32 / 49
○3章 温泉へ行こう
-14『こうかはばつぐんだ』
しおりを挟む
「おのれ魔王め。勇者である私が成敗してくれよう」
壁に飾られていた剣を手に取り、マルコムが颯爽とドミナータへ構える。
「我がハーレムの礎のため、塵と消えろ!」
言葉の端だけ聞くと格好いいマルコムの口上に、ドミナータは不敵に笑みを返す。そして魔道書を前へ掲げた。
「ぐふふ、最初の犠牲は貴様なんだの。ならばくれてやるだの。『ブラックヒストリア』!」
瞬間、マルコムの周囲を黒い靄が覆う。
ブラックホールか。それとも体に侵食してくるのか。
魔法の実態がつかめない。いや、実際に何も起こってない。
攻撃というよりも、ただ黒い光がまとわりついただけのような。
「どういう冗談だ」とマルコムが嘲笑を浮かべてすぐのことだった。
「――酒場で酔っ払ってもいないのに倒れた振りをし、女子の下着を覗こうとする癖が十歳の頃からやめられない」
「……なっ?!」
『ダメージ2 残りHP8』
なんだいまの。
ドミナータが何か言ったかと思えば、突然マルコムが胸を打たれたように屈みこんだ。
「――八歳の頃、隣の家に住むお姉さんに告白した。その時の決め台詞は『お姉さん、ボクを飼ってみない?』」
「……ぐはぁっ?!」
『ダメージ2 残りHP6』
今度はマルコムが吐血までしはじめる。
「これが、あいつの攻撃なのか?」と俺は呆気にとられた気分で眺めていた。
「――下着の色は紫が好き」
『ダメージ2』
「――母親にお尻を叩かれて叱られるのがちょっと快感だった」
『ダメージ2』
「――性に目覚めたのは三歳」
『ダメージ2 女神の加護発動 残りHP1』
「あ、あぶない。加護がなければ即死だった」
立て続けに呪文のように述べられたそれに、マルコムは瞬く間に瀕死へと追いやられてしまっていた。
「むむ。まだ生きてやがるんだの。しぶといやつだの。ならばもっと喰らわせてやるんだの」
「――七歳の頃、母親の下着を盗んだ」
『ダメージ2 スキル発動』
「――それがバレた翌日、遺書を書いて家出しようとしたが見つかって怒られた」
『ダメージ2 スキル発動』
「――八歳の頃、隣のお姉さんに悪戯で軽く指でカンチョウされ、辺りに血の洪水を巻き起こした。でも気持ちよかった」
『ダメージ2 スキル発動』
「――誕生日になるたびにお姉さんにカンチョウをねだるようになったが、素直に気持ち悪くて、一時間に及ぶ罵倒を浴びた。でも気持ちよかった」
『ダメージ2 スキル発動』
「――ほどなくして引っ越してしまったお姉さんのことが忘れられず、村の似た女性に手当たり次第告白していったが、やはり気持ち悪がられ、しまいには『魔王を倒すまで帰ってくるな』と村を追い出された。でもその罵倒すら気持ちよかった」
『ダメージ2 スキル発動』
「……ぐっはぁぁぁぁぁぁっ!!」
凄まじいほどの吐血を見せて倒れ込んだマルコムを前に、ドミナータが丸い腹を膨らませて高笑いする。
「見たんだの。これが我がブラックヒストリア。相手の心の闇を増幅し、直接ダメージを与える禁術なんだの!」
つまり黒歴史を抉るってことか。
間違いなく強い。いろんな意味で。
「むむむ。まだこいつ生きてるんだの。もっとやらないとダメなんだの」
やめたげて!
というかいっそ殺してあげて!
