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○4章 役所へ行こう
-5 『汚れ役』
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クエストの内容は『バーゼンと獣人の調査をせよ』というものだった。つまり、以前にフミーネルで依頼されたものとほとんど同じだ。
しかし前回はバーゼンが依頼主だったが、今回は調査の相手がバーゼンである。
「獣人への悪逆非道。勇者として捨て置けん」
クエストを受け、マルコムもいつになく張り切っている。
「まだ決まったわけじゃねえぞ。調べるだけだ」
「いいや、絶対に彼女は悪だ。私の勇者としての本能がそう囁いてる」
「本音は?」
「貴様だけ獣人をはべらせてきゃっきゃうふふはずるいぞバーゼン!」
「素直で結構」
なんというか、こいつはいつまでも筋が通っていてわかりやすい。それにもすっかり慣れているのがなんとも言えないが。
とにかくエマのクエストを受けた俺たちは、早々に準備を終え、バーゼンが住まう公舎へと向かった。
フミーネンのように客にまぎれて侵入するような場所でもないし、まだ疑惑が深まっただけでバーゼンに確たる悪質性は認められない。
ひとまず話を聞きにいくだけでも必要だろう。
バーゼンのいる公舎は、町の最も外れに位置していた。
城というほど豪奢ではないが、そう見間違えてもおかしくないほどには敷地も広く、背の低い屋敷がいくつも並び建っている。
領主の屋敷として十分すぎるほどの豪邸だ。
領主としての公務はおおよそこの中で進められており、入り口には領主への面会を受け付ける小さな庁舎が設けられていた。そこでバーゼンとの面会を頼んだが、しかし「今は取り扱っていない」と一蹴されてしまった。
「頼む、バーゼンに会わせてくれ」
「お引取りください。現在、バーゼン様は公務も出来ないほどお忙しくなっております。面会に時間を割く余裕もないとのこと。ここはどうか」
「くそっ」
まさかの門前払い。取り付く島も与えてくれないようだ。
面会はおろか、斡旋所への手続きもでいないほど公務も出来ないくらい忙しいとはどういうことだ。
ますますバーゼンへの不信が募っていく。
「どうにか中の様子だけでも見れればいいんだけどな……」
公舎の敷地は高い塀で囲まれている。さすがに町の心臓部なだけあって、おいそれと立ち入れる様子ではない。
塀を越えられるほど高く跳躍できるやつもいないし、ドラゴンのスクーデリアも能力が封印されているせいで飛行は不可能だ。なにより目立って気付かれる。
「どうするのだ親友」
「ちょっと、何か考えてるんでしょうね」
マルコムとヴェーナの視線が痛い。
かといって代案がすぐ浮かぶわけでもなく、俺は焦りと苛立ちを覚えた。
「裏口はあるみたいだけど鍵もかかってるし……せめて鍵さえ開けられれば……」
そんな折、
「あ、どこ行くんですか、ポチちゃん!」
ミュンの胸に抱きかかえられていたポチが突然飛び降りて駆け出した。それを追いかけ、ミュンもクレスレブの刺さったバックパックを揺らして走り出す。
小さな四肢で地面を蹴り、一直線にポチが賭けていった先は、泥水にまみれた排水溝だった。そこは這い蹲れば大人でも入れそうな円筒型で、どうやら敷地の中へと続いているようだった。
ふと、ミュンを覗いた全員がお互いの顔を見つめあう。
言いたいことは誰もがわかっていた。マルコムは柄に手をあて、ヴェーナは何もない空間から槍を取り出し、スクーデリアも微笑みながら拳に炎を滾らせる。
「まあ待て、お前たち」
俺が冷静に彼らを諌める。
「誰かがここを通って中に入り、中から鍵を開けなければならない。だが、それには大きな犠牲を伴う」
主に全身泥まみれになるという罰ゲームを。
「そこでだ。俺の故郷にはこういったものを決める優れた手段がある」
「ほう、なんだね親友」
「ジャンケンだ」
「じゃんけん? なによそれ」と槍を構えたままヴェーナが問う。
ここで一触即発にでもなろうものなら、忍び込むどころか、気付かれて今すぐ御用だ。それだけは避けたい。
どうどう、と猛牛をおさえるように手をかざしながら、俺は説明をした。
「ルールは簡単だ。全員が一斉に手の形を変えて前に出す。それだけだ。グーとチョキとパーという三つがあって、グーはチョキに勝つ。チョキはパーに勝つ。パーはグーに勝つ」
「ほう。私相手に心理戦を挑もうというのだな、親友よ」
やけに自信満々にマルコムが意気込んでいるところに、俺は更に言葉を続ける。
「もう一つルールがある」
「なんだね、親友」
「マルコム、お前はパーを出さなきゃいけない」
「……なん……だと?!」
もちろん嘘だが、マルコムは稲妻が駆け巡ったかのように目を見開いていた。
「そ、それはいったいどんなルー……」
「よしいくぞ、じゃん、けん、ほい!」
すかさず俺とヴェーナ、スクーデリアが手を突き出し、慌ててマルコムも続く。
マルコムは馬鹿正直にパーをだしていた。
もちろん、俺やヴェーナたちは揃えてチョキを出している。
「えっと。マルコムさんの負け、です」
蚊帳の外で傍観していたミュンに言われ、マルコムは非情に明け暮れた顔で膝を落とした。カッと俺に向き直る。
「どういうことだね親友! どうして私はパーを出さなければならなかったんだね?!」
「お前の頭の中がパーだなって思ったからだ」
「なるほど……いや、わからん」
「うっるせえ。細かく考えるな。お前が行ってくれるだけでみんなが喜ぶんだ。このクエストがパーになっちまうよりかはずっといいだろ!」
がっしりと、力強くマルコムの肩を掴み、今までで一番の愛想を込めて微笑んでやる。
「お前の勇姿、俺は忘れねえよ。たとえお前が汚れちまっても、俺はお前の心の友さ」
「し、親友……」
心なしかマルコムの瞳が潤んでいるように見える。
いや、まったく良い話なんてしていないはずなのだが。
ふっと微笑をこぼし、マルコムはふと立ち上がる。膝についた砂を払うと、晴れ晴れとした笑顔を浮かべ、
「わかった。我が友のために、私は汚されてこよう」
そう言って、親指を立てた後、泥がたまった排水溝の中へとダイビングしたのだった。
「男の人の友情ですね」とミュンが目を輝かせて眺めていたが、俺を含めたほかの面々は、泥水の中消えている彼を冷めた目で見つめていた。
自分の役割じゃなくてよかった、と心から安堵しながら。
しかし前回はバーゼンが依頼主だったが、今回は調査の相手がバーゼンである。
「獣人への悪逆非道。勇者として捨て置けん」
クエストを受け、マルコムもいつになく張り切っている。
「まだ決まったわけじゃねえぞ。調べるだけだ」
「いいや、絶対に彼女は悪だ。私の勇者としての本能がそう囁いてる」
「本音は?」
「貴様だけ獣人をはべらせてきゃっきゃうふふはずるいぞバーゼン!」
「素直で結構」
なんというか、こいつはいつまでも筋が通っていてわかりやすい。それにもすっかり慣れているのがなんとも言えないが。
とにかくエマのクエストを受けた俺たちは、早々に準備を終え、バーゼンが住まう公舎へと向かった。
フミーネンのように客にまぎれて侵入するような場所でもないし、まだ疑惑が深まっただけでバーゼンに確たる悪質性は認められない。
ひとまず話を聞きにいくだけでも必要だろう。
バーゼンのいる公舎は、町の最も外れに位置していた。
城というほど豪奢ではないが、そう見間違えてもおかしくないほどには敷地も広く、背の低い屋敷がいくつも並び建っている。
領主の屋敷として十分すぎるほどの豪邸だ。
領主としての公務はおおよそこの中で進められており、入り口には領主への面会を受け付ける小さな庁舎が設けられていた。そこでバーゼンとの面会を頼んだが、しかし「今は取り扱っていない」と一蹴されてしまった。
「頼む、バーゼンに会わせてくれ」
「お引取りください。現在、バーゼン様は公務も出来ないほどお忙しくなっております。面会に時間を割く余裕もないとのこと。ここはどうか」
「くそっ」
まさかの門前払い。取り付く島も与えてくれないようだ。
面会はおろか、斡旋所への手続きもでいないほど公務も出来ないくらい忙しいとはどういうことだ。
ますますバーゼンへの不信が募っていく。
「どうにか中の様子だけでも見れればいいんだけどな……」
公舎の敷地は高い塀で囲まれている。さすがに町の心臓部なだけあって、おいそれと立ち入れる様子ではない。
塀を越えられるほど高く跳躍できるやつもいないし、ドラゴンのスクーデリアも能力が封印されているせいで飛行は不可能だ。なにより目立って気付かれる。
「どうするのだ親友」
「ちょっと、何か考えてるんでしょうね」
マルコムとヴェーナの視線が痛い。
かといって代案がすぐ浮かぶわけでもなく、俺は焦りと苛立ちを覚えた。
「裏口はあるみたいだけど鍵もかかってるし……せめて鍵さえ開けられれば……」
そんな折、
「あ、どこ行くんですか、ポチちゃん!」
ミュンの胸に抱きかかえられていたポチが突然飛び降りて駆け出した。それを追いかけ、ミュンもクレスレブの刺さったバックパックを揺らして走り出す。
小さな四肢で地面を蹴り、一直線にポチが賭けていった先は、泥水にまみれた排水溝だった。そこは這い蹲れば大人でも入れそうな円筒型で、どうやら敷地の中へと続いているようだった。
ふと、ミュンを覗いた全員がお互いの顔を見つめあう。
言いたいことは誰もがわかっていた。マルコムは柄に手をあて、ヴェーナは何もない空間から槍を取り出し、スクーデリアも微笑みながら拳に炎を滾らせる。
「まあ待て、お前たち」
俺が冷静に彼らを諌める。
「誰かがここを通って中に入り、中から鍵を開けなければならない。だが、それには大きな犠牲を伴う」
主に全身泥まみれになるという罰ゲームを。
「そこでだ。俺の故郷にはこういったものを決める優れた手段がある」
「ほう、なんだね親友」
「ジャンケンだ」
「じゃんけん? なによそれ」と槍を構えたままヴェーナが問う。
ここで一触即発にでもなろうものなら、忍び込むどころか、気付かれて今すぐ御用だ。それだけは避けたい。
どうどう、と猛牛をおさえるように手をかざしながら、俺は説明をした。
「ルールは簡単だ。全員が一斉に手の形を変えて前に出す。それだけだ。グーとチョキとパーという三つがあって、グーはチョキに勝つ。チョキはパーに勝つ。パーはグーに勝つ」
「ほう。私相手に心理戦を挑もうというのだな、親友よ」
やけに自信満々にマルコムが意気込んでいるところに、俺は更に言葉を続ける。
「もう一つルールがある」
「なんだね、親友」
「マルコム、お前はパーを出さなきゃいけない」
「……なん……だと?!」
もちろん嘘だが、マルコムは稲妻が駆け巡ったかのように目を見開いていた。
「そ、それはいったいどんなルー……」
「よしいくぞ、じゃん、けん、ほい!」
すかさず俺とヴェーナ、スクーデリアが手を突き出し、慌ててマルコムも続く。
マルコムは馬鹿正直にパーをだしていた。
もちろん、俺やヴェーナたちは揃えてチョキを出している。
「えっと。マルコムさんの負け、です」
蚊帳の外で傍観していたミュンに言われ、マルコムは非情に明け暮れた顔で膝を落とした。カッと俺に向き直る。
「どういうことだね親友! どうして私はパーを出さなければならなかったんだね?!」
「お前の頭の中がパーだなって思ったからだ」
「なるほど……いや、わからん」
「うっるせえ。細かく考えるな。お前が行ってくれるだけでみんなが喜ぶんだ。このクエストがパーになっちまうよりかはずっといいだろ!」
がっしりと、力強くマルコムの肩を掴み、今までで一番の愛想を込めて微笑んでやる。
「お前の勇姿、俺は忘れねえよ。たとえお前が汚れちまっても、俺はお前の心の友さ」
「し、親友……」
心なしかマルコムの瞳が潤んでいるように見える。
いや、まったく良い話なんてしていないはずなのだが。
ふっと微笑をこぼし、マルコムはふと立ち上がる。膝についた砂を払うと、晴れ晴れとした笑顔を浮かべ、
「わかった。我が友のために、私は汚されてこよう」
そう言って、親指を立てた後、泥がたまった排水溝の中へとダイビングしたのだった。
「男の人の友情ですね」とミュンが目を輝かせて眺めていたが、俺を含めたほかの面々は、泥水の中消えている彼を冷めた目で見つめていた。
自分の役割じゃなくてよかった、と心から安堵しながら。
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