子孫繁栄なんて知らないわ! ~悪役令嬢として生まれた私は、婚約者を自分好みの男の娘にして可愛がる~

矢立まほろ

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 -4 『不穏のくすぶり』

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 午後一番目の授業は体育だった。

 ああ、最悪だ。
 可愛らしい土いじりの妖精を眺めて至福を味わった後の地獄。私の気分は真っ逆さまに急降下した。

 しかもまた校庭を走らされ、必死の形相でそれを乗り越えて教室に戻った私は、生気のない亡者のように机へとうな垂れていた。

 窓からの日差しも差し込み、日干しされている気分だ。大量の汗も抜け出て、もうこのままミイラになるのもいいかもしれない、と心がからからに渇いて放心していた。

「だ、大丈夫? これ、ハンカチを濡らしてきたんだ」

 フェロが胸元に手を当てながら心配そうに窺ってきた。
 円らな瞳で見つめてくる姿はどう見ても女の子のようで可愛い。

 ああ、このままお人形のようにぎゅっと抱きしめたい。体を動かした後だけどきっと良い匂いしそう。干からびそうな私を潤して欲しい。

 ――こほん。落ち着け、私。いくら仕草も顔もいちいち女の子らしく見えるからって、ちゃんと抑えなきゃ駄目よ。

「…………絶対女装させてやる」
「え、なんだって?」
「ううん、なんでもないわよ。ありがとう」

 フェロからハンカチをもらい、私はべとべとになった顔を拭いていった。

「だいじょぶー? ユフィっちー」
「あの、お水も、いりますか?」

 スコッティとリリィまで私を心配して顔を覗きこんでくる。

 ああ、ここはなんて素晴らしい花園だろう。右を見ても左を見ても美少女だらけ。男もいるけど、実質女の子だし。このまま墓に埋まりたい。彼女たちに包まれながら昇天したい。

 ――こほん。あぶない、また心のよだれが表に出るところだった。

 ふと、にょきっ、と正面の机の下から鳩が顔を覗かせる。

「元気出すのじゃよー。くるっぽー。疲れたときには水を五リットル飲んだ後に逆立ちすると、新鮮な水分が全身にまで渡っていいんだよー」
「私がそれを聞いて頷くと思うのかしら、ルック」
「あれ、おかしいな?」

 あはは、と無邪気に顔を出したルックがとぼけるように肩をすくめて見せた。

 さすがにそんな出鱈目を信じる人がどこにいるのかと思ったが、すぐ隣でスコッティが「そうなんだ! もっと水持ってこようか?!」と声を上げたのを見て納得してしまった。

「そ、そんなに一気に水を飲んだら体を壊しちゃうよ」とフェロが否定し、やっとスコッティは嘘だと気付いたようで、

「またやったなー! このー!」とルックにぷんすか怒っていた。

 まったく、騒がしい子達だ。
 おかげで疲労困憊でぐったりしていてもろくに休めていない気がする。

 けれどこんな喧騒も、どこか心地よく思う今日この頃だった。

「そういえば、次の授業は別棟の多目的教室でやるらしいです」

 リリィがそう言うと、何かに気付いたスコッティが青ざめた顔を浮かべた。

「うひゃー! 次の授業の課題、まだ終わってないやー!」
「おいおい。昨日、家で終わらせるって言ってただろ」
「うるさいなあルック! ちょっと眠たくなったから部屋でうとうとしてたら、勝手に外が明るくなってたんだよー! 仕方なく授業前の休み時間にやればいいやって思ってたのに忘れてた……」

 大慌てで鞄から課題を取り出し、真っ白なそれに取り掛かり始めるスコッティ。呆れ顔でルックがその隣に座り、手伝いを始めていた。

 しかししばらく待っても終わる気配はなく、「みんなは先に行っててー」と半泣きになりながらスコッティはそう叫んでいた。

 仕方なく私はフェロとリリィをつれて、一足先に教室を移動することにした。

「だ、大丈夫なんでしょうか、スコッティちゃん」
「大丈夫よ。それに、私たちが手伝えるような課題でもなかったし」

 廊下を歩きながらも心配そうにたまに振り返るリリィの背中を押しつつ、私は隣の校舎へと向かうため一階の渡り廊下を歩いていた。

 その時だ。
 ふと、私の鼻先に少しの煙たさを感じた瞬間、

「……っ!」

 何かに気づいたのはリリィだった。
 しきりに後ろに向けていた顔を慌ててそっぽ向けた。

 私も釣られてその方向を見やる。
 そこは、リリィが足繁く通っている温室のあるところだった。

 リリィは絶句していた。
 私も思わず目を見開いた。

 彼女の大切な温室。
 その中から大きく火の手があがっていた。
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