ただでさえ知りたくもないマルコムの恥ずかしい黒歴史が垂れ流されていっているだから。
それを聞いているのも苦痛だし、女性陣は一様にどん引きしている。
発動率が低いはずのスキルで女神の悪戯によって生きながらえているマルコム。もはや女神の幸運というより、女神の嫌がらせのようにしか思えない。天国に来るなよ、こっち来るなよ、みたいな感じで。
しかしさすがに吐血しまくり、もはや抜け殻のように倒れ込んでしまっていた。
あいつはもう使い物にならないだろう。
それにしてもあのブラックヒストリアという魔術。
つまりは相手の黒歴史を掘り起こし精神的ダメージを与えるというもののようだ。
誰にも教えていない自分だけの秘密が暴露される。これほど恐ろしい魔法、見たことがない。
「バッカじゃないの。あんなやつに最初から期待なんてしてないわよ。あたしがさっさと蹴散らしてあげるわ」
マルコムを鼻で笑って見下したヴェーナが、ふんぞりかえるように前に立つ。
「あたしたちもこのブタおじさんの元で働かせようってつもりだったようね。騙そうとしたツケは高くつくわよ」
「むむ。そう言ってられるのも今の内なんだの」
「あたしは別に恥ずかしい過去なんてないもの」
手に魔法で生み出した槍を構えるヴェーナ。だが、それを振りかぶって駆け出すよりも先にドミナータのブラックヒストリアが彼女を包み込んだ。
「――いつも忘れぬ、心と胸を満たす三センチの詰め物」
「っ?!」
『ダメージ2 残りHP8』
ヴェーナが咄嗟に、顔を真っ赤にして自分の体を抱え込む。
「――五歳下の少女に『私よりぺったん』だと尊厳を傷つけられ、絶対的な実力を手に入れることで見返そうとしている」
「っっ?!」
『ダメージ2 残りHP6』
「――貧乳」
「っっっ?!」
『クリティカル! ダメージ4 残りHP2』
何か棘にでも突き刺されたかのようにヴェーナは仰け反ると、白目をむき、そして大急ぎで部屋のカーテンにくるまって隠れてしまった。顔だけを覗かせ、
「違うもん、ばーか!」と子供みたいに叫んでいる。
なんというか。
マルコムとは別方向でなんとも残念な結果だ。
なんだかんだ、あっという間に二人もやられてしまった。
ヴェーナは黒歴史というよりも、ただの悪口のようでもあったが。
「ヴェーナまでやられたか。攻撃方法はともかく、なかなかやるな」
「ふぁっふぁっふぁっ、だの。やはりわらわは最強なんだの」
悦に浸る様子のドミナータ。
残るは俺と、ミュンにスクーデリアのみ。
あとはおまけ程度に足元にいるケルベロスのポチだけだ。
もし前に出ようものなら己の尊厳を失いかねない。たちまちドミナータのブラックヒストリアによって心を抉られることだろう。
俺たちは牽制しあうように動けなくなっていた。
攻撃魔法のフレイムで一気に燃やし尽くすか。いや、下手に動いた瞬間に術をかけられかねない。
それだけはイヤだ。
黒歴史をばらされるなんて、絶対に。
「ふぉっふぉっふぉっ。このままお前たちを捕らえて、わらわの小間使いとして一生可愛がってやるんだの。あ、男は用がないから始末するんだの」
「始末するのはマルコムだけでお願いします」
「お前もなんだの」
「やっぱ駄目か」
頼んでみたけれどあっさりと一蹴されてしまった。
しかし、それに憤るように前に出たのはミュンだった。
「それは困ります!」
「な、なんなんだの」
突然強気に声を張った少女に、ドミナータが虚をつかれて驚きを見せる。
まるで俺を庇うように、ドミナータを前にして佇むミュンの姿は、バックパックのある普段よりもずっと大きく勇ましく見えた。
「エイタさんは私たち、リリーテナ家の名を再び世に轟かせるためにも、クレスレブと共にこれから多くの偉業を達成していただかなければなりません。魔王を倒したり、果ては一国の主となるほどに」
要求内容めっちゃ盛られてませんかね。
「エイタさんを殺すというのなら、私が身を挺してでも守り抜きます!」
「むむ。お前たち、もしかしてそういう蜜月の関係なんだの?」
「そうです!」
一切のよどみなくミュンは頷く。
イヤ、ちょっと待て。その件は保留にしているはずだ。
ドミナータは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「おのれ、むかつくんだの。わらわの目の前でいちゃいちゃするんじゃないんだの。もう怒っただの。お前も少し懲らしめてやるんだの」
再びドミナータが魔術書を構える。
まずい。
このままではマルコムたちみたいにミュンもやられてしまう。
咄嗟にミュンへと手を伸ばそうとしたが、しかし遅かった。ドミナータのブラックヒストリアがミュンの全身を包み込む。
「――毎朝、田口エイタを起こすときは五分ほど眺めてから起こしている」
「寝顔は子供のようにすごく可愛いんです」
「ええっ?!」
『…………』
あれ、何も表記されない。
まさかコンピューターというわけでもないだろうし、表記バグではないだろう。
ブラックヒストリアを受けたはずなのに、ミュンは快活に返事をするだけで、まったく何も影響を受けていないように見える。
ドミナータもその不発を不思議そうにいぶかしんでいた。
というか、ちょっと待て。
なにやってやがるんだ、ミュンは。
「もう一度だの」
「――睡眠学習として、寝る前に田口エイタのその日の格好いい場面や優しかった場面などを思い出し、悦に浸ってから眠る」
「はい! とっても楽しいです!」
「ふぁっ?!」
『エイタにダメージ3 残りHP4』
「――田口エイタの服を洗濯するときにいつも顔を埋めている」
「はい! 不思議なにおいがします!」
「おいミュンなにやってんだ!」
『エイタにダメージ3 残りHP1』
驚きすぎるあまり、俺に流れ弾が来やがった。
しかも普通にくらうよりダメージがでかいじゃねーか!
