ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

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○4章 役所へ行こう

4-1 『働き者の看板娘』

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 フォルン。
 冒険者たちの集うその町でも、ひときわ賑わいを見せるピカルの酒場。

 朝から晩まで、呑んだくれた男たちが集まるそこは、この町の明るさを象徴するかのように騒ぎ立つ男たちで活気付いている。

「……い、いらっしゃいませ」

 入り口の木戸の開けると、獣人の少女――もとい男の娘、エルが俺を出迎えてくれた。

 俺が言ったとおり、エルは新しい就職先を探すためにピカルさんを頼ってこの町に来ていた。獣人ということと、男なのに美少女であるということが、ピカルさんの妹のデリカさんに気に入られ、それからというもの、彼女の家に住み込んで働かせてもらっている。

「本当に良くしてもらっています。見ず知らずの私を優しく迎え入れてくださって」
「エルの柔らかい人柄のおかげだろ」
「そ、そんな。私にはもったいないお言葉です」

 しおらしく謙遜する姿も、その初々しさに庇護欲を掻きたてられる。ヴェーナたちにはぜひとも見習ってもらいたいものだ。少女然とはこうあるべきである。

 それに、

「その服もよく似合ってるしな」
「……や、やめてくださいよぉ」

 脇に抱えていた給仕のお盆で、真っ赤になった顔を隠すエル。
 彼女に宛がわれた酒場の制服は、どういうわけか、俺の世界でいうメイド服のようなゴシック調のものだった。しかもスカートなあたり、明らかに女性用である。

 しかし女装とはまったく思えないほどにそれは似合いすぎていて、もともとのエルの可愛さを十二分に際立たせていた。

 正直、生半可な女の子よりマジで可愛い。
 ここにやって来てからというもの、エル目当ての客も少なくないくらいだ。

「ほんとに可愛いよ」
「……え、エイタさんのいじわるですぅ」

 湯気が出そうなほど顔を真っ赤にしたエルは、お盆で俺の頭を軽く叩き、そのまま恥ずかしそうにカウンターの奥へと逃げていってしまった。

 叩かれたところが少し痛かったが、あの可愛らしさを見れるなら、これくらいの痛みなら大歓迎だ。
 それになにより、殺意がこもっていないという素晴らしさよ。

「やっぱヴェーナとは違うな」
「聞こえてるんですけど」
「ひえっ?!」

 いつの間にか俺の背後にヴェーナが立っていて、突き刺すような冷たい声をかけられた。すかさず吹き矢を取り出し、迷わず俺を突き刺す。

  『ダメージ1 残りHP9』

「……あふん」

 尻に刺さった針の痛みを感じながら俺は、不条理ながらも平穏でいつも通りな日常を実感していた。

「よお、エイタじゃねえか」

 一瞬の眩しさを感じたかと思うと、厨房の奥からエルと入れ替わりに、巨漢を目立たせるピカルさんが顔を出してきた。

「お前が紹介してくれたあの子、たいした働き者だぜ。一つ教えたら二つを学んで、ちゃんとてきぱきこなしやがる。まだ会計の計算は苦手だが、体を動かすことに関しては大いに役立ってくれてるぜ。厨房を粉みじんにして去っていったどっかの馬鹿とは大違いだ。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいぜ」

「ははっ。耳が痛いです」

 働いた三日目に盛大に厨房を破壊し、店に大きな穴まであけてしまった阿呆がいるとさ。

 精神ダメージをクリティカルヒットさせられそうで、俺はそっと耳を塞いだ。

「それにしても、町でも獣人の子がよく見かけるようになりましたね」

 ふと話題を逸らす。

「ん? ああ、そうだな。ほとんどがフミーネルから来た子だがな。それほど多いわけじゃないが、まあまあの数が流れ込んできたって話だ。薬屋のお使いや花屋の花摘み。いろいろと駆りだされてるとこを見るな」

 どうやらドミナータから開放された獣人たちも、各々に新しい仕事を見つけられているらしい。

 しかし、ピカルさんが顔をしかめてこめかみを掻く。

「とはいえ、みんながみんな、エルのようにしっかり者じゃねえ。中には文字通り、体を投げ打ってでもしないとろくに稼げない奴だっている。この町だっていくらでも働き口があるわけじゃないさ。職につけない奴は、冒険者になるか、路頭に迷うか。それは獣人だろうとなんだろうと同じだ」

「そうなんですね」
「獣人が来れば、人間の仕事もその分減るからな。よく思ってない連中もいるもんでよ。そこいら、まだ上手くいってないみたいだ」

 何事も一筋縄ではないかないということか。
 苦しみから解放されて手放しに喜べるか、それともそれ以上の苦しみが待っているのか。

「まあ、今のところはそういった行き場のなくなった獣人は、領主であるバーゼン様が引き受けているらしいがな」
「自分のとこで雇うってこと?」
「そうなんじゃないか? なにしろバーゼン様も立派なお屋敷をお持ちだからな」

 確かに、バーゼンは随分と獣人たちのことを気にかけていた。あの依頼だって、彼女たちのことを心配して、何よりも救いたかったからなのだろう。

 悪い人じゃない。
 だから、ピカルさんたちも彼女をきっと信頼している。

「あの人は変わったところもあるが、いい人だからな」

 そう話すピカルさんは、親父臭い豪快な笑い声を上げていた。
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