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○4章 役所へ行こう
-4 『クエスト』
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獣人の少女をひとまずデリカさんの家に運んで預けた俺は、ミュンや他の連中を連れて旅人のきまぐれ亭へと向かった。
いつもなら順番待ちの冒険者たちでひしめき合っている斡旋所は、しかしあまり人が見受けられないほど閑散としていた。カウンターの奥にいる職員の人数の方が多いくらいで、俺が初めて訪れた時の混雑さなど欠片も窺えない。
「いったいどうしたんだ? 今日って休みだっけ?」
すっかり通いなれた窓際のカウンターで暇そうに肘をついていたエマに、俺は挨拶代わりに尋ねてみた。
彼女は俺の顔を見ると、何だお前か、とでも言いたげに気だるく顔を持ち上げていた。
「いよっすー。元気ー?」
「なんか元気そうじゃないな。エマにしては珍しい」
「そっかなー。そうかもなー」
いまひとつ魂が抜けたようなエマ。
「いつもなら、良いクエスト持ってきたよーって無理難題をふっかけてくるのに」
「そっかなー。そんなことないよー」
やはりエマの返事は締りがない。
「クエストを回したいんだけど、今日はあんまり入ってなくてねー」
「入ってない?」
「この斡旋所のクエストの半分くらいは、公舎を経由して依頼されるんだー。でも、そっちから全然回ってこなくてねー」
「なにかあったのか?」
「さあねー。でも、なんか業務が滞ってるみたーい。はぁー」
腑抜けた様子なのはエマだけでなく、他の従業員たちも同じようだった。仕事が急に減り、手持ち無沙汰といった風に暇を持て余している。
ついにはペンを上唇に乗せて遊び始めたエルに、俺は率直に尋ねてみた。
「なあ。その公舎で、獣人たちがいまどんな扱いを受けてるのかわかるか?」
「えー、わかんないよー。でも、あんまり良い話は聞かないねー」
「というと?」
「バーゼンが随分好き勝手やってるって。業務の滞りも、あの子がいろいろやってるせいらしいよー」
「いろいろやってる?!」
いったい何をやってるというのか。
傷だらけになった獣人の少女を保護したばかりに、乱暴だとか、卑猥だとか、いろんな想像が駆け巡る。どうにせよろくでもないことに違いはない。
俺はエマに、獣人の少女を保護したことを伝えた。
「それは問題だね……」
珍しく、彼女の表情が真面目に引き締まる。顎に手をあて、訝しげに表情をゆがめる。
「実はウチの職員にも獣人の子がいたんだー。その子はずっと前からいる子なんだけどねー。その子も、気がついたらいなくなってたよ。それを聞くと心配になるなー」
エマは一枚の書類を手に取ると、突然、さらさらと筆を走らせた。
いったい急にどうしたのだろうか。そう思っていると、エマがその紙を差し出してくる。
「よし、ボクからの依頼だよー」
「依頼?」
「そう、依頼。これは今度こそ、獣人の子たちを助ける仕事かもねー」
そう気さくに手渡された一枚のクエスト依頼表。
俺は後ろに控えた仲間たちと目を合わせると、強く頷き、それを受け取ったのだった。
いつもなら順番待ちの冒険者たちでひしめき合っている斡旋所は、しかしあまり人が見受けられないほど閑散としていた。カウンターの奥にいる職員の人数の方が多いくらいで、俺が初めて訪れた時の混雑さなど欠片も窺えない。
「いったいどうしたんだ? 今日って休みだっけ?」
すっかり通いなれた窓際のカウンターで暇そうに肘をついていたエマに、俺は挨拶代わりに尋ねてみた。
彼女は俺の顔を見ると、何だお前か、とでも言いたげに気だるく顔を持ち上げていた。
「いよっすー。元気ー?」
「なんか元気そうじゃないな。エマにしては珍しい」
「そっかなー。そうかもなー」
いまひとつ魂が抜けたようなエマ。
「いつもなら、良いクエスト持ってきたよーって無理難題をふっかけてくるのに」
「そっかなー。そんなことないよー」
やはりエマの返事は締りがない。
「クエストを回したいんだけど、今日はあんまり入ってなくてねー」
「入ってない?」
「この斡旋所のクエストの半分くらいは、公舎を経由して依頼されるんだー。でも、そっちから全然回ってこなくてねー」
「なにかあったのか?」
「さあねー。でも、なんか業務が滞ってるみたーい。はぁー」
腑抜けた様子なのはエマだけでなく、他の従業員たちも同じようだった。仕事が急に減り、手持ち無沙汰といった風に暇を持て余している。
ついにはペンを上唇に乗せて遊び始めたエルに、俺は率直に尋ねてみた。
「なあ。その公舎で、獣人たちがいまどんな扱いを受けてるのかわかるか?」
「えー、わかんないよー。でも、あんまり良い話は聞かないねー」
「というと?」
「バーゼンが随分好き勝手やってるって。業務の滞りも、あの子がいろいろやってるせいらしいよー」
「いろいろやってる?!」
いったい何をやってるというのか。
傷だらけになった獣人の少女を保護したばかりに、乱暴だとか、卑猥だとか、いろんな想像が駆け巡る。どうにせよろくでもないことに違いはない。
俺はエマに、獣人の少女を保護したことを伝えた。
「それは問題だね……」
珍しく、彼女の表情が真面目に引き締まる。顎に手をあて、訝しげに表情をゆがめる。
「実はウチの職員にも獣人の子がいたんだー。その子はずっと前からいる子なんだけどねー。その子も、気がついたらいなくなってたよ。それを聞くと心配になるなー」
エマは一枚の書類を手に取ると、突然、さらさらと筆を走らせた。
いったい急にどうしたのだろうか。そう思っていると、エマがその紙を差し出してくる。
「よし、ボクからの依頼だよー」
「依頼?」
「そう、依頼。これは今度こそ、獣人の子たちを助ける仕事かもねー」
そう気さくに手渡された一枚のクエスト依頼表。
俺は後ろに控えた仲間たちと目を合わせると、強く頷き、それを受け取ったのだった。
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