ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

文字の大きさ
12 / 49
○2章 クエストへ行こう

 -3 『不気味な勧誘』

しおりを挟む
 クエスト斡旋ギルド――『旅人のきまぐれ亭』

 いよいよ就職先に行き詰まり、重い腰を持ち上げて訪れたのがその場所だった。

 モンスターの討伐や環境調査、果ては荷物運びまで、役所に寄せられた様々な依頼を冒険者たちに提供してくれる仲介施設だ。

 依頼をこなせばお金が手に入る。
 さすがに一般人にはこなせない難しい依頼も多く、賞金の額は少なくない。

 手っ取り早くお金を稼ぐのなら最適な仕事だろう。

 本当はいの一番にそういう仕事を思い浮かべていたが、イヤだった。

 勇者のマルコムが初めて会った時に言っていたように、そういう仕事を斡旋してくれる場所があるのは予想できていた。

 最強のステータスを手に入れた俺ならモンスター討伐くらいわけもないだろう。

 だが、考えても見てほしい。
 HPの上限が10までしかなく、最低保証で必ず1は通されるのだ。

 どれだけ余裕と思っていても、万が一はある。
 おまけに自称魔王見習いの姑息な不意打ち付きだ。

 平和にスローライフを楽しみたい俺としては、できるだけ避けたいリスクだった。だがもうこの際、四の五の言っていられる場合ではないだろう。

 思い足を動かして、俺はその分厚い門扉を押し開けた。

 旅人のきまぐれ亭の中は、いかつい装備を携えた屈強そうな男たちで溢れかえっていた。

 がたいのいい筋肉男。
 きらびやかな全身鎧で纏った男。
 小太りで力持ちそうなスキンヘッドの半裸男。

 ミュンに宛がってもらったおかげで服装こそ溶け込めてはいるが、どう見ても華奢な一般人にしか見えない俺は明らかに浮いていることだろう。

 おまけに二人も女の子を連れていれば悪目立ちすること間違いなしだ。

 入ってきた俺に、男たちはぎらついたような目で睨んできていた。

「なあ、ミュン。なんかすっげぇアウェイなんだけど」
「冒険者の方々にも、それぞれ縄張りのようなものがあると聞きます。依頼されるクエストの数にもさすがに限りがありますし、一度受注してしまえば他のグループは受注できなくなるので、、見知らぬ人にむやみやたらと受注されるのを嫌うらしいです」

 なるほど。
 それで新顔の俺には目を光らせているってわけか。

 わかりやすい利権争いだ。
 しかしだからといって、俺だって遠慮して帰るわけにもいかない。

「あの、ここ初めてなんですけど」
「そちらの番号札をお取りください。順番になりますとお呼びしますので」
「あ、はい」

 カウンターで椅子に腰掛けようとすると、受付の若い女性に事務的な笑顔で案内された。

 どうやら他の男たちも、順番待ちのために控えている最中のようだ。

 二つある窓口は片方が埋まっていて、俺が声をかけたもう片方も、すぐに次の男が案内されていた。

 仕方なく、俺も木の番号札を取って待つことにした。

 まるで現実世界の役所で整理券を取った時みたいだ。カウンターの向こうでは書類などを持って慌しく動く事務員たちの姿が見え、余計にそれを彷彿とさせる。

 俺はカウンターの向かいの空いていた椅子に腰掛けた。

 ミュンとヴェーナも同じように両隣に収まる。
 まるで両手に花のように見えるが、片手は毒草である。

「女を連れて、何様だ」と、男たちから陰口が聞こえてくるが、できるのならばこの片方の少女を引き取ってほしいくらいだ。

「なんだか緊張しますね。えへへ」

 長剣のはみ出したバックパックを膝上に抱き、照れくさそうにミュンがはにかむ。だが俺は、隣のヴェーナがいつ襲いかかってくるものかと別の意味で緊張していた。

 待っている時間が退屈なのか、ヴェーナはおもむろに吹き矢を取り出して口許につけた。かと思えば服にしまう。また取り出す。またしまう。

「なにやってんだ」
「スムーズにやる練習を」
「なにを」
「秘密」

 ――明らかに俺を攻撃するためのだろ!
 というか、対象の目の前で練習するな。

 こいつのことだ。
 これだけの一目があっても平気で攻撃してきそうで恐ろしい。

 しかし他の男たちからは「女を連れて舐めた野郎だ」などと鋭い目を向けられているのだから、気まずいことこの上ない。
 できることなら今すぐにでもここから逃げ出したいくらいだった。

 早く順番が来ないか。早く順番が来ないか。

 神様に祈るように、番号札を握り締めながら待っていると、

「にょにょにょにょーん」

 気の抜けるような声が聞こえたかと思うと、カウンターの一番端っこから幼い少女が顔を出していることに気づいた。

 どうやらそこも受付窓口のようだ。
 あまりに書類やら本やらが乱雑に積み上げられていてそうは見えなかったが、その幼い少女は力任せに掻き分けてスペースを作っていた。

「おーい。こっち空いてるよー。おいでおいでー」

 陽気な弾む声で少女が俺たちに手を振ってくる。
 だが、その声に応える者は俺たちを除いて誰一人いなかった。

「あれ。あの、あそこ空いたみたいですよ」

 俺を睨んでいた強面の男たちに声をかけてみる。
 だが彼らは、俺が声をかけるたびに揃って背筋を伸ばしびくりと体を震わせた。

「番号とかいいから、誰かきなよー」

 また少女の催促の声が響いてくる。
 それに、男たちは歯を食いしばって耳を塞ぎ始めてた、

「あの、行かないんですか」
「う、うっせえ。俺は何も気付いてない」
「でも、行かないと後が詰まるし」
「じゃあお前が行け」
「え……」

 なんだ、その含みがありそうな言い方は。

 だが男たちはずっと強張った表情を浮かべながら、あの少女の声から目を逸らすように固まったままだ。そこにいる数人の冒険者が誰一人、視線すら向けようとしていなかった。

「そこのおにいさーん。いいクエスト入ってるよー、どう? どうー?」

 少女はどうやら、唯一反応を示した俺にロックオンしたらしい。小気味良い笑顔を浮かべながら手招きをしてくる。

「まあ、誰も行かないなら……」

 と、俺はそれに招かれるように吸い寄せられてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...