11 / 49
○2章 クエストへ行こう
-2 『働きたくないでござる』
しおりを挟む
半日も歩かずたどり着いたその町は、一目で見渡せないほどに巨大だった。
商業都市、フォルン。
全体が煉瓦などの石材で作られた、中性的な造形をした大規模な町だ。
コンクリートジャングルみたいな背の高さこそないが、ほぼ同一の高さの建物が並び、赤褐色の絨毯がどこまでも続いているかのようだった。一番奥にはこの町で唯一背の高い領主の屋敷が建っており、町全体を見守るように座している。
フォルンの町は街道から続く大通り多くの馬車が行き交い、商人や客の賑わいで活気付いていた。露天で香辛料を売る人、動物の毛皮の加工品を棚に並べる人、色とりどりな青果を扱う店まで、そこは幅広い種類のものが売られているようだ。
人が雑多に溢れかえる中、最も人気なのは食料品の叩き売り業者だ。
格安の値段を謳い、それに釣られて女性たちが我先にと群がっている。
現実世界の大型ショッピングモールを思い出す。
主婦たちによる壮絶な争いはどの世界でも同じらしい。
「お金の節約は大事なのです」
殴ったり、蹴ったりしてでもお買い得品を得ようとする女性たちを俺が引いた気持ちで眺めていると、ミュンが諭すように言ってきた。
確かにそうだ。
お金がなければなにもできない。
「……そうだよな。お金、いるよな」
この世界にやってきて、俺がついに直面してしまった大きな問題。
そう、金欠だ。
いくら最強のステータスを手に入れたところで、お金を手に入れることはできないのだ。作り出すなんてことは不可能だし、かといって力を行使して他者から奪い取るというのも気分が悪い。
そうなればやはり身銭を稼がなければならないわけで。
「……働かなきゃ駄目ってことだよな」
せっかく社畜人生から脱却して念願のスローライフを送れるかと思った矢先の、このイヤに現実的な問題だ。
結局、楽だけして生きれるなんて都合のいい話はそうそう無いか。
「だったらせめて、この能力を使って少しでも楽ができるのがいいな」
そう思い、俺はこのフォルンの町で仕事を探すことにした。
異世界に来たばかりの一文無し。
今日の晩飯に宛がうお金すらない。
服だって土で汚れたワイシャツのままだし、この世界にあったものを調達しなければいけないだろう。
「就職の斡旋所もあるので、そちらに行ってみましょう」
ミュンには、俺は山奥の片田舎から出向いてきて町の勝手を知らない、という設定で説明している。さすがに異世界人だと言っても信用ならないだろうと思ったからだ。
とにかく今は小銭でもお金が欲しい。選り好みをせず、俺はその斡旋所で勧められた物を一通り試してみることにした。
○日雇いの肉体労働。
町の入り口の門の補修と道路整備をさせられた。猫車で土を運び出したり、道路に敷く加工された石材を運び込んだり。非常に体力の使う仕事だ。
攻撃力はどうやら腕力には適用されていないらしい。
石材を運ぶのも一苦労だし、なにより炎天下での作業はなかなかに過酷だった。
なによりずっと会社でのデスクワークがメインだったのだ。
体力などあるはずがなく、すぐに足腰が悲鳴を上げ始めていた。
現実世界で日中の工事現場で汗水流してる人たちを今更ながら尊敬したくなる。
日雇いの肉体労働――ダメ。
○酒場の厨房でのアルバイト。
翌日は、冒険者で賑わう酒場での裏方仕事に挑んでみた。
業務内容は簡単で、厨房での皿洗いがほとんど。夕方時分の混雑時には俺もフロアに出て、注文を聞いたり料理を運んだりと、臨機応変に動いていく。
不慣れからの忙しなさことあったものの、アレを先に洗う、コレはまだ注文がないから後回し、と理路整然と作業を効率化させていくのは少し楽しかった。
どちらかというと肉体労働よりかは向いているらしい。
とはいえ、厨房での作業も相当な体力が必要なのは違いないが。
