40 / 49
○4章 役所へ行こう
-7 『老人と変人』
しおりを挟む
「まず最初はワシじゃ」
そう言ってゲジイが前に出る。
「なにこれ。順番制なの?」と俺は率直に疑問を漏らしてしまったが、向こうは勝手にその気のようだ。数の振りがあるくせにあまりに堂々としていて、特に文句を起こす気力も湧かない。
「……ヴェーナ。行ってくれ」
「ええー」
ヴェーナもあからさまにやる気がなさそうに眉間をしかめていた。
「ヒョーッホッホッ。ワシの相手は小娘じゃな」
声高らかにゲジイが肩を揺らす。
相対した二人に明らかに温度差があるのはどうしてだろうか。
「はあ、面倒。やるならはやくしてちょうだい」
「よいのか、余裕ぶっておいて。フォルンに置き地蔵ありと言われたワシの実力を見て驚くでないぞ」
ゲジイが大きく腕を広げて身構える。
しかしその瞬間、
「ぐはぁ!」とゲジイが悲鳴をあげて倒れた。
目にもとまらぬ早さでヴェーナが吹き矢を放っていた。それが彼の額に突き刺さっている。
『ダメージ1 残りHP1』
もともとのHP低すぎだろ!
「わ、ワシはもう無理じゃ……よくぞ、ワシを超えてみせたものじゃ……」
息も絶え絶えに倒れこんだゲジイが、今にも昇天しそうな弱々しい声を漏らす。
あっけない結末。
いや、最初からこの展開は当然だったのかもしれない。アナライズでゲジイを見てみても、ステータスはミュンに勝るとも劣らない非常に低いものだった。
これが四天王と言うのだから不思議である。
「ワシは頭脳派なんじゃ」
知らんがな。
「ぐぬぬ。『定時出勤のナカタ』がおれば、このような奴……ガクッ」
そう言い残して気を失ったゲジイに、俺は手を合わせて拝んでおいた。なるほど、地蔵とはこういうことか、という無駄な納得を抱きながら。
◇
ゲジイの介抱はミュンに任せて、残りの二人と対峙する俺たち。
「次は私よぉ」と名乗り出たのは、『茨の女王エッデル』だ。スタイルの良い四肢を艶かしく動かしながら、俺たちの前に躍り出てきた。しならせた鞭が激しい音を立てる。
今度こそまともに戦えそうな人だ。少なくともゲジイよりは。
次は誰が行くかと考えていると、しかし俺たちの前に一人の男が立ち塞がった。
「私が行こう!」
マルコムだった。
汚泥こそは落としているが、全身を水にまみれた姿で俺たちに背を向けている。
「お前、帰ったんじゃ」
「私が必要とされる時がくるやもと思ってな。近くの川で急いで泥を落としてきたのだよ」
「そ、そうか。別に必要とはしてないが」
実際、別に困ってもなかったし。
「とにかく、彼女の相手は任せてくれないか」
「まあ、そこまで言うのなら頼む」
殊勝な奴だ、とも思ったが、マルコムの視線は明らかに目の前のエッデルの胸元へと注がれていた。ここに来たときからずっとだ。エッデルが体をくねらせて胸を揺らすたびに、鼻を伸ばしてにやついている。
「ぶれないな、お前は」
「勇者は己の信念を貫き通すものさ」
「捨てちまえ、そんな信念」
まあ相手をしてくれるのなら文句はない。
多少の不安は残るが、マルコムも何を言っても譲る気はないだろう。
鼻息を荒くするマルコムが剣を構えると、エッデルも鞭をパチンとしならせて構えた。
「行くわよぉ」
「さあばっち来い!」
牽制する間もなく、口許を持ち上げたエッデルが目にも見えない早さで鞭を振る。途端、鞭の先端がマルコムの右脇腹の直撃した。鞭の先端は膨らんでいで、鈍器のように固くなっている。
「ぐはぁっ?!」
『ダメージ3 残りHP7』