ミュンは快活に返事をしただけでダメージもないというのに、何故か俺のライフだけが削れた。
なんで勝手に瀕死にさせられてるんだ、俺。そんなのありかよ。
突然やって来た死の恐怖に、俺だけが場外で勝手に焦る。
しかし一向にダメージを受けないミュンに、ドミナータも動揺の色を濃く見せ始めていた。弾ませた声で「まだまだありますよ」と催促までされる始末。
「な、なんでなんだの。お前、これが後ろめたいことではないんだの?」
「ふぇ? まったくですけど」
「な……なんだと、なんだの」
目を見開いて驚愕するドミナータ。
純真無垢に向けられたミュンのつぶらな瞳がまぶしい。
「あ、ありえないんだの。こんなこと、ありえないんだの」
そんな彼の頭上に、
「あーらよ、っとぉ」
いつの間にかこっそりと歩み寄っていたスクーデリアが、机上に置かれていた花瓶を叩きつける。思い切り振りかぶった、花瓶が粉々に砕けるほどの強烈な一撃。
「ふごぉっ!」と悲鳴を漏らしたドミナータが、吐血と鼻水を噴き出して床に叩きつけられた。
『ダメージ9 残りHP1』
「お姉さん優しいから、命だけは助かるように手加減しておいてあげたからぁ」
血まみれになった割れた花瓶の先をギラつかせながら、スクーデリアは微笑を浮かべてドミナータを見下ろしていた。
ふう、助かった。
流れ弾の精神ダメージで人知れず死ななくて、本当によかった、俺。
壁に飾られていた剣を手に取り、マルコムが颯爽とドミナータへ構える。
「我がハーレムの礎のため、塵と消えろ!」
言葉の端だけ聞くと格好いいマルコムの口上に、ドミナータは不敵に笑みを返す。そして魔道書を前へ掲げた。
「ぐふふ、最初の犠牲は貴様なんだの。ならばくれてやるだの。『ブラックヒストリア』!」
瞬間、マルコムの周囲を黒い靄が覆う。
ブラックホールか。それとも体に侵食してくるのか。
魔法の実態がつかめない。いや、実際に何も起こってない。
攻撃というよりも、ただ黒い光がまとわりついただけのような。
「どういう冗談だ」とマルコムが嘲笑を浮かべてすぐのことだった。
「――酒場で酔っ払ってもいないのに倒れた振りをし、女子の下着を覗こうとする癖が十歳の頃からやめられない」
「……なっ?!」
『ダメージ2 残りHP8』
なんだいまの。
ドミナータが何か言ったかと思えば、突然マルコムが胸を打たれたように屈みこんだ。
「――八歳の頃、隣の家に住むお姉さんに告白した。その時の決め台詞は『お姉さん、ボクを飼ってみない?』」
「……ぐはぁっ?!」
『ダメージ2 残りHP6』
今度はマルコムが吐血までしはじめる。
「これが、あいつの攻撃なのか?」と俺は呆気にとられた気分で眺めていた。
「――下着の色は紫が好き」
『ダメージ2』
「――母親にお尻を叩かれて叱られるのがちょっと快感だった」
『ダメージ2』
「――性に目覚めたのは三歳」
『ダメージ2 女神の加護発動 残りHP1』
「あ、あぶない。加護がなければ即死だった」
立て続けに呪文のように述べられたそれに、マルコムは瞬く間に瀕死へと追いやられてしまっていた。
「むむ。まだ生きてやがるんだの。しぶといやつだの。ならばもっと喰らわせてやるんだの」
「――七歳の頃、母親の下着を盗んだ」
『ダメージ2 スキル発動』
「――それがバレた翌日、遺書を書いて家出しようとしたが見つかって怒られた」
『ダメージ2 スキル発動』
「――八歳の頃、隣のお姉さんに悪戯で軽く指でカンチョウされ、辺りに血の洪水を巻き起こした。でも気持ちよかった」
『ダメージ2 スキル発動』
「――誕生日になるたびにお姉さんにカンチョウをねだるようになったが、素直に気持ち悪くて、一時間に及ぶ罵倒を浴びた。でも気持ちよかった」
『ダメージ2 スキル発動』
「――ほどなくして引っ越してしまったお姉さんのことが忘れられず、村の似た女性に手当たり次第告白していったが、やはり気持ち悪がられ、しまいには『魔王を倒すまで帰ってくるな』と村を追い出された。でもその罵倒すら気持ちよかった」
『ダメージ2 スキル発動』
「……ぐっはぁぁぁぁぁぁっ!!」
凄まじいほどの吐血を見せて倒れ込んだマルコムを前に、ドミナータが丸い腹を膨らませて高笑いする。
「見たんだの。これが我がブラックヒストリア。相手の心の闇を増幅し、直接ダメージを与える禁術なんだの!」
つまり黒歴史を抉るってことか。
間違いなく強い。いろんな意味で。
「むむむ。まだこいつ生きてるんだの。もっとやらないとダメなんだの」
やめたげて!