飲食店での労働は見た目以上にハードだ。ひっきりなしに客が来て、休む暇なんてほとんど与えさせてくれない。それに仕事の遅れはすぐ苦情としてぶつけられるから、現場の空気もピリピリ張り詰めている。
休日祭日まで働いてくれている現実世界の従業員の皆さんたち、本当にお疲れ様です。
酒場での仕事は二日は続いたが、三日目に問題が起こった。
「おい新入り。そこの野菜の皮を剥いといてくれ」
「は、はい。ピカルさん」
酒場の店主である坊主頭の男性に言われ、厨房の片隅にあった箱に山積みされた野菜たちのところへ向かう。
人参やジャガイモといった、現実世界でも見覚えのある野菜たちだ。現実でよく見かけるほど形は整っていないが。
ピーラーなどあるはずなく、置かれていた皮剥きようの短いナイフを手に取る。その瞬間、厨房の壁を何かがぶち破って飛び込んできた。
それが、ナイフを押し退けるようにして俺の手に収まる。
クレスレブだった。
追いかけるように、空いた穴からミュンが駆け寄ってくる。
「ああ、エイタさん! 大丈夫ですか!」
「なんだよいきなり!」
「まさか武器を持ちましたか? 彼女以外の武器は持てず、持とうとすれば強制的に自分を装備させるというクレスレブの呪いです」
なんだよそれ。
まさしく、呪いを解除しなければ外せないなんて、ゲームかなにかみたいだ。
というか、ただ皮を剥こうとしただけなのにこの大惨事。
壁には大きな穴が空き、厨房には砂埃が舞い立っている。厨房にいた従業員達は混乱したまま深く咳き込み、食材たちには大量の砂がかかってしまっていた。
廃品間違いなし。
「……や、やべえよな、これ」
冷や汗が流れる。
従業員達の視線は、明らかにこの厨房で浮いている長剣を握った俺へと向けられていた。店主のピカルも、俺を睨むような猛獣の目つきを浮かべている。
「おい、新入り」
「……は、はい」
「てめぇはクビだっ!」
「す、すみません!」
流れるように厨房から追い出され、俺はあっという間に職を失ってしまったのだった。
その後も色々と仕事を試してみたが上手くいかなかった。
何か刃物を握ったり、ちょっと尖った杭のようなものを持つだけでクレスレブが駆けつけてくるという不便。
更には、
「……ふっ」
「痛っ!」
仕事中に陰からこそこそと吹き矢で1ダメージ与えてくるヴェーナに気を取られ、仕事の失敗も続いてしまった。
結局、たらい回しのようにいくつもの仕事を巡り、俺の手元に残ったのは、酒場の厨房で食材や壁などを弁償させられてできた多大な借金だけだった。
こっちの世界の通貨で五十万ゴールド。
昨日までの仕事がだいたい日給一万前後だから、おおよそ二月働いて返済できるくらいだろう。
「…………人生ってなんなんだろう」
寝静まった夜更けにベッドで横になり、天井を眺めながら空しくそう呟いた。
神様なんていないんだ。
人生強くてニューゲームなんて、ただの幻想だったんだ。
「エイタさん。お目覚めの体調はいかがですか。今日は新鮮な山菜を譲っていただけたので、それを使ったスープを作ってみました。あ、それとエイタさんのお召し物にシミがついていたのでしっかりとシミ抜きしておきました」
朝になると、ミュンが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
彼女は本当に、俺なんかについてくるつもりらしい。
自分の年齢の半分くらいの少女に優しくされ、その温かみと罪悪感がない混じった息苦しさに、穴があったら入ってそのまま埋葬されたい気分になった。
「すまんな、ミュン」
「いいえ。それは言わない約束ですよ」
まるで台詞だけ聞けば、病床に伏せた老夫婦の会話みたいだ。
しかし実際は、仕事も上手くいかず、多額の借金を背負う羽目になってしまった体たらくな男である。
「エイタさんはいま、見知らぬ土地で本調子でないだけです、きっと。すぐにうまくいきますですよ」