ゲジイの時と違って、お互いのステータス差はほとんどない。やすがは四天王を名乗るだけはある。むしろどうしてゲジイはそこに名を連ねられていたのか甚だ疑問だが。
エッデルとマルコムのステータスはほぼほぼ拮抗。ならばより相手を上回った立ち回りをしたほうが勝つ。
――いよいよバトルものっぽくなってきたな。
そう思いながら、俺は手に汗握る二人の仕合を眺めていた。
「良い一撃だね、きみ」
「あら、どうもぉ」
マルコムの言葉に不敵に笑んで返すエッデル。
だが余裕さで言えばマルコムだってまだまだ軽症に見える。直撃を受けた横腹も、痛がる素振りすらせず堪えている。
「次は私の番だ!」
続いてマルコムのまっすぐな踏み込み。
迷いのない突出は数歩にして相手の懐までもぐりこみ、横に薙ぎ払おうと剣を振りかぶろうとする。
しかしエッデルもそれには反応していた。咄嗟に強固な鞭の柄でそれを受け止めようとする。だが不易な笑みを返したのはマルコムだった。
「隙ありだぁ!」と、マルコムは肘をつきたててタックルをかました。
完全な不意をついた一撃。
彼の肘鉄は、エッデルの胸元へと綺麗に命中した。
しかし彼女の豊満すぎる胸の谷間に肘先が吸い込まれ、衝撃を和らげたように収めてしまう。
「くそう、失敗か」と悔しがった俺に反し、マルコムは、
「いや、大成功である」
エッデルが距離をとって後ろに下がると、マルコムの肘に血痕が付着しているのが見えた。ちゃんとしっかり攻撃が決まってたのか、とマルコムを見直そうと思った瞬間、その血が今もどんどん増えていっていることに気付いた。
「お前、それ……鼻血かよ!」
「この世のすべてがあそこにあった」
訳のわからないことを言いながら、マルコムは口許を真っ赤に染めて、自分の頬を撫でるように悦に浸っていたのだった。
気持ち悪い。
完全な不意をついた良い作戦だと思ったが、まさかただエッデルの胸を触りたいだけの作戦だったとでもいうのだろうか。一瞬でも見直した俺が馬鹿だった。
「最っ低!」
エッデルが不快に顔を歪ませる。
そして鞭をまた振るうと、左右に大きくしならせて連続の攻撃を繰り出した。その悉くがマルコムに直撃し、彼の腹や脚、頭部を激しく殴打する。
『ダメージ3 残りHP4
ダメージ3 残りHP1
ダメージ3 スキル発動 残りHP1』
繰り返されるダメージ。
さすが女王様。
膝をついたマルコムに鞭打つ姿は、まさにどこかのSMプレイでも見ているかのようだ。エッデルは終始、いたぶることを楽しそうに腕を動かし続ける。
いや、これ。教育上よろしくない。
いますぐミュンの目を塞いでおくべきだろうか。
しかしマルコムの方も、スキルで生きながらえていつまでも致命には届いていなかった。だがそれでも鞭で打たれ続けていることには違いないのだが、激しい痛みに襲われているはずのマルコムは、どこか悦に満ちているように晴れやかな表情だった。
こいつ、綺麗な女性にいたぶられて喜んでやがるのか。
マルコムのスキルが――あくまでなぜか運よく――発動し続けているおかげで、延々と繰り返されるSM女王様プレイ。
ドSとドM。
ひどく対照的で、ひどく親和性の高い二人の勝負は、目も当てられない泥試合と化していた。
「この、しぶといわねぇ!」とエッデルは尚も繰り返し鞭を振るう。
だがその度に、
「ふぁ! ふぁぁぁ! 目覚める! ウェイクアァァップ!」と、気味の悪い歓喜の声を上げて攻撃を受けきっていた。いや、受けきるというか、ほぼ無防備に突っ立っているだけだ。