というかいっそ殺してあげて!
ただでさえ知りたくもないマルコムの恥ずかしい黒歴史が垂れ流されていっているだから。
それを聞いているのも苦痛だし、女性陣は一様にどん引きしている。
発動率が低いはずのスキルで女神の悪戯によって生きながらえているマルコム。もはや女神の幸運というより、女神の嫌がらせのようにしか思えない。天国に来るなよ、こっち来るなよ、みたいな感じで。
しかしさすがに吐血しまくり、もはや抜け殻のように倒れ込んでしまっていた。
あいつはもう使い物にならないだろう。
それにしてもあのブラックヒストリアという魔術。
つまりは相手の黒歴史を掘り起こし精神的ダメージを与えるというもののようだ。
誰にも教えていない自分だけの秘密が暴露される。これほど恐ろしい魔法、見たことがない。
「バッカじゃないの。あんなやつに最初から期待なんてしてないわよ。あたしがさっさと蹴散らしてあげるわ」
マルコムを鼻で笑って見下したヴェーナが、ふんぞりかえるように前に立つ。
「あたしたちもこのブタおじさんの元で働かせようってつもりだったようね。騙そうとしたツケは高くつくわよ」
「むむ。そう言ってられるのも今の内なんだの」
「あたしは別に恥ずかしい過去なんてないもの」
手に魔法で生み出した槍を構えるヴェーナ。だが、それを振りかぶって駆け出すよりも先にドミナータのブラックヒストリアが彼女を包み込んだ。
「――いつも忘れぬ、心と胸を満たす三センチの詰め物」
「っ?!」
『ダメージ2 残りHP8』
ヴェーナが咄嗟に、顔を真っ赤にして自分の体を抱え込む。
「――五歳下の少女に『私よりぺったん』だと尊厳を傷つけられ、絶対的な実力を手に入れることで見返そうとしている」
「っっ?!」
『ダメージ2 残りHP6』
「――貧乳」
「っっっ?!」
『クリティカル! ダメージ4 残りHP2』
何か棘にでも突き刺されたかのようにヴェーナは仰け反ると、白目をむき、そして大急ぎで部屋のカーテンにくるまって隠れてしまった。顔だけを覗かせ、
「違うもん、ばーか!」と子供みたいに叫んでいる。
なんというか。
マルコムとは別方向でなんとも残念な結果だ。
なんだかんだ、あっという間に二人もやられてしまった。
ヴェーナは黒歴史というよりも、ただの悪口のようでもあったが。
「ヴェーナまでやられたか。攻撃方法はともかく、なかなかやるな」
「ふぁっふぁっふぁっ、だの。やはりわらわは最強なんだの」
悦に浸る様子のドミナータ。
残るは俺と、ミュンにスクーデリアのみ。
あとはおまけ程度に足元にいるケルベロスのポチだけだ。
もし前に出ようものなら己の尊厳を失いかねない。たちまちドミナータのブラックヒストリアによって心を抉られることだろう。
俺たちは牽制しあうように動けなくなっていた。
攻撃魔法のフレイムで一気に燃やし尽くすか。いや、下手に動いた瞬間に術をかけられかねない。
それだけはイヤだ。
黒歴史をばらされるなんて、絶対に。
「ふぉっふぉっふぉっ。このままお前たちを捕らえて、わらわの小間使いとして一生可愛がってやるんだの。あ、男は用がないから始末するんだの」
「始末するのはマルコムだけでお願いします」
「お前もなんだの」
「やっぱ駄目か」
頼んでみたけれどあっさりと一蹴されてしまった。
しかし、それに憤るように前に出たのはミュンだった。
「それは困ります!」
「な、なんなんだの」
突然強気に声を張った少女に、ドミナータが虚をつかれて驚きを見せる。
まるで俺を庇うように、ドミナータを前にして佇むミュンの姿は、バックパックのある普段よりもずっと大きく勇ましく見えた。
「エイタさんは私たち、リリーテナ家の名を再び世に轟かせるためにも、クレスレブと共にこれから多くの偉業を達成していただかなければなりません。魔王を倒したり、果ては一国の主となるほどに」