こんないたいけな少女に献身的に介抱されているばかり。まるでこれでは紐じゃないか。
俺は確かに楽をしたいと思っていた。
だが、こんな女の子の善意に甘えるだけの紐になりたかったわけではない。
しかも借金まで背負っているのだ。
このままではそれも押し付けてしまう。
さすがにそんなクズ野郎に成り下がるのは俺の理性が許さなかった。
だが、このままでは本当に職にありつけず、ミュンに負担をかけるばかりなのは事実だ。
しかも気を抜けば、
「うおっ!」
窓が突然割れ、やや太めな吹き矢の針が俺の枕元に突き刺さる。
自称見習い魔王の少女に命を狙われる日々。
おまけにこの魔王、その数秒後には何食わぬ顔で俺たちの前に顔を出し、ミュンが作ったご飯を目当てに同じテーブルにつく肝っ玉の持ち主だ。
「なに怖い顔してるのよ。食欲がないならあたしがあんたの分ももらうわよ」
「お前はなんでフツーにそこにいるんだよ」
「なに、哲学の話?」
「ちげーよ!」
ヴェーナに怒鳴り散らしながらも、とにかく朝食を摂ろうとする。スープのほかに果物もあって、それをフォークで食べようとした途端、
「うわわっ、私の鞄が!」
そうミュンが叫んだと同時に、気がつくと俺の手には、フォークではなくクレスレブが握られていた。
手元にあったはずのフォークは乾いた音を立てて床に転がっている。
いや、フォークですやん。
武器ですらないですやん。
嫉妬深い呪いの長剣。
まさかここまで徹底してくるとは。
心なしか俺がクレスレブの柄を握ると剣から嬉しそうな感情まで伝わってくる。
「なんかヤンデレの彼女を持ったみたいだな……」
私以外を見るのは許さない、なんて嫉妬されていると考えればまだ可愛いものか。だが、やはりこのままでは生活に支障が出てしまう。
一刻も早く、この生活をどうにかしなくてはならない。
ミュンのためにも、何より俺の精神衛生のためにも、絶対に。
「となると、もうアレしかないか」
――そう宙を見やって息を吐いたのが、かれこれ数時間前のことだった。
商業都市、フォルン。
全体が煉瓦などの石材で作られた、中性的な造形をした大規模な町だ。
コンクリートジャングルみたいな背の高さこそないが、ほぼ同一の高さの建物が並び、赤褐色の絨毯がどこまでも続いているかのようだった。一番奥にはこの町で唯一背の高い領主の屋敷が建っており、町全体を見守るように座している。
フォルンの町は街道から続く大通り多くの馬車が行き交い、商人や客の賑わいで活気付いていた。露天で香辛料を売る人、動物の毛皮の加工品を棚に並べる人、色とりどりな青果を扱う店まで、そこは幅広い種類のものが売られているようだ。
人が雑多に溢れかえる中、最も人気なのは食料品の叩き売り業者だ。
格安の値段を謳い、それに釣られて女性たちが我先にと群がっている。
現実世界の大型ショッピングモールを思い出す。
主婦たちによる壮絶な争いはどの世界でも同じらしい。
「お金の節約は大事なのです」
殴ったり、蹴ったりしてでもお買い得品を得ようとする女性たちを俺が引いた気持ちで眺めていると、ミュンが諭すように言ってきた。
確かにそうだ。
お金がなければなにもできない。
「……そうだよな。お金、いるよな」
この世界にやってきて、俺がついに直面してしまった大きな問題。
そう、金欠だ。
いくら最強のステータスを手に入れたところで、お金を手に入れることはできないのだ。作り出すなんてことは不可能だし、かといって力を行使して他者から奪い取るというのも気分が悪い。
そうなればやはり身銭を稼がなければならないわけで。
「……働かなきゃ駄目ってことだよな」
せっかく社畜人生から脱却して念願のスローライフを送れるかと思った矢先の、このイヤに現実的な問題だ。
結局、楽だけして生きれるなんて都合のいい話はそうそう無いか。
「だったらせめて、この能力を使って少しでも楽ができるのがいいな」
そう思い、俺はこのフォルンの町で仕事を探すことにした。