「どうして死なないのぉ!」
「どうした。手が止まったぞ。もっとやってはくれないのか!」
不意に止んだ猛攻に、物足りなさそうにマルコムが懇願し始める。それを見てエッデルは汚物を見るような目をしながら半歩たじろいだ。
圧倒的攻勢。
そのはずだったのに、何故かエッデルの方が参っているように見える。
更には、
『ダメージ1 残りHP9』
急に、マルコムも誰も何もしていないのにエッデルにダメージが入った。
「ど、どういう訳だ?!」と俺も思わず驚愕に目を見開く。
と、そんな俺の背後でミュンがバックパックから一冊の本を取り出した。
「おじい様の遺した本にはこう書かれてあります」
「急にどうした、ミュン?!」
「真性のドMはドSを引かせる……と」
「お前のじいちゃん、何を遺してるんだよ!」
そりゃ廃れるさ、リリーテナ。
しかしまさか、あのダメージはマルコムを見たエッデルへの精神ダメージとでもいうのか。
「どうした、お嬢さん。私にもっと、何かないのかい!」
マルコムが一歩前に進むと、
「こ、こっちに来ないで変態」とエッデルが表情を引きつらせる。
そして更に、一歩近づくたび、エッデルへとダメージが入っていった。やがてマルコムが彼女の元へたどり着いた頃、
『ダメージ1 残りHP1』
ついには瀕死にまで追い詰め、エッデルはその場でへたり込んで倒れてしまったのだった。
結論。
MはSよりも強い。
矛と盾の逸話みたいだが、きっとこれほど役に立たない知識は存在しないだろうな、と俺は他人事のように思った。
「参ったわぁ、私の負け。こんな時、『定時出勤のナカタ』さんがいてくれたら……」
どれだけ信頼を置かれてるんだ、ナカタという奴は。逆に少し気になり始めてきたぞ。
すっかり戦意をなくして鞭の柄から手を離したエッデルに、マルコムは遊び足りない子供のように、純朴に物足りなさそうな顔でがっかりしていた。
「なんだ、もうおしまいか」
心底残念そうに戻ってくるマルコム。
そんな彼を、スクーデリアが出迎える。
「勇者様ぁ」
「おお、スクーデリア。どうだ、私の勇姿――」
「素直にキモイかな」
ものすごく率直な言葉が刺さったぁー!
いや、実際、精神攻撃だけで相手を倒したのは凄いが、内容がひどすぎる。しかしそうやってドSの攻撃を退けたマルコムだが、さすがに悪意の無いスクーデリアの言葉には堪えたのか、魂が抜けた風に放心してしまっていた。
「お前、やっぱりあのまま帰ったほうがよかったんじゃねえか?」とは、本人の前では言わないでおくとしよう。
そう言ってゲジイが前に出る。
「なにこれ。順番制なの?」と俺は率直に疑問を漏らしてしまったが、向こうは勝手にその気のようだ。数の振りがあるくせにあまりに堂々としていて、特に文句を起こす気力も湧かない。
「……ヴェーナ。行ってくれ」
「ええー」
ヴェーナもあからさまにやる気がなさそうに眉間をしかめていた。
「ヒョーッホッホッ。ワシの相手は小娘じゃな」
声高らかにゲジイが肩を揺らす。
相対した二人に明らかに温度差があるのはどうしてだろうか。
「はあ、面倒。やるならはやくしてちょうだい」
「よいのか、余裕ぶっておいて。フォルンに置き地蔵ありと言われたワシの実力を見て驚くでないぞ」
ゲジイが大きく腕を広げて身構える。
しかしその瞬間、
「ぐはぁ!」とゲジイが悲鳴をあげて倒れた。
目にもとまらぬ早さでヴェーナが吹き矢を放っていた。それが彼の額に突き刺さっている。
『ダメージ1 残りHP1』
もともとのHP低すぎだろ!
