ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

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○3章 温泉へ行こう

 -13『突っ込みどころ』

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「まさかドミナータがそんな奴だったとは」

 服を着たマルコムが真面目な顔で言った。

「私と同じ、女子への理解が深いわかる奴だと思っていたが、非道を行っているとは。女の敵め。同意のない手出しを見過ごすわけにはいかないな」

 珍しくまともな正義感をふりかざすマルコム。
 しかし忘れてはいけない。女湯を覗こうとした奴の発言である。

 一通りケーキなどを食べ終わったヴェーナも、一転して憤怒した様子で頬を膨らませている。

「あたしたちを騙すなんていい度胸じゃない」
「エルさんが可哀想です。私もお助けしたいです」
「男の敵ねぇ。そんな奴はもいじゃうべきよぉ」

 ミュンとスクーデリアも意気込む。スクーデリアの発言には本当にやりそうな本気さが乗っていて、股がひんやり縮みこみそうになった

 捕らえた男からドミナータの部屋を聞き出し、俺たちはそこへと向かった。

 鍵のかかった部屋の扉を突き破り、中へと入る。

「おどりゃあ、ドミナータ!」

 勢いよく突入した俺だが、しかしそこはもぬけの殻だった。

「いないではないか、友よ」
「部屋はここで間違いなさそうなんだけどな。なんか社長っぽいでっかい机あるし」
「社長っぽい? なんだ、それは」

 ドラマとかでよく見る、高級そうな木の机――と言ってもマルコムには通じないか。黒い三角柱の板が置かれていて、そこに名前が書かれていたり、黒革のチェアが置かれていたり。まさにそんな感じの雰囲気だ。

 部屋は広々としていて、最初の店とそう変わらないくらいだ。町とはいえ領主というのだから、やはりそれなりに良い生活を送っているのだろう。部屋に置かれた花瓶や観葉植物からも、彼の裕福さが多分に感じ取れた。

「これ、雇用してる女性たちの契約書みたいです」

 机上に置かれた紙にミュンが気付き、手に取った。

「いやいや、そんなものを無造作に……あ、マジだ」

 本当にそれっぽい書類が重なって並んでいる。
 名前と契約内容。他にもいろんな書類が無造作に置かれている。

「あれ?」

 その中からミュンが一枚の紙を見つけた。

「これ、エルさんのじゃないですか」
「え? 十年働くっていう契約書か?」
「いえ……」

 その紙を見たミュンの表情がしかめっ面に変わる。

「ファナージ。やっぱりエルさんの名前です。どうやらエルさんとそのお父さんの借用書のようです」

 それって、エルが『父親が持っていなくなった』と言っていたもののことか。

「この者に五万ゴールドを貸し与える、と書かれてますね」
「五万? たった五万か?」

 俺なんて酒場のピカルさんに五十万の借金をしてるんだぞ。それに比べれば本当にはした金額じゃないか。いや、決してこの世界では少ないわけではないのだが。

「いくらなんでも五万で十年も働かされるなんておかしいだろ。クエスト数回やるだけで返済できるぞ」
「エマさんのクエストは少し特別ですから。でも、これでも金額はあまり高くありませんね。十年というのはやっぱりおかしいです」

「エルは借金の金額を知らないって言ってた。となると、わざと隠蔽して無理やり無茶な契約を結ばせてるってことか」

 そうであれば余程の悪党だ。
 バーゼンが直々に依頼してくるほど問題視していることもわかる。

「これを持って帰れば証拠になるな。バーゼンさんも喜ぶだろ」
「にゅっふっふっ。やっぱり、バーゼンのババアの差し金だったんだの」
「っ?!」

 突然の声に俺たちが振り返ると、いつの間にか、部屋の入り口にドミナータが陣取っていた。

「お前が逃げたという報せを聞いて、あえてここまで泳がせてやったんだの。やはり目的はそれだったんだの」
「随分と余裕だな。もう拘束具だってないんだぜ」
「それがどうしたんだの」

 守衛も携えず一人きりだというのに、ドミナータは随分と余裕に満ちた顔を浮かべている。その気味悪さが怖い。それほど実力に自信があるのか、もしくはまた不意をついた策略でも謀っているのか。

「わらわのことを知っているのなら、これも知っているだろうの。わらわが、魔王であるということを」
「そういやそんな話だっけ」

 魔王を自称しているというのは確かにバーゼンから聞いていた。
 だがそんな威圧感などなく、まるでただの小太りの中年といった印象だった。

 しかし、ふと彼が懐から魔術書を取り出す。
 それを構えた途端、まるで何かが解放されたかのように、ドミナータの全身から溢れんばかりの魔力が放出されていくのがわかった。

 その力、魔王を自称するのも馬鹿に出来ないほどには強大だ。
 暗黒色の魔力を纏ったドミナータは、野獣のような鋭い眼光をこちらに向け不敵に笑む。

「お前たちにはもう用済みなんだの。少女たちも、知られてしまった以上は仕方がないんだの。ここでまとめて、おっちんでもらうんだの。バーゼンにも、奴を追及するいい材料が手に入るんだの。とても好都合なんだの」

 魔力と同様に満ち溢れるドミナータの自信。
 俺たちを確実に倒せると踏んでいるのだろう。

 だが俺だって最強のステータス持ちだ。意識外の不意打ちでもないかぎり負けはしない。それにこっちには、同じく自称魔王のヴェーナだっている。

「魔王であるというのなら、私だって見過ごすことはできんな」と意気込むマルコムもだ。

 それほどドミナータには、何者にも負けないという奥の手があるのだろうか。

「なあ。あいつ、本当に魔王だと思うか?」

 ヴェーナに尋ねてみる。

「どうかしら。背中の首筋に紋様が確認できれば間違いないんだけれど、わからないわね。ただの人間が魔王だなんて考えづらい。でも可能性は否定しきれないわ。ちゃんとした手順さえ踏めば誰でも手に入れられるもの」

「ちゃんとした手順……それってどんな手順なんだ?」

「魔王になるためには、戦闘を繰り返して経験値を積み、故郷の親に思いを馳せてから、そのあとに『魔王を倒す!』と宣言。そして魔王を倒して『やったぜ』って言う必要があるわ。そうして最後に、お尻を二回叩くと完了よ」

「…………は?」
「だから――」
「いや、繰り返さなくていい」

 なんだその、酒に酔った仲間内でふざけて決めました、みたいなローカルルール感は。

「あたしはちょっと順番が特別だから、あとはもうあんたを殺して莫大な経験値を稼ぐだけだけど」

 おいやめろ。

 しかしヴェーナはともかく、もしドミナータがその手段で本当に魔王になったのだとしたら、魔王を倒すだけの実力があるということだ。

「どっちにしたって殺してみればいい話よ。魔王は一度殺したくらいじゃ死に切らないもの」
「そうなのか?」
「あの変態と同じようなものよ。邪神の加護がついてるの」

 なるほど。
 いや、殺して確かめるってのはあまりに物騒すぎるが。

 念のためアナライズで強さの数値を見てみても、

 『HP  10
  攻撃力 80
  防御力 85』

 決して弱いわけではないが、マルコムほどにすら届いていない。
 それでも魔王と名乗るだけの実力を隠し持っているというのか。

「こいつ、本当に強いのか?」
「にゅっふっふっ。デブを侮るのもそこまでなんだの。わらわの最強魔法で、お前たちなんか、後悔の炎で焼き尽くされることになるんだの」

 ばさりとドミナータが魔術書を開き、構える。

「見るんだの! わらわの最強魔法、『ブラックヒストリア』を!!」
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