あおいとりん~男女貞操観念逆転世界~

ある

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第三部

63話 あおりん

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 私はドキドキしながら電車の座席に座っていた。

「〇〇駅です」

 と言う車掌さんのアナウンスとともに、電車のドアが開く。
 私は『いつもの』ドアを見つめた。
 『彼』が乗ってくるドアを。

 『彼』は電車に乗り込んですぐ私の視線に気付き、ニコッと白い歯を見せた。
 私はポーッとしてしまう。

 か……かっこいい……。

 いや、いつもかっこいいが。
 何これ。
 いつも以上に……ドキドキする。

 だって、『彼』は……。私の……。

「おはよ……りん」

 と目の前に立った『彼』――りん――に声をかけると、

「おはよ。あおい」

 とりんはおそらくいつも通り言ったが。
 いつも通りに聞こえないんだ。

 語尾にハートマークが付いているのか? って感じに、私には聞こえるんだ!

 何故なら……私たちは……。
 昨日、『恋人同士』になったんだもの!

 本当だろうか?
 本当に恋人同士なんだろうか?
 夢じゃないだろうか?
 夢じゃないと良いけど。

「あ、座る?」

 と私は腰を浮かせて、いつも通りりんに尋ねた。
 りんは首をかしげて……

「いいよ。あおい座ってて」

「そっか……」

 私にはこんな会話もお互い語尾にハートマークが付いているように、まだ聞こえる。

 私は腰を落ち着かせた後、顔を下に俯けた。
 どうしよう。
 ずっとニヤニヤしてしまう。

 どうしよう。
 こう言うときって――彼氏ができたときって――ずっとニヤニヤ、ドキドキしちゃうものなのだろうか? 皆?
 初めてだからわからない……。
 いつまで続くのだろう?
 色々、保つんだろうか?

 私はずっとドキドキしながら、りんとまともに顔を合わせられず――ニヤケ顔が見られてしまう――顔を下へ向けた状態で電車に揺られていった。
 終点まで。


※※※

 電車を降りてしばらく後、

「ねえ、りん」

 と私は切り出した。電車内で下を向きニヤニヤしつつも考えたことを。

「今更だけど……。
朝、電車の中でイスに座るの、順番こにしない?
おればかり座っているの悪いから……」

「優しいんだ、あおい」

 とりんはニヤニヤした。

「もしかしておれたちが付き合い始めたから。
そんなこと言ってくれるのかな?」

「えへ……」

 と私は照れた後、

「そうだよ!
恋人同士になったから、りんのこと優しくしとかないとなー、って思ったんだよ!」

 と言うと、りんはふっと笑い、

「じゃあ、月水金はあおいが座って。
火木はおれが座ることにする?」

「えっ。でも、それじゃあ、りんの方が少ないし」

「いいんだよ」

 とりんは笑った。

「おれ、あおいの寝顔を見るの好きだし」

 ……。

 今のは!
 完璧に語尾にハートマーク付いていたわ!

 私も……りんの寝顔見たいな、と言っちゃおうかな……。
 言っても良いかな?

「おれも、りんの寝顔、見たいな」

 言った!

 りんはニヤニヤすると、私の腕に触れて、腕を組んできた。
 私がドキドキしながら彼を見上げると、りんはニコ~として、

「今日はイヤがらないんだ。
前は腕を組もうとすると振り払ってきたのに」

「えへ……。
だって……付き合っているから……」

 私たちはニコ~と笑い合う。

 ああ、こんなに(お互い)デレデレで良いんだろうか?

 と、私はここであることに気付き、りんの手を私の腕から外させた。
 りんは目を丸くした後、不安げな顔をするが……。

 今度は私からりんの腕に手を絡ませた。

「こっちの方が!
歩くのに楽だろ?
身長的に」

 と言うとりんはまたニコーッとする。

「そうだね、あおい」

「えへへ……」

 どうしよう、幸せ過ぎる。
 今死んでもいいや。いや、死んじゃダメだ!

 その後は、腕を組み身体を寄せつつ黙々と歩いた。
 だって、胸がいっぱいで言葉が出てこない。

 カップル名は『あおりん』かなあ、なんてどうでも良いことを私は考えていた。
 あおりん、あおりん……。あおいとりん……。

 そのとき、ふと。
 路肩に止めてある黒いワゴン車が目に留まった。
 そして黒ガラスに映る、りんと私の姿が目に入ってきた。
 
 ……。

 !?

 何か、私の脳内の映像と全然違うんだけど……。

 私の脳内の映像……さわやか女男高校生カップル。

 車の黒ガラスに映る二人……イチャつく男子高校生二人。

 ……。

 そうだ……。
 私、あまりに慣れ過ぎてスルーしていたけど、今、男子高校生だったんだ……。

 ……

 !?

 男子高校生……。

 あ れ ?

 私は男子高校生。私は男子高校生……。
 
 じゃあ。
 りんは……?

『恋愛感情であおいが好き』

 そう言ってくれたけど……。
 何故だろう?

 私のことを男だと思っているのに、『恋愛感情で好き』。
 それって……。まさか……。

「どうかした、あおい」

 とりんが私の顔を覗き込んできたので、私は慌てて車から目を離した。

「何でもない!」

 と答えつつ、不安感が胸を渦巻いていくのを感じた。じわじわと。

 りんは私のこと、男だと思っている、当然。
 そして私のこと『恋愛感情で好き』と言ってくれた。

 それって……。

 私は別の意味でドキドキし始めながら思った。
 何でこんなこと、今まで気付かなかったのだろう?
 りんに告白されてから既に半日も経っているのに。
 
 私、頭の中お花畑で、考えもしなかったんだ。
 りんがボーイズラブなら、りんの私への気持ちは『誤解』の可能性があることを。
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