ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

文字の大きさ
35 / 49
○4章 役所へ行こう

 -2 『厄介ごと』

しおりを挟む
 フミーネルでの一件も落ち着いてしばらく。
 バーゼンからのクエスト報酬ももらい、借金は着実に返済の一歩を進めていた。

 借金を返すため、エマの斡旋してくれる高額クエストをこなす日々。
 そんな中でも相変わらずヴェーナは隙あらば俺を殺そうとしてきている。

 先日なんて、青果市場に行きたいとせがむから連れて行ってやると、そこの人混みにまぎれて魔法で作り出した槍を持って切りかかってきたり、足元に魔法を仕掛けて転ばそうとしたり。

「お前はこれ以上なにしでかすかわからんからな。今日は帰るまでこのままだ」

 業を煮やした俺はそう言って、ヴェーナの手を繋いで引き寄せた。もちろん、手を自由にさせないことで妙な暗殺を防ぐ魂胆だ。

 抵抗して思い切り暴れたら押さえつけてやろうと思ったが、

「ば、ばか。やめてよ……」

 と意外にしおらしく赤面させて収まっていたのは意外だった。

「経験値のために、いつか絶対に殺してやる」とは口癖のように言いながらも、同居までして俺たちのパーティに馴染んでいるあたり、もはやそれがただの挨拶の代わりのようにしかなっていないの気がするのは気のせいだろうか。

 俺を殺して魔王になるという目標は、本当にいまだ健在なのだろうか。

 目標を見失っているといえば、ミュンもそうだ。

 もともとはリリーテナという家名を復興させるために来たという彼女だが、料理洗濯に家事全般と、今では我が家のお母さんみたく働いてくれている。

「エイタさんがクレスレブと共にリリーテナの名を世に轟かせていただくまで、精一杯お世話いたします!」

 そう一切の憂いなく言ってくれるミュンに、欠片もその気がない俺は一抹の申し訳なさがこみ上げていた。

 俺もすっかり忘れかけているが、俺はあくまで、この第二の人生でスローライフが送りたいのだ。決してモンスターを退治したり、悪人の悪事を暴いて功績を得たりしたいわけではない。

 のんびりと、最強の能力を使うまでもなく、平凡に生きたいだけなのだ。

「きゃあ、ごめんなさぁい。手が滑ったわぁ」
「ふごっ?!」

 遠くでおっとりとしたスクーデリアの声と、マルコムの悲鳴が聞こえてくる。

  『ダメージ200 スキル発動。残りHP1』

「うっかり、そこで売ってたククリを投げちゃったわぁ」
「はっはっ。なに、誰にだってドジはあるものだ。気にするでない」
「あら、今度は袋に入れてた石から煙が出てきたみたい。勇者様、見てみて」
「どれどれお……ぐはぁっ?!」

  『ダメージ230 スキル発動。残りHP1』

 麻袋が突然爆発し、勇者の顔が爆炎に包まれるも、なぜか無事。

「ごほっごほっ。げふん。いやぁ、驚いた。顔が焼け付くように痛いが、死んでいないならよしとしよう」
「さっすが勇者様ぁ。あら? いやぁん。今度はついつい、ポチちゃんが思わずかじりついちゃうくらい大好きな肉団子を勇者様のお尻にくっつけちゃったわぁ」

「わんっ!」
「いでぇっ!」

  『ダメージ30 スキル発動。残りHP1』

 背中にククリ刀を突き刺し、顔を丸焦げにさせ、ポチに思い切り尻を噛み付かれたマルコムだが、それでも平然と――いや、むしろ女子と会話できて嬉しそうな顔を浮かべている。なかなかに変態だ。

「しぶといわねぇ。……チッ。さすが勇者さまぁ!」

 こっそりと舌打ちを忍ばせるスクーデリアに、しかしマルコムはまったく気付かず、鼻高々と大笑いしていた。

「スクーデリアのほうがよっぽど暗殺者みたいだよなぁ。対象が間抜けすぎるから変に見えるけど」

 封印された自分の力を取り戻すために術者であるマルコムを殺そうとする彼女だが、それが叶うのはいったいいつの日になるだろうか。

 勇者であるマルコムがいつか本当に魔王を倒す日までに自由になれるのか。彼女の未来が心配である。

 そんなこんなで、この世界での生活にも俺はなかなか慣れはじめていた。

「きゃあっ!」

 ヴェーナと一緒に町を歩いていると、ふと、路地裏の方から短い悲鳴が届いた。気にかかり覗いてみると、そこにはみすぼらしい服を着た獣人の少女と、彼女を取り巻く男の姿があった。