要求内容めっちゃ盛られてませんかね。
「エイタさんを殺すというのなら、私が身を挺してでも守り抜きます!」
「むむ。お前たち、もしかしてそういう蜜月の関係なんだの?」
「そうです!」
一切のよどみなくミュンは頷く。
イヤ、ちょっと待て。その件は保留にしているはずだ。
ドミナータは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「おのれ、むかつくんだの。わらわの目の前でいちゃいちゃするんじゃないんだの。もう怒っただの。お前も少し懲らしめてやるんだの」
再びドミナータが魔術書を構える。
まずい。
このままではマルコムたちみたいにミュンもやられてしまう。
咄嗟にミュンへと手を伸ばそうとしたが、しかし遅かった。ドミナータのブラックヒストリアがミュンの全身を包み込む。
「――毎朝、田口エイタを起こすときは五分ほど眺めてから起こしている」
「寝顔は子供のようにすごく可愛いんです」
「ええっ?!」
『…………』
あれ、何も表記されない。
まさかコンピューターというわけでもないだろうし、表記バグではないだろう。
ブラックヒストリアを受けたはずなのに、ミュンは快活に返事をするだけで、まったく何も影響を受けていないように見える。
ドミナータもその不発を不思議そうにいぶかしんでいた。
というか、ちょっと待て。
なにやってやがるんだ、ミュンは。
「もう一度だの」
「――睡眠学習として、寝る前に田口エイタのその日の格好いい場面や優しかった場面などを思い出し、悦に浸ってから眠る」
「はい! とっても楽しいです!」
「ふぁっ?!」
『エイタにダメージ3 残りHP4』
「――田口エイタの服を洗濯するときにいつも顔を埋めている」
「はい! 不思議なにおいがします!」
「おいミュンなにやってんだ!」
『エイタにダメージ3 残りHP1』
驚きすぎるあまり、俺に流れ弾が来やがった。
しかも普通にくらうよりダメージがでかいじゃねーか!
ミュンは快活に返事をしただけでダメージもないというのに、何故か俺のライフだけが削れた。
なんで勝手に瀕死にさせられてるんだ、俺。そんなのありかよ。
突然やって来た死の恐怖に、俺だけが場外で勝手に焦る。
しかし一向にダメージを受けないミュンに、ドミナータも動揺の色を濃く見せ始めていた。弾ませた声で「まだまだありますよ」と催促までされる始末。
「な、なんでなんだの。お前、これが後ろめたいことではないんだの?」
「ふぇ? まったくですけど」
「な……なんだと、なんだの」
目を見開いて驚愕するドミナータ。
純真無垢に向けられたミュンのつぶらな瞳がまぶしい。
「あ、ありえないんだの。こんなこと、ありえないんだの」
そんな彼の頭上に、
「あーらよ、っとぉ」
いつの間にかこっそりと歩み寄っていたスクーデリアが、机上に置かれていた花瓶を叩きつける。思い切り振りかぶった、花瓶が粉々に砕けるほどの強烈な一撃。
「ふごぉっ!」と悲鳴を漏らしたドミナータが、吐血と鼻水を噴き出して床に叩きつけられた。
『ダメージ9 残りHP1』
「お姉さん優しいから、命だけは助かるように手加減しておいてあげたからぁ」
血まみれになった割れた花瓶の先をギラつかせながら、スクーデリアは微笑を浮かべてドミナータを見下ろしていた。
ふう、助かった。
流れ弾の精神ダメージで人知れず死ななくて、本当によかった、俺。
0
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~
甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって?
そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる