ステータス999でカンスト最強転移したけどHP10と最低ダメージ保障1の世界でスローライフが送れません!

矢立まほろ

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○4章 役所へ行こう

 -4 『クエスト』

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 獣人の少女をひとまずデリカさんの家に運んで預けた俺は、ミュンや他の連中を連れて旅人のきまぐれ亭へと向かった。

 いつもなら順番待ちの冒険者たちでひしめき合っている斡旋所は、しかしあまり人が見受けられないほど閑散としていた。カウンターの奥にいる職員の人数の方が多いくらいで、俺が初めて訪れた時の混雑さなど欠片も窺えない。

「いったいどうしたんだ? 今日って休みだっけ?」

 すっかり通いなれた窓際のカウンターで暇そうに肘をついていたエマに、俺は挨拶代わりに尋ねてみた。

 彼女は俺の顔を見ると、何だお前か、とでも言いたげに気だるく顔を持ち上げていた。

「いよっすー。元気ー?」
「なんか元気そうじゃないな。エマにしては珍しい」
「そっかなー。そうかもなー」

 いまひとつ魂が抜けたようなエマ。

「いつもなら、良いクエスト持ってきたよーって無理難題をふっかけてくるのに」
「そっかなー。そんなことないよー」

 やはりエマの返事は締りがない。

「クエストを回したいんだけど、今日はあんまり入ってなくてねー」
「入ってない?」
「この斡旋所のクエストの半分くらいは、公舎を経由して依頼されるんだー。でも、そっちから全然回ってこなくてねー」

「なにかあったのか?」
「さあねー。でも、なんか業務が滞ってるみたーい。はぁー」

 腑抜けた様子なのはエマだけでなく、他の従業員たちも同じようだった。仕事が急に減り、手持ち無沙汰といった風に暇を持て余している。

 ついにはペンを上唇に乗せて遊び始めたエルに、俺は率直に尋ねてみた。

「なあ。その公舎で、獣人たちがいまどんな扱いを受けてるのかわかるか?」
「えー、わかんないよー。でも、あんまり良い話は聞かないねー」

「というと?」
「バーゼンが随分好き勝手やってるって。業務の滞りも、あの子がいろいろやってるせいらしいよー」

「いろいろやってる?!」

 いったい何をやってるというのか。
 傷だらけになった獣人の少女を保護したばかりに、乱暴だとか、卑猥だとか、いろんな想像が駆け巡る。どうにせよろくでもないことに違いはない。

 俺はエマに、獣人の少女を保護したことを伝えた。

「それは問題だね……」

 珍しく、彼女の表情が真面目に引き締まる。顎に手をあて、訝しげに表情をゆがめる。

「実はウチの職員にも獣人の子がいたんだー。その子はずっと前からいる子なんだけどねー。その子も、気がついたらいなくなってたよ。それを聞くと心配になるなー」

 エマは一枚の書類を手に取ると、突然、さらさらと筆を走らせた。

 いったい急にどうしたのだろうか。そう思っていると、エマがその紙を差し出してくる。

「よし、ボクからの依頼だよー」
「依頼?」
「そう、依頼。これは今度こそ、獣人の子たちを助ける仕事かもねー」

 そう気さくに手渡された一枚のクエスト依頼表。

 俺は後ろに控えた仲間たちと目を合わせると、強く頷き、それを受け取ったのだった。
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