 いやらしさを孕んだ男の笑みに、少女は足を震わせて怯えている様子だ。

「なあ姉ちゃん。フミーネルじゃあいろいろやってたんだろ? いいじゃねえか、タダとは言わねえんだしよ」
「や、やめてください。そんなこと、私は」

「うっせえ。つべこべ言わずに従えよオラァ! どうせ体を売るしか能のないお前たちなんだ。こちとら急にやって来たお前らのせいで仕事が減ってイライラしてんだよ。責任取りやがれ」
「そんな……」

 とんだチンピラだ。
 こんなテンプレな奴はどの世界でもいるもんなんだな、と呆れてしまう。

 男は酔っ払った様子で、ふらついた足取りで少女に手を伸ばそうとする。

「なにやってんだオッサン」と俺がすかさず声をかけて制止した時だった。

「さっさと消えなさい、デブ男」

 凄みのある声を唸らせ、俺を遮るように前に出たヴェーナが言った。

「ああ? なんだ、てめぇ!」
「気に食わないのよ。そういう、自分より弱いものにだけ強がる奴は」
「はあ?」

 ちっ、とヴェーナが舌を打ったのが聞こえた。これほどに不機嫌そうなところは初めて見たかもしれない。そう思うほどの恐さが背中から感じ取れる。

「ガキの癖になんだその口ぶりは」
「あんたよりずっとマシよ」
「なんだと、てめぇ。やんのかオラァ!」

 喧嘩腰に啖呵を切ってくる男に、ヴェーナは険しい表情を浮かべたまま、手元に魔法の槍を出現させる。それを男の足元へ、一切の躊躇いなく投げつけた。

 槍は男の靴すれすれの地面へ突き刺さった。それを見て男は足を震わせ、情けない声を漏らしてあっさりと逃げ出してしまった。

「ふんっ。情けないやつ」
「お前、マジであたったらどうするつもりだったんだよ」
「当てないわ。あたしが当てるのはあんただけよ」
「うわー。嬉しくねぇ告白……」

 これほど胃がげっそりする告白がこれまであっただろうか。

 だが、まさかヴェーナが獣人の少女のためにこれほど激昂するとは。ただの変態絶対殺すマシーンかと思っていたが、それよりもずっと良い子なのかもしれない。少なくとも、目の前の非道を見過ごせないくらいには。

 意外な見直しポイントだ。
 最後の一言のせいでプラスマイナスゼロだが。

 俺は苦笑を浮かべながら、獣人の少女の元へ歩いて手を差し伸べる。

「大丈夫だった?」
「……ひっ!」

 怯えた様子で獣人の少女は顔を伏せる

 まあ無理もない。
 あんな目にあったばかりなのだ。

 ピカルさんの言っていた通り、この町にはまだ獣人を受け入れられていない人がいるということだ。今回の件は極端にひどいが、罵声くらいならこれまでも見かけたことはある。

「もし寄り辺に困ったなら、この町の領主のバーゼンって人のところに行けばいいよ。なんでも、ここに来たばかりの獣人たちに手を差し伸べてるって話だ。」
「バー、ゼン……?」
「そう。頼ってみるといいよ」

 そうとだけ言い残し、俺はヴェーナと一緒に路地を出た。

 これからどうするかは彼女次第だ。
 獣人とはいえ選択肢はある。それを選ぶ権利だって。

「甘いわね、あんた。あたしだったら見捨ててるわ」
「そうかな」
「なによ」
「なんだかんだいってお前は、そんな非情って感じじゃないけどな」

 少なくとも、あの虐げられていた獣人の少女を見て憤れるくらいには。

「なによ、そのにやついた顔。ムカつくわね。あんたが困っても絶対に助けてやらないんだからね」
「なんだよ。助けてくれよ」
「イヤよ、ばーか」

 そんな他愛のない会話を繰り返しながら、俺は快晴の空を見上げ、麗らかな日差しの平穏さを噛み締めていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~

きよらかなこころ
ファンタジー
 シンゴはある日、事故で死んだ。  どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。  転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。  弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

処理中です...