「わ、ワシはもう無理じゃ……よくぞ、ワシを超えてみせたものじゃ……」
息も絶え絶えに倒れこんだゲジイが、今にも昇天しそうな弱々しい声を漏らす。
あっけない結末。
いや、最初からこの展開は当然だったのかもしれない。アナライズでゲジイを見てみても、ステータスはミュンに勝るとも劣らない非常に低いものだった。
これが四天王と言うのだから不思議である。
「ワシは頭脳派なんじゃ」
知らんがな。
「ぐぬぬ。『定時出勤のナカタ』がおれば、このような奴……ガクッ」
そう言い残して気を失ったゲジイに、俺は手を合わせて拝んでおいた。なるほど、地蔵とはこういうことか、という無駄な納得を抱きながら。
◇
ゲジイの介抱はミュンに任せて、残りの二人と対峙する俺たち。
「次は私よぉ」と名乗り出たのは、『茨の女王エッデル』だ。スタイルの良い四肢を艶かしく動かしながら、俺たちの前に躍り出てきた。しならせた鞭が激しい音を立てる。
今度こそまともに戦えそうな人だ。少なくともゲジイよりは。
次は誰が行くかと考えていると、しかし俺たちの前に一人の男が立ち塞がった。
「私が行こう!」
マルコムだった。
汚泥こそは落としているが、全身を水にまみれた姿で俺たちに背を向けている。
「お前、帰ったんじゃ」
「私が必要とされる時がくるやもと思ってな。近くの川で急いで泥を落としてきたのだよ」
「そ、そうか。別に必要とはしてないが」
実際、別に困ってもなかったし。
「とにかく、彼女の相手は任せてくれないか」
「まあ、そこまで言うのなら頼む」
殊勝な奴だ、とも思ったが、マルコムの視線は明らかに目の前のエッデルの胸元へと注がれていた。ここに来たときからずっとだ。エッデルが体をくねらせて胸を揺らすたびに、鼻を伸ばしてにやついている。
「ぶれないな、お前は」
「勇者は己の信念を貫き通すものさ」
「捨てちまえ、そんな信念」
まあ相手をしてくれるのなら文句はない。
多少の不安は残るが、マルコムも何を言っても譲る気はないだろう。
鼻息を荒くするマルコムが剣を構えると、エッデルも鞭をパチンとしならせて構えた。
「行くわよぉ」
「さあばっち来い!」
牽制する間もなく、口許を持ち上げたエッデルが目にも見えない早さで鞭を振る。途端、鞭の先端がマルコムの右脇腹の直撃した。鞭の先端は膨らんでいで、鈍器のように固くなっている。
「ぐはぁっ?!」
『ダメージ3 残りHP7』
ゲジイの時と違って、お互いのステータス差はほとんどない。やすがは四天王を名乗るだけはある。むしろどうしてゲジイはそこに名を連ねられていたのか甚だ疑問だが。
エッデルとマルコムのステータスはほぼほぼ拮抗。ならばより相手を上回った立ち回りをしたほうが勝つ。
――いよいよバトルものっぽくなってきたな。
そう思いながら、俺は手に汗握る二人の仕合を眺めていた。
「良い一撃だね、きみ」
「あら、どうもぉ」
マルコムの言葉に不敵に笑んで返すエッデル。
だが余裕さで言えばマルコムだってまだまだ軽症に見える。直撃を受けた横腹も、痛がる素振りすらせず堪えている。
「次は私の番だ!」
続いてマルコムのまっすぐな踏み込み。
迷いのない突出は数歩にして相手の懐までもぐりこみ、横に薙ぎ払おうと剣を振りかぶろうとする。
しかしエッデルもそれには反応していた。咄嗟に強固な鞭の柄でそれを受け止めようとする。だが不易な笑みを返したのはマルコムだった。
「隙ありだぁ!」と、マルコムは肘をつきたててタックルをかました。
完全な不意をついた一撃。
彼の肘鉄は、エッデルの胸元へと綺麗に命中した。
しかし彼女の豊満すぎる胸の谷間に肘先が吸い込まれ、衝撃を和らげたように収めてしまう。
「くそう、失敗か」と悔しがった俺に反し、マルコムは、
「いや、大成功である」
エッデルが距離をとって後ろに下がると、マルコムの肘に血痕が付着しているのが見えた。ちゃんとしっかり攻撃が決まってたのか、とマルコムを見直そうと思った瞬間、その血が今もどんどん増えていっていることに気付いた。
「お前、それ……鼻血かよ!」
「この世のすべてがあそこにあった」
訳のわからないことを言いながら、マルコムは口許を真っ赤に染めて、自分の頬を撫でるように悦に浸っていたのだった。
気持ち悪い。
完全な不意をついた良い作戦だと思ったが、まさかただエッデルの胸を触りたいだけの作戦だったとでもいうのだろうか。一瞬でも見直した俺が馬鹿だった。
「最っ低!」
エッデルが不快に顔を歪ませる。
そして鞭をまた振るうと、左右に大きくしならせて連続の攻撃を繰り出した。その悉くがマルコムに直撃し、彼の腹や脚、頭部を激しく殴打する。
『ダメージ3 残りHP4
ダメージ3 残りHP1
ダメージ3 スキル発動 残りHP1』
繰り返されるダメージ。
さすが女王様。
膝をついたマルコムに鞭打つ姿は、まさにどこかのSMプレイでも見ているかのようだ。エッデルは終始、いたぶることを楽しそうに腕を動かし続ける。
いや、これ。教育上よろしくない。
いますぐミュンの目を塞いでおくべきだろうか。
しかしマルコムの方も、スキルで生きながらえていつまでも致命には届いていなかった。だがそれでも鞭で打たれ続けていることには違いないのだが、激しい痛みに襲われているはずのマルコムは、どこか悦に満ちているように晴れやかな表情だった。
こいつ、綺麗な女性にいたぶられて喜んでやがるのか。
マルコムのスキルが――あくまでなぜか運よく――発動し続けているおかげで、延々と繰り返されるSM女王様プレイ。
ドSとドM。
ひどく対照的で、ひどく親和性の高い二人の勝負は、目も当てられない泥試合と化していた。
「この、しぶといわねぇ!」とエッデルは尚も繰り返し鞭を振るう。
だがその度に、
「ふぁ! ふぁぁぁ! 目覚める! ウェイクアァァップ!」と、気味の悪い歓喜の声を上げて攻撃を受けきっていた。いや、受けきるというか、ほぼ無防備に突っ立っているだけだ。
「どうして死なないのぉ!」
「どうした。手が止まったぞ。もっとやってはくれないのか!」
不意に止んだ猛攻に、物足りなさそうにマルコムが懇願し始める。それを見てエッデルは汚物を見るような目をしながら半歩たじろいだ。
圧倒的攻勢。
そのはずだったのに、何故かエッデルの方が参っているように見える。
更には、
『ダメージ1 残りHP9』
急に、マルコムも誰も何もしていないのにエッデルにダメージが入った。
「ど、どういう訳だ?!」と俺も思わず驚愕に目を見開く。
と、そんな俺の背後でミュンがバックパックから一冊の本を取り出した。
「おじい様の遺した本にはこう書かれてあります」
「急にどうした、ミュン?!」
「真性のドMはドSを引かせる……と」
「お前のじいちゃん、何を遺してるんだよ!」
そりゃ廃れるさ、リリーテナ。
しかしまさか、あのダメージはマルコムを見たエッデルへの精神ダメージとでもいうのか。
「どうした、お嬢さん。私にもっと、何かないのかい!」
マルコムが一歩前に進むと、
「こ、こっちに来ないで変態」とエッデルが表情を引きつらせる。
そして更に、一歩近づくたび、エッデルへとダメージが入っていった。やがてマルコムが彼女の元へたどり着いた頃、
『ダメージ1 残りHP1』
ついには瀕死にまで追い詰め、エッデルはその場でへたり込んで倒れてしまったのだった。
結論。
MはSよりも強い。
矛と盾の逸話みたいだが、きっとこれほど役に立たない知識は存在しないだろうな、と俺は他人事のように思った。
「参ったわぁ、私の負け。こんな時、『定時出勤のナカタ』さんがいてくれたら……」
どれだけ信頼を置かれてるんだ、ナカタという奴は。逆に少し気になり始めてきたぞ。
すっかり戦意をなくして鞭の柄から手を離したエッデルに、マルコムは遊び足りない子供のように、純朴に物足りなさそうな顔でがっかりしていた。
「なんだ、もうおしまいか」
心底残念そうに戻ってくるマルコム。
そんな彼を、スクーデリアが出迎える。
「勇者様ぁ」
「おお、スクーデリア。どうだ、私の勇姿――」
「素直にキモイかな」
ものすごく率直な言葉が刺さったぁー!
いや、実際、精神攻撃だけで相手を倒したのは凄いが、内容がひどすぎる。しかしそうやってドSの攻撃を退けたマルコムだが、さすがに悪意の無いスクーデリアの言葉には堪えたのか、魂が抜けた風に放心してしまっていた。
「お前、やっぱりあのまま帰ったほうがよかったんじゃねえか?」とは、本人の前では言わないでおくとしよう。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる