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3. いったい二人に何が起きたのか?
いったい二人に何が起きたのか? ③
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一日が終わる頃には、それぞれのクラスに拭いきれない動揺が起こっていた。“優” に関しては他のクラスの女子の間でもそれは起こっていたが。
色んな意味で、誘って乗って来ない優は優じゃない。しかも怯えた目で見、逃げて行くなんておかしいとしか言いようがない。
階段から落ちてから様子がおかしいと、家から連絡があったらしい――――そんな噂が席捲し、怯えて逃げられた彼女たちのプライドはギリギリ保たれた訳だが。
聞いた優はチッと舌打ちした。
男初心者で晩熟の美佳にどうこう出来るとは思ってないが、後のフォローを考えると本当に面倒臭い事をしてくれる。
一方美佳は、“ちょっと様子がおかしい” と一報を入れた優の母のお陰で、比較的マイペースでのほほんと過ごしていた。優のふつふつと煮えたぎる怒りを知る由もなく。
そして放課後。その日の止めを刺す事件が発生する。
帰り支度をする “優” の目の前に、剣呑な眼差しの “美佳” が腕を組んで立ち、引き攣った面持ちの “優”。
「ちょっと顔貸して貰おうか」
「……“美佳” の顔が大変なことになってるんだけど」
「この顔が変なのは生まれつきだろうが」
「大変だって言ったんだけど」
「ああッ!?」
斜に構えて睨み下ろす “美佳” にこれ以上の反論は、この身が危うくなると長年の経験から悟った美佳は「そうですね」とあっさり引き下がった。
クラスの生徒だけではなく、関係のない生徒たちまでが、廊下から二人のやり取りを野次馬根性で見守っている。
目立つ女子生徒ではないけれど、どちらかと言ったらぽや~っとした癒し系のイメージが濃い “美佳” の豹変ぶりに、心配でくっ付いて来ていたさつきと菜摘が愕然としているのを見て、美佳は泣きたくなった。
(あ~ぁ。“美佳” が崩壊してく…)
項垂れて力なく立ち上がった美佳に、きれい処の女子が腕を掴んで「行くことないよ」と “美佳” を睨み据えると、“美佳” が鼻で笑った。
「ソイツに興味ないから、安心していいよ。ちょ~っとばっかし込み入った話を付けなきゃならないだけだからさ。なあ “優” ?」
否は許さない優の意地悪い微笑み。
「…そうだね。“美佳”」
諦めの境地で頷いた。
二人の間の不穏な空気……よりも呼び捨てした事の方に悲鳴に近い声が上がった。
鬱陶しいくらい纏わりつかれて、心底嫌そうに二人は同時に口を開いた。
「幼馴染みだからね」
優に背中をド突かれながら教室を後にした二人は、無言のまま電車に乗り、自宅近所の商店街を歩いていた。
優は終始不機嫌で、ちゃんと付いて来るか時折後ろを確認しながら歩いていた。
「そこのお二人さん」
ふいに声を掛けられ、二人は振り返った。
杖を突いた老女がニコニコと二人に手招きしている。美佳は「何ですか? おばあちゃん」と微笑みながら近付いたが、優は胡乱な眼差して老女を見、「ちょっと急いでるんですけど」と膠もない。
老女はお構いなしで二人を交互に見ると、「なかなか変わった運勢をなさっているようだね」と目を細めて薄く笑う。二人はぎくりと肩を揺らし、老女に見入った。
「おばあさん。何か知ってるの?」
「いやいや。ちょっと変わった色をなさっているから、気になってね」
「色?」
優は胡散臭げに老女を眺めやり、杖に目を留めた。視覚障害者の為の物。老女はそんな優に気付いたかのように「これかい?」と杖をトントンと突いて鳴らす。本当は見えているんじゃないかと、顔の前で手を振ってみたが微動だにしない。
「ほっほっほ。この目は役立たずだよ。けど、ちょっと変わったものが視えたりするんでね、つい声を掛けたくなる事があるんだよ」
カラカラと愉快そうに笑う老女の腕を掴んで、「何が視えるの?」と美佳が食い入るように訊ねた。彼女はポンポンと “優” の腕を軽く叩き、ニッコリ笑う。
「納まるべき場所に納まった時に…そう言っているねえ」
「納まるべき場所…? 何だそれ?」
優は眉を寄せて首を傾げた。
「…う~ん。何だろうねえ。それは内緒らしいよ。でも一番の原因は、お兄さんのようだ。 お姉さんもちょっと天邪鬼だったから、拗らせちゃったのかねえ」
老女が眉を寄せて苦笑する。
「どうしたらいいの?」
「多くを求めず、素直になりなさい…ですって。さてと。そろそろ行くかね」
「ちょっと待ってよ、ばあさん。他にはないのかよ?」
「ないようだよ。お二人さん頑張っとくれね」
杖を左右に振り、カツカツカツと音をさせて立ち去る老女を見送りながら、「多くを求めず」と優が呟き、「素直になりなさい」と美佳が呟く。二人は意味が解らず首を傾げて互いを見ると、また不穏な空気を醸し出しながら家路についた。
色んな意味で、誘って乗って来ない優は優じゃない。しかも怯えた目で見、逃げて行くなんておかしいとしか言いようがない。
階段から落ちてから様子がおかしいと、家から連絡があったらしい――――そんな噂が席捲し、怯えて逃げられた彼女たちのプライドはギリギリ保たれた訳だが。
聞いた優はチッと舌打ちした。
男初心者で晩熟の美佳にどうこう出来るとは思ってないが、後のフォローを考えると本当に面倒臭い事をしてくれる。
一方美佳は、“ちょっと様子がおかしい” と一報を入れた優の母のお陰で、比較的マイペースでのほほんと過ごしていた。優のふつふつと煮えたぎる怒りを知る由もなく。
そして放課後。その日の止めを刺す事件が発生する。
帰り支度をする “優” の目の前に、剣呑な眼差しの “美佳” が腕を組んで立ち、引き攣った面持ちの “優”。
「ちょっと顔貸して貰おうか」
「……“美佳” の顔が大変なことになってるんだけど」
「この顔が変なのは生まれつきだろうが」
「大変だって言ったんだけど」
「ああッ!?」
斜に構えて睨み下ろす “美佳” にこれ以上の反論は、この身が危うくなると長年の経験から悟った美佳は「そうですね」とあっさり引き下がった。
クラスの生徒だけではなく、関係のない生徒たちまでが、廊下から二人のやり取りを野次馬根性で見守っている。
目立つ女子生徒ではないけれど、どちらかと言ったらぽや~っとした癒し系のイメージが濃い “美佳” の豹変ぶりに、心配でくっ付いて来ていたさつきと菜摘が愕然としているのを見て、美佳は泣きたくなった。
(あ~ぁ。“美佳” が崩壊してく…)
項垂れて力なく立ち上がった美佳に、きれい処の女子が腕を掴んで「行くことないよ」と “美佳” を睨み据えると、“美佳” が鼻で笑った。
「ソイツに興味ないから、安心していいよ。ちょ~っとばっかし込み入った話を付けなきゃならないだけだからさ。なあ “優” ?」
否は許さない優の意地悪い微笑み。
「…そうだね。“美佳”」
諦めの境地で頷いた。
二人の間の不穏な空気……よりも呼び捨てした事の方に悲鳴に近い声が上がった。
鬱陶しいくらい纏わりつかれて、心底嫌そうに二人は同時に口を開いた。
「幼馴染みだからね」
優に背中をド突かれながら教室を後にした二人は、無言のまま電車に乗り、自宅近所の商店街を歩いていた。
優は終始不機嫌で、ちゃんと付いて来るか時折後ろを確認しながら歩いていた。
「そこのお二人さん」
ふいに声を掛けられ、二人は振り返った。
杖を突いた老女がニコニコと二人に手招きしている。美佳は「何ですか? おばあちゃん」と微笑みながら近付いたが、優は胡乱な眼差して老女を見、「ちょっと急いでるんですけど」と膠もない。
老女はお構いなしで二人を交互に見ると、「なかなか変わった運勢をなさっているようだね」と目を細めて薄く笑う。二人はぎくりと肩を揺らし、老女に見入った。
「おばあさん。何か知ってるの?」
「いやいや。ちょっと変わった色をなさっているから、気になってね」
「色?」
優は胡散臭げに老女を眺めやり、杖に目を留めた。視覚障害者の為の物。老女はそんな優に気付いたかのように「これかい?」と杖をトントンと突いて鳴らす。本当は見えているんじゃないかと、顔の前で手を振ってみたが微動だにしない。
「ほっほっほ。この目は役立たずだよ。けど、ちょっと変わったものが視えたりするんでね、つい声を掛けたくなる事があるんだよ」
カラカラと愉快そうに笑う老女の腕を掴んで、「何が視えるの?」と美佳が食い入るように訊ねた。彼女はポンポンと “優” の腕を軽く叩き、ニッコリ笑う。
「納まるべき場所に納まった時に…そう言っているねえ」
「納まるべき場所…? 何だそれ?」
優は眉を寄せて首を傾げた。
「…う~ん。何だろうねえ。それは内緒らしいよ。でも一番の原因は、お兄さんのようだ。 お姉さんもちょっと天邪鬼だったから、拗らせちゃったのかねえ」
老女が眉を寄せて苦笑する。
「どうしたらいいの?」
「多くを求めず、素直になりなさい…ですって。さてと。そろそろ行くかね」
「ちょっと待ってよ、ばあさん。他にはないのかよ?」
「ないようだよ。お二人さん頑張っとくれね」
杖を左右に振り、カツカツカツと音をさせて立ち去る老女を見送りながら、「多くを求めず」と優が呟き、「素直になりなさい」と美佳が呟く。二人は意味が解らず首を傾げて互いを見ると、また不穏な空気を醸し出しながら家路についた。
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