ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

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○2章 クエストへ行こう

 -4 『受付嬢エマ』

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「珍しい。おにーさん、新顔だねー。ボクの名前はエマーセン。気軽にエマって呼んでねー」

 冒険者へのクエスト斡旋所、旅人のきまぐれ亭。
 その受付カウンターに現れた少女はそう快活に自己紹介をした。

 服装は他の事務員たちと同じ、きまぐれ亭の紋章の柄が入った制服だ。しかし他の受付は三十前後の大人の女性なのに対し、その少女の身なりはどう見てもまだ十代半ばといった雰囲気だった。

 艶めいた金髪のショートカット。だが男性的ではなく、ふんわりとふくらみのある柔らかな髪で、細い輪郭に沿うようにもみ上げが垂れている。

 青い瞳は大きく、童顔だ。だが鼻は高く、笑うと笑窪ができる愛らしい顔立ちをした女の子顔だった。

「ささっ。新顔っていうならまずはうちの管理リストに登録しないとだねー」

 そう言ってにまにま笑みながら、俺に書類を差し出してくる。

「そこに名前書いてねー。出身地とか志望動機とかを書く場所あるけど、まあ、ぶっちゃけ名前さえわかればいいからさー」
「は、はあ」

 促されるままに、ペンを手に取り名前を書く。

 この異世界に召喚された際の最強能力の副産物か、こちらの世界の文字の解読も多少はできるようになっているようだ。
 というか、文字を見るとなんとなくその意味が頭に浮かんでくる程度だが。

 だが問題は、読めたところで書けない、ということだ。

 読めるけど書けない。まるで中三の頃まで書けなかった『新潟』を思い出す。あの頃はテストで新潟の回答箇所が出ると、なんとなくそれっぽい文字で誤魔化していたものだ。

 ――とりあえずここも適当に書くか。

 蛇が這ったような字で日本語のまま殴り書きしておくことにした。

「ん。はい、どうもー」

 なんだ、上手くいったのか。

「ぶっちゃけ名前も別に書かなくてもいいくらいだけどねー」
「じゃあなんで書かせたんだよ!」
「まあ一応、形式だからねー」

 この一瞬の葛藤が全部無駄じゃないか。

 受付の少女――エマは俺が名前を書いた書類に何箇所か筆を入れ、判子を押す。

「これで登録完了。これからこのきまぐれ亭でクエストの受注をできるようになるよー」
「お、ありがとう。これで俺も冒険者ってことなのかな」
「そうだねー。ここで受注して、それを達成したら報告にきてねー」

 なんだか成り行きでここまで来てしまったが、賞金稼ぎになった、と言えば格好もつくだろうか。少し心がわくわくし始めている俺がいる。

 クエストをこなして金を得るというのは、昔からゲームでよく見たRPGのお約束だ。始めは乗り気ではなかったが、ほんのちょっとだけ、やる気が湧いた。

 そんな俺に、いまだ順番待ちをしている冒険者の男たちが声を潜めて「アイツ終わったな」などと囁いているのが聞こえてくる。

 いったい何のことだろう。
 そう不思議に思っていると、エマが大きく振りかぶって、俺の目の前に一枚の紙を叩きつけてきた。

「というわけで、オススメのクエストを受注しておいたよー」
「え、いきなり?」

 というか、まだ俺は何も聞いてないぞ。
 どんな内容なのか、どんな報酬なのか。

 まさか、男たちが不穏に呟いていたのは、このエマという少女にとんでもないクエストを吹っかけられるからなのではないだろうか。

 なに勝手に決めてるんだよ、と叫びたい気持ちを、衆人の手前抑え込む。

 いったいどんな無茶なクエストを押し付けられるのか。

「……ごくり」

 恐る恐る、その紙に書かれていたクエスト内容を読み上げてみた。

『ファッシールさんの家で飼っているペットのワンチャンの小屋の裏に埋められてる骨を拾ってきてほしい』

「……なんだこれ」

 あまりにも拍子抜けというか、安っぽすぎるというか。

 だが報酬金は三万ゴールド。かなりの多額。美味しいなんてレベルではない。

「……これだけ?」
「そうだよ」

 けろりと清々しい笑顔でエマは頷く。

「おにーさん、見たところお金がずいぶん入用みたいじゃない?」
「え、まあ。わかるのか?」
「まあねー。この手の仕事を三十年を続けてたら自然と目も肥えてくるからねー」
「さ、三十年……?!」

 いったい何歳だというのか。
 どう見ても十代の少女だというのに。

 だがそんな疑問もどうでもいいくらい、俺はこの依頼されたクエストに興味を引かれていた。

 簡単そうで、報酬も良い。
 これ以上にない最高の物件じゃないか。

 この時の俺は、へえラッキー、くらいにしか思っておらず、提示されたクエストをあっさりと承認してしまったのだった。

「ありがとう、エマ」
「いいってことよー」
「それじゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」

 にんまりと満面の笑顔でエマが送り出してくれる。

 誰にでもできそうな簡単な仕事。
 しかし美味しい話などあるはずがないのである。

 その現実を、俺は後になってひどく後悔することとなるのだった。
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