異世界に来たばかりの一文無し。
今日の晩飯に宛がうお金すらない。
服だって土で汚れたワイシャツのままだし、この世界にあったものを調達しなければいけないだろう。
「就職の斡旋所もあるので、そちらに行ってみましょう」
ミュンには、俺は山奥の片田舎から出向いてきて町の勝手を知らない、という設定で説明している。さすがに異世界人だと言っても信用ならないだろうと思ったからだ。
とにかく今は小銭でもお金が欲しい。選り好みをせず、俺はその斡旋所で勧められた物を一通り試してみることにした。
○日雇いの肉体労働。
町の入り口の門の補修と道路整備をさせられた。猫車で土を運び出したり、道路に敷く加工された石材を運び込んだり。非常に体力の使う仕事だ。
攻撃力はどうやら腕力には適用されていないらしい。
石材を運ぶのも一苦労だし、なにより炎天下での作業はなかなかに過酷だった。
なによりずっと会社でのデスクワークがメインだったのだ。
体力などあるはずがなく、すぐに足腰が悲鳴を上げ始めていた。
現実世界で日中の工事現場で汗水流してる人たちを今更ながら尊敬したくなる。
日雇いの肉体労働――ダメ。
○酒場の厨房でのアルバイト。
翌日は、冒険者で賑わう酒場での裏方仕事に挑んでみた。
業務内容は簡単で、厨房での皿洗いがほとんど。夕方時分の混雑時には俺もフロアに出て、注文を聞いたり料理を運んだりと、臨機応変に動いていく。
不慣れからの忙しなさことあったものの、アレを先に洗う、コレはまだ注文がないから後回し、と理路整然と作業を効率化させていくのは少し楽しかった。
どちらかというと肉体労働よりかは向いているらしい。
とはいえ、厨房での作業も相当な体力が必要なのは違いないが。
飲食店での労働は見た目以上にハードだ。ひっきりなしに客が来て、休む暇なんてほとんど与えさせてくれない。それに仕事の遅れはすぐ苦情としてぶつけられるから、現場の空気もピリピリ張り詰めている。
休日祭日まで働いてくれている現実世界の従業員の皆さんたち、本当にお疲れ様です。
酒場での仕事は二日は続いたが、三日目に問題が起こった。
「おい新入り。そこの野菜の皮を剥いといてくれ」
「は、はい。ピカルさん」
酒場の店主である坊主頭の男性に言われ、厨房の片隅にあった箱に山積みされた野菜たちのところへ向かう。
人参やジャガイモといった、現実世界でも見覚えのある野菜たちだ。現実でよく見かけるほど形は整っていないが。
ピーラーなどあるはずなく、置かれていた皮剥きようの短いナイフを手に取る。その瞬間、厨房の壁を何かがぶち破って飛び込んできた。
それが、ナイフを押し退けるようにして俺の手に収まる。
クレスレブだった。
追いかけるように、空いた穴からミュンが駆け寄ってくる。
「ああ、エイタさん! 大丈夫ですか!」
「なんだよいきなり!」
「まさか武器を持ちましたか? 彼女以外の武器は持てず、持とうとすれば強制的に自分を装備させるというクレスレブの呪いです」
なんだよそれ。
まさしく、呪いを解除しなければ外せないなんて、ゲームかなにかみたいだ。
というか、ただ皮を剥こうとしただけなのにこの大惨事。
壁には大きな穴が空き、厨房には砂埃が舞い立っている。厨房にいた従業員達は混乱したまま深く咳き込み、食材たちには大量の砂がかかってしまっていた。
廃品間違いなし。
「……や、やべえよな、これ」
冷や汗が流れる。
従業員達の視線は、明らかにこの厨房で浮いている長剣を握った俺へと向けられていた。店主のピカルも、俺を睨むような猛獣の目つきを浮かべている。
「おい、新入り」
「……は、はい」
「てめぇはクビだっ!」
「す、すみません!」
流れるように厨房から追い出され、俺はあっという間に職を失ってしまったのだった。
その後も色々と仕事を試してみたが上手くいかなかった。
何か刃物を握ったり、ちょっと尖った杭のようなものを持つだけでクレスレブが駆けつけてくるという不便。
