する。

「顔」

「洗います!」

「着替え」

「ました!」

「支度の準備」

「オッケーです!」

 ……くそ、昔の暴力政治が身体に染み込まれているせいか、彼女の本気の声色に逆らえない。
 渋々な気分でありながら、これまでの支度した時間を大幅に超える速さを記録しながら、憂鬱そうに部屋を出る羽目になった。
 ………パーティ編成、新たなる仲間に乾杯。
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