更には、
「……ふっ」
「痛っ!」
仕事中に陰からこそこそと吹き矢で1ダメージ与えてくるヴェーナに気を取られ、仕事の失敗も続いてしまった。
結局、たらい回しのようにいくつもの仕事を巡り、俺の手元に残ったのは、酒場の厨房で食材や壁などを弁償させられてできた多大な借金だけだった。
こっちの世界の通貨で五十万ゴールド。
昨日までの仕事がだいたい日給一万前後だから、おおよそ二月働いて返済できるくらいだろう。
「…………人生ってなんなんだろう」
寝静まった夜更けにベッドで横になり、天井を眺めながら空しくそう呟いた。
神様なんていないんだ。
人生強くてニューゲームなんて、ただの幻想だったんだ。
「エイタさん。お目覚めの体調はいかがですか。今日は新鮮な山菜を譲っていただけたので、それを使ったスープを作ってみました。あ、それとエイタさんのお召し物にシミがついていたのでしっかりとシミ抜きしておきました」
朝になると、ミュンが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。
彼女は本当に、俺なんかについてくるつもりらしい。
自分の年齢の半分くらいの少女に優しくされ、その温かみと罪悪感がない混じった息苦しさに、穴があったら入ってそのまま埋葬されたい気分になった。
「すまんな、ミュン」
「いいえ。それは言わない約束ですよ」
まるで台詞だけ聞けば、病床に伏せた老夫婦の会話みたいだ。
しかし実際は、仕事も上手くいかず、多額の借金を背負う羽目になってしまった体たらくな男である。
「エイタさんはいま、見知らぬ土地で本調子でないだけです、きっと。すぐにうまくいきますですよ」
こんないたいけな少女に献身的に介抱されているばかり。まるでこれでは紐じゃないか。
俺は確かに楽をしたいと思っていた。
だが、こんな女の子の善意に甘えるだけの紐になりたかったわけではない。
しかも借金まで背負っているのだ。
このままではそれも押し付けてしまう。
さすがにそんなクズ野郎に成り下がるのは俺の理性が許さなかった。
だが、このままでは本当に職にありつけず、ミュンに負担をかけるばかりなのは事実だ。
しかも気を抜けば、
「うおっ!」
窓が突然割れ、やや太めな吹き矢の針が俺の枕元に突き刺さる。
自称見習い魔王の少女に命を狙われる日々。
おまけにこの魔王、その数秒後には何食わぬ顔で俺たちの前に顔を出し、ミュンが作ったご飯を目当てに同じテーブルにつく肝っ玉の持ち主だ。
「なに怖い顔してるのよ。食欲がないならあたしがあんたの分ももらうわよ」
「お前はなんでフツーにそこにいるんだよ」
「なに、哲学の話?」
「ちげーよ!」
ヴェーナに怒鳴り散らしながらも、とにかく朝食を摂ろうとする。スープのほかに果物もあって、それをフォークで食べようとした途端、
「うわわっ、私の鞄が!」
そうミュンが叫んだと同時に、気がつくと俺の手には、フォークではなくクレスレブが握られていた。
手元にあったはずのフォークは乾いた音を立てて床に転がっている。
いや、フォークですやん。
武器ですらないですやん。
嫉妬深い呪いの長剣。
まさかここまで徹底してくるとは。
心なしか俺がクレスレブの柄を握ると剣から嬉しそうな感情まで伝わってくる。
「なんかヤンデレの彼女を持ったみたいだな……」
私以外を見るのは許さない、なんて嫉妬されていると考えればまだ可愛いものか。だが、やはりこのままでは生活に支障が出てしまう。
一刻も早く、この生活をどうにかしなくてはならない。
ミュンのためにも、何より俺の精神衛生のためにも、絶対に。
「となると、もうアレしかないか」
――そう宙を見やって息を吐いたのが、かれこれ数時間前のことだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる